生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
上 下
596 / 638

第596話 激突

しおりを挟む
「撃てぇッ! 撃ちまくれぇぇッ!」

 王国軍の騎士が声を上げ、数千の矢が大空を舞った。
 それだけじゃない。巨大な移動式バリスタ。そして魔法師団からも攻撃魔法が雨のように降り注ぐ。
 その先には、怒涛の如く押し寄せてくるアンデッドの大軍。痛みを知らぬアンデッドとはいえ、流石に無傷では済まされない。
 だが、それもほんの一部。最前に列を成すデスナイトは、盾とも呼べない武骨な鉄板を傘のように扱い、それは色身も相まって土砂崩れようでもあった。
 彼等はただのアンデッドではない。がむしゃらに襲い掛かってくるだけの魔物とは違うのだ。

 そもそもの話、種族的に力の劣る人間という種が、魔物相手に勝てているのは、知恵と知識と団結力があるからだ。
 相手を観察し学習する。その知識を蓄え継承する。そして、それを実行するだけの組織力。
 しかし、今回は違う。人間という指揮官を得たことにより、魔物にも秩序が生まれたのだ。
 普段は連携などしないアンデッド。ただ生に執着するだけの亡者たちが策を弄して来るのである。
 それがどれほどの脅威なのかは、考えずともわかるだろう。

「火を放てぇぇッ!」

 魔法による火球が飛び交い、火の手がアンデッド達の行く手を阻む。
 その回りが速いのは、飛翔する矢が油に塗れていたからだ。
 アンデット対策としては申し分ない策ではあるが、それでもその足は止まらなかった。
 滝のような豪雨がピンポイントで降り注ぎ、火災は瞬時に鎮火する。
 ワダツミが部隊後方を駆けまわり、状況に対応しているのだ。

「波断迎撃陣形、急げェッ!」

「【石柱ストーンピラー】!」

 王国軍の魔法師団が杖に魔力を込め、それを高く掲げると、前線に出来たのは幾つもの石柱。
 高さは成人男性の身長ほどしかないが、その分強度は増している。
 それは、敵の勢いを殺す為に作られた、即席の消波ブロックだ。
 密集した岩の隙間から覗く長槍は、まるで警戒心を露にしたハリネズミ。
 そのおかげもあり、確かに勢いは殺せたが、恐怖を知らぬアンデッドには意味がない。
 ほどなくして辺りに金属がぶつかり合う轟音が響くと、両軍が真正面から激突し戦場は激烈な咆哮に包まれた。

「怯むなぁ! 押し返せぇぇッ!」

 恐怖に打ち勝つためか、飛び交う怒号。鎧をまとった兵士たちが剣を交え、刃が盾を叩き火花が散る。
 力と力のぶつかり合い。あちこちで上がる悲鳴。泥と血にまみれ必死に敵を押し返そうと試みるも、波のように押し寄せるアンデッドたちの勢いは凄まじいの一言。
 それでも王国軍が一歩も引こうとしないのは、魔王に対するある種の怨みのようなものが、彼等の中に渦巻いているからだ。
 リリーを傀儡と化し、国家転覆を目論む魔王。自分達が敗北すれば、王都は魔物の街と化す……。そう信じて疑わない。
 そんな正義感が、彼等を戦場に押し留めているのだが、気の持ちようでどうにかするにも限度がある。
 たかがスケルトンといってもその殆どは強化され、そもそもデスナイトはシルバーの冒険者が数人がかりでどうにかするレベルの魔物だ。
 数では勝っていても押され気味の王国軍。既に陣形は崩れ、乱戦状態。

「オラオラぁ! もっと歯ごたえのある奴はいねぇのか!?」

 そんな状況の中、西から回り込むように戦場へと飛び込んだのは黒翼騎士団と義勇兵の部隊。
 その先鋒を務めていたのは、豪炎ゲオルグ。燃え盛る直剣イフリートを振りかざし、不死の骨馬で戦場を駆ける。

「ちょっとゲオルグ! 久しぶりだからって前に出過ぎッ!」

 ゲオルグの打ち漏らしを、遠方から的確に射抜いているのは、星穹と呼ばれた弓の名手レギーナだ。
 獣人の特性を活かした樹上からの狙撃は、百発百中。故に単独行動を得意とするが、やみくもに立ち回っている訳ではない。
 ゲオルグの一挙手一投足がなんらかの合図であり、その連携は300年経っても健在だ。
 そんな2人を、バルザックは後方から眺めていた。
 九条と共にアンデッドの大軍を呼び出し、魔力をそちらに使っている為サポートに徹しているというのもあるが、一番の理由は見ている景色に郷愁を感じていたからだ。
 それはまだ黒翼騎士団とも呼ばれぬ時代。傭兵として名乗りを上げて間もなかった記憶である。

「ゲオルグとレギーナは相変わらずだな……」

 豪快な笑い声が聞こえてきそうなほどの暴れっぷりを見せるゲオルグに対し、僅かに笑顔を溢したバルザック。
 一般兵は元より、そこそこ実力のありそうな騎士すらも薙ぎ倒していくその姿はは、狂戦士と呼ぶに相応しい。

 何の憂いもなく、その様子を眺めていたバルザックだったが、異変は突然現れた。

「――ッ!?」

 ゲオルグの意識の外から来た飛翔体。それは決して流れ弾などではなく、確実にゲオルグを狙ったであろう殺意が込められていた。
 まさに紙一重と呼べるタイミングでそれを躱したゲオルグは、その射出地点に目を凝らす。

「まさか、あなたたちが九条の一味だったとはね……」

 ゲオルグの視線から避けるように出来た1本の道。その先にいたのは、プラチナプレート冒険者のイーミアル。
 その顔には見覚えのあるゲオルグだったが、名前までは憶えていなかった。

「あぁ! 俺が、身体をまさぐったエルフのねーちゃんじゃねぇか!」

 その一言に、思い出したくもない記憶を呼び覚まされ、イーミアルは顔を赤く染めながらも魔力を素早く射出する。

「死ねッ!!」

 それは先程と同様の飛翔体。ただの魔法の矢マジックアローではない。分散するそれらを纏め上げ、威力を倍増させたもの。
 当たれば致命傷は避けられないが、ゲオルグはそれをひらりと躱す。
 むしろ危なかったのは、後方から飛んで来た1本の矢だ。
 それはゲオルグの頬を掠め、明後日の方向へと飛んで行った。

「仕方ねぇだろ……。文句は九条に言ってくれよ……」

 ボソリと呟いたゲオルグの愚痴が、レギーナに届いたのかは不明だが、戦場だというのに辺りは静まり返った。
 まるで、ゲオルグとイーミアルの行く末を見届けるかのように……。

「残念だけどアンタを相手にしてる暇はないの。九条の居場所を教えてもらえる? 知ってるならフードルの場所でもいいわよ?」

「はぁ? それを教える義理はねぇな。知りたいのなら……相場は決まってるよなぁ?」

 燃え盛るイフリートが更に勢いを増し、その切っ先をイーミアルへ向けたゲオルグ。
 すると、イーミアルの足元が突如として盛り上がり、岩の壁が形成された。
 そこに僅かに遅れ、突き刺さった1本の矢。そして、ゲオルグの舌打ちが響く。

「同じ手が通用すると思ったら大間違いよ。勝機もなく出てくるわけないでしょ?」

 その声と共に大地が大きく揺れ始め、イーミアルの前に出来た岩の壁が、瞬く間に巨大化した。
 そこに現れたのは、岩でできた巨大な人型のゴーレムだ。その大きさ故、巻き込まれては敵わないと王国兵すら逃げ惑う。
 高さは王都の城壁と遜色なく、その肩に乗っていたイーミアルですら、見上げなければならぬほど。

「アンタ達は、この子でも相手にしてなさい」
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

異世界から帰ってきた勇者は既に擦り切れている。

暁月ライト
ファンタジー
魔王を倒し、邪神を滅ぼし、五年の冒険の果てに役割を終えた勇者は地球へと帰還する。 しかし、遂に帰還した地球では何故か三十年が過ぎており……しかも、何故か普通に魔術が使われており……とはいえ最強な勇者がちょっとおかしな現代日本で無双するお話です。

姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?

果 一
ファンタジー
 リクスには、最強の姉がいる。  王国最強と唄われる勇者で、英雄学校の生徒会長。  類い希なる才能と美貌を持つ姉の威光を笠に着て、リクスはとある野望を遂行していた。 『ビバ☆姉さんのスネをかじって生きよう計画!』    何を隠そうリクスは、引きこもりのタダ飯喰らいを人生の目標とする、極めて怠惰な少年だったのだ。  そんな弟に嫌気がさした姉エルザは、ある日リクスに告げる。 「私の通う英雄学校の編入試験、リクスちゃんの名前で登録しておいたからぁ」  その時を境に、リクスの人生は大きく変化する。  英雄学校で様々な事件に巻き込まれ、誰もが舌を巻くほどの強さが露わになって――?  これは、怠惰でろくでなしで、でもちょっぴり心優しい少年が、姉を越える英雄へと駆け上がっていく物語。  ※本作はカクヨム・ノベルアップ+・ネオページでも公開しています。カクヨム・ノベルアップ+でのタイトルは『姉(勇者)の威光を借りてニート生活を送るつもりだったのに、姉より強いのがバレて英雄になったんだが!?~穀潰し生活のための奮闘が、なぜか賞賛される流れになった件~』となります。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

処理中です...