546 / 633
第546話 クジョーズブートキャンプ
しおりを挟む
冒険者たちの襲撃から1週間。それを知らぬ村人も多い中、村は何事もなく平穏そのもの。
騎士達がいた頃のピリピリとした雰囲気もなく、悠々自適といった言葉が良く似合う。
増えた死体は当然アンデットとしてリサイクル。今日も村の防壁強化に大忙しだ。
「すまんな、カイエン。色々と手伝ってもらって」
「ガハハ! 気にするな。最早この村は俺達の第2の故郷! なんでも言ってくれ!」
立ち上がると見上げなければいけないほどの巨大な熊が、村の中心で豪快に笑う。
その足元には仲間達と共に、錆び付いた武器や汚れたプレートアーマーの数々が散乱していた。
それは、村に攻めてきた者達に加え、カイエンたちの巣に放置されていた物なのだが、俺が言って集めてもらっていたのだ。
現在、村は鉄不足。24時間365日休みなく働く作業員。それが100名以上ともなれば、素材の供給が追い付かないのは当然だ。
木材は潤沢、次点で石材。しかし、金属はそうじゃない。
そこで目を付けたのが、捨て置かれていた武具の数々。それらを再利用し防衛に役立てようという魂胆である。
近くに鉱山があればいいのだが、当然そんなものが都合よく見つかる訳もなく、それを見つける知識もない。
金属の買い付けは、武器屋のオヤジと防具屋のせがれに一任してはいるのだが、商人達も商売だ。
他との信用も考えれば、頑張ってくれている方ではあるが、需要には追い付いていないというのが現状であった。
「だが、いいのか? メナブレアのようにリビングアーマーとして活用した方が、防衛力は高い気がするのだが?」
「確かにカイエンの言う通りなんだが、制御できる数に限りがあるんだよ」
現在、リビングアーマーとして活動しているのは、ダンジョンに1体と村に3体。そして遠方で待機状態なのが1体の合計5体。
リビングアーマーを作り出すのは簡単だ。主亡き鎧に魂を吹き込むだけでいい。
だが、それだけでは見る者全てを敵として認識する殺戮兵器。
敵と味方の分別を付けるには、それだけのリソースが必要であり、それは無限ではない。
単純な命令かつ近距離であれば数十体は余裕だが、村人に加え商人までをも保護対象とするならば、正直言ってキャパオーバー。
ハーヴェストからの船便のほとんどが欠航という事態に、コット村を経由する商人達は爆増。通行料はガッポリだ。
彼等のおかげで村の資金は潤沢。それは、既に無視できるレベルを超えている。
そしてもう1つ。商人達には申し訳ないが、彼等には人質としての効果も期待しているのだ。
「九条殿、そろそろ約束の……」
「ああ、そうだったな。飯は食堂の裏に用意してある。もちろん仲間達の分もあるから好きなだけ食べてくれ」
「待ってました! さっきから美味そうな匂いが村に立ち込めていて、涎が止まらんのだ」
色々と手伝ってもらったお礼として、振舞う食事。
といっても、ギルドが撤退する前の従魔用飼料の在庫を放出するだけである。
恐らくグランスロードを除けば、その消費量はトップクラスであったであろうコット村支部。
新規登録用の水晶やプレートの在庫。神聖術の魔法書など、高価なものは粗方引き上げられてしまったが、従魔用飼料だけは残されていた。
「どうだ? 九条殿も一緒に」
「いや、誘ってくれるのはありがたいんだが、ダンジョンにも足を運ばないといけなくてな」
「そうか、魔王とやらも大変だな」
「まったくだ……」
好きでやっている訳じゃない――と、否定したいところではあるが、最早それすらもめんどくさくて、俺は適当な相槌を打ってダンジョンへと足を向けた。
――――――――――
カイエンの為にと拡張された村の連絡通路からダンジョンへ入ると、地下4階層付近でガチャガチャとけたたましい金属音が近づいて来る。
「くじょ……たすけ……」
「ようガロン。今日も頑張ってるな」
そのまま擦れ違い、走り去るガロン。
滴る汗は、まるでサウナにでも籠っているかのような量で、その顔は苦痛のせいか酷く歪んでいた。
次に会ったのは地下6層。
ゴブリン達に声をかけていると、通りすがりに聞こえてきた呻き声。
「コロ……コロシテ……」
「あぁ、もう少ししたらな」
片手を上げ、適当な返事を返しておく。
そのまま遠のいて行くガロンを見送りながらも玉座の間に辿り着くと、そこにいたのはミアとカガリ。
「おにーちゃん、おかえりぃ」
俺に気付いたミアがパタパタと駆け寄り、そのまま豪快なダイブ。
しかし、今の俺にはビクともしない。
「おにーちゃん、お腹締まってきたよね。前はちょっと出てたのに……」
それを確かめるかのように、ポンポンと俺の腹を叩くミア。
そんなミアに向かって、俺は得意気に胸を張った。
「これが超回復の効果だ」
「チョー回復? ってなに?」
「いっぱい運動すると、筋肉痛になるだろ? それは、筋肉が壊れてるからなんだ。それが治ると、以前より筋肉が増える。そのサイクルを、俺の世界では超回復と言っていて、それを何度も繰り返す事によって筋肉がムキムキになるんだ」
「あ! 筋トレの後、おにーちゃんが私に回復術を強請るのってそのため!?」
「正解だ」
見上げるミアの頭をわしゃわしゃと撫でる。
それは俺が、ガロンに行っている実験から得た知識。
108番との協議の結果、ガロンの身体をデュラハンとして活用するには、体格が少々物足りないという結論に達し、ガロンを鍛えることにしたのである。
そこで、ふと気が付いた。この世界の魔法、回復術であれば、超回復に必要な長い休息期間を短縮できるのではないかと。
ガロンの鎧をリビングアーマー化し、休みなく走らせる。当然回復術では、疲れまでは取れないが、破壊された筋組織は再生するのだ。
更には食事もしっかり与え続けた結果、足だけであれば既にノルディックを超える筋肉を獲得していた。
「そろそろ無限マラソン編は終わりにして、次は無限腕立て編の開始だな……」
足だけ筋肉ムキムキなので、見た目のバランスは壊滅的。
恐らくはもっと効率的な筋トレ法があるのだろうが、残念ながらスポーツに興味がない俺に、その知識はなかった。
騎士達がいた頃のピリピリとした雰囲気もなく、悠々自適といった言葉が良く似合う。
増えた死体は当然アンデットとしてリサイクル。今日も村の防壁強化に大忙しだ。
「すまんな、カイエン。色々と手伝ってもらって」
「ガハハ! 気にするな。最早この村は俺達の第2の故郷! なんでも言ってくれ!」
立ち上がると見上げなければいけないほどの巨大な熊が、村の中心で豪快に笑う。
その足元には仲間達と共に、錆び付いた武器や汚れたプレートアーマーの数々が散乱していた。
それは、村に攻めてきた者達に加え、カイエンたちの巣に放置されていた物なのだが、俺が言って集めてもらっていたのだ。
現在、村は鉄不足。24時間365日休みなく働く作業員。それが100名以上ともなれば、素材の供給が追い付かないのは当然だ。
木材は潤沢、次点で石材。しかし、金属はそうじゃない。
そこで目を付けたのが、捨て置かれていた武具の数々。それらを再利用し防衛に役立てようという魂胆である。
近くに鉱山があればいいのだが、当然そんなものが都合よく見つかる訳もなく、それを見つける知識もない。
金属の買い付けは、武器屋のオヤジと防具屋のせがれに一任してはいるのだが、商人達も商売だ。
他との信用も考えれば、頑張ってくれている方ではあるが、需要には追い付いていないというのが現状であった。
「だが、いいのか? メナブレアのようにリビングアーマーとして活用した方が、防衛力は高い気がするのだが?」
「確かにカイエンの言う通りなんだが、制御できる数に限りがあるんだよ」
現在、リビングアーマーとして活動しているのは、ダンジョンに1体と村に3体。そして遠方で待機状態なのが1体の合計5体。
リビングアーマーを作り出すのは簡単だ。主亡き鎧に魂を吹き込むだけでいい。
だが、それだけでは見る者全てを敵として認識する殺戮兵器。
敵と味方の分別を付けるには、それだけのリソースが必要であり、それは無限ではない。
単純な命令かつ近距離であれば数十体は余裕だが、村人に加え商人までをも保護対象とするならば、正直言ってキャパオーバー。
ハーヴェストからの船便のほとんどが欠航という事態に、コット村を経由する商人達は爆増。通行料はガッポリだ。
彼等のおかげで村の資金は潤沢。それは、既に無視できるレベルを超えている。
そしてもう1つ。商人達には申し訳ないが、彼等には人質としての効果も期待しているのだ。
「九条殿、そろそろ約束の……」
「ああ、そうだったな。飯は食堂の裏に用意してある。もちろん仲間達の分もあるから好きなだけ食べてくれ」
「待ってました! さっきから美味そうな匂いが村に立ち込めていて、涎が止まらんのだ」
色々と手伝ってもらったお礼として、振舞う食事。
といっても、ギルドが撤退する前の従魔用飼料の在庫を放出するだけである。
恐らくグランスロードを除けば、その消費量はトップクラスであったであろうコット村支部。
新規登録用の水晶やプレートの在庫。神聖術の魔法書など、高価なものは粗方引き上げられてしまったが、従魔用飼料だけは残されていた。
「どうだ? 九条殿も一緒に」
「いや、誘ってくれるのはありがたいんだが、ダンジョンにも足を運ばないといけなくてな」
「そうか、魔王とやらも大変だな」
「まったくだ……」
好きでやっている訳じゃない――と、否定したいところではあるが、最早それすらもめんどくさくて、俺は適当な相槌を打ってダンジョンへと足を向けた。
――――――――――
カイエンの為にと拡張された村の連絡通路からダンジョンへ入ると、地下4階層付近でガチャガチャとけたたましい金属音が近づいて来る。
「くじょ……たすけ……」
「ようガロン。今日も頑張ってるな」
そのまま擦れ違い、走り去るガロン。
滴る汗は、まるでサウナにでも籠っているかのような量で、その顔は苦痛のせいか酷く歪んでいた。
次に会ったのは地下6層。
ゴブリン達に声をかけていると、通りすがりに聞こえてきた呻き声。
「コロ……コロシテ……」
「あぁ、もう少ししたらな」
片手を上げ、適当な返事を返しておく。
そのまま遠のいて行くガロンを見送りながらも玉座の間に辿り着くと、そこにいたのはミアとカガリ。
「おにーちゃん、おかえりぃ」
俺に気付いたミアがパタパタと駆け寄り、そのまま豪快なダイブ。
しかし、今の俺にはビクともしない。
「おにーちゃん、お腹締まってきたよね。前はちょっと出てたのに……」
それを確かめるかのように、ポンポンと俺の腹を叩くミア。
そんなミアに向かって、俺は得意気に胸を張った。
「これが超回復の効果だ」
「チョー回復? ってなに?」
「いっぱい運動すると、筋肉痛になるだろ? それは、筋肉が壊れてるからなんだ。それが治ると、以前より筋肉が増える。そのサイクルを、俺の世界では超回復と言っていて、それを何度も繰り返す事によって筋肉がムキムキになるんだ」
「あ! 筋トレの後、おにーちゃんが私に回復術を強請るのってそのため!?」
「正解だ」
見上げるミアの頭をわしゃわしゃと撫でる。
それは俺が、ガロンに行っている実験から得た知識。
108番との協議の結果、ガロンの身体をデュラハンとして活用するには、体格が少々物足りないという結論に達し、ガロンを鍛えることにしたのである。
そこで、ふと気が付いた。この世界の魔法、回復術であれば、超回復に必要な長い休息期間を短縮できるのではないかと。
ガロンの鎧をリビングアーマー化し、休みなく走らせる。当然回復術では、疲れまでは取れないが、破壊された筋組織は再生するのだ。
更には食事もしっかり与え続けた結果、足だけであれば既にノルディックを超える筋肉を獲得していた。
「そろそろ無限マラソン編は終わりにして、次は無限腕立て編の開始だな……」
足だけ筋肉ムキムキなので、見た目のバランスは壊滅的。
恐らくはもっと効率的な筋トレ法があるのだろうが、残念ながらスポーツに興味がない俺に、その知識はなかった。
42
お気に入りに追加
377
あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。

転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる