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第538話 魔王討伐説明会

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「おはよう諸君。まずは呼びかけに応じ、集まってくれたことに感謝する」

 その声に、辺りは静けさを取り戻す。
 ここは王都スタッグ冒険者ギルドの作戦会議室。
 そこに駆け付けたのは、ゴールドプレートを含めた50名を超える冒険者たち。
 故に席に座れず立ち見の者も多くいる中、彼等の表情は一様に険しく、辺りは物々しい雰囲気に包まれていた。

「まず先に言っておきたいのが、これは強制ではないということだ。これからする話を聞いて、納得した上で志願してもらいたい」

 場を仕切っているのは、ゴールドプレートを首に掛けた騎士風の中年男性。
 着用しているプレートアーマーはミスリルを混ぜた合金製。長く使いこんでいるのだろう傷だらけではあるのだが、それはベテランでもある証だ。

「まずは、自己紹介をしておこう。知っている者もいるかもしれないが、俺の名はバルド。主な活動拠点はハーヴェストで、フラグメントのパーティリーダーを務めさせてもらっている。実績は……まぁ、気になる者がいればギルドから聞いてくれ」

 簡単な自己紹介を終えるも、周りからの反応は薄い。
 そんなこといいから早く進めろ――とでも言っているかのような無言の圧力に、バルドは大きく咳払い。

「言っておくが、俺が仕切っているのは依頼者の意向なだけで、この先お前達のリーダーを務めるって訳じゃないから、その辺りは安心してくれ。あくまで説明会の司会ってだけだ」

 それを聞き、ゆっくりと手を上げる1人の冒険者。

「その依頼主ってのは?」

「残念ながら明かせない。……だが、報酬の心配は無用だ。どこかの貴族様……という事だけは言っておこう」

 最悪、ここにいる冒険者の全員が参加表明をすれば、それだけ大量の報酬を支払うことになるのだ。
 依頼者に支払い能力があるのかは、最低限知っておく必要がある。
 その依頼内容は、最大難易度と噂される魔王討伐。報酬を期待するのも当然だ。
 個人では躊躇する依頼でも、団結すればと考える者が多いのは道理。
 そんな燻っている者達を集める為、今回の会合が開かれた。

「募集の締め切りは3日後。勿論パーティ単位での参加も受け付けている。その場合は、出来るだけ崩さないようチームを割り振るつもりだ」

「ちょっと待て。割り振るってのは、どういうことだ?」

「あぁ。依頼主はダンジョンとコット村の同時制圧を目標としている。逃げられる可能性を鑑みての事らしいが……。希望があれば参加表明の後に聞くが、全ての希望が通るとは思わないでくれ」

「もう1ついいか? どうして締め切りが3日後なんだ? 少し短すぎやしないか?」

「尤もだが、これは俺と依頼主とで相談し決めさせてもらった。あまり時間を掛けると、他国からプラチナが来て横取り……なんてことにもなりかねないからな」

 出されている魔王討伐依頼の報酬は破格。
 しかも、魔王とは言っても元はプラチナの冒険者。それだけの力はあるのだろうが、所詮はただの人間だ。
 2000年前の伝説に語られるような魔王でなければ、勇者でなくとも討伐は可能と考える者も多い。

「今回の依頼は、既にギルドに出ている依頼とは別物だと考えてくれ。魔王の討伐に成功したからと言って、全員に爵位が与えられる訳じゃない。その分、報酬は上乗せされて前に5千、後に3万。更には、活躍に応じてボーナスを出すとまで言ってくれている」

「前金で5千だと!? 勿論金貨だよな!?」

「無論、報酬は1人当たりの支払額だ。準備期間は募集を締め切ってから1週間。その間に必要な物を揃えてくれ。それも経費として計上し、後日全額返金される。上限はなしだ」

 思った以上の気前の良さに、感嘆の声を上げる冒険者達。
 中には既に前向きに検討しようと、パーティを鼓舞している者さえ出る始末。

「浮かれている所に悪いが、今回はレイドルールが適用される。当然担当も同行しない。依頼主やギルドは、君たちを守らない。それだけは留意しておいてくれ」

 レイドルールは、ギルドによる雇用形態の1つ。
 キャラバンルールとは違い、行方不明や冒険者の死に責任を持たないのが最大の特徴だ。
 その代わり、依頼中に拾得した戦利品は、冒険者側が所有権を有する事になっている。
 キャラバンルールが商人向けであるとするなら、レイドルールは領主向け。
 主に大型種と呼ばれる魔獣や魔物の討伐に適応される事が多く、直近であればベルモントでの金の鬣討伐依頼がそれであった。

「大まかな説明は以上だ。今の時点で不参加の者は、そのまま退出してくれ。逆に参加に前向きな者には、魔王に関する資料を配る。それをこの場で読み込んでくれ。持ち出しは一切認めない」

 ――――――――――

 暫くして作戦会議室が平穏を取り戻すと、そこに残っていたのはバルドを含めた3人の冒険者。
 バルドは、テーブルに置かれた魔王に関する資料を纏め始め、残りの2人はその様子を静かに眺めていた。

「それで? バルドの見立てでは、どれくらい残りそう?」

 テーブルに頬杖をつきながらも、気だるそうに声をかけたのはそのうちの一人。
 シルバープレートを首から下げた、ウッドエルフの女性である。

「そうだな……。本音は全員残ってほしいが、まぁ半分も残れば御の字だな」

「この資料。ちぃと生々しすぎるんだよなぁ……」

 それを聞き、まだ集め終わっていない資料を、汚い物でも触るかのようにつまみ上げたのは、顎髭が立派なドワーフの男。

「ロド……。それを、さっさと寄越せ……」

 不機嫌そうなバルドが手を伸ばすと、ロドと呼ばれたドワーフの男は大人しくそれを手渡し、背もたれに体重を預けながらも溜息をついた。

「……ワシ等は当然、村に割り振られるんだろう?」

「勿論だ。デュラハンなんかと戦えるか……」

 手にしていた資料をぺラリと捲ったバルド。そこには首なし騎士に関しての情報と、その挿絵が描かれていた。
 依頼主が用意した資料は文句のつけどころのない完璧な物。そこには九条に関する様々な情報が記載されていた。
 その中には、冒険者でも知り得ない魔王復活に関する日の事までもが、詳細に綴られていたのだ。
 それは、突如王都に出現した金の鬣が暴れた日。罪人である九条の処刑が行われた日でもある。

「魔獣召喚の影響と、魔法書を奪った事で弱体化しているとは書かれているけど、デュラハンの強さは未知数だし、村じゃ騎士団が全滅させられてるしで、正直どっちも地獄よねぇ……」

「……だが、ワシ等なら魔王を倒せる……。そうだろ? エレノア」

「あくまで噂だけど、……本当だったらラッキーよね?」

 彼等の耳に入ったのは、アニタが生きているかもしれないという噂だ。それも、渦中のコット村での話である。
 ギルドの発表ではプレートも返却されていて、死亡が認められている。だが、それを信じない者もいるのは事実。
 直接遺体を確認したわけではないのだ。諦めきれず捜索し続ける者も多い。

「マナポーションの出処を話していた時、九条の名を聞きアニタの様子がおかしくなった……」

「マナポーションとの交換条件。魔王に弱味を握られたか、あるいは従属しているのだとしたら、無理なくギルドを離れる為に死亡をでっち上げたのも腑に落ちる……」

「元プラチナだからね。王都に住んでなかったり、自分の担当をゴールドにしちゃうくらいだもん。ギルドは言いなりだったんじゃない?」

 1つのテーブルを囲み、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる3人。
 アニタは、過去何度もパーティを組んだ冒険者仲間だ。そのアニタを利用すれば、魔王に近づくことなど造作もない。
 信用を得てからの裏切り。それが、3人にはこれ以上ない完璧なプランに思えてならなかった。
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