生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第452話 九条の魅力

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「モンドは席を外しなさい……」

 エルザの言葉に、ケシュアが縛っていたロープを解くと、モンドは全員に頭を下げ部屋を出て行った。
 遠慮がちに音もなく閉められた扉。それを見届け、エルザは大きく溜息をつく。

「さて、ここからが本題じゃ。まず現段階でお主が異界の者であるということ知っているのは、ワシとケシュア、そしてメリルだけだと言っておく。他の者は、可能性として知っているだけじゃと言っておこう」

 モンドに席を外させたのはそれを知らない為……。もしくは、俺が話しやすいようにとの配慮からか……。
 既にネクロガルドでは周知の事実だと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

「それで?」

「簡単な話じゃ。今まで探るような真似をして、すまなかったと言っておこうと思うてな」

「……俺から手を引く――って話じゃないんだろ?」

「もちろんじゃ。今のは、お主が勇者であるのかどうか――探りを入れていた事に対しての謝罪じゃよ。その力は、引き続き欲しておる。なんならケシュアとの間に授かった子供でも一向に構わんと言ったじゃろ?」

 その言葉に、恐ろしい速度で反応したのはミアである。

「おにーちゃん!? どういうこと!?」

 肩が外れるんじゃないかと思うほどの怪力で引っ張られる袖口。耳元であげられた声は、耳鳴りとなって余韻を残す。

「あー……」

 頬を膨らませ、見るからにご立腹のミア。
 ケシュアとの子供の件は断ったのだ。別に言う必要はないだろうと思っていたが、ここで暴露されるとは……。
 まさか、半裸のケシュアが迫って来て――とは、言えるわけがないだろう。

「簡単に言うと、俺の代わりに子供を寄こせって話だったんだが、既に断っているから大丈夫だ」

「でも、授かったって……」

 エルザの言葉を思い返し、その元凶を強く睨みつける。

「訂正しろババァ」

「イッヒッヒ……確かに今のはワシの言い方が悪かったの。あくまで授かったら――の話じゃ。まだケシュアのお腹には何も宿っておらんから安心せい」

「だから、勘違いさせるような言い方はするなっつってんだよ。俺は提案を受けただけで、その場で断ってる」

 それを聞いたミアはカガリをこれでもかと睨みつけ、カガリはカガリで気まずそうにしながらも、首を縦に振る。
 ホッとした表情を浮かべるミアに対し、ケシュアは耐えきれず吹き出す始末。
 一体誰の所為だと思っているのか……。

「ケシュアから聞いてるだろ? ネクロガルドに入るつもりもないし、子供を作るつもりもない。俺はてっきり、アモンの残した指輪を取りに来たのかと思ったんだが?」

 口ではそう言いつつも、実はそれを持って来ていないと知った時、エルザはどんな反応を見せるのか……。
 それが少々不安ではあるのだが、返ってきた答えは意外なもの。

「確かに探していた物ではある。じゃが、どちらかと言えば九条を引き抜く方が優先度は上。じゃから、それはお主が持っていてくれて構わん」

 予想とは違う答えに、困惑の色を隠せない。それは何も解決していないという事と同義だ。

「じ……じゃぁ、売り払っても文句はないな?」

「残念じゃが仕方なかろう。そもそも冒険者の規約では、第一発見者に所有権が認められる。ワシ等に口を出す権利はない。じゃから、ワシ等が買い戻しても文句は無しじゃぞ?」

「ぐっ……」

 頼みの綱であるカガリからの反応もなし。ということは、どうやら本当の事らしい。
 モテる男はつらいねぇ……。なんて、冗談を言っている場合ではない。
 ケシュアの反応から確実に取引材料になると確信していたのに、このざまだ。狼狽えるほどではないが、当てが外れれば不貞腐れもする。

「んだよ……。じゃぁ本当に謝罪しに来ただけなのか?」

「イッヒッヒ……まぁそう腐るでない。折角こうして集まったんじゃ。お互いの親睦を深める為、このまま座談会というのはどうじゃ? 老い先短いババァのお願いじゃ。ちょっとくらい聞いてくれても罰は当たらんじゃろうて」

 何故、入場料を払ってまでババァと合コンをしなければならないのか……。冗談も休み休み言え。

「なら、まずはお前達の存在意義から聞こうか? お前しか話せないんだろ?」

「そんなに知りたいのなら教えてやらなくもないが、オススメはせんぞ? 後悔先に立たずと言うじゃろ?」

 ワザとらしく浮かべられた不敵な笑み。それで脅しているつもりなら生温い。

「本当のところは、教えたくないだけなんじゃないか?」

「もちろん教えたくないとも。それを他言されるのは困るんじゃよ。お主も死霊術のことを口外されれば困るじゃろう?」

「じゃぁ、何故気が変わったんだ?」

「先程も言った通り、これまでの償いというのが1つ……。もう1つは、お主が勇者ではないと判断したから……。後は……まぁ、一種の賭けじゃな。もしかしたら、ワシ等の理念に共感したお主が仲間になってくれるやもしれんじゃろう?」

「期待するだけ無駄だぞ?」

「我が組織の命運が懸かっているのじゃ。少しくらい期待しても罰は当たらんじゃろうて。イッヒッヒ……」

 相変わらず気味の悪い引き笑い。この世界に魔女裁判があったのなら、真っ先に捕らえられるだろう怪しさだ。

「では、九条以外は部屋から出て行ってもらおうかの」

「何故だ? ミアが口外するとでも?」

「不確定要素は出来るだけ排除させてもらう……と、言いたいところじゃが、少し重い話になるからの。子供は聞かんほうがええ」

 俺に向けられたエルザの表情は酷く真剣だった。一瞬、シワだらけの顔が何十年も若返ってしまったかのような錯覚に陥り、目を擦る。
 何かを訴えかけているような気さえするその視線から逃げるように目を逸らすと、隣ではミアが俺を見上げていた。
 何処か不安気な表情を浮かべていたミア。俺はその頭を笑顔でぐりぐりと撫で回す。

「丁度いい。どうせだから遊んでおいで。ワダツミとカイエンは護衛を頼む」

「いいの?」

「ああ。部屋の外で待っていてもどうせ暇だろ? 入場料はしっかりと払ったんだ。元は取らないとな」

「じゃぁ行ってくる! 行こ? ワダツミ! カイエン!」

 不満の1つも言わず、嬉しそうに部屋を出て行くミアに、それを追いかける従魔達。
 この期に及んで嘘はつかないだろうが、カガリを残したのは念の為だ。

「ケシュアもミアの見張りを。従魔達が身動きできなくなったら困るじゃろうからな」

「ええ、わかったわ。エルザ婆をよろしくね、九条」

 そう言って、開けっ放しの扉からミア達を追いかけていくケシュア。
 よろしくと言われてもどうすればいいのか……。判断に困る。
 そんなことを考えながらも開けっ放しの扉をそっと閉めると、ケシュアの足音を最後に部屋はシンと静まり返った。
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