生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第491話 誕生日プレゼント

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「おぉ、九条。今回も遅かったな」

 開口一番、フードルから発せられたエッジの効いた一言に、苦笑いを浮かべる。
 冗談なのはわかってはいるが、耳が痛い。

「まったくだ……」

 何故、こうも予定通りに事が進まないのか……。最初は簡単な仕事のはずだった。
 グランスロードで適当に時間を潰し、封印したんで帰ります! ――と言うだけで良かったはずなのに、気付けば大事に巻き込まれている。
 俺の運が悪いだけなのか、それとも楽ばかりしようとする俺に対する罰なのか……。

「話はアーニャから聞かせてもらった。ひとまずは、九条が勇者ではなくホッとしておる」

「何を今更……。こんな自堕落な勇者がいてたまるか」

「はっはっは、確かに言い得て妙じゃな」

 俺が本当の勇者であるなら、今頃は勇者の風上にも置けないと罵られているだろう。
 自分の世界ならまだしも、全く知らない別の世界の危機を自分の命を賭してまで救えるかと言われれば、答えは否だ。やる気なんて出るわけがない。

 用意された椅子に腰かけると、歪んでいるのかカタカタと床を叩く音がする。
 急遽用意したのだろう。それは恐らく、ゴブリンたちのお手製だ。
 無いよりはマシだが、座面が低いので少々間抜けに見えてしまうのはご愛敬といったところか。
 フードルの部屋には家具が最低限しかなく、良く言えばミニマリスト、悪く言えば殺風景。
 外に出られないのだ。家具や日用品を運び入れるのはアーニャの役目。
 少しでも手間を省くためか、普段は一般的なテーブルと2つの椅子しか置かれていない。

「それで? アーニャだけじゃなく、私もダンジョンに連れて来たのはなんで? まだ何か隠している事でもあるの?」

「いや、もう隠していることはないよ。今日は別件だ」

 俺に疑いの目を向けるシャーリー。
 2人に同行を求めた理由を教えなかったのは、近くにミアがいたからだ。
 現在ミアは、カガリと共にギルドでの業務に励んでいるはずである。

「今日、集まってもらったのは他でもない。知っての通り俺はこの世界の人間じゃない。……だから教えてくれ! 誕生日には何を贈ればいい!?」

「……」

 それを聞いた皆の俺を見る目の冷たさよ……。
 どうせくだらないことを言い出した――とでも思っているのだろう。
 しかし、俺にとっては死活問題。皆には常識なのかもしれないが、世界が変われば文化も違うのは当然だ。
 入院患者のお見舞いに菊の花を持って行くのがタブーであるのと同様に、誕生日に贈ってはいけない物があるかもしれない。

「別に非常識じゃなければ、なんでもいいんじゃない? 要は気持ちの問題よ」

「それじゃダメなんだ! 俺にはその非常識がわからないんだよ! アレックスの結婚式での事を思い出してくれ! レナから手渡されたビスケットを、何の疑いもせずバリバリと食った男だぞ!?」

「そういや、そんなこともあったわね……」

 やや呆れ気味のシャーリーに、思い出し笑いを必死にこらえるアーニャ。
 自分で言っておいてなんだが、穴があったら入りたい。

「そもそも九条の誕生日のイメージがよくわからないんだけど、貴族の結婚式みたいな格式ばったルールなんてないから、好きな物を贈ればいいんじゃない?」

「なるほど……。参考までに聞いておきたいんだが、誕生日の祝い方とか贈り物に使う金額の目安とかは……」

「別にルールなんてないわよ。家柄によるとしか言えないわ。お祝いをするだけの所もあれば、贈り物をするところもあるし……。数年分を纏めてって所も多いわよ? 親が子供を祝う場面に限って言えば、実用性重視な贈り物が多いかも……」

「実用性?」

「そ。女の子だったらナイフとか針とか、男の子だったら鞭とか鉈とかかな?」

「あぁ、なるほど……」

 針は裁縫。ナイフは料理か作物の収穫。鞭は牛や馬を追う為の物で、鉈は薪割や枝を落とす為に使うのだろう。
 稼業の仕事道具と捉えるとなんだか味気ない気もするが、初めての自分専用品ともなれば子供にとっては嬉しいのかもしれない。

「それをミアに当てはめると、ギルドで日常的に使う物か……」

 ギルド職員のお仕事と言えば、冒険者相手の受付業務。
 もちろん内部での事務作業もあるのだろうが、どちらかと言えばミアは接客に出ていることが多い。

「パッと思い浮かぶのは、インクとか羽根ペンとかじゃない?」

 どちらも消耗品だが、贈り物としては悪くはない。

「ふむ……。羽根ペンは、ありだな……」

 どちらかを選ぶとしたら、長く使える方がいい。
 ギルドで使われている物は、如何にも大人用。ミアの小さな手には、少々持て余す大きさだ。
 とは言え、子供の手にフィットするような小型の物が既製品にあるのかどうか……。
 意識したことはなかったが、雑貨屋などでは見かけなかった気がする。
 微妙なサイズの違いはあれど、あまりにも小さすぎる物は製品化前に弾かれている可能性が高いのではないだろうか……。

「羽根ペンのオーダーメイドを受けてくれる店なんてあるか?」

「探せばあるだろうけど、そう難しく考える必要はないんじゃない? ペン先を金属製にしたいってなら話は別だけど、素材さえあればハンドメイドは簡単よ? 羽根の根元をちょこっとナイフで整えてやるだけで、十分羽根ペンとして使えるわ」

「素材かぁ……」

 ミアの手にもジャストフィットするサイズの鳥の羽根……。
 パッと思い浮かぶ身近な鳥類といえば鶏だが、流石にそれでは味気ない。
 そもそも鶏の羽根が素材として使用できるのかどうかすらわからないのだ。
 こちらの世界に来るまでは羽根ペンを触ったことなど一度もない。当然そんな知識すら持ち合わせていないのである。

 そんなことに頭を悩ませながらも、ふと自分の胸元に視線を落とすと、胸の内ポケットから顔を覗かせるピーちゃんと目が合ってしまった。

「……オイ相棒! ナンデコッチヲ見ルンダヨッ!」

「いや、すまん。別に他意はないんだ」

「嘘ダッ! 絶対オレノ高貴デ美麗ナ羽根ヲ毟リ取ル気ダッタダロッ!?」

 まぁ、1ミリも考えなかったかと言うと嘘にはなるが、最終手段として候補に入れておこうと思っていたのは内緒である。
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