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第596話 激突
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「撃てぇッ! 撃ちまくれぇぇッ!」
王国軍の騎士が声を上げ、数千の矢が大空を舞った。
それだけじゃない。巨大な移動式バリスタ。そして魔法師団からも攻撃魔法が雨のように降り注ぐ。
その先には、怒涛の如く押し寄せてくるアンデッドの大軍。痛みを知らぬアンデッドとはいえ、流石に無傷では済まされない。
だが、それもほんの一部。最前に列を成すデスナイトは、盾とも呼べない武骨な鉄板を傘のように扱い、それは色身も相まって土砂崩れようでもあった。
彼等はただのアンデッドではない。がむしゃらに襲い掛かってくるだけの魔物とは違うのだ。
そもそもの話、種族的に力の劣る人間という種が、魔物相手に勝てているのは、知恵と知識と団結力があるからだ。
相手を観察し学習する。その知識を蓄え継承する。そして、それを実行するだけの組織力。
しかし、今回は違う。人間という指揮官を得たことにより、魔物にも秩序が生まれたのだ。
普段は連携などしないアンデッド。ただ生に執着するだけの亡者たちが策を弄して来るのである。
それがどれほどの脅威なのかは、考えずともわかるだろう。
「火を放てぇぇッ!」
魔法による火球が飛び交い、火の手がアンデッド達の行く手を阻む。
その回りが速いのは、飛翔する矢が油に塗れていたからだ。
アンデット対策としては申し分ない策ではあるが、それでもその足は止まらなかった。
滝のような豪雨がピンポイントで降り注ぎ、火災は瞬時に鎮火する。
ワダツミが部隊後方を駆けまわり、状況に対応しているのだ。
「波断迎撃陣形、急げェッ!」
「【石柱】!」
王国軍の魔法師団が杖に魔力を込め、それを高く掲げると、前線に出来たのは幾つもの石柱。
高さは成人男性の身長ほどしかないが、その分強度は増している。
それは、敵の勢いを殺す為に作られた、即席の消波ブロックだ。
密集した岩の隙間から覗く長槍は、まるで警戒心を露にしたハリネズミ。
そのおかげもあり、確かに勢いは殺せたが、恐怖を知らぬアンデッドには意味がない。
ほどなくして辺りに金属がぶつかり合う轟音が響くと、両軍が真正面から激突し戦場は激烈な咆哮に包まれた。
「怯むなぁ! 押し返せぇぇッ!」
恐怖に打ち勝つためか、飛び交う怒号。鎧をまとった兵士たちが剣を交え、刃が盾を叩き火花が散る。
力と力のぶつかり合い。あちこちで上がる悲鳴。泥と血にまみれ必死に敵を押し返そうと試みるも、波のように押し寄せるアンデッドたちの勢いは凄まじいの一言。
それでも王国軍が一歩も引こうとしないのは、魔王に対するある種の怨みのようなものが、彼等の中に渦巻いているからだ。
リリーを傀儡と化し、国家転覆を目論む魔王。自分達が敗北すれば、王都は魔物の街と化す……。そう信じて疑わない。
そんな正義感が、彼等を戦場に押し留めているのだが、気の持ちようでどうにかするにも限度がある。
たかがスケルトンといってもその殆どは強化され、そもそもデスナイトはシルバーの冒険者が数人がかりでどうにかするレベルの魔物だ。
数では勝っていても押され気味の王国軍。既に陣形は崩れ、乱戦状態。
「オラオラぁ! もっと歯ごたえのある奴はいねぇのか!?」
そんな状況の中、西から回り込むように戦場へと飛び込んだのは黒翼騎士団と義勇兵の部隊。
その先鋒を務めていたのは、豪炎ゲオルグ。燃え盛る直剣イフリートを振りかざし、不死の骨馬で戦場を駆ける。
「ちょっとゲオルグ! 久しぶりだからって前に出過ぎッ!」
ゲオルグの打ち漏らしを、遠方から的確に射抜いているのは、星穹と呼ばれた弓の名手レギーナだ。
獣人の特性を活かした樹上からの狙撃は、百発百中。故に単独行動を得意とするが、やみくもに立ち回っている訳ではない。
ゲオルグの一挙手一投足がなんらかの合図であり、その連携は300年経っても健在だ。
そんな2人を、バルザックは後方から眺めていた。
九条と共にアンデッドの大軍を呼び出し、魔力をそちらに使っている為サポートに徹しているというのもあるが、一番の理由は見ている景色に郷愁を感じていたからだ。
それはまだ黒翼騎士団とも呼ばれぬ時代。傭兵として名乗りを上げて間もなかった記憶である。
「ゲオルグとレギーナは相変わらずだな……」
豪快な笑い声が聞こえてきそうなほどの暴れっぷりを見せるゲオルグに対し、僅かに笑顔を溢したバルザック。
一般兵は元より、そこそこ実力のありそうな騎士すらも薙ぎ倒していくその姿はは、狂戦士と呼ぶに相応しい。
何の憂いもなく、その様子を眺めていたバルザックだったが、異変は突然現れた。
「――ッ!?」
ゲオルグの意識の外から来た飛翔体。それは決して流れ弾などではなく、確実にゲオルグを狙ったであろう殺意が込められていた。
まさに紙一重と呼べるタイミングでそれを躱したゲオルグは、その射出地点に目を凝らす。
「まさか、あなたたちが九条の一味だったとはね……」
ゲオルグの視線から避けるように出来た1本の道。その先にいたのは、プラチナプレート冒険者のイーミアル。
その顔には見覚えのあるゲオルグだったが、名前までは憶えていなかった。
「あぁ! 俺が、身体をまさぐったエルフのねーちゃんじゃねぇか!」
その一言に、思い出したくもない記憶を呼び覚まされ、イーミアルは顔を赤く染めながらも魔力を素早く射出する。
「死ねッ!!」
それは先程と同様の飛翔体。ただの魔法の矢ではない。分散するそれらを纏め上げ、威力を倍増させたもの。
当たれば致命傷は避けられないが、ゲオルグはそれをひらりと躱す。
むしろ危なかったのは、後方から飛んで来た1本の矢だ。
それはゲオルグの頬を掠め、明後日の方向へと飛んで行った。
「仕方ねぇだろ……。文句は九条に言ってくれよ……」
ボソリと呟いたゲオルグの愚痴が、レギーナに届いたのかは不明だが、戦場だというのに辺りは静まり返った。
まるで、ゲオルグとイーミアルの行く末を見届けるかのように……。
「残念だけどアンタを相手にしてる暇はないの。九条の居場所を教えてもらえる? 知ってるならフードルの場所でもいいわよ?」
「はぁ? それを教える義理はねぇな。知りたいのなら……相場は決まってるよなぁ?」
燃え盛るイフリートが更に勢いを増し、その切っ先をイーミアルへ向けたゲオルグ。
すると、イーミアルの足元が突如として盛り上がり、岩の壁が形成された。
そこに僅かに遅れ、突き刺さった1本の矢。そして、ゲオルグの舌打ちが響く。
「同じ手が通用すると思ったら大間違いよ。勝機もなく出てくるわけないでしょ?」
その声と共に大地が大きく揺れ始め、イーミアルの前に出来た岩の壁が、瞬く間に巨大化した。
そこに現れたのは、岩でできた巨大な人型のゴーレムだ。その大きさ故、巻き込まれては敵わないと王国兵すら逃げ惑う。
高さは王都の城壁と遜色なく、その肩に乗っていたイーミアルですら、見上げなければならぬほど。
「アンタ達は、この子でも相手にしてなさい」
王国軍の騎士が声を上げ、数千の矢が大空を舞った。
それだけじゃない。巨大な移動式バリスタ。そして魔法師団からも攻撃魔法が雨のように降り注ぐ。
その先には、怒涛の如く押し寄せてくるアンデッドの大軍。痛みを知らぬアンデッドとはいえ、流石に無傷では済まされない。
だが、それもほんの一部。最前に列を成すデスナイトは、盾とも呼べない武骨な鉄板を傘のように扱い、それは色身も相まって土砂崩れようでもあった。
彼等はただのアンデッドではない。がむしゃらに襲い掛かってくるだけの魔物とは違うのだ。
そもそもの話、種族的に力の劣る人間という種が、魔物相手に勝てているのは、知恵と知識と団結力があるからだ。
相手を観察し学習する。その知識を蓄え継承する。そして、それを実行するだけの組織力。
しかし、今回は違う。人間という指揮官を得たことにより、魔物にも秩序が生まれたのだ。
普段は連携などしないアンデッド。ただ生に執着するだけの亡者たちが策を弄して来るのである。
それがどれほどの脅威なのかは、考えずともわかるだろう。
「火を放てぇぇッ!」
魔法による火球が飛び交い、火の手がアンデッド達の行く手を阻む。
その回りが速いのは、飛翔する矢が油に塗れていたからだ。
アンデット対策としては申し分ない策ではあるが、それでもその足は止まらなかった。
滝のような豪雨がピンポイントで降り注ぎ、火災は瞬時に鎮火する。
ワダツミが部隊後方を駆けまわり、状況に対応しているのだ。
「波断迎撃陣形、急げェッ!」
「【石柱】!」
王国軍の魔法師団が杖に魔力を込め、それを高く掲げると、前線に出来たのは幾つもの石柱。
高さは成人男性の身長ほどしかないが、その分強度は増している。
それは、敵の勢いを殺す為に作られた、即席の消波ブロックだ。
密集した岩の隙間から覗く長槍は、まるで警戒心を露にしたハリネズミ。
そのおかげもあり、確かに勢いは殺せたが、恐怖を知らぬアンデッドには意味がない。
ほどなくして辺りに金属がぶつかり合う轟音が響くと、両軍が真正面から激突し戦場は激烈な咆哮に包まれた。
「怯むなぁ! 押し返せぇぇッ!」
恐怖に打ち勝つためか、飛び交う怒号。鎧をまとった兵士たちが剣を交え、刃が盾を叩き火花が散る。
力と力のぶつかり合い。あちこちで上がる悲鳴。泥と血にまみれ必死に敵を押し返そうと試みるも、波のように押し寄せるアンデッドたちの勢いは凄まじいの一言。
それでも王国軍が一歩も引こうとしないのは、魔王に対するある種の怨みのようなものが、彼等の中に渦巻いているからだ。
リリーを傀儡と化し、国家転覆を目論む魔王。自分達が敗北すれば、王都は魔物の街と化す……。そう信じて疑わない。
そんな正義感が、彼等を戦場に押し留めているのだが、気の持ちようでどうにかするにも限度がある。
たかがスケルトンといってもその殆どは強化され、そもそもデスナイトはシルバーの冒険者が数人がかりでどうにかするレベルの魔物だ。
数では勝っていても押され気味の王国軍。既に陣形は崩れ、乱戦状態。
「オラオラぁ! もっと歯ごたえのある奴はいねぇのか!?」
そんな状況の中、西から回り込むように戦場へと飛び込んだのは黒翼騎士団と義勇兵の部隊。
その先鋒を務めていたのは、豪炎ゲオルグ。燃え盛る直剣イフリートを振りかざし、不死の骨馬で戦場を駆ける。
「ちょっとゲオルグ! 久しぶりだからって前に出過ぎッ!」
ゲオルグの打ち漏らしを、遠方から的確に射抜いているのは、星穹と呼ばれた弓の名手レギーナだ。
獣人の特性を活かした樹上からの狙撃は、百発百中。故に単独行動を得意とするが、やみくもに立ち回っている訳ではない。
ゲオルグの一挙手一投足がなんらかの合図であり、その連携は300年経っても健在だ。
そんな2人を、バルザックは後方から眺めていた。
九条と共にアンデッドの大軍を呼び出し、魔力をそちらに使っている為サポートに徹しているというのもあるが、一番の理由は見ている景色に郷愁を感じていたからだ。
それはまだ黒翼騎士団とも呼ばれぬ時代。傭兵として名乗りを上げて間もなかった記憶である。
「ゲオルグとレギーナは相変わらずだな……」
豪快な笑い声が聞こえてきそうなほどの暴れっぷりを見せるゲオルグに対し、僅かに笑顔を溢したバルザック。
一般兵は元より、そこそこ実力のありそうな騎士すらも薙ぎ倒していくその姿はは、狂戦士と呼ぶに相応しい。
何の憂いもなく、その様子を眺めていたバルザックだったが、異変は突然現れた。
「――ッ!?」
ゲオルグの意識の外から来た飛翔体。それは決して流れ弾などではなく、確実にゲオルグを狙ったであろう殺意が込められていた。
まさに紙一重と呼べるタイミングでそれを躱したゲオルグは、その射出地点に目を凝らす。
「まさか、あなたたちが九条の一味だったとはね……」
ゲオルグの視線から避けるように出来た1本の道。その先にいたのは、プラチナプレート冒険者のイーミアル。
その顔には見覚えのあるゲオルグだったが、名前までは憶えていなかった。
「あぁ! 俺が、身体をまさぐったエルフのねーちゃんじゃねぇか!」
その一言に、思い出したくもない記憶を呼び覚まされ、イーミアルは顔を赤く染めながらも魔力を素早く射出する。
「死ねッ!!」
それは先程と同様の飛翔体。ただの魔法の矢ではない。分散するそれらを纏め上げ、威力を倍増させたもの。
当たれば致命傷は避けられないが、ゲオルグはそれをひらりと躱す。
むしろ危なかったのは、後方から飛んで来た1本の矢だ。
それはゲオルグの頬を掠め、明後日の方向へと飛んで行った。
「仕方ねぇだろ……。文句は九条に言ってくれよ……」
ボソリと呟いたゲオルグの愚痴が、レギーナに届いたのかは不明だが、戦場だというのに辺りは静まり返った。
まるで、ゲオルグとイーミアルの行く末を見届けるかのように……。
「残念だけどアンタを相手にしてる暇はないの。九条の居場所を教えてもらえる? 知ってるならフードルの場所でもいいわよ?」
「はぁ? それを教える義理はねぇな。知りたいのなら……相場は決まってるよなぁ?」
燃え盛るイフリートが更に勢いを増し、その切っ先をイーミアルへ向けたゲオルグ。
すると、イーミアルの足元が突如として盛り上がり、岩の壁が形成された。
そこに僅かに遅れ、突き刺さった1本の矢。そして、ゲオルグの舌打ちが響く。
「同じ手が通用すると思ったら大間違いよ。勝機もなく出てくるわけないでしょ?」
その声と共に大地が大きく揺れ始め、イーミアルの前に出来た岩の壁が、瞬く間に巨大化した。
そこに現れたのは、岩でできた巨大な人型のゴーレムだ。その大きさ故、巻き込まれては敵わないと王国兵すら逃げ惑う。
高さは王都の城壁と遜色なく、その肩に乗っていたイーミアルですら、見上げなければならぬほど。
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