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第442話 巫女の帰還
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「無事にお戻りになられてなによりです九条さん。ケシュアさんも……」
メナブレアに帰ると、俺達を出迎えてくれたのはエドワード。その表情たるや、顔面蒼白。
ワダツミに頼み、ローゼスだけを爆速で帰したので何があったのかは報告を受けているはずである。
出迎えにエドワードを寄こしたのは、俺達をなだめる為――と、いったところか……。
魔物ならまだしも、俺達を襲ったのは獣人だ。最悪、国際問題に発展しかねない案件である。
「その話はまた後日。それよりも、ローゼスさんに頼んでいた物なのですが……」
「勿論、特急にてご用意させていただきました」
エドワードの目配せに合わせ、使用人が運んで来たのは一見豪華にも見える桐の箱。
肝心なのは外身ではなく中身なのだが、短い期間にこれだけの物を用意したのだ。それだけ重要視されているということなら、良い傾向である。
「ありがとうございます。それで、今後の予定は?」
「はい。本日は皆様の疲れを癒していただいて、後日八氏族評議会への出席をお願いします」
「わかりました。それまでキャロはこちらで預からせていただきますが、よろしいですか?」
「巫女様の扱いに関しては、ひとまず九条様に一任すると言う形で問題はありません」
宿に戻ると、先に帰っていたワダツミを撫でるのはミアに任せ、キャロの服を脱がせ始める。
「こう見ると、子供の着替えを手伝うお父さんって言うより、犯罪臭が凄いわね……」
ソファにもたれ掛かりながらも、疲れた様子で悪態をつくケシュア。
そんなことは言われずともわかっているし、もう慣れた。
ケシュアやミアに出来るのなら俺は手出しせず部屋を出て行くのだが、そうもいかない事情があるのだ。
「うるせーな。そんなことより、早く着替えを寄こせ」
溜息をつきながらも、ケシュアは先程エドワードから受け取った箱に手を掛けた。
白と赤。2種類の紐で結ばれたそれを紐解きそっと開けると、中身を取り出したケシュアは関心したような表情を見せる。
「へぇ……。確かに見たことないけど、これが九条の世界の民族衣装?」
「民族衣装というより、神に仕える者の制服みたいなもんだ」
それにはミアも興味津々。ケシュアが広げた白衣とは別に入っていた緋袴を広げ、感嘆の声を漏らす。
「はぇぇ……」
「どうやって着るのよ?」
「わからねぇなら俺以外に誰がキャロの着替えを手伝うんだよ……。御託はいいからさっさと寄越せ」
なんて偉そうな事を言ったものの、俺だって専門家ではないので詳しくはわからない。
仏前結婚式で使う白無垢や色打掛、本振袖なら少しはわかるのだが、まぁ似たようなものだろう。ソレっぽければいいのである。
「よし。こんなもんでどうだ?」
キャロに着せた服は、所謂巫女装束と言われる物。神道信仰系――簡単に言えば神社の巫女が着ている真っ赤な袴が特徴的な衣装である。
白衣の大きな袖口には、それを覆うような赤い刺繍。蝶々結びされた腰の帯は、適当が過ぎるが故に大きなリボンのようにも見え、色合いが違えば花魁のようにも見えてしまうのは、俺の巫女装束に対する知識が曖昧だからだ。
「わぁ……。すっごい可愛い!」
ミアに褒められたのが嬉しかったのか、キャロは自分の姿を見下ろしながらもその場でクルクルと回る。
出来れば可愛いより、神々しいという評価であったら尚よかったのだが……。
「帯が少し太過ぎたか……?」
俺は見慣れているが、この世界では誰も見たことがない服装。それだけで特別感が演出できる。
別に巫女装束に拘る必要はなかったのだが、目立っていればそれでいいのだ。キャロは、世界に1人しかいない黒き厄災の巫女なのだから。
恐らくは八氏族評議会もローゼスの報告は聞いている。その内容に対する評価は、半信半疑といったところだろう。
生贄だと伝わっていた伝承が間違いであったと。頭の硬そうな八氏族評議会の認識を変えるには、それだけのインパクトが必要だ。それには見た目も重要な要素なのである。
「巫女の事、お偉いさん達に言っちゃってよかったの?」
「ああ。巫女を信じてもらった方が、後処理が楽だからな」
ローゼスとケシュアには既に巫女の事は話してある。勿論、俺とファフナーとの関係は隠したうえでだ。
俺達は巫女の付き人として黒き厄災から認められ、獣人達の代表と交渉する立場なのである。
巫女の言葉は黒き厄災の意思であると獣人側に伝えるのがその使命――なのだが、それ自体にはそれほど深い意味はなく、本来の目的はキャロの安全を脅かすであろう俺達を襲った黒幕を合法的に炙り出すことだ。
「後は、コレだ」
俺が荷物の中から取り出したのは、ファフナーからひん剥いた竜鱗。
エドワードから借りた不完全な物ではなく、毟りたてホカホカの新品である。
見比べずともわかる艶はギラギラと怪しく輝いていて、欠けている部分なぞ一切ない。故にそのサイズはキャロの顔と同じくらい大きいな物。
「デッカ……。最早国宝級でしょ……」
「全てが上手くいけば、この鱗は俺達にくれるそうだ。その時はケシュアにやるよ」
「えっ!? いいの!?」
涎を啜り、薬でもキメているのかと疑いたくなるような眼差しで竜鱗を凝視するケシュア。
それだけの価値があるのだろう。カネは裏切らないとはよく言ったものである。
「ああ。俺には必要ない」
ファフナーの意思を無視すればこんなものいくらでも毟り取れるのだが、それでケシュアを買収出来るのなら安い物だ。
「さて……最終確認だが……。キャロ、本当にいいんだな? 今ならまだ間に合うぞ?」
キャロの両肩をガシッと掴み、その顔を真剣な眼差しで見つめる。
「痛くは……ないんだよね……?」
気恥しそうに視線を逸らすキャロ。その表情は何処か不安気だ。
「眩暈のような不快感を覚えるだけだとは思うが、正直試したのは数回だ……。出来るだけ身体への影響が少なくなるよう短時間で済ませるつもりだが、大丈夫だという保証はない」
「そっか……でも、私は平気! ママが、くじょーにぃにの言う事を聞いておけば大丈夫って言ったの。がんばるって約束したもん!」
両手で小さくガッツポーズをしながらも、無邪気な笑顔を見せるキャロ。その愛らしさたるや、最早言葉に出来やしない。
「……やっぱり、キャロはウチの娘に……」
「おにーちゃん!」
少々不機嫌そうなミアの声で我に返ると、俺は笑って誤魔化しキャロの頭を撫でるにとどめた。
「きっと上手くいく。俺がキャロの日常を取り戻してやるからな……」
「うん!」
メナブレアに帰ると、俺達を出迎えてくれたのはエドワード。その表情たるや、顔面蒼白。
ワダツミに頼み、ローゼスだけを爆速で帰したので何があったのかは報告を受けているはずである。
出迎えにエドワードを寄こしたのは、俺達をなだめる為――と、いったところか……。
魔物ならまだしも、俺達を襲ったのは獣人だ。最悪、国際問題に発展しかねない案件である。
「その話はまた後日。それよりも、ローゼスさんに頼んでいた物なのですが……」
「勿論、特急にてご用意させていただきました」
エドワードの目配せに合わせ、使用人が運んで来たのは一見豪華にも見える桐の箱。
肝心なのは外身ではなく中身なのだが、短い期間にこれだけの物を用意したのだ。それだけ重要視されているということなら、良い傾向である。
「ありがとうございます。それで、今後の予定は?」
「はい。本日は皆様の疲れを癒していただいて、後日八氏族評議会への出席をお願いします」
「わかりました。それまでキャロはこちらで預からせていただきますが、よろしいですか?」
「巫女様の扱いに関しては、ひとまず九条様に一任すると言う形で問題はありません」
宿に戻ると、先に帰っていたワダツミを撫でるのはミアに任せ、キャロの服を脱がせ始める。
「こう見ると、子供の着替えを手伝うお父さんって言うより、犯罪臭が凄いわね……」
ソファにもたれ掛かりながらも、疲れた様子で悪態をつくケシュア。
そんなことは言われずともわかっているし、もう慣れた。
ケシュアやミアに出来るのなら俺は手出しせず部屋を出て行くのだが、そうもいかない事情があるのだ。
「うるせーな。そんなことより、早く着替えを寄こせ」
溜息をつきながらも、ケシュアは先程エドワードから受け取った箱に手を掛けた。
白と赤。2種類の紐で結ばれたそれを紐解きそっと開けると、中身を取り出したケシュアは関心したような表情を見せる。
「へぇ……。確かに見たことないけど、これが九条の世界の民族衣装?」
「民族衣装というより、神に仕える者の制服みたいなもんだ」
それにはミアも興味津々。ケシュアが広げた白衣とは別に入っていた緋袴を広げ、感嘆の声を漏らす。
「はぇぇ……」
「どうやって着るのよ?」
「わからねぇなら俺以外に誰がキャロの着替えを手伝うんだよ……。御託はいいからさっさと寄越せ」
なんて偉そうな事を言ったものの、俺だって専門家ではないので詳しくはわからない。
仏前結婚式で使う白無垢や色打掛、本振袖なら少しはわかるのだが、まぁ似たようなものだろう。ソレっぽければいいのである。
「よし。こんなもんでどうだ?」
キャロに着せた服は、所謂巫女装束と言われる物。神道信仰系――簡単に言えば神社の巫女が着ている真っ赤な袴が特徴的な衣装である。
白衣の大きな袖口には、それを覆うような赤い刺繍。蝶々結びされた腰の帯は、適当が過ぎるが故に大きなリボンのようにも見え、色合いが違えば花魁のようにも見えてしまうのは、俺の巫女装束に対する知識が曖昧だからだ。
「わぁ……。すっごい可愛い!」
ミアに褒められたのが嬉しかったのか、キャロは自分の姿を見下ろしながらもその場でクルクルと回る。
出来れば可愛いより、神々しいという評価であったら尚よかったのだが……。
「帯が少し太過ぎたか……?」
俺は見慣れているが、この世界では誰も見たことがない服装。それだけで特別感が演出できる。
別に巫女装束に拘る必要はなかったのだが、目立っていればそれでいいのだ。キャロは、世界に1人しかいない黒き厄災の巫女なのだから。
恐らくは八氏族評議会もローゼスの報告は聞いている。その内容に対する評価は、半信半疑といったところだろう。
生贄だと伝わっていた伝承が間違いであったと。頭の硬そうな八氏族評議会の認識を変えるには、それだけのインパクトが必要だ。それには見た目も重要な要素なのである。
「巫女の事、お偉いさん達に言っちゃってよかったの?」
「ああ。巫女を信じてもらった方が、後処理が楽だからな」
ローゼスとケシュアには既に巫女の事は話してある。勿論、俺とファフナーとの関係は隠したうえでだ。
俺達は巫女の付き人として黒き厄災から認められ、獣人達の代表と交渉する立場なのである。
巫女の言葉は黒き厄災の意思であると獣人側に伝えるのがその使命――なのだが、それ自体にはそれほど深い意味はなく、本来の目的はキャロの安全を脅かすであろう俺達を襲った黒幕を合法的に炙り出すことだ。
「後は、コレだ」
俺が荷物の中から取り出したのは、ファフナーからひん剥いた竜鱗。
エドワードから借りた不完全な物ではなく、毟りたてホカホカの新品である。
見比べずともわかる艶はギラギラと怪しく輝いていて、欠けている部分なぞ一切ない。故にそのサイズはキャロの顔と同じくらい大きいな物。
「デッカ……。最早国宝級でしょ……」
「全てが上手くいけば、この鱗は俺達にくれるそうだ。その時はケシュアにやるよ」
「えっ!? いいの!?」
涎を啜り、薬でもキメているのかと疑いたくなるような眼差しで竜鱗を凝視するケシュア。
それだけの価値があるのだろう。カネは裏切らないとはよく言ったものである。
「ああ。俺には必要ない」
ファフナーの意思を無視すればこんなものいくらでも毟り取れるのだが、それでケシュアを買収出来るのなら安い物だ。
「さて……最終確認だが……。キャロ、本当にいいんだな? 今ならまだ間に合うぞ?」
キャロの両肩をガシッと掴み、その顔を真剣な眼差しで見つめる。
「痛くは……ないんだよね……?」
気恥しそうに視線を逸らすキャロ。その表情は何処か不安気だ。
「眩暈のような不快感を覚えるだけだとは思うが、正直試したのは数回だ……。出来るだけ身体への影響が少なくなるよう短時間で済ませるつもりだが、大丈夫だという保証はない」
「そっか……でも、私は平気! ママが、くじょーにぃにの言う事を聞いておけば大丈夫って言ったの。がんばるって約束したもん!」
両手で小さくガッツポーズをしながらも、無邪気な笑顔を見せるキャロ。その愛らしさたるや、最早言葉に出来やしない。
「……やっぱり、キャロはウチの娘に……」
「おにーちゃん!」
少々不機嫌そうなミアの声で我に返ると、俺は笑って誤魔化しキャロの頭を撫でるにとどめた。
「きっと上手くいく。俺がキャロの日常を取り戻してやるからな……」
「うん!」
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