楽しい転生

ぱにこ

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35話

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 『シュクル』随一を誇る、高級宿に滞在している私達ですが、理由は簡単。
 ぴよたろうも宿泊出来るか否かが決め手でしたの。

 行く先々で【うちは部屋が狭いので……】とか【他の宿泊客が怖がりますので……】等々。
 断られ続けた私達は、今夜も野営になるのかと諦めムードで歩いておりました。
 やはり魔物であるぴよたろうを受け入れるのは、難しいのかもしれませんね。
 こんなにも、愛らしいのに……いえ、わかっております。
 今は愛らしくても、いずれ大きくなって勇ましい風貌になる事を。

 そういえば、コカトリスって【冒険者ランク】いくつくらいの魔物なんだろう……今度、アルノー先生に聞いてみる事にしましょう!

 そんな私達に一筋の光明が……。
 シュッと佇む紳士なおじ様が、恭しく礼をとり【わが宿においでくだされば、お連れ様もご一緒に宿泊できますし、なにより侯爵様御一行の旅を疲れを癒すお手伝いをさせていただけましたら光栄にございます】と。
 これは即決せねば!
 父様の服の裾をぐいぐい引っ張って言葉を引き出します。
 【では、よろしく頼む】と、父様の一声。
 よしっ!宿、ゲットですわ!

 その後、父様達は衛兵詰め所へ、私達は宿へと向かったのです。

 宿の名前は『ルポゼ』
 一瞬、どこぞの貴族のお屋敷かと見紛うばかりの豪奢な2階建ての建物、宿の前には噴水もあり、庭には色とりどりの花が咲き乱れておりました。
 エントランスを抜けると、キラキラに輝くシャンデリアに目を奪われ、何が描かれているのかわからない絵画を見て首を傾げ、ふかふかの絨毯に足をもつれさせ、従業員による一斉のお辞儀に怯んで……。

 圧倒され、口を半開きにしたまま固まっておりました。

 我が家も立派ですし、マスティフ伯爵家も立派ですよ……。
 けれど、両家共、落ち着いた雰囲気で統一されているので、ここまでキラキラした建物を見るのは初めてではないでしょうか。

 いち早く、現実に戻っていたアルノー先生が【ルイーズ様、そろそろ手続きを致しませんと】と声を掛けて下さってので、ようやく手続きを行うことが出来ました。

 部屋割りは、私と父様、ケンゾーと師匠にぴよたろう、リョウブさんとアルノー先生、カリンさんとカチヤさん、イザークさんとフリッツさん兄弟という風になりました。
 各部屋にお風呂もあるそうだし、旅の疲れを癒すのにもってこいだわ。

 ケンゾーが寝るまでお手伝いを致しますと言っていたけれど、部屋ではお風呂と寝るだけだからね。
 私はいいから、ぴよたろうのお世話をお願いねと頼んだら、納得してくれました。

 ちなみに一部屋銀貨30枚だって、高いのか安いのか……?やっぱり早めに貨幣価値を教えてもらおう。


 部屋でゴロゴロ……ベッドでもゴロゴロ……。
 部屋中をゴロゴロ転がってみたものの、やっぱり一人だと少し退屈だわ。
 折角、明日なら観光できると父様が仰って下さったのに……。
 ガイドブックを読み進めるにも、身が入りません。

 父様が戻って来られるまで、気になっている魔法の実験でもしてましょうか……。

 精神統一の後、手にマナを集め……光、闇、風、火をバランスよくブレンドします。
 これは、治療目的の魔法…………被験者は私自身。万が一、失敗しても回復魔法があるから大丈夫!
 うん……。

 ━━ゴクリ

 ・
 ・
 ・

 ぐおぉぉぉぉー!
 アダダダダダ!

 ・
 ・
 ・

 おっ!がぁぁーーっ!
 むっ?
 ダァァァァー!!

 ・
 ・
 ・

 おやっ?!

 …………こ、これは、……これか!

 試行錯誤の末、完成した究極魔法のお披露目は後ほど。

 だって、気が付くと父様が戻っておいででしたもの……。
 いつの間に……。

 すっかり日も暮れ、腹ペコな私達はお食事に出かける事にしました。
 と言っても、宿の一階にあるレストランなんだけれどね。
 久しぶりに味わう、自分以外が作った料理……。
 自分が作ったのも美味しいのよ。けれど、食べる時に驚きがないじゃない?!
 何をどんな味付けにしたのか、知っている分楽しみが半減というか……。

 だからこそ、前菜からメインの肉料理、スープにパン、デザートを心ゆくまで堪能し、至福のひと時を過ごす事が出来たのです。
 さすが、お菓子の町『シュクル』だわ。
 季節のフルーツをたっぷり乗せたタルトにチョコレートプディングは絶品だった。
 もっと食べたい気持ちもあったけれど……満腹で断念しました。

 ・
 ・
 ・ 

 部屋に戻り、満腹すぎて動きたくない私はベッドに横たわりながら、ガイドブックを読み耽っていました……。

 どれもこれも美味しそうだけれど……満腹な時に見ると……駄目ね……うぷっ……。

 ガイドブックを閉じ、サイドテーブルに置いた後。
 ふと、ある事が気になって、ソファで寛いでいる父様にお伺いする事に。

「とうさまー!じゅうじんさんたちと『サクラこうこく』まで、いっしょにたびをするのでしたら、きがえなどひつようになりますよね?」

 思いのほか大きな声で話しかけてしまったようで、父様はビクッと驚いた後、
「あ、ああ、そうだね。明日にでも買いに行かせた方がいいか……」
 と、答えてくださいました……。
 もしかして、眠ってらした?ごめんなさい……。
 盗賊騒ぎや獣人さんの事で、お疲れなのね。

 眉間を指で揉み、睡魔を払いのけようとする父様……。
 長々とお話するより、手短に済ませて早くお休みになっていただいた方がよさそうね。

「あ、では、わたくしとカリンさんとカチヤさんで、おかいものに、いってきてもよろしいですか?」 
「しかし、明日は父様と観光する約束ではなかったかい?…………」

 父様、睡眠不足で疲れた目が、一層悲しげに見えますわ……。
 私も、父様と観光したいけれど!すごく楽しみにしていたけれど!
 宿を決めるのにウロウロ、盗賊の引き渡しに時間を割かれてしまった現状。
 是が非でも観光したいなんて、言いにくいじゃない……。
 女性であるカチヤさんの着替えは必須ですし、馬車の調達や食料の買い出しも必要です……。
 通りすがりに見かけたお菓子を、ふらっと買うくらいなら出来そうですが。
 全てを半日で用意するには、手分けしないと無理ですし。

「かんこうもしたいですけれど、ばしゃもよういせねばいけませんし、しょくりょうのかいだしもしなければいけませんし……じゅうじんさんたちのきがえも。ですから、かえりにゆっくりとかんこういたしませんか?うれいもなくなり、よりいっそうたのしめるかとおもいます。それとっ!かえりでしたら、かあさまやジョゼにおみやげを、かってかえることもかのうですわ」

「お、それは名案だね……帰りならばルイーズとゆっくり観光できるし、ジョゼやアデールにお土産が用意できる」

 眠気が吹き飛んだのか、にこやかな笑みを浮かべております。
 きっと、母様やジョゼの喜ぶ顔を想像しているのでしょうね。

「そうでしょう!では、カリンさんのおへやにうかがって、つたえてまいりますね。とうさまは、おふろにでもはいって、つかれをいやしておいてくださいませっ」

「こんな時間に、邪魔するのかい?迷惑にならぬよう、すぐに戻ってくるのだよ」
「ええ、もちろんですわ。わたくしもゆっくりおふろにはいって、ふかふかのベッドでやすみたいですもの。……あ、とうさま。もどったら、かたをもんでさしあげますので、まっていてくださいね」

 ふっふっふ。
 普通の肩もみとは違うので、きっと驚くでしょう。
 研究を重ねて編み出した究極魔法『低周波治療』で父様の疲れを癒して差し上げますわ。
 数々の痛みを耐え忍び、程よく筋肉が動く所まで漕ぎ着けたのです。
 きっと、いえ、……効果ありと信じましょう。

「ああ、よろしく頼むよ」
「はい、いってきますっ!!」

 嬉しそうに微笑む父様に、元気よく声を掛けて部屋を出ます。
 確か、隣の部屋がケンゾー達で、その隣だったわね。
 ……ここね。

 ━━コンコン

「は~い」
 カリンさんの声が聞こえました。
「こんばんは、ルイーズです。あすのよていを、おつたえするためうかがいました」

「待ってくださいね……」
 トコトコと急ぎ足で近づいている音と共に、カチヤさんの声が聞こえます。

 ━━ガチャ

 扉を開け、顔だけ覗かせたカチヤさんが、
「こんばんは、中へどうぞ━━」と招き入れてくれました……。

「わぉっ!」

 二人とも湯上りの様で、バスローブに身を包み、乾ききっていない髪をタオルで巻いております。
 男性には刺激的なシーンですわね。
 カチヤさん、長旅で汚れてたのね……。
 真っ白で透き通るようなお肌、艶やかな銀髪に庇護欲をそそる可愛いお顔と。ピコピコ動く耳……。
 か、可愛いっ……。

 イザークさん、あの時も分かったつもりでしたけれど、今ならば手を取り合って分かち合うことが出来ましょう。

 そして、カリンさんは……大人な色気を振りまいております……。
 うん、説明は省きますね。
 だって、どう説明しても危ない発言になりそうなんだもの……。

 ・
 ・
 ・

 寛いでいるカチヤさんの向かい側に腰かけると。
 カリンさんがヘンテコなお茶の淹れ方をしているのが目に入りました……。

 あああ!!
 そんなに茶葉を入れちゃあ駄目っ!!
 ああああああ!!お、お湯が溢れてるっ!!

 いやいや、蒸らそうよ……。
 いやいや、茶漉しがあるんだから、使ってくださいよ……。

 え?何故、私が淹れますと言わなかったのか?
 それは、怖いもの見たさです……。

 カリンさんは、トレイに乗せた茶器をカタカタと揺らせながら慎重に運んできました。
 こんな真剣な面持ちのカリンさんを見たのは初めてかもしれません。

「さあ、ルイーズ様。召し上がってくださいね」
 と、微笑み差し出してくれたお茶は、たっぷりの茶葉で溢れかえっており……。
 想像以上の見た目をしておりました。

「…………はい、いただきますね」

 茶葉が口に入らぬよう唇でガードし、恐る恐るいただくと……。

 あれ?案外飲めるわ……。
 渋すぎる紅茶を想像していたのに、味は普通です。

「ん、普通の味ですね……」と、カリンさんは不満を口に出しております。
「「ですね……」」
 カチヤさんも同意見の様です。

 3人とも、唇に付いた茶葉を面倒くさそうに取り除くこと数分……。
 全ての茶葉を取り除いた後、やっと話を切り出す事が出来ました。

「それでですね。あすは、カチヤさんのきがえなどを、よういするため、わたくしたち3にんで、まちをまわろうかとおもうのですが、いかがです?」

「私の着替えですか?」
「ええ。『サクラこうこく』までいくのに、きがえがなければこまるでしょう?したぎもひつようですし、カリンさんとわたくしとカチヤさんの3にんでまわるのが、さいぜんかとおもいまして」

 悪い虫が寄ってこないように、カチヤさんをガードしつつ、買い物するのです。

「でも、ルイーズ様。明日は観光と仰っていませんでした?」
「ゆうせんすべきことがあるので、かんこうはかえりにいたしましょうと、とうさまに、ていあんしましたら、こころよくさんどうしてくださいました」

「そうですか。では、私はその様に予定しておりますね」
 よし、カリンさんの了承を得られました。

「本当に、ありがとうございます……出会ったのが、ルイーズ様達で良かった……」

 安堵の表情を浮かべるカチヤさんですが、
「カチヤさん……なにゆえ、さまづけなんですか?」
 急に様付けをされたので、気になり聞いてみる事にしました。

「へっ?あっ、カリンさんも他の方も『ルイーズ様』と呼んでいるし、お父様は侯爵様なのでしょう?あ、ですよね……?ご、ごめんなさい……」

 確かに、身分はバレバレだったような気がします……。
 ですが、上手く話せなくて落ち込むくらいなら、慣れない敬語を無理して使わなくてもいいのよ。
 気楽に話しかけてくれた方が嬉しいし。

「カチヤさん……むりにむずかしいことばをつかわなくても、いいんですよ。カリンさんにもそういったのですが、たちばじょう、くずせないだけのようですし。ですから、カチヤさんには、さまづけはなしでおねがいしたいのですが……だめ?」

「だ、駄目ではありません……本当にいいのですか?」
 手をパタパタと振り、私をジッと見つめて聞いてくるカチヤさん……。
「もちろん」
「(すぅ~はぁ~)で、では、ルイーズちゃん……」ちゃん付けで呼ぶだけで、真っ赤になっています……。
「はい」
 今世で初めての『ちゃん』呼びですよ!嬉し過ぎて、満面の笑みで答えました。

 この後、身悶えしつつ【はぁ~2人が初々しくて居た堪れない】と叫ぶカリンさんを放置して、部屋に戻りました。
 嬉しかったんだからいいじゃない……。




 ◇ ◇ ◇



「ぐおーー!うぬぬぬ……ダァァァァ!ムムム……」
「とうさま、いかがですか?」
「ウォォォー!……うむ、疲れがとれるようだ……ぬぁぁぁぁ……」

 部屋に戻った私は、父様に『低周波治療』を施術しております。
 父様の叫び声は兎も角、効いているようで安心しました。

「はい、おわりました。おかしなところはないか、かくにんしてくださいね」
 父様は、首をコキコキと回し、肩をグリグリ回し不調がないか確認し終わった後。
「いやぁ、不思議な感覚だったよ……『ていしゅうはちりょう』だったかい?!」
「そうです。びじゃくなでんりゅうをながし、けっこうをよくするのです」

「ふむ、勝手に筋肉が動く感覚が奇妙だったけれど、これはいいね。血流が良くなったおかげで、マナの循環が更に良くなったみたいだよ」
「へ?ほんとうですか?……………(マナを目視できるように魔法をかけてみました)あ、ほんとうですわ。たいきょくけんのときより、はるかにマナのじゅんかんがいいですね……」

 これは、良い副産物ですね……。
 旅の合間に師匠やアルノー先生にも試してみましょう♪

「ルイーズ。マナの循環が良くなると、どうなるか知っているかい?」
「はい、びょうきにかかりにくくなります」

「そう。反対にお年を召した方はマナの循環が滞り、病にかかりやすくなる。お年寄りや、体が不自由な人に『たいきょくけん』を勧めたとして、日課に出来ると思うかい?」
「いいえ、むりですわ。でも……この『ていしゅうはちりょう』なら……」

「そうだね。それで、この魔法は難しいのだろうか?」
「『ひかり』と『やみ』と『かぜ』と『ひ』のふくごうまほうです」

「…………光と闇と風に火。人が習得するのには難しい組み合わせになるね。ふむ、ならば魔道具で……ルイーズ。一先ず、父様にこの魔法を伝授してくれないか?」
「ええ、もちろんですわ。とうさまはチートですもの。すぐにしゅうとくされるでしょう」

 案の定、すぐにマスターしてしまったチートな父様……。
 私の見本があるから、難しくはないのだけれど呆気なさ過ぎて……。
 もっと、【アダダ】とか【アガガ】とかして欲しかったわ。
 もう少し得意な気分でいさせて欲しかったというのが本音ですけど。

 この魔法の良さを理解してもらう為、王都へ戻ったらまず、陛下で試すのだそうです……。
 …………相変わらず、陛下への対応が雑ですわ。
 いえ、効果は実証されているのだから、不敬罪にはなりませんよね?!…………。

 そして、陛下から許可をいただければ、魔道具として制作され販売もしくは、病院などに寄贈するのだそうです。

 こうして、究極魔法『低周波治療』は父様へと受け継がれていくのでした。
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