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第532話 魔王爆誕
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ダンジョンと村の境界線とも言うべき階段を上り切ると、皆には魔法学院宿舎内での待機を命じ、自分だけが外に出る。
扉を開けると、そこはいつもの村の景色。にも拘らず、何処からか聞こえてくる鬨の声に憤りを覚えた。
遠くの空が僅かに明るいのは、恐らく騎士団の野営地付近。理由は不明だが、状況から騎士団との争いは避けられなかったのだろうと推測する。
こちらの戦力は、リビングアーマーが2体に黄泉がえり部隊の御老体が10人ほど。
そんじょそこらの盗賊を相手にするのとは訳が違う。少なくとも軍として鍛錬している者達が相手だ。
強化魔法を付与しているとはいえ、王国軍の騎士が100人ともなれば、少々厳しいと言わざるを得ない。
シャーリーとアーニャの尽力があれば、その限りではないが、まずは現状の把握が優先だ。
俺は深くフードを被ると、声のする方へと走り出した。
現地に近づくにつれ、徐々に明らかになって行く状況。
村に被害はなさそうだが、騎士団の野営地では敵味方入り乱れての乱戦といった様子を呈していた。
耳を塞ぎたくなるような叫び声の応酬。リビングアーマーの剣戟を避けた騎士は勢い余って篝火に激突。
辺りの闇が一層深まり、魔法の光がフラッシュのように辺りを照らすも、見える景色は薄暗い。
バランスを崩した騎士のフォローにと複数の騎士がリビングアーマーを取り囲み、一方では倒れ込んだ老戦士に剣を突き立てようと振りかぶる騎士に、アーニャの魔法が炸裂する。
「カイルの仇だ! クソ野郎ッ!【電光撃】!」
それだけ気合の入った大声だ。アーニャに狙いを定めた騎士達が一斉に走り出すも、それを暗がりから冷静に射抜いていくシャーリー。
ミスリル製の弓が光を反射し、うっすらと映し出されるその顔は、不謹慎ながらも美しいとさえ思えるほど。
ん? アーニャは今、なんつった……?
けたたましい怒号の応酬。その為、ハッキリとは聞こえなかったが、それは後で聞けばいい話。
まずはコンタクトが先だろうと、シャーリーへと駆け寄ろうとしたその時だった。
弓の狙いを定め、正確無比な狙撃を繰り返しているシャーリーの背後から、闇に紛れ姿を現した男が1人。
騎士の鎧は着ておらず、その身体は煤だらけ。視認できたのは僅かな白目と、上段に構えられた抜き身のショートソードだけ。
「シャーリーッ!?」
それが、悪手であったと気付いた時には遅かった。
シャーリーが俺に視線を向けたその一瞬、男のショートソードがシャーリーを一刀の元に切り伏せたのだ。
「シャーリィィィィッ!」
倒れるシャーリーを支えようと駆け出すも、当然間に合う距離じゃない。
それでも、1秒でも早く辿り着こうと地面を蹴り続ける。
「貴様! 九条だなッ!? やはり……」
紅く染まったショートソードの切っ先を、俺へと向ける黒塗りの男。
しかし、それは届かない。メイスを薙いでその刃を弾き飛ばし、返す刀で男の頭を殴打する。
冷静さを欠いている今、力加減など忘却の彼方。
男の首が捻じ切れるほど回転すると、つられて身体も回転しながらそのまま地面に突っ伏した。
「シャーリー! 目を開けろッ!」
抱き上げたシャーリーの身体から流れ出る鮮血は、傷の深さを物語る。
鎖骨から入った刃が肋骨を砕き、肺にまで達しているだろう事は確実。
応急処置などでどうにかなるものではない致命傷。それは神聖術でどうにかなるレベルを超えている。
だからこそ、その目は開かないだろうと感覚的には理解していた。
俺の……所為だ……。俺が、声を掛けなければ……。
危険を知らせようと思った。しかし、それが逆にシャーリーの集中を乱してしまった可能性も否めない。
俺が声を掛けなければ、シャーリーは自力で避けていたかもしれないのだ。
怒涛の如く押し寄せてくる後悔の念。このままではシャーリーを失ってしまうのに、どうしていいのかわからない。
諦めている訳ではないのに、自然と涙が溢れ出す。
目の前の現実を受け入れられず、頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「九条ッ! あんたの所為じゃないッ! 悪いのはコイツ等でしょッ!」
駆け寄ってくるアーニャの声にハッとした。
どうにもならないこの気持ちを、ぶつける先があったのだ。湯水のように溢れ出る自分への怒りを、効率よく発散できる矛先だ。
その結果がたとえ不毛であろうとも、感情を抑制しようなどとは思わなかった。
シャーリーと同じ苦しみを味合わせてやろうという願望にのみ、思考は占拠されていったのだ。
フードを捲り、着用していたローブを豪快に脱ぐ。それはシャーリーが俺の為にと選んでくれたもの。
俺はそれをシャーリーにそっと被せ、目の前にあった捻じ切れそうな骸の頭を鷲掴みにして持ち上げた。
それを、ズルズルと引き摺り歩き出す。シャーリーに出来るだけ影響を与えないよう離れる為に。
「ッ!? やっば……」
そんな俺を見たアーニャが取った行動は、戦場の放棄。
熟練冒険者の勘なのか、俺の顔に畏怖を覚えたのかは知らないが、シャーリーを担ぎ上げ脇目も振らずに逃げていく。
ありがたい限りだ。これで、手加減の必要がなくなったのだから。
「お前等が魔王を望むなら、俺が代わりに恐怖と絶望を教えてやるッ! 許しを乞う者には苦痛なき死を。抵抗するならその魂、天に帰らぬものと知れッ!」
掴んだ骸に魔力を込めると展開される魔法陣。
大地が唸りを上げ、月明かりが遮られるほどの暗雲が立ち込めると、俺はその魔法に全力を込めた。
「【不死の王】!」
扉を開けると、そこはいつもの村の景色。にも拘らず、何処からか聞こえてくる鬨の声に憤りを覚えた。
遠くの空が僅かに明るいのは、恐らく騎士団の野営地付近。理由は不明だが、状況から騎士団との争いは避けられなかったのだろうと推測する。
こちらの戦力は、リビングアーマーが2体に黄泉がえり部隊の御老体が10人ほど。
そんじょそこらの盗賊を相手にするのとは訳が違う。少なくとも軍として鍛錬している者達が相手だ。
強化魔法を付与しているとはいえ、王国軍の騎士が100人ともなれば、少々厳しいと言わざるを得ない。
シャーリーとアーニャの尽力があれば、その限りではないが、まずは現状の把握が優先だ。
俺は深くフードを被ると、声のする方へと走り出した。
現地に近づくにつれ、徐々に明らかになって行く状況。
村に被害はなさそうだが、騎士団の野営地では敵味方入り乱れての乱戦といった様子を呈していた。
耳を塞ぎたくなるような叫び声の応酬。リビングアーマーの剣戟を避けた騎士は勢い余って篝火に激突。
辺りの闇が一層深まり、魔法の光がフラッシュのように辺りを照らすも、見える景色は薄暗い。
バランスを崩した騎士のフォローにと複数の騎士がリビングアーマーを取り囲み、一方では倒れ込んだ老戦士に剣を突き立てようと振りかぶる騎士に、アーニャの魔法が炸裂する。
「カイルの仇だ! クソ野郎ッ!【電光撃】!」
それだけ気合の入った大声だ。アーニャに狙いを定めた騎士達が一斉に走り出すも、それを暗がりから冷静に射抜いていくシャーリー。
ミスリル製の弓が光を反射し、うっすらと映し出されるその顔は、不謹慎ながらも美しいとさえ思えるほど。
ん? アーニャは今、なんつった……?
けたたましい怒号の応酬。その為、ハッキリとは聞こえなかったが、それは後で聞けばいい話。
まずはコンタクトが先だろうと、シャーリーへと駆け寄ろうとしたその時だった。
弓の狙いを定め、正確無比な狙撃を繰り返しているシャーリーの背後から、闇に紛れ姿を現した男が1人。
騎士の鎧は着ておらず、その身体は煤だらけ。視認できたのは僅かな白目と、上段に構えられた抜き身のショートソードだけ。
「シャーリーッ!?」
それが、悪手であったと気付いた時には遅かった。
シャーリーが俺に視線を向けたその一瞬、男のショートソードがシャーリーを一刀の元に切り伏せたのだ。
「シャーリィィィィッ!」
倒れるシャーリーを支えようと駆け出すも、当然間に合う距離じゃない。
それでも、1秒でも早く辿り着こうと地面を蹴り続ける。
「貴様! 九条だなッ!? やはり……」
紅く染まったショートソードの切っ先を、俺へと向ける黒塗りの男。
しかし、それは届かない。メイスを薙いでその刃を弾き飛ばし、返す刀で男の頭を殴打する。
冷静さを欠いている今、力加減など忘却の彼方。
男の首が捻じ切れるほど回転すると、つられて身体も回転しながらそのまま地面に突っ伏した。
「シャーリー! 目を開けろッ!」
抱き上げたシャーリーの身体から流れ出る鮮血は、傷の深さを物語る。
鎖骨から入った刃が肋骨を砕き、肺にまで達しているだろう事は確実。
応急処置などでどうにかなるものではない致命傷。それは神聖術でどうにかなるレベルを超えている。
だからこそ、その目は開かないだろうと感覚的には理解していた。
俺の……所為だ……。俺が、声を掛けなければ……。
危険を知らせようと思った。しかし、それが逆にシャーリーの集中を乱してしまった可能性も否めない。
俺が声を掛けなければ、シャーリーは自力で避けていたかもしれないのだ。
怒涛の如く押し寄せてくる後悔の念。このままではシャーリーを失ってしまうのに、どうしていいのかわからない。
諦めている訳ではないのに、自然と涙が溢れ出す。
目の前の現実を受け入れられず、頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「九条ッ! あんたの所為じゃないッ! 悪いのはコイツ等でしょッ!」
駆け寄ってくるアーニャの声にハッとした。
どうにもならないこの気持ちを、ぶつける先があったのだ。湯水のように溢れ出る自分への怒りを、効率よく発散できる矛先だ。
その結果がたとえ不毛であろうとも、感情を抑制しようなどとは思わなかった。
シャーリーと同じ苦しみを味合わせてやろうという願望にのみ、思考は占拠されていったのだ。
フードを捲り、着用していたローブを豪快に脱ぐ。それはシャーリーが俺の為にと選んでくれたもの。
俺はそれをシャーリーにそっと被せ、目の前にあった捻じ切れそうな骸の頭を鷲掴みにして持ち上げた。
それを、ズルズルと引き摺り歩き出す。シャーリーに出来るだけ影響を与えないよう離れる為に。
「ッ!? やっば……」
そんな俺を見たアーニャが取った行動は、戦場の放棄。
熟練冒険者の勘なのか、俺の顔に畏怖を覚えたのかは知らないが、シャーリーを担ぎ上げ脇目も振らずに逃げていく。
ありがたい限りだ。これで、手加減の必要がなくなったのだから。
「お前等が魔王を望むなら、俺が代わりに恐怖と絶望を教えてやるッ! 許しを乞う者には苦痛なき死を。抵抗するならその魂、天に帰らぬものと知れッ!」
掴んだ骸に魔力を込めると展開される魔法陣。
大地が唸りを上げ、月明かりが遮られるほどの暗雲が立ち込めると、俺はその魔法に全力を込めた。
「【不死の王】!」
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