生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
上 下
378 / 633

第378話 連絡通路

しおりを挟む
 久しぶりに触れるダンジョンハートはひんやりと冷たかった。俺の手のひらから奪われた熱がそのまま中に注入されていくようなそんな感覚。
 暫くして、8割ほど溜まったところで手を離す。

「こんなもんか?」

「ありがとうございます、マスター。これで生きながらえることが出来るというものです」

「大袈裟すぎなんだよ……」

 ホッと安堵した表情を見せる108番に和みながらも、踵を返し階段を上っていく。

「それで? そのデメちゃんはどうしてる?」

「寝てます」

「は?」

「いやいや、仕事が終わったから寝てるんですよ? サボってるわけじゃないですからね?」

「ならいいんだが……」

 いきなりのサボタージュ宣言に顔を引きつらせてしまったが、そう言うことなら問題はないだろう。

「それで、砦の防衛期間はどうします?」

「そうだなぁ……。シルトフリューゲル側の防壁を最優先で作ると言っていたから、それが出来上がり次第引き揚げさせるってことでいいんじゃないか? もしくは、対価を受け取ったら終了だな」

 バルザックの天文衛星落下アストローギアサテライトフォールでの敗戦に加え、デメちゃん襲撃による2度目の敗戦となれば、流石に3度目はなさそうなものだが、油断は禁物だ。

「わかりました。その後はどうします?」

「その後とは?」

「こっちのダンジョンに呼びますか?」

「それなぁ……。お前の為にも呼んでやりたいのは山々なんだが、俺との関係がバレるのは避けたい。すまんが封印されていたダンジョンで暫くは様子を見ておいてくれ」

「はーい」

 少しは残念がると思ったのだが、その返事はあっけらかんとした軽いもの。
 デメちゃん復活の代わりに、魔界転移に必要な鍵を探せなどと無理難題を押し付けられるかと憂慮していたのだが、そんなこともなく正直拍子抜けである。

「なんなら会いに行ってやれ。ダンジョン間の移動は出来るんだろ?」

「お気遣いありがとうございます。時間のある時にそうしますが、マスターもご一緒しませんか?」

「いや、俺は遠慮しておくよ」

 108番の笑顔に満足した俺はフードルの部屋として使われている扉を叩くと、中で待っていた2人に迎えられた。

「おお、九条。戻って来たか。随分と忙しい結婚式だったようじゃの」

「ああ。もう踏んだり蹴ったりだったよ……」

 わざとらしく肩を竦めて見せると、カラカラと乾いた笑い声を上げるフードル。
 しかしそれも束の間、すぐに表情を真剣なものへと戻すと鷹揚に頭を下げた。

「九条。まずは勝手に動いてしまったことを詫びよう」

「それが最善だと思ったのなら謝る必要はない。ひとまず起こったことを詳しく聞かせてくれ」

 俺達がいなかった期間にあったことを淡々と語るフードル。確かに面倒なことになってはいたが、それに文句を言える立場ではない。
 そもそも俺がいなければ、村が襲われることはなかったのだから。
 一通り話を聞いたところで、俺もフードルに頭を下げた。

「色々とすり合わせないといけない所は多々あるが、まずは村を救ってくれた礼を言う。ありがとう」

「いやいや、九条が頭を下げることはない。ワシは娘の住む場所を守っただけじゃよ。それよりもこれからの事じゃが……」

「そうだな……。シルトフリューゲルからしてみれば、コット村は全滅していて、フードルは俺を殺そうとしている別の魔族ということなんだな?」

「うむ。名乗ってはおらんが、設定上ワシはフードルを殺した九条に恨みを持つ別の魔族ということにしておいた。そして村人はワシをグレゴールだと思っておる。シャロンとかいうギルドの娘が話を合わせてくれたんじゃ。礼を言っておいてくれ」

「わかった。ひとまずシルトフリューゲル側は放っておこう。村の東側から訪れる者は滅多にいない。それに生き残りが5人しかいないのならどうとでもなるしな」

「村の方はどうするんじゃ? 今からでも本当の事を言うべきじゃろうか?」

 それには若干の考えがあった。とは言え半信半疑でもあったため、まずはアーニャに話を振ってみる。

「それなんだが、アーニャに聞きたい。仮に俺がフードルと和解したと世に公表したらどうなると思う?」

 その答えは早かった。対して悩む様子も見せず、難しい顔をしながらも呟くように口を開くアーニャ。

「……多分信用されないと思う……」

「フードルを偽名のままグレゴールということにしても?」

「……うん。過去に何があったかは知らないけど、村は九条に全幅の信頼をおいてる。今回は状況が特殊なだけで他とは違うよ。プラチナだからってだけで皆が九条を信じるとは思えないし、最悪九条が魔族側に寝返ったって捉えられる可能性だって……」

「俺とフードルが親しくしている所を見ても変わらないか? 時間が経てば少しは考え方が変わるかもしれないだろう? コット村が魔族共存とのモデルケースに……」

「そんな簡単な問題じゃないよ。私だってお父さんと外を歩けたらって思うこともあるけど……」

「九条。ワシの事を考えてくれるのはありがたいが、何故今更?」

「いや、村人達からの信用を得られたのなら試してみる価値もあるかと思ったんだが……。その様子じゃ無理そうだな……」

 所謂希望的観測と言う奴だ。魔族が忌み嫌われていることは承知しているが、可能性としてゼロではないんじゃないかと勝手に推し測っただけである。
 コット村に帰ったら、色々な人に同じ質問をするつもりではいたのだ。その結果次第ではフードルも村で暮らせるようになるかとも思ったのだが……。

「だが、村人達からだけでもフードルが信用されたのは大きな収穫だ」

「と言うと?」

「炭鉱側の入口を封鎖しようと考えていてな」

「なぜじゃ? 村からの行き来が不便になるぞ?」

「いや、炭鉱入口を塞ぐ代わりに、村からダンジョンまでトンネルを掘ろうと思ってるんだ」

「「トンネル!?」」

 それは俺が密かに計画していたこと。村から炭鉱までは徒歩でおおよそ2時間弱。村人達にとってはそれが自然なのだろうが、俺から見ると正直言って遠すぎる。

「アーニャだってフードルに会いに来るのにコソコソするのも疲れるだろ?」

「確かにそうだけど……」

 正直言って距離はそれほど変わらないが、セキュリティは確実に強化される。
 今回はシルトフリューゲル軍が東側から攻めて来たので事なきを得たが、西側から襲われていたら村人達はダンジョンに避難することは叶わなかった。
 いくら従魔達が優秀であるとは言え、ブルーグリズリーの生息域と言われている危険な場所で村人全員を守るのは至難の業だ。
 ならばいっそ村にトンネルを掘り炭鉱と繋げてしまうことで、ダンジョンとの連絡通路を作ってしまおうと考えたのである。
 労働力はアンデッドを呼び出せば事足りるし、なんならゴブリン達に手伝ってもらうことも視野に入れている。
 安全性を考慮し、しっかりとした物を作るつもりなのでそれなりの出費にはなるが、まぁ足りなくなるということはないだろう。
 村の緊急用避難通路と言っておけば、石材店のおっちゃんも少しはまけてくれるに違いない。
 最悪、木材は冬用の薪としてリビングアーマーが切り過ぎた丸太を有効活用すればいいのである。

「素人がそんなことして大丈夫なの?」

「俺は素人だが、よみがえらせる死体はプロだからな。なぁ、108番?」

「ええ。なんせダンジョンに横穴を開けた実績を持つ大罪人ですからね!」

 胸を張りドヤ顔を披露した108番は微笑ましいが、フードルとアーニャは不思議そうに首を傾げただけ。
 もちろん2人にはその姿も見えていないしその声も聞こえないのだから、至極当然の反応であった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...