生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
上 下
491 / 633

第491話 誕生日プレゼント

しおりを挟む
「おぉ、九条。今回も遅かったな」

 開口一番、フードルから発せられたエッジの効いた一言に、苦笑いを浮かべる。
 冗談なのはわかってはいるが、耳が痛い。

「まったくだ……」

 何故、こうも予定通りに事が進まないのか……。最初は簡単な仕事のはずだった。
 グランスロードで適当に時間を潰し、封印したんで帰ります! ――と言うだけで良かったはずなのに、気付けば大事に巻き込まれている。
 俺の運が悪いだけなのか、それとも楽ばかりしようとする俺に対する罰なのか……。

「話はアーニャから聞かせてもらった。ひとまずは、九条が勇者ではなくホッとしておる」

「何を今更……。こんな自堕落な勇者がいてたまるか」

「はっはっは、確かに言い得て妙じゃな」

 俺が本当の勇者であるなら、今頃は勇者の風上にも置けないと罵られているだろう。
 自分の世界ならまだしも、全く知らない別の世界の危機を自分の命を賭してまで救えるかと言われれば、答えは否だ。やる気なんて出るわけがない。

 用意された椅子に腰かけると、歪んでいるのかカタカタと床を叩く音がする。
 急遽用意したのだろう。それは恐らく、ゴブリンたちのお手製だ。
 無いよりはマシだが、座面が低いので少々間抜けに見えてしまうのはご愛敬といったところか。
 フードルの部屋には家具が最低限しかなく、良く言えばミニマリスト、悪く言えば殺風景。
 外に出られないのだ。家具や日用品を運び入れるのはアーニャの役目。
 少しでも手間を省くためか、普段は一般的なテーブルと2つの椅子しか置かれていない。

「それで? アーニャだけじゃなく、私もダンジョンに連れて来たのはなんで? まだ何か隠している事でもあるの?」

「いや、もう隠していることはないよ。今日は別件だ」

 俺に疑いの目を向けるシャーリー。
 2人に同行を求めた理由を教えなかったのは、近くにミアがいたからだ。
 現在ミアは、カガリと共にギルドでの業務に励んでいるはずである。

「今日、集まってもらったのは他でもない。知っての通り俺はこの世界の人間じゃない。……だから教えてくれ! 誕生日には何を贈ればいい!?」

「……」

 それを聞いた皆の俺を見る目の冷たさよ……。
 どうせくだらないことを言い出した――とでも思っているのだろう。
 しかし、俺にとっては死活問題。皆には常識なのかもしれないが、世界が変われば文化も違うのは当然だ。
 入院患者のお見舞いに菊の花を持って行くのがタブーであるのと同様に、誕生日に贈ってはいけない物があるかもしれない。

「別に非常識じゃなければ、なんでもいいんじゃない? 要は気持ちの問題よ」

「それじゃダメなんだ! 俺にはその非常識がわからないんだよ! アレックスの結婚式での事を思い出してくれ! レナから手渡されたビスケットを、何の疑いもせずバリバリと食った男だぞ!?」

「そういや、そんなこともあったわね……」

 やや呆れ気味のシャーリーに、思い出し笑いを必死にこらえるアーニャ。
 自分で言っておいてなんだが、穴があったら入りたい。

「そもそも九条の誕生日のイメージがよくわからないんだけど、貴族の結婚式みたいな格式ばったルールなんてないから、好きな物を贈ればいいんじゃない?」

「なるほど……。参考までに聞いておきたいんだが、誕生日の祝い方とか贈り物に使う金額の目安とかは……」

「別にルールなんてないわよ。家柄によるとしか言えないわ。お祝いをするだけの所もあれば、贈り物をするところもあるし……。数年分を纏めてって所も多いわよ? 親が子供を祝う場面に限って言えば、実用性重視な贈り物が多いかも……」

「実用性?」

「そ。女の子だったらナイフとか針とか、男の子だったら鞭とか鉈とかかな?」

「あぁ、なるほど……」

 針は裁縫。ナイフは料理か作物の収穫。鞭は牛や馬を追う為の物で、鉈は薪割や枝を落とす為に使うのだろう。
 稼業の仕事道具と捉えるとなんだか味気ない気もするが、初めての自分専用品ともなれば子供にとっては嬉しいのかもしれない。

「それをミアに当てはめると、ギルドで日常的に使う物か……」

 ギルド職員のお仕事と言えば、冒険者相手の受付業務。
 もちろん内部での事務作業もあるのだろうが、どちらかと言えばミアは接客に出ていることが多い。

「パッと思い浮かぶのは、インクとか羽根ペンとかじゃない?」

 どちらも消耗品だが、贈り物としては悪くはない。

「ふむ……。羽根ペンは、ありだな……」

 どちらかを選ぶとしたら、長く使える方がいい。
 ギルドで使われている物は、如何にも大人用。ミアの小さな手には、少々持て余す大きさだ。
 とは言え、子供の手にフィットするような小型の物が既製品にあるのかどうか……。
 意識したことはなかったが、雑貨屋などでは見かけなかった気がする。
 微妙なサイズの違いはあれど、あまりにも小さすぎる物は製品化前に弾かれている可能性が高いのではないだろうか……。

「羽根ペンのオーダーメイドを受けてくれる店なんてあるか?」

「探せばあるだろうけど、そう難しく考える必要はないんじゃない? ペン先を金属製にしたいってなら話は別だけど、素材さえあればハンドメイドは簡単よ? 羽根の根元をちょこっとナイフで整えてやるだけで、十分羽根ペンとして使えるわ」

「素材かぁ……」

 ミアの手にもジャストフィットするサイズの鳥の羽根……。
 パッと思い浮かぶ身近な鳥類といえば鶏だが、流石にそれでは味気ない。
 そもそも鶏の羽根が素材として使用できるのかどうかすらわからないのだ。
 こちらの世界に来るまでは羽根ペンを触ったことなど一度もない。当然そんな知識すら持ち合わせていないのである。

 そんなことに頭を悩ませながらも、ふと自分の胸元に視線を落とすと、胸の内ポケットから顔を覗かせるピーちゃんと目が合ってしまった。

「……オイ相棒! ナンデコッチヲ見ルンダヨッ!」

「いや、すまん。別に他意はないんだ」

「嘘ダッ! 絶対オレノ高貴デ美麗ナ羽根ヲ毟リ取ル気ダッタダロッ!?」

 まぁ、1ミリも考えなかったかと言うと嘘にはなるが、最終手段として候補に入れておこうと思っていたのは内緒である。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

処理中です...