生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
上 下
394 / 633

第394話 放置と放棄

しおりを挟む
 最下層までの道のりは順調であった。先程と同じように先を行くフードルの後をついて行く。
 ダンジョンハートが空になってからどれだけの月日が経っているのかは不明だが、少なくとも5年近く埋まっていたダンジョンだ。
 所々が崩れているのは、エーテルが枯渇しダンジョンが脆くなったからだろう。そう考えれば入口の崩落もおかしなことではない。
 それでも迷うことなく歩みを進められるのは、フードルが魔力の匂いとやらを辿っているから。
 まるで地元だと言わんばかりの足取りは軽く、頼もしさの塊である。

「おにーちゃん。下ばっかり見てると危ないよ?」

「ああ。大丈夫だ」

 階層としては地下6階と言ったところか。岩肌剥き出しの洞窟ではなく、ブロックの壁に囲まれた正方形に近い部屋。そのど真ん中にダンジョンハートは鎮座していた。
 破損が見られないのは不幸中の幸いだが、俺のダンジョンの物と比べると随分と小さく、案の定と言うべきかその中身は空であり湿り気すら帯びていない。
 その隣には壁に寄りかかるように座り俯くブルーグリズリー。視線を落とし意気消沈しているのは、探し人が見つからなかったからだ。

「……可能性として考えなかった訳じゃないが、魔族とは言え死には逆らえぬのだろう……。折角手伝ってもらったのに……すまない……」

 まさに諦めの境地といった状態に、どう声を掛けてやればいいのか判断に迷うところではある。
 少なくとも最悪の事態は免れているのだが……。

「だが、本当に魔族はここに住んでいたんだ! 嘘なんかじゃない! アモンという名の女性で……」

「待て待て。大丈夫だ。疑ってなんかいない」

 探してもその痕跡は見つからない。故に魔族の存在を疑問視されるのではないかと考えたのだろう。
 必死に言い訳をするブルーグリズリーはあまりにも不憫であり、その傷心を少しでも癒すことが出来ればと本当の事を教えてやることにした。

「そのアモンという魔族は死んでいない。恐らくだが魔界に帰ったんだ」

「……何故そう思う? 確かに知恵比べでは人間に勝てぬとわかってはいるが、嘘をついてまで慰めてくれなくて結構だ」

「そう卑屈になるな。嘘じゃない。現にここまでアモンの遺体はなかっただろう? 死んでいたら骨くらい残っていてもいいはずじゃないか」

「確かにそうだが、出入口が塞がれた状態でどうやって魔界に帰ったと言うのだ。新たな出口なぞなかったというのに……」

「ここにあるんだよ。なぁフードル?」

「うむ」

 俺が指差したのは、空っぽのダンジョンハート。その形状はどう考えても出入口には見えず、贔屓目に見てもただの巨大なガラス瓶の出来損ない。

「この透明の筒が出口……だと?」

「ああ。魔族だけが使える通路? みたいなもんかな……。見せてやってくれフードル」

「うむ。ただ消えただけではない証拠に何か持ってこよう。何がいい?」

「そうだな……。じゃぁメイスを持って来てくれ。どれくらいかかる?」

「宝物庫から拝借するだけじゃからの。3分もあれば十分じゃわい」

 そんな俺とのやり取りを見ていたブルーグリズリーは、警戒の色を含ませた視線を向ける。

「何をするつもりだ?」

「今からこのフードルが、俺のダンジョンに戻ってメイスを持って帰って来る。デュラハンが持っていたヤツだ」

「そんなこと出来るわけ……」

「まぁ、見てろって」

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる俺とフードル。ブルーグリズリーの驚く顔が見れると思うと、口角が上がってしまうのも仕方のない事である。

「じゃぁ、行ってくる」

 そう言ってフードルがダンジョンハートに触れた瞬間だった。
 何か呪文のようなものでも唱えるのかと思えばそんなことはなく、瞬時にその姿が消えたのである。

「き……消えたッ!?」

 予想通りの反応を見せるブルーグリズリー。そこにいないことを確かめる為か、フードルのいた場所で手を泳がせる。

「あまり近づくなよ? フードルが帰ってきたらぶつかるぞ」

 その声が聞こえているのかいないのか、ブルーグリズリーの手がダンジョンハートに触れようとした瞬間、ダンジョンハートが僅かに輝きフードルが姿を現した。

「あらよっと……」

 江戸っ子のような掛け声と共に地面に着地したフードル。その手には先程まで持っていなかった俺の下着付きメイスが握られていたのだ。
 時間にしておよそ30秒。正直言って早すぎる。3分という話はどこに行ったのか……。
 恐らくだが俺のダンジョンへと転移した瞬間、ダッシュでメイスを取りに行ったのだろう。それを想像すると笑いが込み上げてくるが、その努力はありがたい。

「ふむ。久しぶりの感覚じゃったわい」

「おぉー……」

 目を皿のようにして驚きながらも、フードルを見上げパチパチと拍手するミア。
 初めて手品を見た子供のようで可愛らしい事この上ないが、それは俺も同様だ。
 すげぇな! と、はしゃぎたい気持ちをグッと抑え、素知らぬ顔で当たり前だと言わんばかりに振舞って見せる。

「どうだ? まだ信用出来ないか?」

「あ……あり得ん……」

 わなわなと打ち震えながらも目を見開くブルーグリズリー。得意気な表情のフードルに向けているのは尊敬のまなざし……と言うより、奇異の目と言ったところか……。
 思った通りに驚いてくれたので、こちらとしても大変満足である。

「今ので死んでいないことはわかっただろう? 残された選択肢は2つ。他のダンジョンに転移したのか、魔界に帰ったのかなんだよ」

「確率的には魔界に帰った可能性の方が圧倒的じゃ。恐らく生きているダンジョンは限りなく少ない。それを知っているとは思えんし、あったとしても枯れ果てるのは目に見えておるからの」

「……そうか……。少し……考える時間をくれ……。昨日今日と驚く事ばかりで頭が追い付かん……」

 アモンが生きていると知り安堵しているのか、それともいなくなってしまった事を憂いているのか……。
 先程とは打って変わって、何処か寂し気な表情でダンジョンハートを見上げるブルーグリズリー。
 気持ちを整理する時間も必要なのだろう。今はそっとしておこうと、俺は皆を連れて部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...