生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第583話 弁解

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 リリーの建国宣言が終わると、村は一気にお祭りムード。
 辺りには軽快な音楽が鳴り響き、絶えず聞こえる笑い声は楽しそうでなによりだ。
 かつて、村がこれほどまでに賑わった事があったかと思うほどだが、俺はというと蚊帳の外。
 食堂で、いつも通りの夕食である。

「ねぇ」

「ふあ?」

「九条はイレースの舞台、見に行かないの?」

 テーブルに両肘をつき、俺の食事風景をつまらなそうに眺めているシャーリー。
 後から急いで来たレイヴン公の護衛をコット村へと迎え入れ、西門の警備担当はアーニャと交代。現在は自由時間というわけだ。

「シャーリーこそ、俺なんかほっといて行って来ればいいじゃないか。ミアとキャロは、知人ってことで特等席で観覧できるらしいぞ? 今からでも間に合うんじゃないか?」

 口の中の物を飲み込み、次を運び入れる合間に返答する。
 食堂には俺とシャーリーの2人だけ。……いや、厨房にはレベッカもいるが、例外はそれくらいだろう。
 他の客は、全て歌姫イレースによる緊急単独ライブに行ってしまった。
 俺の作ったステージの有効活用……という訳ではないが、折角ならと決まった催し。
 突発ながらその集客力は絶大で、食堂は御覧の有様だ。
 まぁ、昼食を抜いた俺にとっては、ありがたいことなのだが……。

「私の事はどうでもいいの! 折角のお祭りなんだし、当事者が楽しまなきゃ損じゃない? 騎馬戦にも参加しなかったでしょ?」

「俺は、空気が読めるんだ。そんなつまらない事する訳ないだろ?」

 騎馬戦……と言っても、運動会でやるアレじゃない。
 それは、武器屋のオヤジと防具屋のせがれが共同で主催した催しだ。
 ルールは簡単。参加者の2人は、重い甲冑を着込み、向かい合った木馬に跨る。
 片手には盾を持ち、もう片方には槍に模した長柄棒。それでお互いを叩き合い、相手を先に落とした方が勝者となる。
 要は手押し相撲のアレンジルール。より実践的で、盛り上がる事請け合いだ。
 優勝者には、武器屋と防具屋で使える装備品のメンテナンス1年間無料券と酒樽のセットが贈られる。
 絶対に勝てるから出た方がいい……なんて勧められたが、だからこそ参加は見送ったのだ。

「それに今の内に食っておかないと、呼び出される可能性が高いからな……」

 建国宣言後のリリーの予定。まずは、招待客との会食をしながらの座談会。
 その後、正式な会合へと移る流れではあるが、レイヴンからは早々に個別での会談が申し込まれた。
 当然断る理由もなく、リリーに護衛を付ける事を条件に会談を承諾。
 その内容は安易に予想できる。リリーの発言内容に、信憑性があるのかどうかを確かめる為だろう。
 流言飛語。アルバートに対する不信感を植え付けられれば御の字――という想定だったが、食いついた獲物は予想以上にデカかった。
 元々レイヴンを筆頭とする王派閥は、アドウェールの他殺を疑っていたのだ。気にならないわけがない。
 俺が呼び出される可能性は十分に……いや、ほぼ確実と言っていいか……。

「じゃぁ、それまでは楽しんでもいいんじゃない? なんだったら、私が一緒にまわってあげても……」

 シャーリーがそう言った、その時だ。

「相棒! 出番ダゼ」

 突如食堂の小窓から侵入してきたのは、インコのピーちゃん。
 俺の頭に見事着地すると、鋭利な嘴で髪を引っ張る。

「な?」

 残念だが、無視は出来ないお迎えだ。
 少々むくれ気味のシャーリーに肩をすくめて見せた俺は、持っていたスプーンをそのまま手渡す。

「じゃぁ、ちょっくら行ってくるわ」

「えぇ!?」

 それを反射的に受け取ったシャーリー。
 目の前には半分程残った料理。流石に捨ててしまうのは忍びない為、後はシャーリーに全てを任せ、俺は食堂を後にした。



「失礼します」

 そこは、リリーとレイヴンの会談が行われている部屋。
 村の中心は祭りの音が気になるだろうからと、少し離れた南進地区に出来た新築の倉庫がその舞台。
 倉庫故にそこそこの広さは確保され、新築の為、倉庫らしさはまだ皆無。
 敢えて言うなら、当たり前にある暖房設備がないという違和感を覚えるだろうが、その程度。
 四角いテーブルを幾つか組み合わせ、白いテーブルクロスを掛けてしまえば、そこは立派な会議室だ。

 2つしかない椅子に座っているのは、女王であるリリーと、公爵レイヴン。
 リリー側の護衛には白狐とカガリ。レイヴンには護衛の一人も付いていない。
 どんよりとした重苦しい雰囲気。その発生源はレイヴン公。
 以前コット村を訪れた時は、威厳に満ち溢れ近寄りがたい雰囲気を出していたのに、今は見る影もない。
 深く悩んでいるような……。それでいて焦りも見え隠れする表情。
 追い詰められているようにも、迷っているようにも見え、少なくとも自信は皆無だ。

「レイヴン公の希望通り、九条を呼びつけました。責任転嫁をするつもりはありませんが、私は九条を信じただけ……。本人を問い質しても同じ答えが返ってくる事とは思いますが、それで気が晴れるのなら、どうぞ先程の質問を九条に投げかけてくださいませ」

 俺がリリーの後ろに並び立つと、静かに語り始めたリリー。
 大方予想通りと言うべきか、アドウェール殺害の真偽について問うていたのだろう。
 前回とは違い最初から護衛の騎士がいないのは、その答えを聞かれない為の配慮と言って間違いない。

「では改めて……。まずは九条殿に、個人的な謝罪を……」

「謝罪……ですか?」

 その真意が読めず、眉をひそめる。
 油断を狙ったものなのか、それとも保身の為か……。

「いや、弁解と言った方が正しいかな……。私が九条殿を王都に招いた時、まさか陛下とバイアス公が九条殿の拘束を目的としていたとは、露知らず……。聞かされたのは九条殿が拘束された後で……」

「アルバートとバイアス公の企みとは、無関係を主張する……と?」

「信じがたい事だろうとは思う。だが、偽りではない」

 薄々ではあるが、そうだろうとは思っていた。
 少なくとも最初にコット村を訪れた時、レイヴンは嘘をついてはいなかった。
 腹に一物を抱えているような輩であれば、カガリを含めた魔獣達が気付かないはずがない。
 当時は、本気でアドウェールの殺害調査依頼を俺に持ちかけていた。当然、俺の処刑やミアのことも想定の範囲外。
 断頭台で見たレイヴンの悔しさに塗れた表情が嘘なのだとしたら、プロも顔負けの演技力だ。

「勘違いしないでくれ。これは個人的なものだ。王国の……いや、陛下の愚行を許容しろと言っている訳ではない」

 恐らくレイヴンが来たのは、この為だろう。選出された訳ではなく、自主的にコット村へと赴いたのだ。
 アルバートは知らんけど、自分には手心を――と言っているようなものだが、確かにこれは護衛の騎士達には聞かせられない内容である。

「わかりました。レイヴン公を信じましょう」

 貴族特有の保身的な考えではあるが、愚行――と言ったからには、少なくともレイヴンの中ではそれが間違いであると認めている。
 アルバートが王になったとはいえ、絶対的な忠誠を誓っている訳ではないと、暗にそれを知って欲しかっただけなのかもしれないが……。

「……感謝する……」

 そう言った時のレイヴンの表情は、心の底からの安堵と言って差し支えなかった。
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