生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第445話 リアル美少女受肉おじさん

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 黒き厄災が飛び去ると、八氏族評議会での議論はとんとん拍子に話が進み、キャロが巫女の間だけ王宮にて保護される事となった。
 黒き厄災の再封印が確認され次第、晴れて自由の身という訳である。

「では、巫女様はこちらへ。お荷物は後程使用人に取りに行かせますので……」

「いえ、大丈夫です。それくらい自分で出来ますから」

「なりません。巫女様を狙う輩がいないとも限らない……」

 キャロを引き留めようとするアッシュの気持ちも当然なのだが、強く言い過ぎてもキャロの機嫌を損ねかねない為、慎重さが窺える。

「キャロが自分で行くって言うんだから好きにさせてあげなさいよ。それとも九条の従魔と私の護衛じゃ力不足だと?」

「滅相もありませんケシュア殿。そういうわけではないのですが……」

「大丈夫よ。荷物を纏めたらちゃんと送り返すわ。それよりも報酬は忘れないでよね?」

 困った様子を見せる八氏族の代表達であったが、結局はキャロの意見を尊重し、一旦宿へと帰ることになった。


 冷え切った王宮の廊下を、エントランスを目指し歩く2人と1匹。
 その間にも、ひっきりなしに聞こえてくる騎士や使用人達の声。短時間とは言え飛来したのは、黒き厄災と呼ばれる伝説級のドラゴンだ。
 その慌てぶりはまだ収まってはいないようで、窓から見える庭先は何処から出てきたのかと思うほど人で溢れていた。
 目に見える被害は、評議員室が破壊された事と庭に残る巨大な足跡くらいなものだが、その程度で済んでいるのも全ては巫女のおかげだ。

「随分と大事にしちゃってまぁ……」

「ケシュアおねーちゃんがセシリアさんに魔法をぶっ放したからでしょ! 本当は色々と説明してから穏便に呼び出すつもりだったのに……」

「あの鳥人間、きっと報酬も払わないつもりだったわよ? ビビらせてやるくらいで丁度いいのよ」

「鳥人間って……」

 セシリアの望み通り、キャロが黒き厄災を呼び出したのだ。当然ケシュアはセシリアに謝罪を要求し、セシリアもまた大人しく頭を下げた。
 その後、混沌樹カオスツリーフォームが解除されると、多少なりとも生命力を吸われた所為かセシリアは酔っ払いにも似た足取りで医務室へと向かったのである。

「そんなことより、キャロ。もう1回私の事呼んでみて?」

「なんで?」

「なんでも」

「……」

 不審者でも見るような目をケシュアに向けるキャロ。

「……ケシュアおねーちゃん?」

「うっひょぉ……ぞくぞくするぅ~」

 ワザとらしく身体をクネクネとさせるケシュアに、キャロはやっぱりといった様子で呆れたように溜息をつく。

「そんなことだろうと思った……」

「声は可愛いのに、九条におねーちゃんって言われてると思うとむず痒いのよね。ちょっと癖になりそうだわ」

「……せめて王宮を出るまでは黙ってろ」

 キャロがケシュアを睨みつけると同時に、カガリにも強く睨まれる。

「はいはい、すいませんね。人がいないことは確認してるから、そんなに怒んないでよ……」

 降参の意味を込めて両手を上げるケシュアに、再度溜息をつくキャロ。
 ケシュアの言う通り、現在キャロには九条の魂が憑依していた。九条が八氏族評議会に参加しなかった理由は、その中身がキャロだからだ。
 キャロが八氏族評議会を望み通りの展開になるよう誘導するには、少々荷が重すぎる。故に魂を交換し、九条がキャロを演じたのだ。
 黒き厄災がキャロを操り喋らせているよう見せかけたのも、全ては演技。巫女の重要性を暗に説いただけのことである。

「で? ピチピチの幼女になった感想は?」

「ニヤニヤと気持ち悪い奴だな……。想像よりずっと不便だよ」

「それだけ?」

「他に何があるんだよ……。視界は低すぎて不安だし、掴めると思って伸ばした手は届かない。滑舌も悪いし、何より魔力の総量が少なすぎる。頭痛で済んだのは奇跡だ……」

 九条がキャロに憑依したことで得た思わぬ収穫。それは、大人と子供の違いだけでは済まされないほどの魔力量の差を自覚出来たことだ。
 九条の魔力量が人の平均よりも多い事は、バルザックから魔法の手ほどきを受けた時に聞いてはいたが、魔力とは可視化出来るものではない。
 魔術師ウィザード魔法の矢マジックアローのような基準があるわけでもない為、その認識はザックリとしたものだった。
 それが他人の身体に身を置く事によって、初めて客観的な視点で自分を見ることが出来たのである。

 今回キャロと魂を交換するにあたり、まずキャロの身体から魂を抜き、九条の魂をキャロの身体に憑依させてから、九条の身体にキャロの魂を定着させるという順序をなぞった。
 死霊術の知識は魂に記憶されているが、魔力量や適性は身体に依存している。故に、その最終工程である九条の身体にキャロの魂を定着させる作業には、キャロの魔力を使わなければならないのだ。
 もちろんキャロは冒険者でもなく死霊術師ネクロマンサーでもないが、魔力さえあれば魔法は使える。それは剣の適性がなくとも、剣を振るう力があるなら使っているのと同じこと。
 とは言え、適性外の魔法は燃費が悪くて当然だ。キャロの身体では魂の拘束ソウルバインド1発が精一杯。
 九条から見れば、その魔力量はまさに雀の涙。主に物理系アンデッドと呼ばれるデスハウンドに憑依した時ですら、まだ幾らかの余裕があった。

「普通の魔術師なら、限界を知る為に1度は魔力欠乏症オーバーメモリーによる頭痛を経験するもんだけど、まさか他人の身体でそれを経験するってのも凄いわよね……」

「想定外だよ……。なにより、キャロにこの頭痛を味合わせるのは気が引ける……」

 本気で落ち込んだ様子を見せるキャロであったが、それを見てもケシュアのニヤニヤは止まらない。

「なんだよ……。言いたいことがあるならハッキリ言え」

「んふふ。じゃじゃーん。コレなーんだ?」

 そう言ってケシュアがポケットから取り出したのは、手のひらサイズの小瓶。
 歩調に合わせちゃぷちゃぷと波打つ薄紫色の液体は、駄菓子屋の味の薄いぶどうジュースを思わせる。

「……いくらだ?」

「は? お金なんて取らないわよ。私と九条の仲でしょ?」

「ダメだ。カネで解決してくれ。お前に借りを作りたくない。後々マナポーションをあげた代わりに――なんて恩着せがましく口出しされるのは御免だからな」

「……そんなに私が信用できない?」

「うん!」

 満面の笑みを浮かべ頷くキャロだが、その中身は九条だ。
 ケシュアは片目をピクピクと痙攣させながらもキャロの腕をガシッと掴むと、巫女装束の袖口にマナポーションを突っ込んだ。

「そんなこと言わないわよ! いいから黙って飲んでおきなさいッ!」

 そのまま走り去るケシュアに、キャロはマナポーションを握り締めながらもじっとりとした視線をケシュアの背中に向けていたのである。

「護衛……」
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