生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第396話 レゾンデートル

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 俺達が話を終えた頃、ブルーグリズリーは気持ちの整理がついたのか、ソワソワと落ち着かない様子を見せていた。

「すまなかった。お前達のおかげで随分と楽になった。この事を仲間に周知させておきたいのだが、構わんだろうか?」

「ああ。好きにしろ」

「ありがとう。……ついでにもう1つ聞いておきたいのだが、アモンが戻って来る可能性は……」

 それは俺にもわかりかねる。ふとフードルに視線を向けると、その表情は難しい。
 恐らくなんとなくはブルーグリズリーの言いたいことを理解しているのだろう。

「アモンが帰って来る可能性はあるのかと聞かれているんだが……」

「うーむ……。可能性はなくはない。だが、よほどのことがない限り戻ってはこんじゃろうなぁ……。魔界との転移に膨大な魔力を消費するのは知っておるじゃろ? 魔界からこちらへ飛ぼうとすれば、体内に残された魔力はほぼ空の状態。ダンジョンハートにエーテルが残っていれば、急速に回復も出来ようが……。尾からの供給では、満足に動けるようになるまで時間がかかる。その間は無防備の状態じゃ。最悪転移先で待ち伏せに合うかもしれないとなると、そこまでのリスクは犯さんと思うが……」

「俺がこれに魔力を注いでも変わらないか?」

「うむ。あっちからダンジョンハートの残量は確認出来んからな。殆ど意味はないじゃろう。世界樹に吸われて終わりじゃよ」

「なら、俺のダンジョンに転移してくれば……」

「無茶を言うな。それを誰が言いにいく? たとえ伝わったとしても何処にでも転移出来るわけではない。ワシ等はダンジョンハートに触れることで場所を記憶している。曖昧な状態で転移しようものなら、龍脈に飲まれ二度と実体化はできんじゃろう」

「そうだったのか……」

 結局はこちら側でどうこうできる話ではないという事だ。助けてやりたいのは山々だが、出来ることは待つことだけ。
 フードルとのやり取りをそのまま伝えると、ブルーグリズリーは意外にも素直に受け入れた。

「いや、それが知れただけでも十分満足している。可能性がゼロでないだけマシだ。気長に待つとするさ」

「そのことなんだが……、少し難しいかもしれん」

 恐らくこの先ブルーグリズリー達はアモンを待つ為、このダンジョンをねぐらとして使うだろう。
 だが、未発見のダンジョンがここに存在すると知れたら、ギルドが攻略に乗り出すことは確実。そうなればもちろんブルーグリズリー達もただでは済まないだろう。
 いや、最も警戒するべきはネクロガルドなのかもしれないが、だからこそ今のうちにどうにか出来ないかと思案していたのだ。

「お前達の安全の為、ここの出入口は塞いでおく必要がある。ダンジョンの存在が明るみに出れば、人間が押し寄せてくるはずだ」

「待ってくれ! 俺達には待つことも許されないのか!?」

「人間達にダンジョンハートを破壊されれば、アモンの帰る場所さえなくなるんだぞ?」

「た……確かにそうだが……。俺達がここを守護すれば……」

 そこまで言って口を噤んだのは、人間にも強者がいるのだという事を学んだからだろう。
 そんなブルーグリズリーに、容赦なく追い打ちをかけたのはフードルだ。

「まぁ、九条の言う通りじゃな。ここは封鎖してしまうのが良かろう」

「くッ……」

 諦めきれないのか、歯を強く食いしばるブルーグリズリーであったが、それはただの早合点。

「何も諦めろとは言うておらんじゃろ? 何を勘違いしておるのか知らんが、ワシが暗号を残せばよいだけ。魔力が溜まれば勝手に土砂を取り除いて出てくるじゃろうて」

「それだ!」

 むしろそれ以外の策は考えられず、あまりの名案ぶりに上擦った声が出てしまったほど。
 残されていた暗号の近くに新たな暗号が刻まれていれば、気付かないはずがない。

「よかったな。これで万事解決だ」

「ああ。お前達には感謝しかない……ありがとう友よ!」

 そう言って立ち上がると、手を大きく広げるブルーグリズリー。
 そのままの体勢で迫って来れば、それが何を意味しているのかはすぐに理解出来る。

「ストップ! 待て! 殺す気かッ!?」

 友達認定は100歩譲っていいとしても、軽く2メートルは超えるであろう身長の熊が覆い被さって来るのだ。筋肉ムキムキのマッチョマンならいざ知らず、中年とはいかないまでも自堕落な生活を送っている俺にそれを支え切れるわけがない。
 感謝の気持ちを込めたハグのつもりなのだろうが、こちらからすれば最早ただのサバ折りである。
 すんでのところでそれを躱すと、丁度隣に来たミアが俺のローブを掴み、くいくいと軽く引っ張った。

「まだ問題は残ってるでしょ? おにーちゃん」

「ん? あぁ、そうだったな」

 ――――――――――

 壁に残されていた文字の下に、新たな暗号を刻んでいくフードル。指先から出る圧縮された魔力が壁面を削っていく作業が珍しいのか、ミアはそれに目を奪われていた。
 俺はと言うと、ダンジョンの崩せそうな場所を探し彷徨い歩く。
 ざっとだが、ダンジョンの全容は理解した。108番よりも規模は小さいが、それを補って有り余るほど強靭な外壁。
 継ぎ目の少ないコンクリートの大きな四角いパイプの中にいる感覚。
 ダンジョンハートへと続く道だけが、日本の都市に張り巡らされている地下下水道のような佇まいだ。

「やっぱり出入口を崩すのが確実か……」

 崩落を起こすこと自体は簡単だ。金剛杵を地面に突きつけ地震を起こせばいいだけ……。だが、問題はその威力である。
 強すぎればダンジョンハートごと……なんてこともあり得る為、慎重を期さなければならない。
 ならば、ここはプロに聞くのが得策だろう。

「108番。聞こえるか?」

(……はぁい。何かありましたかぁ?)

 頭の中に直接響く声の主は、俺のダンジョンを管理している108番。

「そこから東にダンジョンがあると思うんだが……」

(随分とざっくりですね……。いくつかありますけど……)

「一番近い場所は?」

(でしたら107番でしょう。もしかして107番にいらっしゃるのですか? 先程フードルさんが一瞬帰って来たのもそこから?)

「そうだ。それで聞きたいんだが、人間から107番を守る為にワザと崩落を起こしたいんだ。弱点というか……設計上弱くなっている部分はないか?」

(うーん。107番は強固ですからねぇ……。封印の扉より奥は少し難しいかと……)

「なんでこんなに頑丈なんだ?」

(105、106、107番は108番を守る為に作られたデコイなんですよ。人間や世界樹の目を欺く為とでも言いましょうか……。ダンジョンを作ると言っても一瞬でパッと出来るわけではないので、108番の周りにそれらを配置することで完成までの時間を稼いだんです)

 なるほど。それがダンジョンハートの中身が空でも、長い間崩落を免れていた理由であるなら納得である。

「そうか。ついでにもう1つ聞きたいんだが、魔界から特定の魔族を呼ぶことは可能か?」

 フードルの言うことを疑っている訳ではない。ただ、管理者と呼ばれる者であれば、何か別の方法を知っていてもおかしくはないと考えたからだが……。

(出来ますよ? 誰かが魔界に行って呼んで来れば……)

「……出来ないならそう言え……」

 期待外れも甚だしい。いや、108番に押し付けるつもりはなかったのだが、その答えは暗に俺に行けと言っているのと同じ事。

「聞きたかったことはそれだけだ。……あーいや、今度デメちゃんについて色々と聞かせてもらうかもしれんから、そのつもりでいてくれ」

(はぁい……)

 108番の不貞腐れた様子の返事を最後に、その声は聞こえなくなった。
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