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第579話 地獄への招待状
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スタッグ城謁見の間では、今日も国王であるアルバートの怒号が上がっていた。
最早それも日常茶飯事。思うようにいかない国政に苛立っているのか……。それとも、少しずつだが確実に外堀を埋めていく九条に焦りを覚えているのか……。
どちらにせよ、後が無くなっていく状況に苛立ちを隠せないというのが本音であった。
「ふざけるな! 何がもふもふアニマルキングダムだ! そんなもの認められるかッ!」
その書簡を託されたのは、他でもないブライアン。
奇しくもオーレストと同じ反応を見せたアルバートに親近感を覚えながらも、跪いて首を垂れる。
その顔は酷く窶れ、僅かではあるが震えているようにも見えた。
「やられましたね、陛下……」
アルバートと同じように苦悶の表情を浮かべていたのは、バイアス公爵。
まさか建国に至るとは誰が予想しただろうか……。
手元の書簡を食い入るように読み耽るも、粗などあろうはずがない。
正統な王家の血を引くリリーが先頭に立ち、新たな国を立ち上げた。
領地はコット村だけという弱小国家。そのはずが、アンカースは既に取り込まれており、叩くなら早いうちにと言いたいところではあるが、大軍を投入したからといって確実に勝てる保証はどこにもない。
九条の存在もさることながら、軍事力として頼って来たグランスロードを抑えられてしまっているのは、大きな誤算であった。
「もふもふアニマルキングダムなどとふざけた名前をつけたのも、グランスロードを味方につける為の策でありましょう」
このまま時間だけが過ぎてしまえば、アルバートは魔王復活の責を負うことになる。
それを少しでも緩和できればと、リリーをシルトフリューゲルに献上する策も、最早風前の灯火。
八方塞がりとまでは言わないが、全てにおいて後手であることは誰の目から見ても明らか。
アルバートのやり場のない怒りが、どこに向かうのかは想像に難くないだろう。
「で? ブライアン――だったか……。貴様だけがおめおめと逃げ帰って来たのか?」
5000もの兵がいたにもかかわらず、ネストの奪還には失敗。
ファルランケス卿の軍は全滅。恐らくは存命だろうと言われてはいるが、ファルランケス卿本人の行方は未だわかっていない。
セルギウス卿は難を逃れたが、その残存兵力は僅か200名ほど。
総指揮を務めていたオーレスト卿は無念の戦死。帰還できたのは、子息であるブライアンを含めたったの3名だ。
王国軍の生き残りの殆どが捕虜となり、何処かに逃げ延びたであろう兵も確認出来てはいるが、若干名だろうと言われている。
どちらも宣戦布告はなく、故に国家間による正式な戦争ではなかったが、それは長いスタッグ王国の歴史の中でも近年稀に見る惨敗であった。
「オーレスト家には、責任を取ってもらわんとな」
「そんな……」
相手がアンカースだけなら、こうはならなかった……。なんて言い訳は、通用しない。
魔王相手に健闘した――なんて言ったところで意味はなく、結果が全てだ。
とはいえ、当主を亡くしたという哀惜が考慮され、オーレスト家は爵位の剥奪を免れた代わりに、一部の財産と領地が没収される運びとなった。
意気消沈しながらも、何処か安堵したような顔で下がって行くブライアン。
謁見の間が静まり返り、アルバートとバイアスだけが残されると、2人同時に溜息をつく。
「さて……。こちらは、いかがいたしましょう……」
バイアスが手にしていたのは、ブライアンから預かった5枚の書状。
もふもふアニマルキングダム建国に関するコット村の独立宣言書。
それに同意、承認したことを示すグランスロード王国の調印書。
その両国による同盟条約締結の合意書に、アンカース領の全てをもふもふアニマルキングダムに編入する旨が記載された割譲証書。
そして最後にバイアスが手に取ったのは、建国記念式典への招待状と銘打たれている物だ。
「無視したいところではあるが、そうもいくまい……」
「問題は、誰が行くか……ですな……」
場所は勿論コット村。建国を宣言する場、そしてちゃんとした国であることを知らしめるための公式の招待。
国家としては、できるだけ参加するべきだが、断ることも当然可能。
ただ、アルバートやバイアスにとっては、リリーと接触できる最後のチャンスかもしれないのだ。
「僕は、バイアス公に行ってもらいたいと思っているが……」
「はぁ!? 突然何を仰いますやら……。陛下は、私に死ねと申されるのですか!?」
「いや、違うぞバイアス公。最も信頼できる者という意味で言ったんだ!」
まさか、公式の場で不義を働くことはないだろうが、相手は魔王。
罠の可能性も考えれば、できれば行きたくないというのが本音である。
とはいえ蔑ろにはできず、誰かが行かねばならない。
「ブライアンはどうだ? 魔法学院でのこともある。リリーとは知らぬ仲ではあるまい。伝令役とはいえ、九条を前にして生きて帰って来た実績も加味すれば……」
「……確かに、失っても惜しくはない人材ではあります。しかし、彼にリリー様を説得できるほどの魅力があるかと言われると……」
難しい顔で頭を捻るアルバートとバイアス。
いくつもの貴族の名前が、頭を過っては消えていく。
リリーからの信頼も厚く、かといって裏切ることのない人物。更に言うなら、国家間の外交に明るく、重要な役職に就く者。
できれば侯爵以上が望ましいが、帰ってこない可能性を考えると、そんな者いるはずがない。
「はぁ、仕方ない。バイアス公、人を集めろ」
アルバートが独断と偏見で決めてしまうよりはマシだろうと、バイアスもこれを了承。
後日緊急で会合が行われ、生贄を決める話し合いは混迷を極めるほど長時間に及んだ。
このまま多数決による選出になるだろうと思われたその時、痺れを切らしたのか1人の貴族が名乗りを上げた。
「もういい。貴様らの自己保身にはうんざりだ。その役目。私が引き受けよう」
周囲を睨みつけるほどの鋭い眼光で他の貴族たちを黙らせたのは、他でもないレイヴン公爵であった。
最早それも日常茶飯事。思うようにいかない国政に苛立っているのか……。それとも、少しずつだが確実に外堀を埋めていく九条に焦りを覚えているのか……。
どちらにせよ、後が無くなっていく状況に苛立ちを隠せないというのが本音であった。
「ふざけるな! 何がもふもふアニマルキングダムだ! そんなもの認められるかッ!」
その書簡を託されたのは、他でもないブライアン。
奇しくもオーレストと同じ反応を見せたアルバートに親近感を覚えながらも、跪いて首を垂れる。
その顔は酷く窶れ、僅かではあるが震えているようにも見えた。
「やられましたね、陛下……」
アルバートと同じように苦悶の表情を浮かべていたのは、バイアス公爵。
まさか建国に至るとは誰が予想しただろうか……。
手元の書簡を食い入るように読み耽るも、粗などあろうはずがない。
正統な王家の血を引くリリーが先頭に立ち、新たな国を立ち上げた。
領地はコット村だけという弱小国家。そのはずが、アンカースは既に取り込まれており、叩くなら早いうちにと言いたいところではあるが、大軍を投入したからといって確実に勝てる保証はどこにもない。
九条の存在もさることながら、軍事力として頼って来たグランスロードを抑えられてしまっているのは、大きな誤算であった。
「もふもふアニマルキングダムなどとふざけた名前をつけたのも、グランスロードを味方につける為の策でありましょう」
このまま時間だけが過ぎてしまえば、アルバートは魔王復活の責を負うことになる。
それを少しでも緩和できればと、リリーをシルトフリューゲルに献上する策も、最早風前の灯火。
八方塞がりとまでは言わないが、全てにおいて後手であることは誰の目から見ても明らか。
アルバートのやり場のない怒りが、どこに向かうのかは想像に難くないだろう。
「で? ブライアン――だったか……。貴様だけがおめおめと逃げ帰って来たのか?」
5000もの兵がいたにもかかわらず、ネストの奪還には失敗。
ファルランケス卿の軍は全滅。恐らくは存命だろうと言われてはいるが、ファルランケス卿本人の行方は未だわかっていない。
セルギウス卿は難を逃れたが、その残存兵力は僅か200名ほど。
総指揮を務めていたオーレスト卿は無念の戦死。帰還できたのは、子息であるブライアンを含めたったの3名だ。
王国軍の生き残りの殆どが捕虜となり、何処かに逃げ延びたであろう兵も確認出来てはいるが、若干名だろうと言われている。
どちらも宣戦布告はなく、故に国家間による正式な戦争ではなかったが、それは長いスタッグ王国の歴史の中でも近年稀に見る惨敗であった。
「オーレスト家には、責任を取ってもらわんとな」
「そんな……」
相手がアンカースだけなら、こうはならなかった……。なんて言い訳は、通用しない。
魔王相手に健闘した――なんて言ったところで意味はなく、結果が全てだ。
とはいえ、当主を亡くしたという哀惜が考慮され、オーレスト家は爵位の剥奪を免れた代わりに、一部の財産と領地が没収される運びとなった。
意気消沈しながらも、何処か安堵したような顔で下がって行くブライアン。
謁見の間が静まり返り、アルバートとバイアスだけが残されると、2人同時に溜息をつく。
「さて……。こちらは、いかがいたしましょう……」
バイアスが手にしていたのは、ブライアンから預かった5枚の書状。
もふもふアニマルキングダム建国に関するコット村の独立宣言書。
それに同意、承認したことを示すグランスロード王国の調印書。
その両国による同盟条約締結の合意書に、アンカース領の全てをもふもふアニマルキングダムに編入する旨が記載された割譲証書。
そして最後にバイアスが手に取ったのは、建国記念式典への招待状と銘打たれている物だ。
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ただ、アルバートやバイアスにとっては、リリーと接触できる最後のチャンスかもしれないのだ。
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「はぁ!? 突然何を仰いますやら……。陛下は、私に死ねと申されるのですか!?」
「いや、違うぞバイアス公。最も信頼できる者という意味で言ったんだ!」
まさか、公式の場で不義を働くことはないだろうが、相手は魔王。
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「ブライアンはどうだ? 魔法学院でのこともある。リリーとは知らぬ仲ではあるまい。伝令役とはいえ、九条を前にして生きて帰って来た実績も加味すれば……」
「……確かに、失っても惜しくはない人材ではあります。しかし、彼にリリー様を説得できるほどの魅力があるかと言われると……」
難しい顔で頭を捻るアルバートとバイアス。
いくつもの貴族の名前が、頭を過っては消えていく。
リリーからの信頼も厚く、かといって裏切ることのない人物。更に言うなら、国家間の外交に明るく、重要な役職に就く者。
できれば侯爵以上が望ましいが、帰ってこない可能性を考えると、そんな者いるはずがない。
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アルバートが独断と偏見で決めてしまうよりはマシだろうと、バイアスもこれを了承。
後日緊急で会合が行われ、生贄を決める話し合いは混迷を極めるほど長時間に及んだ。
このまま多数決による選出になるだろうと思われたその時、痺れを切らしたのか1人の貴族が名乗りを上げた。
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