生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第456話 キャロ最強説 

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 ネクロエンタープライズでの食事会は、恙無く終了した。
 最初の内はぎこちない感じでギクシャクとした空気感ではあったものの、ミアとキャロはそんな大人達の摩擦なぞ気にせず純粋に食事を楽しんでいた。
 そのおかげと言うべきか、最終的には穏やかな雰囲気の中、有意義な時間を過せたと言って良いのではないだろうか。
 もちろん慣れ合う為に一緒に食事をしたわけではない。これも情報収集の一環である。

 エルザとケシュアは、祖霊還御大祭それいかんぎょたいさいが終わるまでは、街に滞在する予定らしい。
 国からの補助金も含め、色々と面倒事を片付けなければならないのだと愚痴るエルザに、メリルは顔を引きつらせていた。
 俺と決闘したことも含め、組織に無断で動いていたのだ。終始口数が少なかったのは、この所為だろう。こってり絞られたに違いない。
 そんなメリルではあったが、獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップには出場する意欲を示していた。
 本調子ではないものの、皆が楽しみにしているのなら、応えてやるのが役目であると自負しているらしく流石は有名人と言うべきか、その志は立派だ。

 そして本題はここから。正直少しきな臭い話ではあるが、俺にとっては有益な情報。
 どうやら俺は、教会内部で死霊術の禁呪を行使しているのではないかと疑われているらしい。
 何処からか秘密が漏れたのか……。それとも誰かに目撃されていたか……。または、そのどちらでもない陰謀か……。
 アレックスとレナの結婚式でのこともある。ヴィルヘルムやローレンスからは恨まれていて当然。可能性は否定できない。
 この世界は、権力者が黒だと言えば白い物も黒く染まる。だからこそ目立つ行動は控えたかったのだが、結果はどうあれ自分の行動に後悔はしていない。

 最大の収穫は、ネクロガルドが黒き厄災と巫女の関係に興味を示さなかった事だろう。
 黒き厄災を間近で見た者の意見として、ほんのりと探りを入れてみたものの、その反応は薄かった。
 まぁ、セシリアの二の舞いは御免だと思っているのかもしれないが、予想外であったことは確かだ。

 ――――――――――

 それから数日、相も変わらずキャロは朝から俺達の部屋に入り浸っていた。
 いつもはワダツミやカガリとはしゃいでいるのに、今日はやけに静かなのが気になってベッドから上体を起こし様子を窺う。

「キャロは何を?」

「お手紙を書いてるの!」

 ワダツミに腰掛けながらも、器用にテーブルに向かい真剣な表情を崩さないキャロ。
 ミアはその隣で頬杖をつき、キャロを静かに見守っていた。

「へぇ……」

 興味のなさそうな返事をしておきながら、ついでに乾いた喉を潤そうと立ち上がり、テーブルの水差しに手を伸ばしつつ手紙の内容を盗み見る。
 それは、なんてことはないメリルに宛てた手紙だった。
 お世辞にも綺麗とは言い難いふにゃふにゃの文字だが、解読は安易。文字が巨大だからである。
 その内容は、祖霊還御大祭それいかんぎょたいさいを一緒に見て回ろうというお誘いの手紙。
 街をあげてのお祭りである。その賑わいは相当なもののようで、キャロの外出には八氏族評議会の皆が難色を示していた。
 巫女としてのキャロを狙っている輩が何処かに潜伏している可能性もなくはない。まだセシリアの捜索は続いているのだ。
 それでも駄々をこねるキャロを見かねて、俺の護衛付きならばと1日だけ猶予を与えられたのである。
 もちろんその日は決まっている。お祭りのメインイベントでもある獣従王選手権ブリーダーチャンピオンシップの決勝戦。お祭りの最終日だ。
 その日に合わせ、裏でも準備は着々と進んでいた。

「お祭り。楽しみだな」

「うん」

 キャロはその手を止め、俺を見上げながらも力強く頷く。
 そんな和やかな雰囲気の中、部屋の扉から聞こえたノックの音。
 いつものベッドメイキングの時間かと思ったのだが、そこに立っていたのは八氏族評議会、巨猪種オーク代表のバモス。

「失礼、九条殿はおられるか?」

 いつもは豪気な面構えのバモスが、今日はなんだか冴えない様子で声も小さく遠慮がち。
 その雰囲気から察せる不穏な空気。バモスは現在、セシリア捜索の責任者も務めている。
 俺の部屋を訪ねてくるくらいだ。恐らくは、それが上手くいっていないのだろう。
 無駄に表情を引き締め、断固手伝ってはなるものかという鋼の意思を見せつけるも、果たして効果があるのか否か……。

「実は捜索隊のことで少し相談なのだが……」

「何か問題でも?」

 正直どうしてもと言われれば、手伝うだろう可能性も視野には入れていた。
 本来であれば、さっさと依頼を済ませてコット村へと帰還し、ミアの誕生日を祝う準備をしなければならないのだ。
 しかし、見つからないからとこのまま捜索を続けていれば、メナブレアでの滞在期間が無駄に延びてしまうだけ。
 個人的には祖霊還御大祭それいかんぎょたいさいの終了後、即帰還が理想的な流れなのだが、俺達が帰った後に実はセシリアが生きていて……なんてことにもなりかねない為、少なくとも生死の確認はしておきたい。

「はい。捜索隊からの報告で、セシリアらしき痕跡は発見したようなのですがそこに姿はなく、血痕がスノーホワイトファーム所有の鉱山に続いていたと……」

「なるほど。やはりザナックとセシリアが裏で繋がっていたという事ですか?」

「ええ、恐らくは……。それで本題はここからなのですが、その捜索隊が鉱山で消息を絶ってしまったのです……」

 手負いのセシリアが冒険者の集団を……とは考えにくい。
 となると、その原因を突き止めてほしい――と言いたいのだろうが、まずは俺の所よりも先に行くところがあるはずだ。

「……それで? スノーホワイトファームの責任者はなんと?」

「ザナックは行方知れず。現在の責任者はサウロンという男なのですが、何とかするとだけ言い残し、弟子と従魔たちを連れ街を出て行ってしまったそうで……」

「ならば、問題ないのでは? サウロンが何とかしてくれるでしょう」

 捜索隊も消息を絶っただけで、全員無事の可能性だってある。なんとかする――という事は、サウロンは何が起こっているのか見当が付いているのだ。
 ならば、サウロンに期待するのも1つの手だろう。

「それは……確かにそうなのですが……」

 額に浮かぶ汗を一生懸命拭き取りながら、やや困った表情を見せるバモス。
 少々意地悪だっただろうか? それが楽観的過ぎる意見なことくらい、俺だって理解している。
 ザナックとセシリアが繋がっているならサウロンも――と、疑ってかかるのは当然だ。

「はぁ……。それで? 俺は何をすれば?」

 諦めの境地とでも言うべきか……。こんなことなら最初から捜索隊に加われば良かったと後悔しても、時すでに遅しだ。
 肩を落とし溜息をつく俺とは対照的に、影を落としていたバモスの表情が僅かに晴れる。

「サウロンの監視と、捜索隊の救助をお願いしたい。現場での判断は全て九条殿に一任します」

 その言い方から、抵抗されることも視野に入っていると見て間違いはないだろう。
 それよりも問題なのは、俺に向けられた2つの視線。そこから感じる無言の圧力は、俺にではなくバモスに向けてほしいものだ。

「まぁ、引き受けるのもやぶさかではないのですが、少々大きなハードルが……」

「わかっております。報酬の方は弾ませていただきますので……」

「いや、そうではなく……」

 歯切れの悪い返事をしながらも、俺が振り向いた先には2人の可憐な少女。
 俺がこの依頼を受けることになれば、お祭りの期間中に帰ってこれる保証はない。それが何を意味するのか、わからぬ者はいないだろう。
 バモスは、俺より先にミアとキャロを説得するべきなのである。

「お祭りに参加できないと、ディメンションウィング様が怒っちゃうかも……?」

「――ッ!?」

 もじもじと言い辛そうにしながらも、まさかの初手で王手を指すという暴挙に出たキャロ。もちろん俺は入れ知恵なぞ一切していない。
 それくらいお祭りに行きたい――という意思の表れなのだろうが、既にそれは脅しの域だ。
 まるで別人かと思うほどの傍若無人っぷりは、一体誰を真似たものなのか……。
 流石のバモスもぐうの音も出ず、言葉に詰まるその様子は失礼だとは思いつつも滑稽であった。
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