生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第587話 ネクロレギオン

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 コット村から西の街道を半日ほど進んだあたり。
 ちょうどベルモントとの中間に位置する森の中で、焚き火を囲むシャーリーとネスト。
 そこへ新たに姿を現したのは、沢山の薪を抱えたバイスだ。

「これだけありゃ足りるだろ」

 そう言って乱雑に薪を投げ捨てたバイスは、空いていた切り株に腰を下ろし、隣で丸くなっていたワダツミを撫で始めた。

「合図は、まだだよな?」

「ええ。そろそろかとは思うんだけど、そう急ぐこともないでしょう」

 バイスの問いに、ネストは空を見上げながら答える。
 青々とした葉の隙間から差し込む朝日は眩しく、目を細めずにはいられない。
 待っているのは、ピーちゃんからの合図だ。それを以て、ベルモントへと進軍する手筈となっている。

「レイヴン公も、案外役に立たないわね……」

 ボソリと呟いたのは、シャーリー。
 燃え盛る焚き火に手短な枝を突っ込み、火力の調節に勤しみながらも、その面持ちは何処か緊張した様相を呈していた。

「まぁ、そう言うなよ。レイヴン公だって寝返りがバレないよう慎重なんだ……多分……」

 建国宣言から2週間。現国王であるアルバートが、先代であるアドウェールを殺害したという噂は瞬く間に広がり、王都では物議を醸していた。
 それがただの噂であれば沈静化は容易だったのかもしれないが、同時に王族であるリリーが新たな国を興してまで宣戦を布告してきたのだ。
 その信憑性は高く、国民に動揺が走ったのは言うまでもない。
 王宮はそれを流言であると発表し、国を捨て魔王に付いた王女など信用に値しないと釈明。
 同時に、宣戦布告は事実であることを公表。その対策として、ベルモントには1000人規模の王国軍を派遣してきた。

 今からそれを相手にするかもしれないという状況。気が抜けないのは当然だ。

「まぁ、気楽にいこうぜ? 俺達がこうやって焚き火を囲めるのも最後かもしれねぇんだし」

「ちょっと、縁起の悪い事言わないでよ……」

 眉間にシワを寄せ不機嫌そうなネストに対し、バイスはどこ吹く風とばかりにフラグを気にもしていない様子。

「おいおい、飛躍しすぎだろ。俺は、もう冒険者ごっこも出来ねぇだろうな――ってことを言いたかっただけだよ」

 コット村からギルドが撤退した時点で、シャーリーは冒険者には戻れないだろうと確信していた。
 暫くギルドに顔を出していない為、自分の扱いがギルド内でどのようになっているのかは不明だが、魔王に与しているという時点で既に除名されていてもおかしくない。
 シャーリーは、その可能性をアーニャに言及したことがある。……が、帰ってきた答えはまるでノーダメージだとでも言わんばかり。

「私はお父さんと共に生きられればそれでいい。たとえ九条が本物の魔王だって、魂を売る覚悟がある――。あんたもそうなんじゃないの? 詳しくは知らないけど、何度か九条に助けられてるんでしょ?」

 そんなことは、言われずともわかっている。九条の傍にいようと、シャーリーは心に決めているのだ。
 ただ唐突過ぎた為、冒険者には多少の未練もあった。
 ひとまずの夢でもあるゴールドプレートに到達した。ひとえにそれは、努力の結晶であり成果である。
 名残惜しいと思うのも当然だろう。

「昔はこうやって焚き火を囲んでたっけ……」

 それは、九条に出会う前の話。思い出される冒険者時代……。といってもそれほど昔でもないのだが、懐かしさを覚え物思いに耽る。
 若干1名欠けてはいるが、誰もそれには言及しない。
 ネストは、御先祖様の魔法書を探し出す為に……。バイスは、見識を広めるために……。
 冒険者を目指した理由に個人差はあれど、目標へと向かって歩んでいた過去の自分を振り返り、お互いが顔を見合わせ照れくさそうに微笑んだ。

 そこに颯爽と現れたのは、インコのピーちゃん。
 バサバサと空中でホバリングをしてからの、シャーリーの頭上に見事な着地。

「しゃーりーノ姉御! 出番デスゼ!」

「……ってことは、予定通りってことね?」

「王国軍ノ大半ガ、街ヲ出タ! 今ガ、ちゃんすダ!」

「はぁ、結局九条は帰ってこなかったか……」

 相手は、こちらの想定通りに動いた様子。
 オルクス率いる海賊連合とイレース率いるサハギン達が、先行してハーヴェストに侵攻を始めている。
 海戦にて彼等の右に出る者はいないだろう。それが手に負えなければ、ベルモントに救援を求めるのは確実だ。
 ベルモントに駐屯している王国軍がそちらに向かえば、その分シャーリーたちの負担は減る。
 カガリと白狐を除いた魔獣達に加え、多数のアンデッド部隊。更にはファフナーも上空で待機中ともなれば、負ける要素は見当たらない。

「これ、私いらなくない? ファフナーと交渉役が1人いれば十分だと思うんだけど……」

「まぁ何事も経験だ。それに九条が出したアンデッドたちは、村人を守る以外シャーリーの言う事しか聞かないんだろ?」

「そうだけどさぁ……」

 大きな溜息と共に肩を落とすシャーリー。

「デビュー戦、頑張れよ? ネクロレギオン総司令殿」

「それなのよ……。国名はふざけてるのに、どうして私の部隊だけ真面目に命名したワケ!?」

 その理由は簡単だ。ミアがその場にいなかったからである。
 森の中でひっそりと身を潜めている者達は、コット村南進地区の土木工事を担当していたアンデッドの再利用が大半。
 それに命令を出せるのは、九条を除いて僅か2名。ミアとシャーリーだけである。
 標準的なスケルトンは最早数えるのも億劫なほどで、再召喚は面倒だからとシャーリーがその統括を任された。
 そこに新たにデスナイトが30体。加えてリッチが1体にデュラハンのガロンを配下に加え、その部隊をネクロレギオンと銘打つ事となったのだ。

「そりゃぁ、相手に舐められないようにする為だろ……」

 だったら先に国の名前をどうにかした方がいいと思ったシャーリーだったが、それをバイスやネストに愚痴ったところで仕方がない。

「それよりも、作戦は頭に入ってるか?」

「出来るだけ民間人を傷付けずに――でしょ? 九条も結構めんどくさい事言うわよね……」

「ああ。無理なら気にするなとも言ってたが……」

「まぁ、なんとかなるでしょ。これだけの戦力を前に歯向かおうって人がいるなら、逆に尊敬しちゃうわよ」

 それは、興味本位でトラッキングスキルに意識を集中させたシャーリーが後悔してしまうほどのもの。
 辺りは真っ赤に埋め尽くされ、最早それはレーダーとしての意味をなさなくなっていた。
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