生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第378話 連絡通路

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 久しぶりに触れるダンジョンハートはひんやりと冷たかった。俺の手のひらから奪われた熱がそのまま中に注入されていくようなそんな感覚。
 暫くして、8割ほど溜まったところで手を離す。

「こんなもんか?」

「ありがとうございます、マスター。これで生きながらえることが出来るというものです」

「大袈裟すぎなんだよ……」

 ホッと安堵した表情を見せる108番に和みながらも、踵を返し階段を上っていく。

「それで? そのデメちゃんはどうしてる?」

「寝てます」

「は?」

「いやいや、仕事が終わったから寝てるんですよ? サボってるわけじゃないですからね?」

「ならいいんだが……」

 いきなりのサボタージュ宣言に顔を引きつらせてしまったが、そう言うことなら問題はないだろう。

「それで、砦の防衛期間はどうします?」

「そうだなぁ……。シルトフリューゲル側の防壁を最優先で作ると言っていたから、それが出来上がり次第引き揚げさせるってことでいいんじゃないか? もしくは、対価を受け取ったら終了だな」

 バルザックの天文衛星落下アストローギアサテライトフォールでの敗戦に加え、デメちゃん襲撃による2度目の敗戦となれば、流石に3度目はなさそうなものだが、油断は禁物だ。

「わかりました。その後はどうします?」

「その後とは?」

「こっちのダンジョンに呼びますか?」

「それなぁ……。お前の為にも呼んでやりたいのは山々なんだが、俺との関係がバレるのは避けたい。すまんが封印されていたダンジョンで暫くは様子を見ておいてくれ」

「はーい」

 少しは残念がると思ったのだが、その返事はあっけらかんとした軽いもの。
 デメちゃん復活の代わりに、魔界転移に必要な鍵を探せなどと無理難題を押し付けられるかと憂慮していたのだが、そんなこともなく正直拍子抜けである。

「なんなら会いに行ってやれ。ダンジョン間の移動は出来るんだろ?」

「お気遣いありがとうございます。時間のある時にそうしますが、マスターもご一緒しませんか?」

「いや、俺は遠慮しておくよ」

 108番の笑顔に満足した俺はフードルの部屋として使われている扉を叩くと、中で待っていた2人に迎えられた。

「おお、九条。戻って来たか。随分と忙しい結婚式だったようじゃの」

「ああ。もう踏んだり蹴ったりだったよ……」

 わざとらしく肩を竦めて見せると、カラカラと乾いた笑い声を上げるフードル。
 しかしそれも束の間、すぐに表情を真剣なものへと戻すと鷹揚に頭を下げた。

「九条。まずは勝手に動いてしまったことを詫びよう」

「それが最善だと思ったのなら謝る必要はない。ひとまず起こったことを詳しく聞かせてくれ」

 俺達がいなかった期間にあったことを淡々と語るフードル。確かに面倒なことになってはいたが、それに文句を言える立場ではない。
 そもそも俺がいなければ、村が襲われることはなかったのだから。
 一通り話を聞いたところで、俺もフードルに頭を下げた。

「色々とすり合わせないといけない所は多々あるが、まずは村を救ってくれた礼を言う。ありがとう」

「いやいや、九条が頭を下げることはない。ワシは娘の住む場所を守っただけじゃよ。それよりもこれからの事じゃが……」

「そうだな……。シルトフリューゲルからしてみれば、コット村は全滅していて、フードルは俺を殺そうとしている別の魔族ということなんだな?」

「うむ。名乗ってはおらんが、設定上ワシはフードルを殺した九条に恨みを持つ別の魔族ということにしておいた。そして村人はワシをグレゴールだと思っておる。シャロンとかいうギルドの娘が話を合わせてくれたんじゃ。礼を言っておいてくれ」

「わかった。ひとまずシルトフリューゲル側は放っておこう。村の東側から訪れる者は滅多にいない。それに生き残りが5人しかいないのならどうとでもなるしな」

「村の方はどうするんじゃ? 今からでも本当の事を言うべきじゃろうか?」

 それには若干の考えがあった。とは言え半信半疑でもあったため、まずはアーニャに話を振ってみる。

「それなんだが、アーニャに聞きたい。仮に俺がフードルと和解したと世に公表したらどうなると思う?」

 その答えは早かった。対して悩む様子も見せず、難しい顔をしながらも呟くように口を開くアーニャ。

「……多分信用されないと思う……」

「フードルを偽名のままグレゴールということにしても?」

「……うん。過去に何があったかは知らないけど、村は九条に全幅の信頼をおいてる。今回は状況が特殊なだけで他とは違うよ。プラチナだからってだけで皆が九条を信じるとは思えないし、最悪九条が魔族側に寝返ったって捉えられる可能性だって……」

「俺とフードルが親しくしている所を見ても変わらないか? 時間が経てば少しは考え方が変わるかもしれないだろう? コット村が魔族共存とのモデルケースに……」

「そんな簡単な問題じゃないよ。私だってお父さんと外を歩けたらって思うこともあるけど……」

「九条。ワシの事を考えてくれるのはありがたいが、何故今更?」

「いや、村人達からの信用を得られたのなら試してみる価値もあるかと思ったんだが……。その様子じゃ無理そうだな……」

 所謂希望的観測と言う奴だ。魔族が忌み嫌われていることは承知しているが、可能性としてゼロではないんじゃないかと勝手に推し測っただけである。
 コット村に帰ったら、色々な人に同じ質問をするつもりではいたのだ。その結果次第ではフードルも村で暮らせるようになるかとも思ったのだが……。

「だが、村人達からだけでもフードルが信用されたのは大きな収穫だ」

「と言うと?」

「炭鉱側の入口を封鎖しようと考えていてな」

「なぜじゃ? 村からの行き来が不便になるぞ?」

「いや、炭鉱入口を塞ぐ代わりに、村からダンジョンまでトンネルを掘ろうと思ってるんだ」

「「トンネル!?」」

 それは俺が密かに計画していたこと。村から炭鉱までは徒歩でおおよそ2時間弱。村人達にとってはそれが自然なのだろうが、俺から見ると正直言って遠すぎる。

「アーニャだってフードルに会いに来るのにコソコソするのも疲れるだろ?」

「確かにそうだけど……」

 正直言って距離はそれほど変わらないが、セキュリティは確実に強化される。
 今回はシルトフリューゲル軍が東側から攻めて来たので事なきを得たが、西側から襲われていたら村人達はダンジョンに避難することは叶わなかった。
 いくら従魔達が優秀であるとは言え、ブルーグリズリーの生息域と言われている危険な場所で村人全員を守るのは至難の業だ。
 ならばいっそ村にトンネルを掘り炭鉱と繋げてしまうことで、ダンジョンとの連絡通路を作ってしまおうと考えたのである。
 労働力はアンデッドを呼び出せば事足りるし、なんならゴブリン達に手伝ってもらうことも視野に入れている。
 安全性を考慮し、しっかりとした物を作るつもりなのでそれなりの出費にはなるが、まぁ足りなくなるということはないだろう。
 村の緊急用避難通路と言っておけば、石材店のおっちゃんも少しはまけてくれるに違いない。
 最悪、木材は冬用の薪としてリビングアーマーが切り過ぎた丸太を有効活用すればいいのである。

「素人がそんなことして大丈夫なの?」

「俺は素人だが、よみがえらせる死体はプロだからな。なぁ、108番?」

「ええ。なんせダンジョンに横穴を開けた実績を持つ大罪人ですからね!」

 胸を張りドヤ顔を披露した108番は微笑ましいが、フードルとアーニャは不思議そうに首を傾げただけ。
 もちろん2人にはその姿も見えていないしその声も聞こえないのだから、至極当然の反応であった。
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