生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
上 下
587 / 633

第587話 ネクロレギオン

しおりを挟む
 コット村から西の街道を半日ほど進んだあたり。
 ちょうどベルモントとの中間に位置する森の中で、焚き火を囲むシャーリーとネスト。
 そこへ新たに姿を現したのは、沢山の薪を抱えたバイスだ。

「これだけありゃ足りるだろ」

 そう言って乱雑に薪を投げ捨てたバイスは、空いていた切り株に腰を下ろし、隣で丸くなっていたワダツミを撫で始めた。

「合図は、まだだよな?」

「ええ。そろそろかとは思うんだけど、そう急ぐこともないでしょう」

 バイスの問いに、ネストは空を見上げながら答える。
 青々とした葉の隙間から差し込む朝日は眩しく、目を細めずにはいられない。
 待っているのは、ピーちゃんからの合図だ。それを以て、ベルモントへと進軍する手筈となっている。

「レイヴン公も、案外役に立たないわね……」

 ボソリと呟いたのは、シャーリー。
 燃え盛る焚き火に手短な枝を突っ込み、火力の調節に勤しみながらも、その面持ちは何処か緊張した様相を呈していた。

「まぁ、そう言うなよ。レイヴン公だって寝返りがバレないよう慎重なんだ……多分……」

 建国宣言から2週間。現国王であるアルバートが、先代であるアドウェールを殺害したという噂は瞬く間に広がり、王都では物議を醸していた。
 それがただの噂であれば沈静化は容易だったのかもしれないが、同時に王族であるリリーが新たな国を興してまで宣戦を布告してきたのだ。
 その信憑性は高く、国民に動揺が走ったのは言うまでもない。
 王宮はそれを流言であると発表し、国を捨て魔王に付いた王女など信用に値しないと釈明。
 同時に、宣戦布告は事実であることを公表。その対策として、ベルモントには1000人規模の王国軍を派遣してきた。

 今からそれを相手にするかもしれないという状況。気が抜けないのは当然だ。

「まぁ、気楽にいこうぜ? 俺達がこうやって焚き火を囲めるのも最後かもしれねぇんだし」

「ちょっと、縁起の悪い事言わないでよ……」

 眉間にシワを寄せ不機嫌そうなネストに対し、バイスはどこ吹く風とばかりにフラグを気にもしていない様子。

「おいおい、飛躍しすぎだろ。俺は、もう冒険者ごっこも出来ねぇだろうな――ってことを言いたかっただけだよ」

 コット村からギルドが撤退した時点で、シャーリーは冒険者には戻れないだろうと確信していた。
 暫くギルドに顔を出していない為、自分の扱いがギルド内でどのようになっているのかは不明だが、魔王に与しているという時点で既に除名されていてもおかしくない。
 シャーリーは、その可能性をアーニャに言及したことがある。……が、帰ってきた答えはまるでノーダメージだとでも言わんばかり。

「私はお父さんと共に生きられればそれでいい。たとえ九条が本物の魔王だって、魂を売る覚悟がある――。あんたもそうなんじゃないの? 詳しくは知らないけど、何度か九条に助けられてるんでしょ?」

 そんなことは、言われずともわかっている。九条の傍にいようと、シャーリーは心に決めているのだ。
 ただ唐突過ぎた為、冒険者には多少の未練もあった。
 ひとまずの夢でもあるゴールドプレートに到達した。ひとえにそれは、努力の結晶であり成果である。
 名残惜しいと思うのも当然だろう。

「昔はこうやって焚き火を囲んでたっけ……」

 それは、九条に出会う前の話。思い出される冒険者時代……。といってもそれほど昔でもないのだが、懐かしさを覚え物思いに耽る。
 若干1名欠けてはいるが、誰もそれには言及しない。
 ネストは、御先祖様の魔法書を探し出す為に……。バイスは、見識を広めるために……。
 冒険者を目指した理由に個人差はあれど、目標へと向かって歩んでいた過去の自分を振り返り、お互いが顔を見合わせ照れくさそうに微笑んだ。

 そこに颯爽と現れたのは、インコのピーちゃん。
 バサバサと空中でホバリングをしてからの、シャーリーの頭上に見事な着地。

「しゃーりーノ姉御! 出番デスゼ!」

「……ってことは、予定通りってことね?」

「王国軍ノ大半ガ、街ヲ出タ! 今ガ、ちゃんすダ!」

「はぁ、結局九条は帰ってこなかったか……」

 相手は、こちらの想定通りに動いた様子。
 オルクス率いる海賊連合とイレース率いるサハギン達が、先行してハーヴェストに侵攻を始めている。
 海戦にて彼等の右に出る者はいないだろう。それが手に負えなければ、ベルモントに救援を求めるのは確実だ。
 ベルモントに駐屯している王国軍がそちらに向かえば、その分シャーリーたちの負担は減る。
 カガリと白狐を除いた魔獣達に加え、多数のアンデッド部隊。更にはファフナーも上空で待機中ともなれば、負ける要素は見当たらない。

「これ、私いらなくない? ファフナーと交渉役が1人いれば十分だと思うんだけど……」

「まぁ何事も経験だ。それに九条が出したアンデッドたちは、村人を守る以外シャーリーの言う事しか聞かないんだろ?」

「そうだけどさぁ……」

 大きな溜息と共に肩を落とすシャーリー。

「デビュー戦、頑張れよ? ネクロレギオン総司令殿」

「それなのよ……。国名はふざけてるのに、どうして私の部隊だけ真面目に命名したワケ!?」

 その理由は簡単だ。ミアがその場にいなかったからである。
 森の中でひっそりと身を潜めている者達は、コット村南進地区の土木工事を担当していたアンデッドの再利用が大半。
 それに命令を出せるのは、九条を除いて僅か2名。ミアとシャーリーだけである。
 標準的なスケルトンは最早数えるのも億劫なほどで、再召喚は面倒だからとシャーリーがその統括を任された。
 そこに新たにデスナイトが30体。加えてリッチが1体にデュラハンのガロンを配下に加え、その部隊をネクロレギオンと銘打つ事となったのだ。

「そりゃぁ、相手に舐められないようにする為だろ……」

 だったら先に国の名前をどうにかした方がいいと思ったシャーリーだったが、それをバイスやネストに愚痴ったところで仕方がない。

「それよりも、作戦は頭に入ってるか?」

「出来るだけ民間人を傷付けずに――でしょ? 九条も結構めんどくさい事言うわよね……」

「ああ。無理なら気にするなとも言ってたが……」

「まぁ、なんとかなるでしょ。これだけの戦力を前に歯向かおうって人がいるなら、逆に尊敬しちゃうわよ」

 それは、興味本位でトラッキングスキルに意識を集中させたシャーリーが後悔してしまうほどのもの。
 辺りは真っ赤に埋め尽くされ、最早それはレーダーとしての意味をなさなくなっていた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...