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第419話 おいでよ! ネクプラ牧場!
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北国故か日没は早い。コット村であればまだ夕方といった時間帯だ。
3台の犬ぞりと1台の馬車が、雪の重みでたわんでしまった木々の隙間を走り続け、見えてきたのは大きな峡谷の入口。そこは予定していた休憩地点。
陽の光を受け、キラキラと輝いていた雪景色もひとまずはお預け。馬車を風よけにローゼスは焚き火を起こし、食事の準備。
「九条様。何から何まで申し訳ない。本来であればこちらの仕事なのですが……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。手分けしたほうが早く終わりますし、慣れてますから」
その間、俺達が何をしているのかというと、獣達の世話である。勿論従魔だけではなく、そりを引いていた犬達もだ。
ワダツミの要望により、ギルド専用飼料を犬達に分けてやってくれとの事で準備中。
いつの間にやら仲良くなった犬達とワダツミは、ミアを交えて辺りを駆け回っている。
ワダツミに疲れの色は見えず、一日中馬車の中で暇そうにしていたミアも、ここぞとばかりにパワフルに活動中。
それに比べてカイエンは、俺の隣で涎を啜るのに忙しい様子。欲望に忠実である。
「それよりも騒がしくないですか? ローゼスさん」
「何をおっしゃいます九条様。和やかで良いではありませんか。九条様と直接会うまでは、堅苦しい旅になるだろうと思っていましたが、いい意味で裏切られました」
笑顔で鍋をかき混ぜるローゼスに、ほんの少し安堵する。
傍から見ると、冒険者の野営というより家族キャンプといった雰囲気に、観光に来たんじゃない――と、一喝されても文句は言えない騒がしさだ。
焚き火を囲み暖を取る。食後の一服も早々に、真っ先に馬車へと戻っていくケシュア。その理由は勿論寒いからだろう。
そんな中、わざわざ外での食事にしたのは、獣人のルールに則ったまで。
犬ぞりを用いての野営では、犬達と一緒に食事をとるのが決まり事らしい。
俺達がそれに従う必要はなかったのだが、暖かい馬車の中でローゼスと犬達が黙々と食事をする風景を眺めているというのも、何か違う気がしたのだ。
「そういえば、ケシュア様はメリルと顔見知りのようでしたが……」
「え? ええ……そうみたいですね。自分が聞いた話では、過去何度かパーティを組んだことがあるとかで……」
「なるほど、そういう事でしたか。流石、冒険者ともなると顔が広いですな」
実はネクロガルドの――とは口が裂けても言えないので、聞かれた時の言い訳は既に考えている。所謂裏の……いや、この場合はケシュアの表の顔だ。
とは言え、色々と探られてボロを出してもいけないので、すぐに話題を切り替える。
「そういうローゼスさんは、メリルとはお知り合いで?」
「親密というわけではありません。獣従王選手権を2連覇している偉大なる獣達の主ですから有名なだけですよ。メリルを知らない者はメナブレアにはいないでしょう」
「魔獣使い? 獣使いではなく?」
「あぁ、いえ。適性ではありません。メナブレアで言うビーストマスターは『偉大なる獣達の主』という意味で、獣従王選手権の優勝者を称える称号のようなもの――と、お考え下さい。あくまでメリルは獣使いの頂点ということです」
「あぁ、そういう事でしたか」
魔獣使いが2人いるのかとも思ったが、どうやらただの勘違い。
しかし、謎は深まるばかりだ。それだけの有名人が、何故その地位を傷付けてまで決闘などと言い出したのか……。
その理由をと、喉まで出かかった声を押し留めたのは、俯き加減で視線を落とすローゼスに哀愁を覚え、躊躇してしまったから。
「ネクロエンタープライズの代表ともあろう者が、何故あのような事を……」
「……心当たりはないんですか?」
無言で首を横に振る。ローゼス自身も、信じられないのだろう。
獣従王選手権に入れ込んでいるだろう事は、話を聞いてわかっている。
その王者たる者が愚行を犯したのだ。余程の衝撃だったはず。
とは言え、俺がメリルと初めて邂逅したのは決闘を申し込まれた日。どんな人物像なのかは知る由もない。
「こんな事をローゼスさんに言うのもなんですが、今のところただのストリートファイター。もしくは、喧嘩屋といったイメージしかないんですが……」
「初めて会ってアレでは無理もないでしょう……。しかし、メリルは皆に愛される心優しき冒険者なんです……。それは、獣従王選手権の賞金を使い、ギルドから孤児院を買い取るほど……」
確かにそれだけ聞けば良い人だが、それが裏の顔を隠すだけの見せ掛けである可能性も考えられる。
人の心なぞ、誰にも分らないのだ。あの人に限って……なんて定番な台詞を良く耳にするが、それはただ騙されていただけに過ぎない。
現にメリルは、ネクロガルドという裏の顔を持っているのだから。
勿論そんなことを口には出来ないので、不自然にならないようにと気を配りながらも相槌を打つ。
「へぇ。そうなんですね」
「……」「……」
なんというか、気まずい雰囲気。聞いてしまった手前仕方のない事だが、ローゼスからの圧が凄まじい。
それは早くその理由を聞け――と、言わんばかり。メリルの誤解を解くチャンスだとでも思っているのかもしれない。
心を鬼にすればこのまま黙っていることは可能だが、俺の決断よりも早く口を開いたのはミアである。
「なんでメリルさんは、孤児院を買い取ったんですか?」
ミアはギルドの孤児院出身。こんな時まで空気を読む必要はないのだが、気になってしまったのだろう。
ローゼスは、よくぞ聞いてくださいましたとばかりに頬を緩めた。
「冒険者ギルドの経営が危うく、孤児院の運営権を売りに出してしまったからです。東のスノーホワイトファームと西のネクロエンタープライズは多くの獣使いを抱えていて、ギルドの依頼はその2つの組織が奪い合っていると言っても過言ではないでしょう。土地柄故に流れの冒険者も多くはなく、依頼が偏ってしまうのは言わずもがな……」
専門的な依頼が、全く来なくなってしまったのだろう。
獣使いに出来る仕事は全て取られ、それ以外が残される。
残った依頼を流れの冒険者が受ければいいのだろうが、立地故に人数は少なく、期限が切れればギルドに依頼料だけが吸われるシステム。
それを繰り返していれば、獣使いに出来ない依頼が来なくなるのは明白だ。
その影響で、流れの冒険者も更に来訪しなくなるという悪循環。経営難にも陥るはずである。
自業自得じゃん――などと言えば角が立つので言わないが、そうなる前に手を打てなかった両組織か、ギルド側の落ち度だろう。
そもそも孤児の為にとメリルが自腹を切ったのか、それともネクロガルドの経費で買い取ったのかは気になるところだ。
「それは大変ですね……」
当たり障りのない反応を返すも、勢いづいたローゼスは止まらない。
「そうだ。この調査を終えたら、九条様もネクロエンタープライズに足を運んでみてはいかがですか?」
その提案は、正直ご遠慮願いたい。そもそもネクロエンタープライズがネクロガルドの隠れ蓑であるなら、俺が歓迎されるのかは疑問である。
いや、どうだろう……。逆に大歓迎な可能性もなくはないが……。
「急に顔を出しても、相手に迷惑かもしれませんし……」
「いやいや、そんな事はありません! 是非足を伸ばしてみてください。なんだったら入場料はこちらでお支払い致しますので……」
「えっ!? 入場料を取るんですか!?」
「勿論ですよ。ネクロエンタープライズはレジャー施設としても営業していますので」
「レジャー施設!?」
ローゼス曰く、ネクロエンタープライズは獣使いの道場として切磋琢磨している反面。牧場を一般人にも開放していて、獣達とのふれあい体験や、獣使い初心者育成講習、犬ぞりの調教貸出など、幅広く営業しているらしい。
『動物は子供の心を育てるパートナー』をキャッチコピーに絶賛営業中とのことだが、名前のギャップがエグすぎる。
獣従王選手権の王者であるメリル人気も相まって、観光といえばネクプラ! ――と、言われるくらいには認知されているそうだ。
「モフモフアニマルビレッジみたいだね。おにーちゃん」
「そ……そうだな……」
とは言ったものの、本格的な牧場運営はコット村では真似できない。
メリルはプラチナプレート冒険者でありながら、一流の経営者でもあるということだ。
残念ながら俺にはそんな才能はなく、仮令出来たとしても忙しいのは御免である。
「ちょっと行ってみたいかも……」
「――ッ!?」
まさかミアからそんな言葉が出るとは思わなかった。
ネクロエンタープライズが、ネクロガルドの関連施設であることは知っているはずなのだが……。
「メリルさんはいないんだし、大丈夫じゃないかな?」
「そうかぁ?」
買い取られたという孤児院が気になるのか、ただ息抜きが必要なだけなのか……。正直言って気乗りはしない。
ネクロガルド抜きなら、確かに興味の惹かれる施設ではある。
所謂牧場体験型のテーマパーク。搾りたてのミルク、それを使ったアイスクリームに乳しぼり体験など、都会の子供ならその珍しさ故に喜んで飛びつくだろう事請け合いだが、別にコット村ではいつもの事だ。
恐らくは牛かヤギかの違いなだけ。獣達とも24時間ふれあっているし、目新しい事と言えば獣使いの道場くらいなものだが……。
「ミア様はお目が高い! 是非そうなさるとよいでしょう! どうです九条様? ミア様の為に一肌脱がれては……。そうだ! 我々が護衛の兵をお付け致しましょう」
「いえ、そこまでしてもらわなくとも……」
勢いを増すローゼスに、物欲しそうな目で俺を見つめるミア。
そんな小動物のような瞳で訴えられたら、断れるものも断れない。
「……まぁ、ミアがそこまで言うなら……」
「やったぁ!」
どうしたものかと溜息をつく俺。とは言え、ミアの言う通りメリルがいなければ大丈夫だろうとは思う。
メリルの部下が襲って来る気配は今のところないようだし、逆に護衛を付けられた方が動き辛い事この上ない。
そう、これはケシュアの監視なのだ。調査が終われば、エルザとの連絡を取りにケシュアがネクロエンタープライズに足を運ぶことになるはず。
所謂ついで――。敵情視察だと思えば、そう悪い事ではないのかもしれない……。
3台の犬ぞりと1台の馬車が、雪の重みでたわんでしまった木々の隙間を走り続け、見えてきたのは大きな峡谷の入口。そこは予定していた休憩地点。
陽の光を受け、キラキラと輝いていた雪景色もひとまずはお預け。馬車を風よけにローゼスは焚き火を起こし、食事の準備。
「九条様。何から何まで申し訳ない。本来であればこちらの仕事なのですが……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。手分けしたほうが早く終わりますし、慣れてますから」
その間、俺達が何をしているのかというと、獣達の世話である。勿論従魔だけではなく、そりを引いていた犬達もだ。
ワダツミの要望により、ギルド専用飼料を犬達に分けてやってくれとの事で準備中。
いつの間にやら仲良くなった犬達とワダツミは、ミアを交えて辺りを駆け回っている。
ワダツミに疲れの色は見えず、一日中馬車の中で暇そうにしていたミアも、ここぞとばかりにパワフルに活動中。
それに比べてカイエンは、俺の隣で涎を啜るのに忙しい様子。欲望に忠実である。
「それよりも騒がしくないですか? ローゼスさん」
「何をおっしゃいます九条様。和やかで良いではありませんか。九条様と直接会うまでは、堅苦しい旅になるだろうと思っていましたが、いい意味で裏切られました」
笑顔で鍋をかき混ぜるローゼスに、ほんの少し安堵する。
傍から見ると、冒険者の野営というより家族キャンプといった雰囲気に、観光に来たんじゃない――と、一喝されても文句は言えない騒がしさだ。
焚き火を囲み暖を取る。食後の一服も早々に、真っ先に馬車へと戻っていくケシュア。その理由は勿論寒いからだろう。
そんな中、わざわざ外での食事にしたのは、獣人のルールに則ったまで。
犬ぞりを用いての野営では、犬達と一緒に食事をとるのが決まり事らしい。
俺達がそれに従う必要はなかったのだが、暖かい馬車の中でローゼスと犬達が黙々と食事をする風景を眺めているというのも、何か違う気がしたのだ。
「そういえば、ケシュア様はメリルと顔見知りのようでしたが……」
「え? ええ……そうみたいですね。自分が聞いた話では、過去何度かパーティを組んだことがあるとかで……」
「なるほど、そういう事でしたか。流石、冒険者ともなると顔が広いですな」
実はネクロガルドの――とは口が裂けても言えないので、聞かれた時の言い訳は既に考えている。所謂裏の……いや、この場合はケシュアの表の顔だ。
とは言え、色々と探られてボロを出してもいけないので、すぐに話題を切り替える。
「そういうローゼスさんは、メリルとはお知り合いで?」
「親密というわけではありません。獣従王選手権を2連覇している偉大なる獣達の主ですから有名なだけですよ。メリルを知らない者はメナブレアにはいないでしょう」
「魔獣使い? 獣使いではなく?」
「あぁ、いえ。適性ではありません。メナブレアで言うビーストマスターは『偉大なる獣達の主』という意味で、獣従王選手権の優勝者を称える称号のようなもの――と、お考え下さい。あくまでメリルは獣使いの頂点ということです」
「あぁ、そういう事でしたか」
魔獣使いが2人いるのかとも思ったが、どうやらただの勘違い。
しかし、謎は深まるばかりだ。それだけの有名人が、何故その地位を傷付けてまで決闘などと言い出したのか……。
その理由をと、喉まで出かかった声を押し留めたのは、俯き加減で視線を落とすローゼスに哀愁を覚え、躊躇してしまったから。
「ネクロエンタープライズの代表ともあろう者が、何故あのような事を……」
「……心当たりはないんですか?」
無言で首を横に振る。ローゼス自身も、信じられないのだろう。
獣従王選手権に入れ込んでいるだろう事は、話を聞いてわかっている。
その王者たる者が愚行を犯したのだ。余程の衝撃だったはず。
とは言え、俺がメリルと初めて邂逅したのは決闘を申し込まれた日。どんな人物像なのかは知る由もない。
「こんな事をローゼスさんに言うのもなんですが、今のところただのストリートファイター。もしくは、喧嘩屋といったイメージしかないんですが……」
「初めて会ってアレでは無理もないでしょう……。しかし、メリルは皆に愛される心優しき冒険者なんです……。それは、獣従王選手権の賞金を使い、ギルドから孤児院を買い取るほど……」
確かにそれだけ聞けば良い人だが、それが裏の顔を隠すだけの見せ掛けである可能性も考えられる。
人の心なぞ、誰にも分らないのだ。あの人に限って……なんて定番な台詞を良く耳にするが、それはただ騙されていただけに過ぎない。
現にメリルは、ネクロガルドという裏の顔を持っているのだから。
勿論そんなことを口には出来ないので、不自然にならないようにと気を配りながらも相槌を打つ。
「へぇ。そうなんですね」
「……」「……」
なんというか、気まずい雰囲気。聞いてしまった手前仕方のない事だが、ローゼスからの圧が凄まじい。
それは早くその理由を聞け――と、言わんばかり。メリルの誤解を解くチャンスだとでも思っているのかもしれない。
心を鬼にすればこのまま黙っていることは可能だが、俺の決断よりも早く口を開いたのはミアである。
「なんでメリルさんは、孤児院を買い取ったんですか?」
ミアはギルドの孤児院出身。こんな時まで空気を読む必要はないのだが、気になってしまったのだろう。
ローゼスは、よくぞ聞いてくださいましたとばかりに頬を緩めた。
「冒険者ギルドの経営が危うく、孤児院の運営権を売りに出してしまったからです。東のスノーホワイトファームと西のネクロエンタープライズは多くの獣使いを抱えていて、ギルドの依頼はその2つの組織が奪い合っていると言っても過言ではないでしょう。土地柄故に流れの冒険者も多くはなく、依頼が偏ってしまうのは言わずもがな……」
専門的な依頼が、全く来なくなってしまったのだろう。
獣使いに出来る仕事は全て取られ、それ以外が残される。
残った依頼を流れの冒険者が受ければいいのだろうが、立地故に人数は少なく、期限が切れればギルドに依頼料だけが吸われるシステム。
それを繰り返していれば、獣使いに出来ない依頼が来なくなるのは明白だ。
その影響で、流れの冒険者も更に来訪しなくなるという悪循環。経営難にも陥るはずである。
自業自得じゃん――などと言えば角が立つので言わないが、そうなる前に手を打てなかった両組織か、ギルド側の落ち度だろう。
そもそも孤児の為にとメリルが自腹を切ったのか、それともネクロガルドの経費で買い取ったのかは気になるところだ。
「それは大変ですね……」
当たり障りのない反応を返すも、勢いづいたローゼスは止まらない。
「そうだ。この調査を終えたら、九条様もネクロエンタープライズに足を運んでみてはいかがですか?」
その提案は、正直ご遠慮願いたい。そもそもネクロエンタープライズがネクロガルドの隠れ蓑であるなら、俺が歓迎されるのかは疑問である。
いや、どうだろう……。逆に大歓迎な可能性もなくはないが……。
「急に顔を出しても、相手に迷惑かもしれませんし……」
「いやいや、そんな事はありません! 是非足を伸ばしてみてください。なんだったら入場料はこちらでお支払い致しますので……」
「えっ!? 入場料を取るんですか!?」
「勿論ですよ。ネクロエンタープライズはレジャー施設としても営業していますので」
「レジャー施設!?」
ローゼス曰く、ネクロエンタープライズは獣使いの道場として切磋琢磨している反面。牧場を一般人にも開放していて、獣達とのふれあい体験や、獣使い初心者育成講習、犬ぞりの調教貸出など、幅広く営業しているらしい。
『動物は子供の心を育てるパートナー』をキャッチコピーに絶賛営業中とのことだが、名前のギャップがエグすぎる。
獣従王選手権の王者であるメリル人気も相まって、観光といえばネクプラ! ――と、言われるくらいには認知されているそうだ。
「モフモフアニマルビレッジみたいだね。おにーちゃん」
「そ……そうだな……」
とは言ったものの、本格的な牧場運営はコット村では真似できない。
メリルはプラチナプレート冒険者でありながら、一流の経営者でもあるということだ。
残念ながら俺にはそんな才能はなく、仮令出来たとしても忙しいのは御免である。
「ちょっと行ってみたいかも……」
「――ッ!?」
まさかミアからそんな言葉が出るとは思わなかった。
ネクロエンタープライズが、ネクロガルドの関連施設であることは知っているはずなのだが……。
「メリルさんはいないんだし、大丈夫じゃないかな?」
「そうかぁ?」
買い取られたという孤児院が気になるのか、ただ息抜きが必要なだけなのか……。正直言って気乗りはしない。
ネクロガルド抜きなら、確かに興味の惹かれる施設ではある。
所謂牧場体験型のテーマパーク。搾りたてのミルク、それを使ったアイスクリームに乳しぼり体験など、都会の子供ならその珍しさ故に喜んで飛びつくだろう事請け合いだが、別にコット村ではいつもの事だ。
恐らくは牛かヤギかの違いなだけ。獣達とも24時間ふれあっているし、目新しい事と言えば獣使いの道場くらいなものだが……。
「ミア様はお目が高い! 是非そうなさるとよいでしょう! どうです九条様? ミア様の為に一肌脱がれては……。そうだ! 我々が護衛の兵をお付け致しましょう」
「いえ、そこまでしてもらわなくとも……」
勢いを増すローゼスに、物欲しそうな目で俺を見つめるミア。
そんな小動物のような瞳で訴えられたら、断れるものも断れない。
「……まぁ、ミアがそこまで言うなら……」
「やったぁ!」
どうしたものかと溜息をつく俺。とは言え、ミアの言う通りメリルがいなければ大丈夫だろうとは思う。
メリルの部下が襲って来る気配は今のところないようだし、逆に護衛を付けられた方が動き辛い事この上ない。
そう、これはケシュアの監視なのだ。調査が終われば、エルザとの連絡を取りにケシュアがネクロエンタープライズに足を運ぶことになるはず。
所謂ついで――。敵情視察だと思えば、そう悪い事ではないのかもしれない……。
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