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第568話 埠頭の竣工と海賊船
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あれから2週間。フードルをも巻き込んだアンデッド達による土木工事は急ピッチで進められ、最低限の形にはなった。
村から海岸線までの街道の整備。切り立った崖を切り崩し、埠頭用地を確保。
珍しそうに俺を見つめるミアを横目に、簡易的な仏式の地鎮祭を執り行い、埠頭の建設に着工。そして完成したのが、つい昨日の事である。
と言っても、開港したのは一部だけ。
そんな出来立てほやほやの埠頭に入って来たのは、見覚えのある1隻の帆船。
そこから勢いよく飛び降りてきたのは、ドクロマークの入った黒いトリコーンを被り、素肌に黒のロングコートを羽織った男。
その格好は、初対面でも海賊だと見抜かれてしまうだろうこと請け合いだ。
「会いたかったぜ九条! 久しぶりだな! 死んでなくて安心したぜ!」
ゲオルグの鎧を修繕する為、サザンゲイアへと赴いた時に世話になったシーサーペント海賊団の船長、オルクスである。
イリヤスの父、バルバロスの捜索依頼を受けたのがきっかけで、白い悪魔と呼ばれるアブソリュート・クィーン討伐の為にと共闘した間柄。
当時は、まさかネクロガルドの関係者だとは思わなかったが、戦友であることには変わりない。
「俺も会えて嬉しいよ。リリー様を助けてくれたんだって? エルザから聞いたよ」
「なぁに、良いって事よ! 一緒にいたデカパイの貴族はいけ好かねぇが、俺と九条の仲じゃねぇか。そっちだって大変だったんだろ? 人生に疲れたら言ってくれや。一緒に海賊も悪くねぇ。お前だったら何時でも大歓迎だ!」
顔を合わせるや否や、がっちりと握手を交わし、肩をバシバシ叩かれる。
海賊船から降りてくる懐かしい顔ぶれには、頬も緩むと言うものだ。
「それにしても、なんもねぇな!」
「そりゃそうだ。この辺りはこれからだよ」
シーサーペント海賊団が寄港したのは、サザンゲイアへと向かうエルザのお迎えと、もう1つ。
「要望通り、倉庫として使う区画は用意した。それと店舗の方は、空いている区画から好きな所を選んでくれ」
「ああ。それに関しちゃイレースが乗り気でな。村の発展に貢献できるって喜んでたぜ」
それは村の死活問題でもあった。来訪者は多いのに、その食事を賄うには飲食店が足りないのだ。
村唯一の食堂は満員御礼。村の奥様方もピークタイムは手伝ってくれるが、家の仕事が最優先。
なんとか別の飲食店を誘致できないかとは考えていたのだが、他人から見れば雲行きの妖しい村である。
門の前ではアンデッドが来訪者を審判し、王国の騎士団を全滅させた実績まで付いている。
そんな村で、新しく商売を始めようと試みる猛者はそういない。
商人達からしてみれば、平穏無事に通過できればそれでいい。コット村は経由地に過ぎず、商売の拠点としては見られていないのだ。
そんな現状を打開する一環として着手していた港の整備。
その話がエルザからオルクス。オルクスからイレースへと伝わり、コット村には2つ目の飲食店が開業する運びとなった。
しかも、そのオーナーには歌姫のイレースが就任するというのだから話題性は抜群だろう。
まだ公には発表していないが、その時が今から楽しみではある。
「お前達には、何から何まで世話になる……」
「おい、よせって! 知らぬ仲じゃねぇんだからよ」
正直言って、オルクス達には頭が上がらない。
新しい店舗の件もそうだが、もう1つ。それは、独占している秘匿航路の開放である。
海に生きる海賊達は、それぞれが独自の航路を持っている。それは、商売道具と言っても過言ではないだろう。
無限に広がる大海原。だからこそ目的地までの航路というのは重要だ。
ただがむしゃらに、最短距離を進めばいい訳じゃない。海流に逆らい航行するよりも、見極め乗った方が到着は速く、当然コストも下げられる。
皆が同じ航路を辿れば、たとえ魔物に遭遇し海難事故になろうとも、救助してもらえる確率は上がる。
故に安全性の高い航路の情報には価値があり、その開拓は容易ではない。
オルクス達はその内の1つ。グリムロック-コット村間の航路を、一般に無償で公開してくれるというのである。
「まぁそうだな……。建国記念の贈り物くらいに思ってくれよ。……あっ! そうだ! 建国記念で思い出したが、国の名前を考えたのは……」
照れくさそうにしながらも、巧妙に切り替えられた話題。
出来れば目を瞑りたかったが、そうもいかない。
「……発案者はミアだ。……投票の結果だからな!? そこは間違えないでくれよ!?」
「そ……そうか……。まぁ、ファンシーでいいじゃねぇか……」
俺の顔色の変化を見て、オルクスは引きつった笑みを浮かべる。
憐れむような目を向けるのは、やめていただきたい……。
俺の悪い予感は的中してしまったのだ。
村がミアに甘いのか……。それとも、皆の思考がミアに似ているのか……。
幾つかの案が出揃う中、村民投票により選ばれたのは『もふもふアニマルキングダム』だ。
エルザ案の『ネクロガーデン』よりは幾分かマシではあるが、正直国の名前としては如何なものか……。
とはいっても、決まったものはしょうがない。
そもそも『もふもふアニマルヴィレッジ』としては、そこそこ浸透していたので、その延長線だと思えば馴染みやすく親しみやすい名前ではある。
「で? 他にはどんな案があったんだ?」
ソフィア達の案。人材派遣組合が提示したのは『グリーンポート』
コット村が緑豊かな地域であり、新たに港を備える事に因んだもの。
冒険者代表としてカイル、シャーリー、アーニャの出した案が、人間と動物が共存する地域。アニマルとエリアをくっつけて『アニマリア』
エルザの『ネクロガーデン』は説明不要で、俺の案は『エクアレイス』
人間に獣に魔獣に魔族。全てが平等に暮らせる場所――という願いを込め、結構真面目に考えた。
「その中だったら、俺はエクアレイスにするが……」
「……忖度でも、そう言ってもらえると嬉しいよ」
リリーにも案を出す権利があるとは言ったのだが、結局は辞退という形で今回の投票は幕を閉じた。
その結果、ミアはとても満足そうではあったのだが、リリーはというと顔面蒼白で俺に助けを求めるような視線を送ってきたのだ。
勿論、言いたいことはわかっている。
この後、『もふもふアニマルキングダム』という名を背負い、グランスロードへと赴かねばならないのだ。
……そう。お国柄が被っているのであるッ!
むしろグランスロードの方が、『もふもふアニマルキングダム』に相応しいとさえ思えてならないネーミング。
それを、グランスロードの女王ヴィクトリアの前で公表する勇気……。
だから言ったのだ。リリーも案を出していれば今頃は……。
まぁ、今更それを言ったところで、投票結果は覆らない。
今の俺に出来る事と言えば、精々リリーに同情してやることくらいだろう……。
村から海岸線までの街道の整備。切り立った崖を切り崩し、埠頭用地を確保。
珍しそうに俺を見つめるミアを横目に、簡易的な仏式の地鎮祭を執り行い、埠頭の建設に着工。そして完成したのが、つい昨日の事である。
と言っても、開港したのは一部だけ。
そんな出来立てほやほやの埠頭に入って来たのは、見覚えのある1隻の帆船。
そこから勢いよく飛び降りてきたのは、ドクロマークの入った黒いトリコーンを被り、素肌に黒のロングコートを羽織った男。
その格好は、初対面でも海賊だと見抜かれてしまうだろうこと請け合いだ。
「会いたかったぜ九条! 久しぶりだな! 死んでなくて安心したぜ!」
ゲオルグの鎧を修繕する為、サザンゲイアへと赴いた時に世話になったシーサーペント海賊団の船長、オルクスである。
イリヤスの父、バルバロスの捜索依頼を受けたのがきっかけで、白い悪魔と呼ばれるアブソリュート・クィーン討伐の為にと共闘した間柄。
当時は、まさかネクロガルドの関係者だとは思わなかったが、戦友であることには変わりない。
「俺も会えて嬉しいよ。リリー様を助けてくれたんだって? エルザから聞いたよ」
「なぁに、良いって事よ! 一緒にいたデカパイの貴族はいけ好かねぇが、俺と九条の仲じゃねぇか。そっちだって大変だったんだろ? 人生に疲れたら言ってくれや。一緒に海賊も悪くねぇ。お前だったら何時でも大歓迎だ!」
顔を合わせるや否や、がっちりと握手を交わし、肩をバシバシ叩かれる。
海賊船から降りてくる懐かしい顔ぶれには、頬も緩むと言うものだ。
「それにしても、なんもねぇな!」
「そりゃそうだ。この辺りはこれからだよ」
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「要望通り、倉庫として使う区画は用意した。それと店舗の方は、空いている区画から好きな所を選んでくれ」
「ああ。それに関しちゃイレースが乗り気でな。村の発展に貢献できるって喜んでたぜ」
それは村の死活問題でもあった。来訪者は多いのに、その食事を賄うには飲食店が足りないのだ。
村唯一の食堂は満員御礼。村の奥様方もピークタイムは手伝ってくれるが、家の仕事が最優先。
なんとか別の飲食店を誘致できないかとは考えていたのだが、他人から見れば雲行きの妖しい村である。
門の前ではアンデッドが来訪者を審判し、王国の騎士団を全滅させた実績まで付いている。
そんな村で、新しく商売を始めようと試みる猛者はそういない。
商人達からしてみれば、平穏無事に通過できればそれでいい。コット村は経由地に過ぎず、商売の拠点としては見られていないのだ。
そんな現状を打開する一環として着手していた港の整備。
その話がエルザからオルクス。オルクスからイレースへと伝わり、コット村には2つ目の飲食店が開業する運びとなった。
しかも、そのオーナーには歌姫のイレースが就任するというのだから話題性は抜群だろう。
まだ公には発表していないが、その時が今から楽しみではある。
「お前達には、何から何まで世話になる……」
「おい、よせって! 知らぬ仲じゃねぇんだからよ」
正直言って、オルクス達には頭が上がらない。
新しい店舗の件もそうだが、もう1つ。それは、独占している秘匿航路の開放である。
海に生きる海賊達は、それぞれが独自の航路を持っている。それは、商売道具と言っても過言ではないだろう。
無限に広がる大海原。だからこそ目的地までの航路というのは重要だ。
ただがむしゃらに、最短距離を進めばいい訳じゃない。海流に逆らい航行するよりも、見極め乗った方が到着は速く、当然コストも下げられる。
皆が同じ航路を辿れば、たとえ魔物に遭遇し海難事故になろうとも、救助してもらえる確率は上がる。
故に安全性の高い航路の情報には価値があり、その開拓は容易ではない。
オルクス達はその内の1つ。グリムロック-コット村間の航路を、一般に無償で公開してくれるというのである。
「まぁそうだな……。建国記念の贈り物くらいに思ってくれよ。……あっ! そうだ! 建国記念で思い出したが、国の名前を考えたのは……」
照れくさそうにしながらも、巧妙に切り替えられた話題。
出来れば目を瞑りたかったが、そうもいかない。
「……発案者はミアだ。……投票の結果だからな!? そこは間違えないでくれよ!?」
「そ……そうか……。まぁ、ファンシーでいいじゃねぇか……」
俺の顔色の変化を見て、オルクスは引きつった笑みを浮かべる。
憐れむような目を向けるのは、やめていただきたい……。
俺の悪い予感は的中してしまったのだ。
村がミアに甘いのか……。それとも、皆の思考がミアに似ているのか……。
幾つかの案が出揃う中、村民投票により選ばれたのは『もふもふアニマルキングダム』だ。
エルザ案の『ネクロガーデン』よりは幾分かマシではあるが、正直国の名前としては如何なものか……。
とはいっても、決まったものはしょうがない。
そもそも『もふもふアニマルヴィレッジ』としては、そこそこ浸透していたので、その延長線だと思えば馴染みやすく親しみやすい名前ではある。
「で? 他にはどんな案があったんだ?」
ソフィア達の案。人材派遣組合が提示したのは『グリーンポート』
コット村が緑豊かな地域であり、新たに港を備える事に因んだもの。
冒険者代表としてカイル、シャーリー、アーニャの出した案が、人間と動物が共存する地域。アニマルとエリアをくっつけて『アニマリア』
エルザの『ネクロガーデン』は説明不要で、俺の案は『エクアレイス』
人間に獣に魔獣に魔族。全てが平等に暮らせる場所――という願いを込め、結構真面目に考えた。
「その中だったら、俺はエクアレイスにするが……」
「……忖度でも、そう言ってもらえると嬉しいよ」
リリーにも案を出す権利があるとは言ったのだが、結局は辞退という形で今回の投票は幕を閉じた。
その結果、ミアはとても満足そうではあったのだが、リリーはというと顔面蒼白で俺に助けを求めるような視線を送ってきたのだ。
勿論、言いたいことはわかっている。
この後、『もふもふアニマルキングダム』という名を背負い、グランスロードへと赴かねばならないのだ。
……そう。お国柄が被っているのであるッ!
むしろグランスロードの方が、『もふもふアニマルキングダム』に相応しいとさえ思えてならないネーミング。
それを、グランスロードの女王ヴィクトリアの前で公表する勇気……。
だから言ったのだ。リリーも案を出していれば今頃は……。
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