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43話
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ワイバーン襲撃事件から、2日経った今日。
父様とアルノー先生が元に戻る予定の日でもあります。
気が急いて落ち着かないのか、父様とアルノー先生は朝からずっと、互いの姿を見つめ合っております。
傍から見れば……大変、仲の良い恋人……、コホン……。
ん、なんでもありませんわ……。
そんな父様とアルノー先生ですが。
この2日間、とっても頑張りましたの。
父様は、この魔法ではルイーズを守れないと仰り、様々な初級魔法を完璧に使いこなせるまでになりました。
体力面でも、筋トレに励み、馬車の横で走っても、2時間は倒れないようになりました。
アルノー先生は……快適な父様の身体を使い、狩りに出かける事が頻繁にありました。
出かけに『狩りに行ってきます』と、ワイルドな笑みを浮かべて仰るので、お肉かな?と期待しましたのよ。でも、持ち帰ったのは人数分の小魚でした。
なんでも、雷魔法を使い、魚を水面に浮かせてから獲ったんですって。
南蛮漬けにしたお魚は骨まで食べることが出来て、美味しかったです。
しかし、体を動かす事より、書物を読んだり、研究したりする方が好きだったアルノー先生の変貌ぶりには感心致しましたわ。
元に戻ってもそのままでいてね。
だって、守る対象が戦力として数えられるのは、この後の冒険者人生が楽になったも同然でしょう?!
うん、良きかな、良きかな。
「とうさまもアルノーせんせいも、みつめあってばかりいないで、すこし、ほかのことをなさってはいかがですか?」
昼食の準備をしてる目の前で、そんな姿を見せつけられては、落ち着いて調理が出来ないわ。
「しかしだな。いつ何時、元に戻るかわからないだろう?離れていては元に戻らない可能性もあるだろうし……」
「そうですよ、ルイーズ様。入れ替わった時の距離を考えますと、これくらいの近さで過ごした方が良いかと思います」
こちらに近づき、真剣な瞳で訴え出る2人ですが……。
近いっ、近いっ。
刃物や火があるのだからね。距離感を保ってください。
「……とうさまもアルノーせんせいも、わたくしがいま、はものをもって、ちょうりちゅうだとごぞんじですよね?おふたりのすがたが、きになり、けがをしてもよいとおっしゃるのですか?」
怪我をしても、ちょいと魔法で治すからいいのだけれど、お2人に気を取られ、味付けを間違えそうだわ。
美味しくなくても食べてくれるだろうけど……。
「いや、怪我をされては困るのだが。傍を離れると、元に戻った瞬間にルイーズを抱き上げられないだろう?この3日間、私がどれだけ辛酸をなめたと思うんだ……あの時の可愛いルイーズを……また、あの時の膨れて可愛いルイーズを……そして━━」
「わっ、わかりましたわっ!ですから、とうさま、それいじょうはおっしゃらないでください」
父様は、入れ替わった3日間のやり切れない思いをぶちまける様に語り始めたので、慌てて言葉を被せます。
は、恥ずかしい……。
調理を手伝ってくれているカチヤさんがクスクス笑いながら「素敵なお父さんね」と、耳元で呟きます。
確かに、父様は素敵ですけれど……本人相手に、語られても困ると言うか……ね?!
「とうさまのじじょうはわかりましたが、ちょうりちゅうだけでも、もうすこしはなれていただけますか?」
「うむ……致し方なし……」
アルノー先生を率いり離れていく父様は、さも寂しげな表情を浮かべ、チラチラと振り返ります。
…………。
そんな姿を見て、私は神に祈りを捧げました。
どうか、調理中に入れ替わりが起こりませんように…………。
せめて、昼食後になりますように…………。
・
・
・
無事、昼食も済み、出発する一行。
ちなみに、父様とアルノー先生は入れ替わったままです。
突然、入れ替わりが戻ると困りますので、御者は続けて師匠にお願いしております。
「そうだわ、ししょうにおききしたいことがあったのです」
御者台の横に座り、師匠に話しかけます。
「なんだ?」
「ししょうは、ぼうけんしゃとうろくをなさっておりましたよね?いんたいするときに、ぼうけんしゃカードはへんきゃくしたりするものなのですか?」
「いや、持ってるぞ。一度、冒険者に登録すると生涯、その冒険者カードを所持すべしという決まりがあるからな。まあ、高ランクの冒険者になると、色々特典もあるし、損はしないしな」
「とくてんってなんですの?」
「う~ん……宿屋に安く泊まれる。鍛冶屋で武器の手入れが無料で受けられる。冒険に必要なポーションや衣類なんかも安くなるな……後は顔が売れると、食べ物もおまけしてもらえる」
…………。
食べ物のおまけ?!
「たべものは、こうらんくぼうけんしゃぜんいんが、うけられるものなのですか?それとも、ししょうだけ?」
「俺だけだな」
師匠は、悪戯が成功した時みたいな笑みを浮かべております。
でも、よくよく考えればSSランクの冒険者に良い印象を持ってもらうのって、大切な事なのかもしれませんね。
ステータスにも、宣伝にもなりますもの。
「では、ぼうけんしゃカードをもっているのですよね?みせていただいても、よろしいですか?」
「うん、ああ。ちょっと待ってろ━━━━ん、これだ」
師匠は、首に通した紐を引きずり出して、それにぶら下げられた冒険者カードを見せてくれました。
金色に輝くカードの右上に『SS』と刻印が施されており、中央には黒字で名前が刻まれております。
「おお、これがSSランクのぼうけんしゃカードなのですね……すてきですわ。ししょう、ランクにより、カードのそざいがかわったりするのですか?」
ラノベやアニメではランクにより冒険者がカードの素材が変わってくるパターンがあったのを思い出し、師匠にお伺いしてみます。
「Sランクから素材が金になるけど、Aランクまでは素材は銅だったはずだぞ。昔も今も素材は変わっていないと思うんだが……ちょっと、自信がないな」
そう言って師匠は、苦笑いをしております。
「ふふ、そんなにむかしではないでしょう?!でも、Aランクまでおなじそざいのカードなのですね。ランクごとにそざいをかえるのかと、おもっておりました」
「基本は一度作ったカードを使い続けるために、同じ素材になっているが。Sランク以上の冒険者は数少ない上に、国事にも呼ばれるからな。一目で判断できるようにしているんだろう」
「こくじって、どんなことをするのですか?」
「ん、退屈な事ばっかりだったな。式典に出たり、武術大会の主賓をさせられたりとかだな……」
「さんかきょひは、できないのですか?」
「ああ……強制参加だ……行く先々で文が届くのは、あまりにも出来過ぎている……もしかして、このカードに居所がわかる仕掛けがあるんじゃないだろうか?」
「しかけがあるのですか?!」
「いや、わからん」
行く先々で手紙が届くから、そう思っただけのようですね。
貴重なSランク以上の冒険者ですもの、国としては居所を把握しておきたいでしょうし、魔道具としての機能があっても驚きませんが、予定も聞かず、強制参加は疲れますね。
Sランク以上の冒険者って、大変。
「ししょう、わたくしやケンゾーだと、どれくらいのランクまでいけそうですか?」
私達がSランクに到達するには、もっと経験を積み重ねないといけないのはわかってはいるのですが、好奇心には勝てず、お伺いしてみました。
「ランクか?そうだな……どれくらいの期間、活動するかにもよるだろうけど、Sランクまでは楽にいけるんじゃないか?!」
「…………ししょう。しょうじんしますし、それくらいのきがいはもちますけれど、それはいいすぎですわ。きっと、Cランクくらいでしょう。だって、けんじゅつをはじめて3ねん、とうさまにいちげきもあたえられないんですのよ。ね、ケンゾー?」
いつの間にか、隣に座って嬉しそうな笑みを浮かべ、師匠の冒険者カードを眺めていたケンゾーに同意を求めます。
「は、はい……」
「ハハハ、侯爵様に一撃を与えられたら、それはもうSSランクの力量と言えるぞ」
「「………そうなの?」」
「ああ、ワイバーンとの戦闘を見ただろう?!俺が致命傷すら与えられないのに、数撃で仕留めたんだ。中身が入れ替わっているというのにな」
「…………ねぇ、ケンゾー。わたくし、ぼうけんしゃになれるかしら?」
「…………」
冒険者になる夢を断たれたような感覚に陥り、ケンゾーに問いかけましたが。
ケンゾーは俯き、首を振るだけでした……。
「大丈夫だ。侯爵様は一撃とは言ってるが、冒険者になる事を反対している訳じゃなさそうだしな」
師匠は励ましてくださいますが。
「そうでしょうか?」
「ああ、安心しろ。そうじゃないんだったら、5歳の娘を旅に連れてきたり、真剣に剣術を学ばせたり、先生に基礎知識を教えさせたりしないだろう」
それもそうね……父様は、危ない目に合わない様に、心配されているだけで、反対されている素振りは感じないわ。
うん。でも、約束通り、父様に一撃を与えられたら、冒険者になりましょう。
その方が安心されるだろうし。
「グォォォォーーー、アダダダダダ」
そんな師匠との有意義な会話を楽しんでおりましたら、苦悶の表情を浮かべ呻く、アルノー先生?の姿が目に留まりました。
傍らには、父様?がご自分の手を確認したり、軽くジャンプをなさったりしております。
入れ替わりが戻ったのでしょうか?
「あの、とうさま?アルノーせんせい?いかがされましたの?」
馬車の床で這いずり、目には涙を浮かべ、悲痛な表情で手を伸ばすアルノー先生?!どちらでしょう?
「か、体が、いだい……」
そう一言だけ仰り、倒れられました。
気を失ったようですね。
…………。
「あの……えっと……」
事情がわからず戸惑っていると、父様?が私を抱き上げ頬ずりをし始めました……。
「とうさまですの?」
「ああ、そうだ。ルイーズ、父様だよ。ああ、待ち望んでいたこの瞬間……」
スリスリ
スリスリ
……………。
頬が痛い……。
「とっ、とうさまっ。ぶじにもどりましたのね?」
「ああ、無事に戻ったようだ」
スリスリ
スリスリ
…………。
「とうさまのからだには、いへんはございませんの?アルノーせんせいは、なぜ、おたおれになったのですか?」
少々強引ですが。スリスリ攻撃を回避すべく、両手で父様の顔を挟み込んでお伺いしてみます。
もう、スリスリし過ぎて、熱を持ってるではないですか……。
「うっ……ルイーズ……」
「とうさま?」
「うむ……先生は、筋肉痛で動けないだけだろう」
「きんにくつうですの?」
「ああ、父様は鍛錬を頑張ったからな!」
父様は胸を張り、自慢気に仰っておりますが……。
筋肉痛で気を失うって、相当な事よ。
「かいふくまほうを、かけるわけにもいきませんし……どうしましょう?」
「ん?暫く休めば回復するだろう」
…………それしかありませんね。
下手に魔法で回復してしまったら、筋肉がつきませんし。
ここは耐えていただきましょう。
◇ ◇ ◇
そして、順調に旅は進み『サクラ公国』まであと僅かな距離まで参りました。
あの日、筋肉痛で気を失ったアルノー先生は、その後も鍛錬を欠かさず行っております。
父様の監視付きですので、嫌とは言えないのでしょうね……。
今では、半日は走れるほどになり、魔法も土魔法だけでなく、雷(魚獲りが気に入ったのね)火、風を使いこなせるまでになりました。
攻略対象者ではない先生が、ここまでスペックが高くなるなんて、思ってもいませんでした。
隠れキャラとかではないですよね?
私が死んだあとに、追加されたキャラとかでもないですよね?
…………ま、いいか。
「では。すっかり、わすれていたペンダントのもじけしをはじめましょうか!」
父様の過剰な愛情表現にすっかり気を取られ、きれいさっぱり忘れていたペンダント。
万が一の危険もありますし、私一人で離れた場所で行います。
闇魔法で文字を消す。
アルノー先生に教えていただいたけど、埋めるような感じでいいのよね?!
うぅ、緊張する……。
目に魔法をかけて、浮かび上がった文字を見詰めます……。
闇魔法を発動させて……。
━━ゴソゴソ
ペンダントに集中していたせいか、突然の物音に心臓が跳ね上がります。
「っ!だれ?あ、カチヤさん……どうして、ここに?」
「あれぇ?ここには誰もいないと思っていたのに~」
おどけた顔を浮かべ、そう囁くカチヤさん。いつもと雰囲気が違います。
「…………?カチヤさん。ここはきけんですから、はなれていてくださいますか?」
「どうしてぇ?」
「いまから、ペンダントをなおすのです。まんがいちのこともありますし、はなれていたほうがあんぜんかと、っつ!━━━━」
「ふふふ」
首筋にチクリとした痛みを感じた瞬間、目の前が霞んで……。
━━━━━━
父様とアルノー先生が元に戻る予定の日でもあります。
気が急いて落ち着かないのか、父様とアルノー先生は朝からずっと、互いの姿を見つめ合っております。
傍から見れば……大変、仲の良い恋人……、コホン……。
ん、なんでもありませんわ……。
そんな父様とアルノー先生ですが。
この2日間、とっても頑張りましたの。
父様は、この魔法ではルイーズを守れないと仰り、様々な初級魔法を完璧に使いこなせるまでになりました。
体力面でも、筋トレに励み、馬車の横で走っても、2時間は倒れないようになりました。
アルノー先生は……快適な父様の身体を使い、狩りに出かける事が頻繁にありました。
出かけに『狩りに行ってきます』と、ワイルドな笑みを浮かべて仰るので、お肉かな?と期待しましたのよ。でも、持ち帰ったのは人数分の小魚でした。
なんでも、雷魔法を使い、魚を水面に浮かせてから獲ったんですって。
南蛮漬けにしたお魚は骨まで食べることが出来て、美味しかったです。
しかし、体を動かす事より、書物を読んだり、研究したりする方が好きだったアルノー先生の変貌ぶりには感心致しましたわ。
元に戻ってもそのままでいてね。
だって、守る対象が戦力として数えられるのは、この後の冒険者人生が楽になったも同然でしょう?!
うん、良きかな、良きかな。
「とうさまもアルノーせんせいも、みつめあってばかりいないで、すこし、ほかのことをなさってはいかがですか?」
昼食の準備をしてる目の前で、そんな姿を見せつけられては、落ち着いて調理が出来ないわ。
「しかしだな。いつ何時、元に戻るかわからないだろう?離れていては元に戻らない可能性もあるだろうし……」
「そうですよ、ルイーズ様。入れ替わった時の距離を考えますと、これくらいの近さで過ごした方が良いかと思います」
こちらに近づき、真剣な瞳で訴え出る2人ですが……。
近いっ、近いっ。
刃物や火があるのだからね。距離感を保ってください。
「……とうさまもアルノーせんせいも、わたくしがいま、はものをもって、ちょうりちゅうだとごぞんじですよね?おふたりのすがたが、きになり、けがをしてもよいとおっしゃるのですか?」
怪我をしても、ちょいと魔法で治すからいいのだけれど、お2人に気を取られ、味付けを間違えそうだわ。
美味しくなくても食べてくれるだろうけど……。
「いや、怪我をされては困るのだが。傍を離れると、元に戻った瞬間にルイーズを抱き上げられないだろう?この3日間、私がどれだけ辛酸をなめたと思うんだ……あの時の可愛いルイーズを……また、あの時の膨れて可愛いルイーズを……そして━━」
「わっ、わかりましたわっ!ですから、とうさま、それいじょうはおっしゃらないでください」
父様は、入れ替わった3日間のやり切れない思いをぶちまける様に語り始めたので、慌てて言葉を被せます。
は、恥ずかしい……。
調理を手伝ってくれているカチヤさんがクスクス笑いながら「素敵なお父さんね」と、耳元で呟きます。
確かに、父様は素敵ですけれど……本人相手に、語られても困ると言うか……ね?!
「とうさまのじじょうはわかりましたが、ちょうりちゅうだけでも、もうすこしはなれていただけますか?」
「うむ……致し方なし……」
アルノー先生を率いり離れていく父様は、さも寂しげな表情を浮かべ、チラチラと振り返ります。
…………。
そんな姿を見て、私は神に祈りを捧げました。
どうか、調理中に入れ替わりが起こりませんように…………。
せめて、昼食後になりますように…………。
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無事、昼食も済み、出発する一行。
ちなみに、父様とアルノー先生は入れ替わったままです。
突然、入れ替わりが戻ると困りますので、御者は続けて師匠にお願いしております。
「そうだわ、ししょうにおききしたいことがあったのです」
御者台の横に座り、師匠に話しかけます。
「なんだ?」
「ししょうは、ぼうけんしゃとうろくをなさっておりましたよね?いんたいするときに、ぼうけんしゃカードはへんきゃくしたりするものなのですか?」
「いや、持ってるぞ。一度、冒険者に登録すると生涯、その冒険者カードを所持すべしという決まりがあるからな。まあ、高ランクの冒険者になると、色々特典もあるし、損はしないしな」
「とくてんってなんですの?」
「う~ん……宿屋に安く泊まれる。鍛冶屋で武器の手入れが無料で受けられる。冒険に必要なポーションや衣類なんかも安くなるな……後は顔が売れると、食べ物もおまけしてもらえる」
…………。
食べ物のおまけ?!
「たべものは、こうらんくぼうけんしゃぜんいんが、うけられるものなのですか?それとも、ししょうだけ?」
「俺だけだな」
師匠は、悪戯が成功した時みたいな笑みを浮かべております。
でも、よくよく考えればSSランクの冒険者に良い印象を持ってもらうのって、大切な事なのかもしれませんね。
ステータスにも、宣伝にもなりますもの。
「では、ぼうけんしゃカードをもっているのですよね?みせていただいても、よろしいですか?」
「うん、ああ。ちょっと待ってろ━━━━ん、これだ」
師匠は、首に通した紐を引きずり出して、それにぶら下げられた冒険者カードを見せてくれました。
金色に輝くカードの右上に『SS』と刻印が施されており、中央には黒字で名前が刻まれております。
「おお、これがSSランクのぼうけんしゃカードなのですね……すてきですわ。ししょう、ランクにより、カードのそざいがかわったりするのですか?」
ラノベやアニメではランクにより冒険者がカードの素材が変わってくるパターンがあったのを思い出し、師匠にお伺いしてみます。
「Sランクから素材が金になるけど、Aランクまでは素材は銅だったはずだぞ。昔も今も素材は変わっていないと思うんだが……ちょっと、自信がないな」
そう言って師匠は、苦笑いをしております。
「ふふ、そんなにむかしではないでしょう?!でも、Aランクまでおなじそざいのカードなのですね。ランクごとにそざいをかえるのかと、おもっておりました」
「基本は一度作ったカードを使い続けるために、同じ素材になっているが。Sランク以上の冒険者は数少ない上に、国事にも呼ばれるからな。一目で判断できるようにしているんだろう」
「こくじって、どんなことをするのですか?」
「ん、退屈な事ばっかりだったな。式典に出たり、武術大会の主賓をさせられたりとかだな……」
「さんかきょひは、できないのですか?」
「ああ……強制参加だ……行く先々で文が届くのは、あまりにも出来過ぎている……もしかして、このカードに居所がわかる仕掛けがあるんじゃないだろうか?」
「しかけがあるのですか?!」
「いや、わからん」
行く先々で手紙が届くから、そう思っただけのようですね。
貴重なSランク以上の冒険者ですもの、国としては居所を把握しておきたいでしょうし、魔道具としての機能があっても驚きませんが、予定も聞かず、強制参加は疲れますね。
Sランク以上の冒険者って、大変。
「ししょう、わたくしやケンゾーだと、どれくらいのランクまでいけそうですか?」
私達がSランクに到達するには、もっと経験を積み重ねないといけないのはわかってはいるのですが、好奇心には勝てず、お伺いしてみました。
「ランクか?そうだな……どれくらいの期間、活動するかにもよるだろうけど、Sランクまでは楽にいけるんじゃないか?!」
「…………ししょう。しょうじんしますし、それくらいのきがいはもちますけれど、それはいいすぎですわ。きっと、Cランクくらいでしょう。だって、けんじゅつをはじめて3ねん、とうさまにいちげきもあたえられないんですのよ。ね、ケンゾー?」
いつの間にか、隣に座って嬉しそうな笑みを浮かべ、師匠の冒険者カードを眺めていたケンゾーに同意を求めます。
「は、はい……」
「ハハハ、侯爵様に一撃を与えられたら、それはもうSSランクの力量と言えるぞ」
「「………そうなの?」」
「ああ、ワイバーンとの戦闘を見ただろう?!俺が致命傷すら与えられないのに、数撃で仕留めたんだ。中身が入れ替わっているというのにな」
「…………ねぇ、ケンゾー。わたくし、ぼうけんしゃになれるかしら?」
「…………」
冒険者になる夢を断たれたような感覚に陥り、ケンゾーに問いかけましたが。
ケンゾーは俯き、首を振るだけでした……。
「大丈夫だ。侯爵様は一撃とは言ってるが、冒険者になる事を反対している訳じゃなさそうだしな」
師匠は励ましてくださいますが。
「そうでしょうか?」
「ああ、安心しろ。そうじゃないんだったら、5歳の娘を旅に連れてきたり、真剣に剣術を学ばせたり、先生に基礎知識を教えさせたりしないだろう」
それもそうね……父様は、危ない目に合わない様に、心配されているだけで、反対されている素振りは感じないわ。
うん。でも、約束通り、父様に一撃を与えられたら、冒険者になりましょう。
その方が安心されるだろうし。
「グォォォォーーー、アダダダダダ」
そんな師匠との有意義な会話を楽しんでおりましたら、苦悶の表情を浮かべ呻く、アルノー先生?の姿が目に留まりました。
傍らには、父様?がご自分の手を確認したり、軽くジャンプをなさったりしております。
入れ替わりが戻ったのでしょうか?
「あの、とうさま?アルノーせんせい?いかがされましたの?」
馬車の床で這いずり、目には涙を浮かべ、悲痛な表情で手を伸ばすアルノー先生?!どちらでしょう?
「か、体が、いだい……」
そう一言だけ仰り、倒れられました。
気を失ったようですね。
…………。
「あの……えっと……」
事情がわからず戸惑っていると、父様?が私を抱き上げ頬ずりをし始めました……。
「とうさまですの?」
「ああ、そうだ。ルイーズ、父様だよ。ああ、待ち望んでいたこの瞬間……」
スリスリ
スリスリ
……………。
頬が痛い……。
「とっ、とうさまっ。ぶじにもどりましたのね?」
「ああ、無事に戻ったようだ」
スリスリ
スリスリ
…………。
「とうさまのからだには、いへんはございませんの?アルノーせんせいは、なぜ、おたおれになったのですか?」
少々強引ですが。スリスリ攻撃を回避すべく、両手で父様の顔を挟み込んでお伺いしてみます。
もう、スリスリし過ぎて、熱を持ってるではないですか……。
「うっ……ルイーズ……」
「とうさま?」
「うむ……先生は、筋肉痛で動けないだけだろう」
「きんにくつうですの?」
「ああ、父様は鍛錬を頑張ったからな!」
父様は胸を張り、自慢気に仰っておりますが……。
筋肉痛で気を失うって、相当な事よ。
「かいふくまほうを、かけるわけにもいきませんし……どうしましょう?」
「ん?暫く休めば回復するだろう」
…………それしかありませんね。
下手に魔法で回復してしまったら、筋肉がつきませんし。
ここは耐えていただきましょう。
◇ ◇ ◇
そして、順調に旅は進み『サクラ公国』まであと僅かな距離まで参りました。
あの日、筋肉痛で気を失ったアルノー先生は、その後も鍛錬を欠かさず行っております。
父様の監視付きですので、嫌とは言えないのでしょうね……。
今では、半日は走れるほどになり、魔法も土魔法だけでなく、雷(魚獲りが気に入ったのね)火、風を使いこなせるまでになりました。
攻略対象者ではない先生が、ここまでスペックが高くなるなんて、思ってもいませんでした。
隠れキャラとかではないですよね?
私が死んだあとに、追加されたキャラとかでもないですよね?
…………ま、いいか。
「では。すっかり、わすれていたペンダントのもじけしをはじめましょうか!」
父様の過剰な愛情表現にすっかり気を取られ、きれいさっぱり忘れていたペンダント。
万が一の危険もありますし、私一人で離れた場所で行います。
闇魔法で文字を消す。
アルノー先生に教えていただいたけど、埋めるような感じでいいのよね?!
うぅ、緊張する……。
目に魔法をかけて、浮かび上がった文字を見詰めます……。
闇魔法を発動させて……。
━━ゴソゴソ
ペンダントに集中していたせいか、突然の物音に心臓が跳ね上がります。
「っ!だれ?あ、カチヤさん……どうして、ここに?」
「あれぇ?ここには誰もいないと思っていたのに~」
おどけた顔を浮かべ、そう囁くカチヤさん。いつもと雰囲気が違います。
「…………?カチヤさん。ここはきけんですから、はなれていてくださいますか?」
「どうしてぇ?」
「いまから、ペンダントをなおすのです。まんがいちのこともありますし、はなれていたほうがあんぜんかと、っつ!━━━━」
「ふふふ」
首筋にチクリとした痛みを感じた瞬間、目の前が霞んで……。
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