生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
上 下
523 / 633

第523話 持つべきものは地縛霊

しおりを挟む
「マスタぁぁぁぁん。おかえりなさぁぁい」

「なんだ急に……。気色悪いな……」

 俺が王都を脱出したのが3日前。コット村への近道でもあるダンジョンに顔を出したら、108番からの熱烈なお出迎えだ。
 恐らく、108番は俺に抱き着きたいのだろうが、その全てが空振りである。

「トラちゃんの波動をヒシヒシと感じましたよぉ? ついに、人間たちを見限ったんですね?」

「……表現が大袈裟なんだよ……。少しそりが合わなかっただけだ……」

「少しねぇ……」

 ニヤニヤと俺の顔色を窺う108番。
 多少の疲れもあってか、色々と考えることが多くて相手をするのも億劫だ。

「まぁ、これからはいくらでも話せる。愚痴はその時に聞いてやるから、少し静かにしてくれ……」

 姿を眩ませる予定は変わらないが、ひっそりと……という訳にはいかなくなった。
 ミアを守る為だ。後悔はしていないが、計画は全て水の泡。その脱力感と言ったらない……。
 どちらにせよ、村に迷惑は掛けられないので出て行くつもりであったし、暫くはダンジョンで余生を過ごす事になるだろう。

「おお、九条。アーニャから聞いたぞ? 随分と派手にやったそうじゃないか」

 ダンジョンと村への分岐点。そこで待っていたのは、魔族のフードル。
 若干声が弾んでいるようにも聞こえるのだが、ひとまずそこには目を瞑ろう。

「まぁな……。お前だってアーニャが酷い目に合うとわかれば、同じことをするだろう?」

「カッカッカッ。違いない」

 やはりどこか嬉しそうなフードルだが、仲間意識とでも言おうか……。正直あまり悪い気はしない。
 それよりも、ミアの手紙がちゃんと届いているようで一安心といったところだ。

「ハァ……。今から先が思いやられる……」

「まぁ、そう落ち込むな。ダンジョンに住むのなら、相部屋でも構わんぞ? ワシが丹精を込めて慰めてやろうではないか」

 何故か得意気なフードルに、顔を歪めてしまったのは言うまでもない。
 ダンジョンを家として見立てるなら、部屋など腐るほどあるようなものなのに、誰が好き好んで魔族の爺さんと同棲などせねばならぬのか……。

「気持ちだけ受け取っておくよ……」

「そうか。まぁ、あまり引き留めるのも悪いからな。早く村に顔を出してやれ。アーニャもそうじゃが、皆九条の帰りを待っておる」

 フードルには一旦別れを告げ、村へ向かうと連絡通路で待っていたのは従魔達。

「主……」

 カガリに白狐にワダツミにコクセイ。いつものように突撃してくるのかと思いきや、その顔は何処か沈痛な面持ち。

「みんな、ただいま」

 精一杯の笑顔を作っては見たが、勘の鋭い彼等の事だ。全て見透かされているのだろう。
 ミアと2人。皆を均等に撫で上げると、それ以上の言葉を発せぬまま、村へと向かって歩き出す。

「九条ッ!」

 連絡通路の出口にいたのは、シャーリー。その顔は従魔達に負けず劣らずの悲壮感。
 階段の途中にも拘らず、無謀にも飛び込んでくるその姿は、最早どちらが従魔なのかわかったもんじゃない。

「大丈夫だった? 生きてる? アンデッドになってたら生きてるとは言わないわよ!? 私の名前は覚えてるわよね? この指、何本に見える?」

 痛みを覚えるほど抱き着かれ、こちらとしてはバランスを取るのに必死な中、怒涛の質問攻めである。
 俺を見上げるシャーリーの瞳が潤んでいるのは、それだけ心配をかけた所為だろう。
 申し訳ないと思うと同時に、ミアの認めた手紙の内容に一抹の不安が過る。

「なぁミア。1つ聞くが、手紙にはなんと?」

「え? おにーちゃんと私が処刑されちゃうけど、おにーちゃんがなんとかしてくれるから大丈夫だって……」

「そ……そうか……」

 随分とザックリしているが、周囲にバレないようコッソリと認めた手紙だ。更にはピーちゃんが運べるサイズの制限付きともなれば、仕方ない。
 俺がなんとかする……なんて曖昧な書き方の所為で、どう対処したのかは各々が勝手に妄想して補ったのだろう。
 フードルとアーニャは力業でなんとかしたと考え、シャーリーは俺がバルザックの二の舞いを踏んだのではないかと考えた訳だ。

「大丈夫だ、シャーリー。アンデッドにもなってないし、ちゃんと生きてる。ほら、どうだ? 俺の手は暖かいだろ?」

 シャーリーの顔を両手で挟み、ほっぺをむにむにと弄繰り回す。
 すぐにその手を払いのけ怒り出すのかと思いきや、何時まで経ってもやられ放題で、らしくない。

「結構本気で心配したんだからぁぁ……」

「……なんか……すまん……」

 重苦しい雰囲気を何とかしようと思ったのだが、どうやら俺の方が空気を読めていなかったらしい……。
 俺が手を離すと、シャーリーはこぼれそうな涙を拭い、笑顔を見せた。

「でも、無事ならよかった……。ってことは、処刑されずに逃げて来たってことでしょ?」

「いや、まぁなんと言うか、ひと悶着あってな……。詳しくは後で……」

「大丈夫。すぐにでも集合を掛けられるように、みんな待機してくれてるから」

 シャーリーの言う通り、魔法学院の宿舎にはアーニャを始め、村の主要人物がすぐに集合した。
 その中でも特に険しい表情を見せているのは、ギルド支部長のソフィアである。
 恐らくは、ギルドの上層部から何らかのアプローチがあったのだろう。
 ひとまず使われていない部屋に場所を移し、俺は王都であったことを全て話した。


「――っとまぁ、ざっとではありますが……」

 わかっていた事ではあるが、その雰囲気はお通夜状態。
 俺の処刑に加え、まさかミアにまで手を出すとは思わなかったのだろう。
 当然、俺もそう思って策を巡らせてはいたのだが、結局は切り札を使わざるを得ない状況に陥った。
 このまま、俺を怒らせるのはやめようと手を引いてくれればありがたいのだが、恐らくそうはならない。
 俺は、彼等の面子を潰したのだ。それも他国の主要人物が一堂に会する場で……。
 希望的観測に甘えず、常に最悪を考え行動した方がいいはずだ。
 その線引きの目安として、ギルドでの俺の扱いがどうなるのかは聞いておきたい。

「ソフィアさん。ギルドの見解を聞いてもよろしいですか?」

「……はい……。九条さんはプレートを剥奪の上、ギルドから永久追放という処分が下されました……。食い下がってはみたのですが……すいません。力及ばず……」

「いえいえ、ソフィアさんの所為じゃありませんから、気にしないでください。上層部の判断としては妥当でしょう」

 ある意味予想通り。責任を追及される前に、蜥蜴の尻尾は切っておこうと考えるのは自然な流れ。

「ミアの処遇は?」

「孤児登用枠職員から、一般職員へとの通達だけ……。九条さんの担当からは外れると思いますが、後継の指示や異動の辞令は出ていません」

 恐らくはミアを含めて、今後は一切関与しない……というのが、ギルドのスタンスなのだろう。
 ロバートかモンドが影で動いてくれたのかもしれないが、ひとまずギルドは放っておいてもよさそうだ。

「ってゆーか。よくそんな状況から逃げ出してこれたわね。国賓も集まってたんじゃ、警備も厳重だったんじゃないの?」

 本当に心配していたのかと思うほどに、いつも通りのアーニャ。
 まぁ、気を使わなくていい分、話しやすくはある。

「確かにそうなんだが、逃げ道は確保していたからな」

 ネスト曰く、平時であれば王都に待機している兵士や騎士を合わせておおよそ2000人ほど。
 緊急時ではないが、国葬の為にと警備を強化していたとして3000人前後といったところか……。
 その全てがいっぺんに襲い掛かって来る事はないだろうが、武器も魔法書も持ち合わせていない状況で、且つ金の鬣の力も借りないというのであれば、正面切っての逃走劇には自信がない。

「逃げ道ったって、広い王都を誰にも見つからずになんて……」

「それがあるんだよ。王族しか知らない緊急避難用の秘密の地下通路がな」

「地下通路!? リリー様から教えてもらってたってコト!?」

「いや、俺が聞いたのはゲンさんだ」

「ゲンさん!? って、誰!? 王族にそんな名前の人いたぁ!?」

 リアクションがデカすぎる。とは言え、アーニャの反応は見ているだけで癒される。
 もちろん愉快という意味でだが、その所為か辺りの陰湿な雰囲気が若干薄れたようにも感じた。

「ゲンさんは、スタッグ王宮の建築に携わった職人の1人。そう言えばわかるとは思うが、既に亡くなっている」

「あ……あぁ……。なるほどね……」

 知り合ったのは、かなり前。
 俺がノルディックを殺し王城の地下牢に収監されていた時、暇すぎて周囲の浮遊霊に話しかけたその人物こそが、ゲンさんだったのである。
 数百年ぶりに話せたとあって、その口は饒舌を通り越しマシンガン。
 その中に要人避難用地下路の情報も含まれていたのだが、それを聞いてしまってもいいものかと内心疑問に思ったことで、覚えていたのである。

「玉座の下と王室の暖炉の後ろ。礼拝堂と調理場の地下倉庫だったか。そこから王都の外に向かって通路が伸びてるんだ」

 あわよくば、アルバートが避難してはいないかとも思ったのだが、途中擦れ違うことはなかった。

「もしかしたら、俺がまだ王都の何処かに身を隠していると思ってるかもな」

 あの混乱の中、人の出入りを管理していたのかは不明だが、目撃情報がなければそう思われている可能性も十分考えられる。
 まさか王族用の逃走経路を使われるとは、夢にも思わないだろう。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...