生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第617話 他力本願時

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 リリーが、俺の為にと用意してくれたサポーター。俺はてっきりネスト辺りが手伝ってくれるのだろうと思っていたが、その予想は見事に外れ、まさかのシルビア嬢だった。
 レストール伯爵家の御令嬢。妹セレナと共にブラムエストで町長を務める手腕を疑っている訳ではないのだが、性格にやや難がある。
 よく言えば一途。悪く言えば思い込みが激しい。欲望や煩悩に忠実と言うか、兄想いで誠実ではあるのだが、正直少し過剰気味だ。
 過去、俺がペライスをよみがえらせた結果、シルビアはそれを神の力なのだと勘違いをしていて、シャーリーが改めて説明したようだが、その効果はいまひとつ。
 今回も下心丸出しで、隙あらばペライスをと圧をかけられているので、出来ればご遠慮願いたい。

 そんなわけで、ひとまずそれは保留とし、その場はどうにか切り抜けたのだが、今度は立候補者が続々と現れる始末。

「ロウエル様の公務は、常にお傍で拝見しておりました。私には長年に亘り、アンカース家に仕えてきたという実績が御座います。故に、私が居れば九条様のサポートは万全と言っても過言ではない! このセバス。誠心誠意、九条様に尽くす事を誓いましょう! そして、ミア様をネストお嬢様のような立派な淑女に育て上げ、ゆくゆくは社交界に華々しくデビューを……」

「……チェンジ……」

「私が手伝ってやろうではないか。なぁに、気にすることはない。シュトルムクラータはアレックスに任せてあるから問題はあるまい。コット村もミスト領同様に国境の街と言えなくもない。ならば、私の領地運営ノウハウがきっと役に立つはずだ。九条と私が組めば、コット村を最強の軍事都市にすることも夢ではないぞ!」

「……うーん……チェンジで……」

「では、私も立候補するにゃ。八氏族評議会、猫妖種ケットシーの代表を務める者として、他国の領地経営術を学んでおいても損はないと思うにゃ。それに、国同士が交流を深め、親睦を図るという意味でも悪くはにゃい。……ところで九条殿、歌姫のイレース殿がコット村に店を出したという噂を聞きつけたんにゃが、それは本当かにゃ? できれば我が国にも招待を……」

「……ち、チェンジ……」

 確かに皆、経歴は立派なのだが、なんというかどれも一癖ある者たちばかりで、なかなか決められないというのが正直なところだ。

「出来れば、誰かに丸投げしたい……」

 思わず口から願望が出てしまったが、それが贅沢な悩みだろうことは理解している。

「おにーちゃん! はやくはやく!」

「ん? ああ……」

 現在、俺はキャロとミアを連れて、外回りと言う名の王都観光の真っただ中。
 王宮にいると、立候補者が続々と訪ねてくるので、逃げ出すように街へと繰り出したのである。

 メナブレアとは違う街の景色に目を輝かせるキャロに、その手を引きながらも自慢げに王都を案内するミア。
 太陽が明るく照らす街角で、2人の笑い声が響く。馬車に気を付けながらあてもなく駆け出しては、道端の店や風変わりな看板に夢中になるその姿は、さながら小さな冒険者。
 従魔達を連れて来ていないのは、市民への配慮。子供2人と冴えないおっさんの組み合わせであれば、流石に俺が魔王などと呼ばれている存在だとは、気付くまい。

 なるべく、ギルド周辺には近寄らず王都を巡る。
 全体的に見ても、戦争の爪痕はほぼ残されていないと言っていいが、唯一の例外は西側の外周城門。アンカース家とレストール家の連合軍が担当した戦場だ。
 王国軍5000に対して、連合軍は6000と数的には有利。楽勝は無理でも、堅実にいけば辛勝は出来ただろうという見立てではあったが、出来るだけこちらの被害を抑えたかったため、金の鬣ことトラちゃんを援軍として派遣した結果、開幕早々王国軍を蹴散らし、悪質タックルをかまして城門を破壊。
 おかげで連合軍に被害はなかったものの、戦場は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図になったらしい。
 その残骸を見たミアとキャロからは笑顔が消え、顔を引き攣らせるほどだ。

「城門……なくなっちゃってるね……」

「そ、そうだね……」

 左右の沿道に寄せある瓦礫が土手のようになってはいるが、ひとまず人々の往来は出来ている。
 既に復旧作業だろう木材での足場作りが行われていて、あまり近づくと迷惑だろうから遠目から見るだけに留めているが、その光景にふとフェルス砦を思い出し、僅かに胃の痛みを覚えた。
 バルザックの天文衛星落下アストローギアサテライトフォールにより、木っ端微塵となってしまったフェルス砦だが、現在は再建され以前よりも強固になったとの噂。

「ん? 待てよ……。全部バルザックに任せちゃえばいんじゃね?」

 バルザックは元アンカース領の領主である。300年前の話ではあるが経験者には変わりなく、元冒険者という境遇もどことなく似ている。
 最悪、亡くなっていてもいいのだ。必要な時にだけアドバイスをくれるだけでも充分、ある意味最強の守護霊と言っても過言ではない。

「腹減ったな……。飯でも食うか」

 領主問題にも決着がつき、安心すると同時に襲ってくる空腹感。子供の体力に付き合うのも骨である。
 王宮へ帰れば、好きなだけ食事にありつけるのだが、ここからは正直遠すぎるし、その為に馬車に乗るのも面倒だ。
 となれば、残された選択肢は1つである。


「あら! ミアちゃんじゃないか! 元気だったかい?」

「お久しぶりです! おばちゃん!」

 ミアが王都のギルドに職員として赴任していた時、世話になっていたという大衆食堂。
 ふくよかな体つきのおばちゃんが、少々上擦った声でミアと俺達を歓迎する。

「おや? 今日はあの大きなキツネはいないのかい?」

「うん。おにーちゃんとキャロちゃんの3人なんですけど、大丈夫ですか?」

 その答えは、すぐ返ってくると思っていた。しかし、おばちゃんの視線はミアから外れ、俺の後ろへと吸い寄せられていた。

「いや、私達も入れてもらおう。5人席は空いているか?」

「き、貴族様!?」

 振り返ると、そこに立っていたのはレストール卿と騎士のグラーゼン。
 別にお忍びと言う訳でもなく、その格好から誰が見ても身分は明らか。グラーゼンは流石にフルプレートとはいかず、ラフな格好ではあるが、しっかり帯刀はしている。
 貴族階級がこんな街中の食堂で、食事を摂るわけがない。偶然ではなく狙って接触してきただろうことは予想できる。

「すまんな、九条。少し話がしたい」
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