生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第597話 空中散骨

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「まさかとは思ったが、やっぱり出てきたか……」

 魔王軍の総指揮を任されているバイスは、僅かな地響きと共に出現した巨大なゴーレムを視界に捉えながらも舌打ちを溢した。
 その存在は、王国の貴族であれば知っている。所謂最終兵器的扱いの魔道具から生み出されたものであり、冒険者ギルドから王国へと献上された物。

 ある日、スタッグ王国にプラチナプレートの冒険者が生まれた。その適性は錬金術。
 本来であれば、冒険者は自由。当然縛ることはしないのだが、その希少さ故にギルドが専属化を提案したのだ。
 当然、王国側はそれに反発。国益を損なうとして、暫く折り合いがつかなかったが、研究成果を共有、国に献上するとの事で渋々合意へと至った。
 そのうちの1つが、誰でもゴーレムを作り出す事の出来る魔道具クレイシンセサイザーである。
 普段は王宮の宝物庫に安置されていて、有事の際に国王の承認を経て使用を許可される程度には貴重な物。
 当然スタッグ王国建国以来、有事と呼べるほどの事態にまで陥ったことはなかったので、見るのは誰もが初めてだ。
 しかし、それはバイスの想定よりもデカかった。
 人型ではあるが、アンバランスな見た目。上半身が極端にデカイく逆三角形のような体型は、どう見てもパワー系である。

「ネストよりも魔力量が多いってことか……? 宮廷魔術師にそんな奴はいなかったはず……」

 作り出せるゴーレムの性能は、使用者の魔力量に依存している。
 その基準が明確な訳ではないが、クレイシンセサイザーが献上された際のデモンストレーションでは、ゴールドプレートの魔法系冒険者が一般的な家屋と同等の大きさのゴーレムを作り出したと伝えられている。
 しかし、遠くに見えるそれはどう考えても規格外。少なく見積もっても2倍以上の質量だ。

「冒険者か? だが、国宝を冒険者に貸与なんて……いや、アルバートならあり得るか……」

「ちょっと! アイツが切り札だって言ってたゴーレムでしょ? なんか聞いてたサイズと違うんだけど!?」

 コクセイに跨り、急ぎ戻って来たのはシャーリー。
 腕を組み悩ましい面持ちを崩さないバイスを横目に、ついでにと武器庫から矢の補充を開始する。
 シャーリーだけじゃない。コクセイの鞍にも矢筒が括り付けられていて、通常1回の出撃で20本程度しか持ち運べない矢が100本近くも持ち運べるようになっている。
 そんな専用設計の鞍に加えコクセイの機動力が合わされば、最早鬼に金棒だ。

「恐らくだが、冒険者だ。プラチナクラスがいる可能性が高い。気を付けてくれ」

「黒翼騎士団でなんとかなりそ? トラちゃん呼び戻すなら、私が行って来るけど?」

「いや、金の鬣はそのままでいい。予定通りでいこう」

 金の鬣ことトラちゃんは、アンカース連合軍の方に出張中。
 戦力の分散はバイスにとっても本意ではないが、それも作戦目標の達成には必要不可欠。

 王都には、3重の城壁と8つの城門が存在する。王都の外側をぐるりと囲む外周城壁には、城門が東西南北の4カ所。
 その内側、市街区を挟み内周と呼ばれる城壁を超えると行政区。そして本城壁を超えた中心部に王城が聳え立っている。
 バイスたちの目的は、外周城壁に設けられた4つの城門を制圧し王都を包囲することだ。
 西門を攻めるのはアンカースとレストールの連合軍。そこに金の鬣を向かわせたのは、圧倒的戦力差で制圧が安易であると考えたから。
 ピーちゃんの事前調査で判明していた王国軍の配置は、北側と西側に5000。東に10000。そして本陣である南門に20000だ。
 その数から見てわかる通り、一番手薄なのが西と北。その理由はハッキリしている。
 レストール卿が反旗を翻し、もふもふアニマルキングダムに合流したことが、まだ知られていないからだ。
 6000の兵に加え、金の鬣の圧倒的殲滅力があれば、西門の制圧は時間の問題。

「ばいすノ兄貴ィィィ!」

 そこに颯爽と飛び込んできたのは、斥候役を任されていたインコのピーちゃん。

「にーるせんノ軍旗ヲ見ツケタゼ! 東門ノ前ニ陣取ッテイルノガソウダ! ダガ、本陣ハ別ノ旗ダッタ」

「やっぱりか……。よくやったぞピー助」

 バイスの上げた左腕にちょこんと止まると、羽根を休めるピーちゃん。
 その報告は、おおむね予想通りだった。

「やれやれ……。公爵だからスゲェのか、スゲェから公爵なのか……」

 部隊の再編制で、ニールセン公の兵達が分散してしまう事を懸念していたのだが、どうやら最悪の事態だけは免れた様子。
 それも、恐らくはレイヴン公が裏で動いているからだろう。
 幾つか考えられる可能性。その中でも、2番目に位置するほどの優良枠。
 ニールセンの軍が東門に配置され、それをニールセン公が指揮する――という形がベストではあったが、結果から言えば想定の範囲内。

「陣内の軍旗は何色だった?」

「黄色ダ。馬ノ模様ダッタト思ウ……」

「なるほどね……。そう来たか……」

 黄色い旗に馬がデザインされた紋章は、オーレスト家で間違いない。
 ニールセン公が直接の指揮に関わっていないのは、アルバートが裏切りを恐れた為だろう。
 故に、軍編成はそのままに指揮官だけを変えたのだ。
 ならば、迷うことはない。バイスは腹をくくり、作戦の続行を決意した。

「シャーリー。ファフナーに合図を」

「おっけー」

 シャーリーは、腰の矢筒からいつもとは違うシャフトの太い矢を引き抜くと、それを番え天へと向かって引き絞る。

「”バーストショット”!」

 それは、放った矢を破裂させる事の出来るスキルだ。
 天高く舞い上がっていく1本の矢。その速度が徐々に落ち、上昇するエネルギーが反転するであろう瞬間、それは大きな音を立て破裂した。
 すると、シャフトに仕込んでいた金属片が辺りに散らばり、太陽光は乱反射。
 刹那、その遥か上空から滑空してきたのは黒き厄災ファフナー。
 しかし、それはゴーレムへの対策ではない。
 ファフナーが、そのまま王都の上空を通り過ぎると、その背から何かが突然落下したのだ。

「私は冒険者だからさ。こういう戦争はちんぷんかんぷんだけど、この作戦……ヤバくない?」

「そりゃそうだろ……。俺だって最初は耳を疑ったっつーの。空からアンデッドを降らせるなんて、聞いた事ねーよ……」

 ファフナーの背中から落下していくそれは、アンデッドの精鋭たち。
 勿論ただ落としただけでは地面との激突に耐えられず、機能停止は確実だ。
 そこで、九条考案の落下傘が開花した。
 現代からすれば、粗悪品の烙印は確実な出来の悪いパラシュート。実際何体かは花開かず落下、あるいは風に流されあらぬ方向へ飛ばされてしまう者もいたが、失敗すれば捨て置くだけ。アンデッドなら、問題にすらなり得ない。
 とはいえ、ファフナーの背中も有限だ。無事王都内に侵入できたのは、10数体のデスナイトとデュラハンのガロンにリッチの最凶コンビ。
 少ないながらも精鋭中の精鋭が残っているのは、成功と言っていいだろう。

「さて、アルバートはどう出るか……」

「私だったら、泣いて降参しちゃうけど……」

「それが一番……と言いたいとこだが、あのアルバートだからな……。結局は最終段階までいっちまいそうだ」

 恐らくは非常事態宣言が出され、冒険者がその対応に追われるだろうが、混乱は免れないだろう。
 アンデッドの侵入を許してしまった時点で、王都に住む全ての市民が人質となってしまった事実に気付かぬ者はいないのだから……。
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