生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
上 下
618 / 633

第618話 レストール卿の悩み

しおりを挟む
 庶民の利用する食堂。当然個室などはなく、おばちゃんの配慮で一番奥の席へと通された。
 物々しい雰囲気の中、それに気付いた他の客達は足早に退店。意図せず店は貸し切りに。
 後で店のおばちゃんには謝罪を入れておこうなどと考えていると、その元凶は知ってか知らずか真剣な面持ち。

「そう畏まらなくていい。食事をしながら話を聞いてほしいだけだ」

 そうは言っても、やはり相手は貴族である。気を使ってくれるのはありがたいが、限度というものがある。
 この空気感の中、レストール卿を気にせずガツガツと料理を食べ進められる者がいるとするなら、それは心臓に毛が生えている剛の者だ。
 そこでおばちゃんには訳を話し、ミアとキャロは別席へ。改めてレストール卿の席へと戻る。

「まぁ、なんとなく言いたいことはわかりますけどね。王宮じゃダメだったんですか?」

「すまない。出来るだけ他の者には聞かれたくなかったのでな」

「でも、シルビアの事ですよね?」

「うむ……」

 まぁ、予想通りではある。シルビアの要求はただ1つ。兄であるペライスをよみがえらせ、再会を果たそうというのだ。
 考えておく――という便利な言葉で煙に巻いてはいたが、もふもふアニマルキングダムに協力し、共に戦ってくれたことは間違いない。
 悪いようにはしないつもりだが……。

「わかりました。……それで、どっちの話です? 領地の運営指南? それともペライスの方?」

「両方だな」

「レストール卿……。俺達に協力してくれた事には感謝しています。ですが、両方は流石に……。せめてペライスとの再会だけなら……」

「いや、そうではない。私は、シルビアを九条に預けようと思っているのだ」

 その言葉に眉をひそめる。それは些か強欲が過ぎるのではないだろうか。

「それは、アレですか? 俺の下でなら、何時でもペライスをよみがえらせてやれると……そう仰りたいのですか?」

「いや、違う。勘違いしないでくれ。確かにシルビアの希望を叶えて貰えるのなら喜ばしい限りだが、その裁量は九条に任せる」

「では、何故?」

 以前とは違う、様変わりしたコット村の見学――という可能性もなくはないが、それなら観光や視察であって、預けるという表現はしないはず。
 仮に、シルビアが俺に好意を寄せていたとしても、それは俺の先にあるペライスを見ているだけ……。
 むしろ、レストール卿にとってはデメリットだろう。
 名誉騎士の地位がそれほど浸透していない今、未婚の娘を貴族でもない、ましてや魔王と呼ばれる男に預けるのは、どう考えても悪手。
 悪評は免れず、それは家名に影を落とす。なにより、当事者のシルビアが可哀想だ。

「ニールセン公の御子息であるアレックス様を更生させた、九条の力を借りたいのだ」

「あーそういう……」

 なるほど。それは確かに、聞かれたくはない相談である。
 かといって、勘違いして欲しくはないのだが、俺はカウンセラーでもソーシャルワーカーでもない。

「ペライスの為に慰霊碑を建てたのを覚えているか? 最近、シルビアがそこに入り浸るようになった。ペライスが自分を呼んでいる――などと言うようにも……」

 俺がブラムエストにいた時はまだ建設中だったが、地下室に礼拝できる部屋を設ける程度には立派な慰霊碑を作るのだと、レストール卿が豪語していたのを思い出す。

「幻聴だろうと言っても聞く耳を持たず……。本職である九条の意見が聞きたいのだ」

 シルビアならいつも通りの通常営業。深刻に考えすぎではないか――とも思うのだが、レストール卿の表情は真剣そのもの。

「そうですねぇ、実際見てみないとなんとも言えませんが、恐らくは幻聴でしょうね。もしくは、別の何かか……」

 ペライスが成仏したところは、この眼で見ている。というか、俺が送り出したのだ。
 一度成仏した魂が、自力で現世へと戻ってくる可能性は、ほぼないだろう。俺の知る限りでは、死霊術により呼び戻すのが唯一の方法。
 シルビアに何かが憑いているようにも見えないので、やはり幻聴の線が濃いだろうか……。

「包み隠さず正直に答えていただきたいのですが、シルビアの適性を調べたことは?」

「勿論あるに決まっている。10歳の時と、おかしなことを言い始めた2か月ほど前の2回だ。結果、死霊術の適性は見られなかった」

「他に、何か変わった行動を取ったりは? 出所不明なキノコを食べたとか……」

「食事に関しては、ほぼセレナと同じ物を食べているので問題はないはずだ……」

 ならば、それは幻聴なのだろう。考えられる原因としては精神的な病か、薬物中毒のような感覚の変調か……。
 その声が本当にペライスのものであれば、死霊術師である俺にも聞こえるはずで、もしそうでないのならシルビアの目を覚まさせてほしい……。というのが、レストール卿の望みなのだろう。

「俺への領地運営指南は、あくまでシルビアがコット村へ赴く為の口実に過ぎないと……。中々、上手い事考えましたね……」

 道理で、リリーがシルビアを推すわけである。
 とはいえ、俺がペライスをよみがえらせたことによって、シルビアの死生観をおかしくしてしまった可能性もなくはない為、多少の責任も覚えるが……。

「九条にとっても、そう悪くない話だと思うのだが……」

「と、いいますと?」

「女王陛下公認案件だぞ? シルビアの面倒を見ている間は、余計な仕事を振られずに済む! その間は、コット村で養生せよという陛下のお心遣いではないか?」

 うーん。本当にそうだろうか?
 なんというか、のせられている気がしないでもないのだが……。

「……わかりました。やるだけやってみましょう。ただし、結果がそぐわずとも文句はナシでお願いしますよ?」

「流石は九条。恩に着る」

 その後、俺達は純粋に食事を楽しみ、貸切料金を含めた全ての食事代をレストール卿に支払わせ、王都観光を再開したのだ。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...