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第565話 名探偵リリー
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思わず振り向き、大声を出してしまったミア。
それは、カガリと白狐の身体がビクッと跳ねてしまうほどだ。
カガリがいるのだ。誤魔化したところで意味はなく、それならば誠実であろうとリリーは素直に答えただけに過ぎない。
九条には、幾度となく助けられてきた。
今回は特にそうだ。どう考えても手詰まりだと思っていたのに、それすらもすんなり解決し受け入れてもらえた。
好きになる理由は数あれど、嫌う理由は見当たらない。
そもそも王女という立場上、政略結婚は当たり前で相手を選択する権利すらないのだ。
そこに、九条という選択肢が生まれたとしたら……。
権力だけの知らないおっさんと、権力はないが好感度の高い知り合いのおっさん。しかも、無類の強さを誇る。
比べるまでもなく、リリーは後者を選ぶだろう。
だからといって、リリーはミアに九条を諦めろ――などと言うつもりもない。
「こんなこと言うのもなんですが、まだ結婚すると決まった訳ではありませんし……」
「でも……」
「大丈夫です。九条のことですから、きっと何かいい案を思いつくはずです。信じて待ちましょう!」
不可能だろうと思われることも可能にしてきた九条なら……と、期待してしまうのも仕方のない話である。
最悪どうにもならなければ、重婚という方法も残されている。
ただ、それはミアが九条を独り占めしたいと言い出さなければの話。
とはいえ、九条が王になるという事は、法改正も容易にできるということ。
なんでもという訳にはいかないが、ある程度の問題は解決できるだろう。
勿論、それだけではない。
「九条に全てを丸投げにしたりはしません。私にも出来る事が、きっと何かあるはず……」
リリーは、フードルに言われたことを思い出していた。
自分にしか出来ない事とは何か……。
「その為にも、ミアには空白期間の出来事を教えていただきたいのです」
「空白……期間?」
「そうです」
リリーがサザンゲイアへと赴いていた時、スタッグでは一体何があったのか。
アドウェールの国葬後は、殆ど軟禁状態であった為、リリーには詳細まで知らされていないというのが実情だった。
(そもそも聞いたところで、九条を悪者にするのは決まっている。それでは参考にならない……)
知りたかったのは、九条側から見た視点だ。
そこに新たな切り口が見つかるかもしれない。リリーは、そう考えた。
「九条がお父様の国葬に呼ばれた後、禁呪使用の疑いで拘束されたと聞きました。九条はそれに従いはしたものの、処刑寸前で金の鬣を召喚し難を逃れた……。ここまでは合っていますか?」
大雑把な説明であれば間違ってはいないが、それだけでは九条に不利にしか働かない。
「えっと、ちゃんと説明すると……」
包み隠すことなく、ミアは全てを詳細に語った。
九条を迎えに来たのはレイヴン公。その理由はアドウェールの降霊の為であり、どちらかと言えば国葬の参列はついでのようなもの。
禁呪使用の責任を取るようにと迫られたのは、王都に到着してからだ。
バイアス公から直々に言い渡され、九条は禁呪の使用を認め、ミアの安全が担保できるならと処刑を受け入れた。
そして偽物の身体を用意し処刑は執行されたが、アルバートが約束を守らなかった事で、九条がミアを守るためにと抵抗した――。
「だから、おにーちゃんは悪くない! 確かに処刑は誤魔化そうとしたけど、誰にも迷惑を掛けないようダンジョンでひっそり暮らす予定だったの! その為にって私がギルドを辞められるようにも手配してくれて……」
確かに九条は禁呪を使っていたし、リリーもそれを隠していた。だが、国家として交わした約束を、反故にしたのもアルバートだ。
「そこはどちらにも非があったという事で、ひとまず責任の所在は置いておきましょう。それよりも気になる事があるのですが……」
それは、ミアの話の中にアドウェールの降霊に関する出来事が、まるで語られていなかった事である。
「降霊の儀式は、何時頃執り行われたのでしょうか?」
「わかりません。おにーちゃんが地下牢に捕らえられている時かも……」
それはあり得ない。アドウェールの遺体は礼拝堂に安置されている。
それをわざわざ、不浄な地下牢などに運び込むわけがない。
「降霊の儀式を実施したのは、九条で間違いはありませんか?」
「えっと、禁呪の件でおにーちゃんは信用出来ないから、他の死霊術師を呼ぶってバイアス様が……」
アドウェールの病状が悪化し急死した為、遺言を聴き出そうとやむを得ず死霊術の力に頼った。
バイアスからはそう聞かされていて、リリーは先入観から九条が執り行ったのだと思っていたのだ。
(九条が禁呪を使っているから信用できないというのは、些かおかしくはないでしょうか……。その力を信じるために、九条には知り得ない王家に関する質疑の時間を設ける――と言う話だったのでは……?)
ならば、何故九条を使わなかったのか……。
(九条が言いなりにならなかったから? 降霊の成功に何か不都合が……?)
新たに呼んだと言う死霊術師が内通者であれば、遺言の信憑性は低く、改竄されている可能性が高い。
そうなると気になるのは、本来の内容だ。
アルバートとバイアス。2人にとっての共通の不都合と言えば、覇権を逃してしまう事に尽きるだろう。
(ですが、私は王位に興味はないとあれほど……。まさか……)
そう。自分に興味がなくとも、アドウェールは次期国王にリリーを推挙していたのだ。
それが、アドウェールの遺言であったとしたら……。
(まさか……、お父様が亡くなられた原因も……)
リリーがスタッグを発つ前までは、アドウェールの病状は回復に向かっていた。
それは、決して不治の病などではなかったのだ。
リリーが不可解だと思っていた点は、幾つかある。
九条肯定派だったバイアスが、帰還後にはそうではなくなっていたことも、腑に落ちてはいなかった。
(ヴィルザール教の異端審問官が関わっていたとしても、九条の功績と禁呪の使用を天秤にかけ、今までの意見を180度変えるなんて……)
政治のバイアスと呼ばれるほどの者だ。
慎重派である彼が、碌な議論もせずヴィルザール教の肩を持つとは思えない。
グリンダのように汚職に手を染めていたり、弱みを握られていた可能性も考えられるが、不可解な点はそれだけじゃない。
ヴィルザール教の異端審問官は、九条によって殺されたことになっているが、リリーはそれも疑わしいと思っていた。
約束を反故にしたアルバートならまだしも、異端審問官までを殺す必要があったのかと……。
(王国を敵に回すのは仕方のない事だとしても、ヴィルザール教を刺激するのは得策ではないような……)
そこで、リリーは1つの仮説を立てた。
(異端審問官を殺したのが、九条ではなく王国側だとしたら……)
仮にバイアスが弱みを握られていたとすれば、金の鬣召喚の混乱に乗じて口を塞いでしまおうと考えても、なんら不思議ではない。
その弱みが、国王の殺害であったとするなら辻褄は合う。
金の鬣の脅威をまざまざと見せつけられたにも拘らず、徹底抗戦を固持しようとする姿勢もバイアスらしくない。
(何かと理由を付け、九条を始末しようとする方針を崩さないのも、その発覚を恐れてのこと……)
リリーの推理は、大分確信へと近づいていた。しかし、決定的と言えるような証拠はない。
「ミア……。お父様の死因について、九条は何か言ってませんでしたか?」
「え? あっ……うーんと……どうだったかなぁ……」
サッとリリーから目を逸らしたミア。
とぼけた顔をしながらも空を眺めるその仕草は、なんと言うかわざとらしさが全開だ。
それは、カガリと白狐が溜息をついてしまうほど。
「何か知っているんですね!? 教えてくださいッ!」
「し……知らないっ! 知らないよぉ……。お……落ちちゃうぅぅ……」
ミアの肩を掴み、ガクガクと揺さぶるリリー。
場所が場所だけに少々危険ではあるのだが、そこは落ちないようにとカガリと白狐がしっかりと2人の上着の裾を咥えていた。
勿論ミアは知っている。だが、それは九条から口止めされていたのだ。
それは、カガリと白狐の身体がビクッと跳ねてしまうほどだ。
カガリがいるのだ。誤魔化したところで意味はなく、それならば誠実であろうとリリーは素直に答えただけに過ぎない。
九条には、幾度となく助けられてきた。
今回は特にそうだ。どう考えても手詰まりだと思っていたのに、それすらもすんなり解決し受け入れてもらえた。
好きになる理由は数あれど、嫌う理由は見当たらない。
そもそも王女という立場上、政略結婚は当たり前で相手を選択する権利すらないのだ。
そこに、九条という選択肢が生まれたとしたら……。
権力だけの知らないおっさんと、権力はないが好感度の高い知り合いのおっさん。しかも、無類の強さを誇る。
比べるまでもなく、リリーは後者を選ぶだろう。
だからといって、リリーはミアに九条を諦めろ――などと言うつもりもない。
「こんなこと言うのもなんですが、まだ結婚すると決まった訳ではありませんし……」
「でも……」
「大丈夫です。九条のことですから、きっと何かいい案を思いつくはずです。信じて待ちましょう!」
不可能だろうと思われることも可能にしてきた九条なら……と、期待してしまうのも仕方のない話である。
最悪どうにもならなければ、重婚という方法も残されている。
ただ、それはミアが九条を独り占めしたいと言い出さなければの話。
とはいえ、九条が王になるという事は、法改正も容易にできるということ。
なんでもという訳にはいかないが、ある程度の問題は解決できるだろう。
勿論、それだけではない。
「九条に全てを丸投げにしたりはしません。私にも出来る事が、きっと何かあるはず……」
リリーは、フードルに言われたことを思い出していた。
自分にしか出来ない事とは何か……。
「その為にも、ミアには空白期間の出来事を教えていただきたいのです」
「空白……期間?」
「そうです」
リリーがサザンゲイアへと赴いていた時、スタッグでは一体何があったのか。
アドウェールの国葬後は、殆ど軟禁状態であった為、リリーには詳細まで知らされていないというのが実情だった。
(そもそも聞いたところで、九条を悪者にするのは決まっている。それでは参考にならない……)
知りたかったのは、九条側から見た視点だ。
そこに新たな切り口が見つかるかもしれない。リリーは、そう考えた。
「九条がお父様の国葬に呼ばれた後、禁呪使用の疑いで拘束されたと聞きました。九条はそれに従いはしたものの、処刑寸前で金の鬣を召喚し難を逃れた……。ここまでは合っていますか?」
大雑把な説明であれば間違ってはいないが、それだけでは九条に不利にしか働かない。
「えっと、ちゃんと説明すると……」
包み隠すことなく、ミアは全てを詳細に語った。
九条を迎えに来たのはレイヴン公。その理由はアドウェールの降霊の為であり、どちらかと言えば国葬の参列はついでのようなもの。
禁呪使用の責任を取るようにと迫られたのは、王都に到着してからだ。
バイアス公から直々に言い渡され、九条は禁呪の使用を認め、ミアの安全が担保できるならと処刑を受け入れた。
そして偽物の身体を用意し処刑は執行されたが、アルバートが約束を守らなかった事で、九条がミアを守るためにと抵抗した――。
「だから、おにーちゃんは悪くない! 確かに処刑は誤魔化そうとしたけど、誰にも迷惑を掛けないようダンジョンでひっそり暮らす予定だったの! その為にって私がギルドを辞められるようにも手配してくれて……」
確かに九条は禁呪を使っていたし、リリーもそれを隠していた。だが、国家として交わした約束を、反故にしたのもアルバートだ。
「そこはどちらにも非があったという事で、ひとまず責任の所在は置いておきましょう。それよりも気になる事があるのですが……」
それは、ミアの話の中にアドウェールの降霊に関する出来事が、まるで語られていなかった事である。
「降霊の儀式は、何時頃執り行われたのでしょうか?」
「わかりません。おにーちゃんが地下牢に捕らえられている時かも……」
それはあり得ない。アドウェールの遺体は礼拝堂に安置されている。
それをわざわざ、不浄な地下牢などに運び込むわけがない。
「降霊の儀式を実施したのは、九条で間違いはありませんか?」
「えっと、禁呪の件でおにーちゃんは信用出来ないから、他の死霊術師を呼ぶってバイアス様が……」
アドウェールの病状が悪化し急死した為、遺言を聴き出そうとやむを得ず死霊術の力に頼った。
バイアスからはそう聞かされていて、リリーは先入観から九条が執り行ったのだと思っていたのだ。
(九条が禁呪を使っているから信用できないというのは、些かおかしくはないでしょうか……。その力を信じるために、九条には知り得ない王家に関する質疑の時間を設ける――と言う話だったのでは……?)
ならば、何故九条を使わなかったのか……。
(九条が言いなりにならなかったから? 降霊の成功に何か不都合が……?)
新たに呼んだと言う死霊術師が内通者であれば、遺言の信憑性は低く、改竄されている可能性が高い。
そうなると気になるのは、本来の内容だ。
アルバートとバイアス。2人にとっての共通の不都合と言えば、覇権を逃してしまう事に尽きるだろう。
(ですが、私は王位に興味はないとあれほど……。まさか……)
そう。自分に興味がなくとも、アドウェールは次期国王にリリーを推挙していたのだ。
それが、アドウェールの遺言であったとしたら……。
(まさか……、お父様が亡くなられた原因も……)
リリーがスタッグを発つ前までは、アドウェールの病状は回復に向かっていた。
それは、決して不治の病などではなかったのだ。
リリーが不可解だと思っていた点は、幾つかある。
九条肯定派だったバイアスが、帰還後にはそうではなくなっていたことも、腑に落ちてはいなかった。
(ヴィルザール教の異端審問官が関わっていたとしても、九条の功績と禁呪の使用を天秤にかけ、今までの意見を180度変えるなんて……)
政治のバイアスと呼ばれるほどの者だ。
慎重派である彼が、碌な議論もせずヴィルザール教の肩を持つとは思えない。
グリンダのように汚職に手を染めていたり、弱みを握られていた可能性も考えられるが、不可解な点はそれだけじゃない。
ヴィルザール教の異端審問官は、九条によって殺されたことになっているが、リリーはそれも疑わしいと思っていた。
約束を反故にしたアルバートならまだしも、異端審問官までを殺す必要があったのかと……。
(王国を敵に回すのは仕方のない事だとしても、ヴィルザール教を刺激するのは得策ではないような……)
そこで、リリーは1つの仮説を立てた。
(異端審問官を殺したのが、九条ではなく王国側だとしたら……)
仮にバイアスが弱みを握られていたとすれば、金の鬣召喚の混乱に乗じて口を塞いでしまおうと考えても、なんら不思議ではない。
その弱みが、国王の殺害であったとするなら辻褄は合う。
金の鬣の脅威をまざまざと見せつけられたにも拘らず、徹底抗戦を固持しようとする姿勢もバイアスらしくない。
(何かと理由を付け、九条を始末しようとする方針を崩さないのも、その発覚を恐れてのこと……)
リリーの推理は、大分確信へと近づいていた。しかし、決定的と言えるような証拠はない。
「ミア……。お父様の死因について、九条は何か言ってませんでしたか?」
「え? あっ……うーんと……どうだったかなぁ……」
サッとリリーから目を逸らしたミア。
とぼけた顔をしながらも空を眺めるその仕草は、なんと言うかわざとらしさが全開だ。
それは、カガリと白狐が溜息をついてしまうほど。
「何か知っているんですね!? 教えてくださいッ!」
「し……知らないっ! 知らないよぉ……。お……落ちちゃうぅぅ……」
ミアの肩を掴み、ガクガクと揺さぶるリリー。
場所が場所だけに少々危険ではあるのだが、そこは落ちないようにとカガリと白狐がしっかりと2人の上着の裾を咥えていた。
勿論ミアは知っている。だが、それは九条から口止めされていたのだ。
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