生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
上 下
382 / 637

第382話 占いの館

しおりを挟む
「ここからが本題よ。九条に聞いておかなきゃならないことがあるの」

 ネストがテーブルの上で両手を組み真剣な面持ちで身を乗り出すと、艶やかな赤髪が肩から胸元へと垂れ下がる。
 ランタンの光がネストの顔に影を作り、俺の目にはそれがより一層妖艶に見えた。

「え? なんですか急に改まって……」

「ニールセン公の事なんだけど……」

「あぁ。俺も気になってたんですよ。その後どうなりました? フェルス砦の再建は順調ですか?」

 聞かれるだろうとは思っていた。なので、白を切る準備は万端である。
 不自然に見えないよう振舞ったつもりなのだが、ネストは明らかに俺に疑いの目を向けていたのだ。

「本当に知らないの?」

「知らないから聞いてるんでしょう。俺は帰ってきてからずっと村から出てませんよ?」

 自分では自然を装っていても、他から見ればわざとらしく見えるのかもしれない。
 そんな俺に対して苛立ちを覚えたのかネストは諦めにも似た溜息をつくと、少々不機嫌そうに眉をひそめた。

「はぁ……。あの後、ニールセン公はアップグルント騎士団を率いて砦の防衛作戦を敢行したの。兵力差は圧倒的に不利。にも拘らず自軍の血を一滴たりとも流すことなく勝利した。……一体何故だと思う?」

「さぁ? ……不戦勝とかですか?」

「いいえ。黒き厄災と呼ばれるドラゴンがシルトフリューゲル軍に壊滅的打撃を与えたからよ」

「へぇ。そんなこともあるんですねぇ……」

「「……」」

 向けられた視線を逸らさぬようにと必死に耐える。
 すっきりとシャープに整った顔立ちをしたネストは、絶世……とはいかないまでも誰もが放ってはおかないであろう美女である。
 そんな美女に見つめられるのは大変喜ばしい事なのだが、状況が状況なだけに複雑な心境だ。
 ネストの言いたいことは大体わかる。そのドラゴンが俺と何か関係あるのではないかと疑っているのだろう。
 ニールセン公から占いの事を聞いていれば、そこに行き着くだろう事は想定済み。
 だが、それは疑いでしかなく、確証は得られていないはずだ。
 想定外だったのは、黒き厄災と呼ばれる古代種であることが知られていたことではあるが……。

 僅かな動揺を悟られまいと、平常を装うことに全力を尽くす俺。そんな状況に終止符を打ったのは、他でもないミアである。

「ぶっぶー! 時間切れでーす」

 その言葉と共に2人の視界を遮ったのは、お茶を運んだ時に使っていた木製のトレイだ。

「モフモフ団の規約により、おにーちゃんと見つめ合えるのは10秒まで! それ以上は好きになっちゃうかもしれないのでダメでーす」

 勝手に変な規約を作るなと言いたいところではあるが、ある意味ファインプレーである。
 ネストはそれに頬を緩めると、僅かに場の雰囲気が和らいだ。

「……まぁいいわ。なんでこんな事言ってるのかって言うと、ニールセン公から九条の占いの話を聞いたのよ。それで……」

「当たっていたのなら喜ばしい限りですが、すいません。俺は自分の占いに干渉しないと決めているので……」

「もちろんそれも聞いたわ。占いが当たっただけで、九条はそのドラゴンと何の関係もないって言い張るつもりなんでしょ?」

「言い張るとかではなく、関係ないんです。俺はドラゴンがニールセン公を助けるなんて一言も口にしてないんですが……。深読みしすぎなんじゃないですか?」

 それに何か反論を言いかけたネストであったが、思いとどまったかのように開けた口を一度閉じると、溜息と共に肩を竦めた。

「そう。わかったわ。そこまで言うなら信じましょう。……その代わりと言っちゃなんだけど、私の事も占ってくれない?」

 それは本当に信じたのかと、疑ってもおかしくはない申し出だ。さすがにそうくるとは思わなかった。

「当たるとは限りませんよ?」

「いいわよ」

「有料ですよ?」

「構わないわ」

「……」

 死霊術での占いなぞ出来やしない。レナにした時と同じようにそれっぽく見せかけるしかないのだが、問題は何を伝えるかだ……。
 ネストの周りの事で、尚且つ当たっても外れても当たり障りない事象……。
 それがパッと思いつけば、苦労はしない。レナの時はこれから起きる出来事をそれっぽく濁した言い方に変えただけ。今回は全くの無から作り出さなければならないのだ。

「どうしたの? 早くしてよ」

 ひとまずは外す方向で考えよう。的中率を上げ過ぎて「自分の事を占って危機回避すればいいのに……」とかツッコまれても面倒だ。
 魔法書から適当な頭蓋骨を取り出しテーブルに置く。蝋燭に火をつけ頭蓋骨に蝋を垂らすと、その上に蝋燭を静かに立てた。
 そんな簡単な動作でさえゆっくりこなす。もちろんその間に占いの答えを考えているのだ。

「準備は出来ました」

 答えの準備は出来てない。
 ジッとドクロを見つめ、エアろくろを回しながらも、ぶつぶつと呪文を唱える。

「その呪文……どこかで聞いたことがあるような……」

 そりゃそうだろう。バイスとネストに炭鉱の案内を頼まれた時、ダウジングで使っていたものと同じ般若心経である。

「ホアァァァタァァ!!」

 頃合いを見計らってこれでもかと奇声を上げると、驚きのあまり椅子から転げ落ちそうになるネスト。
 同時に隣の部屋からは何か重量物を落としたような物音が。

「急に大きい声出さないでよ……」

 それを無視し、ドクロに立つ蝋燭の炎をジッと睨みつける。もちろん未来なぞ見えるはずもなく、見えているのは炎越しのネストの胸元だ。

「……ネストさんの身近な人に良くないことが起こるカモ? 人生の岐路に立たされた時は本能に従うと良いでしょう。明日の天気は、曇り時々晴れ。ラッキーアイテムは食堂のA定食。ラッキーカラーは#0054a6です」

 それを聞いて勢いよく立ち上がるネスト。

「ちょっと! レナの時はそんなんじゃなかったでしょ!? なんて言うかこう……ちょっとふわっとしすぎじゃないかしら!?」

「そうですか? 占いなんてこんなもんでしょう?」

「それにラッキーカラーのしゃーぷ00……。既に色じゃないじゃない!」

「さぁ? 俺は死者達の声を代弁しているだけなので、何の事かはサッパリ……。あっ、具体的には青みたいですよ?」

「本当に真面目にやったんでしょうね!?」

「もちろんです。これ以上いちゃもんを付けられると死者達が怒り出しちゃいますよ? 具体的に言うと寝ている時、枕元に立ったりするかも?」

 その顔はどう考えても納得していない。ネストから出た大きなため息は、本日何度目だろうか?
 ため息は幸せが逃げるから止めた方が……などと言ったら誰のせいだと言われかねないので、ネストをこれ以上弄るのはやめておいた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

異世界で等価交換~文明の力で冒険者として生き抜く

りおまる
ファンタジー
交通事故で命を落とし、愛犬ルナと共に異世界に転生したタケル。神から授かった『等価交換』スキルで、現代のアイテムを異世界で取引し、商売人として成功を目指す。商業ギルドとの取引や店舗経営、そして冒険者としての活動を通じて仲間を増やしながら、タケルは異世界での新たな人生を切り開いていく。商売と冒険、二つの顔を持つ異世界ライフを描く、笑いあり、感動ありの成長ファンタジー!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

処理中です...