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第531話 九条の顔は何度まで?

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 食って寝て、偶に運動、日課の瞑想。それが1月も経てば飽きもする。
 規則正しい1日のローテーションは変化に乏しく、ダンジョンでの生活は刺激が足りない。
 だからと言って、それを求めている訳ではないのだが、凶報は突然にやって来た。

「――ッ!?」

 時間は恐らく深夜。そんな時間に自然と目が覚め、体を起こす。
 ごく微量ではあるが、身体から魔力が抜けていく感覚を覚えたのである。

「どうしたの? おにーちゃん」

 眠い目を擦りながらも、俺の顔を見上げるミア。
 その表情に、ただならぬ何かを感じたのだろう。ミアも同じように顔を強張らせた。

「村で、何かあったのね?」

「……あぁ。リビングアーマーが動き出した」

 木を隠すなら森の中。プレートアーマーを隠すなら防具屋だ。
 ゲオルグの物と防具屋のせがれから貰った鎧を、リビングアーマー化して村に潜ませておいたのだが、それが魔力の消費を始めた。
 起動の条件は3つ。村人が助けを求めた時。危険性を帯びた村人の悲鳴が聞こえた時。そして、よそ者が殺意を持って村人の誰かを傷付けた時だ。
 そのいずれかの条件を満たせば、敵意のある者を排除しようと動き出す。

「みんな、大丈夫かなぁ……」

「状況次第だが、祈るしかないな……」

 大丈夫だと言ってやりたいところではあるが、所詮は気休め。無責任なことは言えない。
 魔剣も持たぬリビングアーマー。大勢の騎士相手には、歯が立たないだろう事はわかっている。
 村とダンジョンが地下で繋がっているとは言え、往復には時間が掛かる。
 村が不測の事態へと陥った場合、俺が村へと向かう。その間の時間稼ぎであり、殲滅を目的にしている訳じゃない。

「これからどうするの?」

「30分ほど待機だ。シャーリーかカイルが来るはずだからな」

 これは、村との取り決めだ。間違えて起動してしまった場合の対応策である。
 誤報であれば、30分以内にシャーリーが。逆にそれ以外であるなら、カイルが報告に来る手筈になっている。
 とは言え、実際それほど待つ必要はない。ダンジョンへの侵入者は、108番が検知して報告してくれるのだ。
 長くとも10分もすれば、どちらかがダンジョンを訪れるはず。


 なのだが……。

「遅いな……」

 いざという時の為に着替えながらも、待機を始めて15分。
 宙に浮かぶ108番からの反応はなし。何度か目を合わせても、永遠と首を横に振るだけ。
 ならば、こちらから出向くしかない。深くフードを被っていれば、夜の闇にも紛れるはずだ。

「ミアは、ここで待ってるんだ。いいな?」

「私もいく! カガリと一緒ならいいでしょ?」

 決意に満ちた、真っ直ぐな視線。
 正直ダンジョン内ほど安全な場所はないのだが、村が心配だという気持ちもわかる。

「……わかった。ワダツミにも護衛についてもらう。その上で俺が危険だと判断した場合はすぐにダンジョンへと戻ること。いいな?」

「うん。わかった」

「心得た」

 待機中に集まって来ていた従魔達もやる気は十分。頼もしい限りである。

「また、これの世話になるとはな……」

 それは、部屋の隅に立て掛けて置いた1本のメイス。
 この世界に来た初期からお世話になっていた、誰の物かもわからない武器。
 グリムロックのバルガス工房で武器を作ってもらって以来、握ることはなかったが、ここに来てまさかの再登板。
 急ぎの為時間は掛けられないが、借用の歎願と感謝の意味を込めて、俺はそっと手を合わせた。


「フードル。夜更けにすまないが、力を貸してくれ」

 フードルの部屋の扉を叩き、手短な説明と共に合流する。
 いざという時の為の作戦は、周知済み。途中ゴブリン達をも従えて、村を目指し歩き出す。

「最終確認じゃ。九条が最前線を担当。リビングアーマーと黄泉帰り部隊、そしてワシが遊撃役で、従魔はミアと負傷者の保護を優先。ダンジョンへの運搬はゴブリンどもが担う。間違いはないな?」

「ああ。それでいい」

 最悪、騎士団との衝突が起きていた場合、俺が真っ先に姿を見せる。
 騎士団の狙いは俺なのだ。村人に向いたヘイトを集約するには、それが一番手っ取り早い。
 だが、フードルの言いたい事がそうではない事くらい、十分理解している。
 俺の、今後の身の振り方に対しての最終勧告――と言った方が、ニュアンス的には正しいだろう。
 魔族のフードルに加えゴブリンまでもが姿を見せれば、最早言い逃れは不可能だと言いたいのだろうが、今更慣れ合う気などさらさらない。
 何を言ったところで、無駄なのだ。仏の顔も三度まで。物事にも限度というものがある。
 既に警告は終えている。それでも尚俺に関わろうとするのなら、覚悟あってのことなのだ。
 俺は子供でも聖人でもない。かくれんぼで見つかったからと言って、無抵抗で出頭すると思ったら大間違いである。
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