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第366話 尋問遊戯
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「その男は嘘をついている! 私を捕らえる為、嘘の証言をさせているのだろう! その男と私の繋がりを証明するものなぞないはずだ!!」
「確かにその可能性も考えられますな」
それに同意したのは他でもないニールセン公だ。この世界には監視カメラも科学捜査もない。レナを殺した男が嘘を言っている可能性は否定できず、だからこそ尋問は長期間に亘ってしまう。
それを大幅に短縮できる唯一の方法が自白させること。言い逃れ出来ぬほどの証拠を突き出し、自分で自分の罪を認めさせるのだ。そこに疑いの余地はない。
「では、方法を変えましょう。ガルフォード卿……」
ニールセン公がバイスを呼んだその時、グリンダの甲高い声が辺りに響いた。
「ちょ……何するの!? 痛い! 離しなさい無礼者!!」
グリンダの両手を後ろで掴み、そのまま表舞台へと引っ張っていくバイス。
それを止めようとした数人の従者達は、シャーリーとアーニャに阻まれる。
「ニールセン! これは一体どういう事なのです!? 王族のわたくしにこのような……」
「黙れ売国奴ッ! 私が何も知らぬとでも思っていたのかッ!!」
突然の怒号に、身体が跳ね上がってしまったグリンダ。そのニールセン公の豹変ぶりは、凄まじいものであった。
それは騎士として戦場で武功を上げていた全盛期の頃のニールセン公を彷彿とさせる厳然たる形相。
それを王族に向けるなぞもっての外。だからこそグリンダはそれに気圧され、恐怖を覚えた。その憤る理由に心当たりがあるからだ。
「調べは付いているのだ! あなたの我が儘で、どれだけの騎士達がこの世を去ったと思っている!!」
「……」
ノルディックを生き返らせるなどと言う虚言に翻弄され、他国に軍事機密を売っていたのだ。それが相手国に知られていたのであれば、アップグルント騎士団が苦戦を強いられても当然。むしろそんな状態でも砦を死守していたのだから賞賛に値する働きである。
「わたくしは……そのような事……」
「まだ白を切るかッ! あなたは何処の国の王女なのだッ!」
「……」
感情に流され声を荒げるニールセン公であったが、それは溜息1つで鳴りを潜めた。
「ハァ……。仕方ありません。この事は陛下にご報告させていただきます」
「す……好きにするといいわ……。わたくしは疚しいことなどしていませんもの……。そんな虚言、一体何処から……」
「九条ですよグリンダ様。あなたの傍にいる魂がそれを教えて下さったのです。それもグリンダ様が道を踏み外さぬようにという優しさなのでしょう。死してまで寄り添うとは……」
「まさか! ノルディックがいるの!?」
大きく目を見開き、九条に向けられたグリンダの視線。九条はそれに顔色1つ変えず、皮肉交じりに口を開く。
「それをお前に教える義理はない。知りたければヴィルヘルムを頼ってノルディックを生き返らせてやればいいじゃないか。その為に裏切ったんだろう?」
「……」
「何故黙る? 俺からノルディックの声を聞くより、本人から聞いた方がいいだろ? それともヴィルヘルムが信用出来ないのか?」
「それは……」
言葉に詰まるグリンダ。九条の実力は本物だ。レナの言葉を聞き、引き返してきたのだから疑いようがない。なによりヴィルヘルムとの密会の内容を知っているのだ。だが、死んだ者が生き返るのかは半信半疑の域を出ない。
「ならば、こうしましょう」
そう言って九条が胸元から取り出したのは1本の短剣。それはアレックスが自決する為に用意された特別な物。
九条はそれを雑に放り投げると、カンカンと音を立てながらも床を転がり、ヴィルヘルムの前で止まった。
「ヴィルヘルム卿。第2王女の信用が揺らいでいるようなので生き返って見せてください。ノルディックを生き返らせられるのなら出来ますよね? 興味本位ですが俺も見てみたいのでお願いします」
誰もがその意味を理解した。それは当然の解決法。人が生き返るのであれば自分を殺すことも可能なのだ。
「……そ……それは、我が国の秘術……。人前で見せられるものでは……」
先程までの勢いはどうしたのかと思うほどに口を濁すヴィルヘルムだが、言い訳としては筋が通っている。
「では、一筆書いて死んでください。そうですね……。人を生き返らせる事の出来る証明として自害したと。俺達が殺したと勘違いされても困るので。ヴィルヘルム卿の死体は責任を持ってシルトフリューゲルに送り届けると誓いましょう。生き返ったらまた来てください」
「……色々と準備が……」
「わかりました。何が必要か仰ってください。全てこちらでご用意いたします」
「……だから秘密だと……」
「では生き返った後、準備にかかった費用を請求してくださいますか? こちらで全額負担致しますので……。あっ、先に言わせていただきますが、死亡後身体から魂が抜けるのを確認した上での発送となりますのでご理解ください。もちろん腐らないようにクール便……魔法で冷凍しますので心配はご無用です」
「……」
「おやおや? どうしたんですか? 死ぬのが怖いならお手伝いしましょうか?」
ヴィルヘルムに近寄っていく九条。床に転がる誓いの短剣を拾い上げると、それをヴィルヘルムの胸元にそっと突き立てて見せた。
「一介の冒険者風情が! 他国の使者に対し無礼だとは思わんのか!」
激昂するヴィルヘルムであったが、そんなフリに九条が屈するはずがない。
呆れながらも九条は淡々とヴィルヘルムを追い詰めていく。
「だからなんだよ。そんなこと気にしてたら貴族となんて付き合ってられんだろ……。早くごめんなさいした方がいいんじゃないか? 割と本気だぞ?」
「くっくっく……。やってみるがいい。私に何かあれば、すぐに我が軍がこの街を包囲する」
「好きにしろ。どうせなら窓際にいくか? 助けを求める声が御自慢の軍隊とやらに聞こえるかもしれないしな」
ヴィルヘルムの胸元を掴み窓際へと引き摺って行く九条。閉め切られていたカーテンを開けると、ヴィルヘルムはそこからの景色を見て目を見開いた。
「な……何が起きた!?」
ヴィルヘルムには邪魔な存在でしかないフェルス砦は跡形もなく、見えているのは大きく抉られた大地。
一面の緑に覆われた草原も、綺麗に整備された街への石畳も一部を残し跡形もない。
この部屋から見えるシルトフリューゲル軍の陣営は豆粒ほどだが、クレーターの傍に散乱している亡骸が、既に事後であることを如実に物語っていた。
これほどの事が起きていたのに、ヴィルヘルムは何も気づいてはいなかったのだ。バルザックの落とした隕石を、ただの地震だと思い込んでいたのである。
九条とバルザックの死骸壁が衝撃波を防いだことにより、街で体感できたのは突発的な地面の振動だけ。
それを不自然だと思わなかったのは、元々この辺りが地震の多発していた地域だったからに他ならない。
その原因が灰の蠕虫と呼ばれていた巨大なワームの存在である。
それはアコーディオン・ダイバーと言う名の四天魔獣皇の一柱。九条達が倒したことにより、地震による被害も暫くは鳴りを潜めていたが、その原因を知る者は少ない。
「何故こんなことになっている! お前達がやったのか!?」
「知らなかったのか!? 巨大なドラゴンが暴れ回ってたんだぞ?」
「なんだと! それは本当か!?」
その驚きように九条は笑いを堪えながらも、ヴィルヘルムを見下すように目を細めた。
「さぁ? どうだろうなぁ。嘘かもしれないし、本当かもしれん。真実を知りたければ、生き残った軍の誰かにでも聞けばいいんじゃないか? もちろんお前が生き返った後だがな」
ヴィルヘルムを掴んでいた手を離した九条は、グリンダへと向き直る。
「それで? お前はどっち側なんだ?」
結果は目に見えていた。ノルディックが生き返る可能性はほぼないに等しく、ヴィルヘルムの切り札であろう軍とやらも虫の息。グリンダの性格を鑑みれば、保身に走るであろうことは誰の目から見ても明らかだ。
悔しさや悲壮感など微塵も感じさせない表情。それはグリンダが、どちらに付いた方が得策かという打算的な悩みに首を傾げていたからである。
「こ……今回の事をお父様に報告しないで下さるなら、真実をお話しますわ」
それは自白している事と同義であるのだが、グリンダに反省の色は見られない。
ヴィルヘルムは力が抜けてしまったのか観念したかのようにガクリと膝を突き、諦めの表情で首を垂れた。
「私の計画は完璧だったはずだ……。何が……何がいけなかったのだ……」
泳ぐ視線に溢れ出る悔しさ。そんなヴィルヘルムの耳元で囁いたのは九条である。
「お前の敗因はあそこにいるじゃないか。……人選を誤ったな」
その視線の先には自分の悪行をべらべらと得意気に喋るグリンダ。その様子は酒でも飲んでいるのかと思うほどに饒舌だ。
自分の過ちに気付いたヴィルヘルムは肩を落とし唇を噛み締める。それが余りにも不憫に見えて、さすがの九条もそれには同情を禁じ得なかった。
その後、ヴィルヘルムは囚われ連行。第2王女のグリンダもひとまずの謹慎が言い渡された。
いらぬ疑いを掛けられていた貴族達にはニールセン公が直々に謝罪し、今回の騒動は一応の幕を閉じたのである
「確かにその可能性も考えられますな」
それに同意したのは他でもないニールセン公だ。この世界には監視カメラも科学捜査もない。レナを殺した男が嘘を言っている可能性は否定できず、だからこそ尋問は長期間に亘ってしまう。
それを大幅に短縮できる唯一の方法が自白させること。言い逃れ出来ぬほどの証拠を突き出し、自分で自分の罪を認めさせるのだ。そこに疑いの余地はない。
「では、方法を変えましょう。ガルフォード卿……」
ニールセン公がバイスを呼んだその時、グリンダの甲高い声が辺りに響いた。
「ちょ……何するの!? 痛い! 離しなさい無礼者!!」
グリンダの両手を後ろで掴み、そのまま表舞台へと引っ張っていくバイス。
それを止めようとした数人の従者達は、シャーリーとアーニャに阻まれる。
「ニールセン! これは一体どういう事なのです!? 王族のわたくしにこのような……」
「黙れ売国奴ッ! 私が何も知らぬとでも思っていたのかッ!!」
突然の怒号に、身体が跳ね上がってしまったグリンダ。そのニールセン公の豹変ぶりは、凄まじいものであった。
それは騎士として戦場で武功を上げていた全盛期の頃のニールセン公を彷彿とさせる厳然たる形相。
それを王族に向けるなぞもっての外。だからこそグリンダはそれに気圧され、恐怖を覚えた。その憤る理由に心当たりがあるからだ。
「調べは付いているのだ! あなたの我が儘で、どれだけの騎士達がこの世を去ったと思っている!!」
「……」
ノルディックを生き返らせるなどと言う虚言に翻弄され、他国に軍事機密を売っていたのだ。それが相手国に知られていたのであれば、アップグルント騎士団が苦戦を強いられても当然。むしろそんな状態でも砦を死守していたのだから賞賛に値する働きである。
「わたくしは……そのような事……」
「まだ白を切るかッ! あなたは何処の国の王女なのだッ!」
「……」
感情に流され声を荒げるニールセン公であったが、それは溜息1つで鳴りを潜めた。
「ハァ……。仕方ありません。この事は陛下にご報告させていただきます」
「す……好きにするといいわ……。わたくしは疚しいことなどしていませんもの……。そんな虚言、一体何処から……」
「九条ですよグリンダ様。あなたの傍にいる魂がそれを教えて下さったのです。それもグリンダ様が道を踏み外さぬようにという優しさなのでしょう。死してまで寄り添うとは……」
「まさか! ノルディックがいるの!?」
大きく目を見開き、九条に向けられたグリンダの視線。九条はそれに顔色1つ変えず、皮肉交じりに口を開く。
「それをお前に教える義理はない。知りたければヴィルヘルムを頼ってノルディックを生き返らせてやればいいじゃないか。その為に裏切ったんだろう?」
「……」
「何故黙る? 俺からノルディックの声を聞くより、本人から聞いた方がいいだろ? それともヴィルヘルムが信用出来ないのか?」
「それは……」
言葉に詰まるグリンダ。九条の実力は本物だ。レナの言葉を聞き、引き返してきたのだから疑いようがない。なによりヴィルヘルムとの密会の内容を知っているのだ。だが、死んだ者が生き返るのかは半信半疑の域を出ない。
「ならば、こうしましょう」
そう言って九条が胸元から取り出したのは1本の短剣。それはアレックスが自決する為に用意された特別な物。
九条はそれを雑に放り投げると、カンカンと音を立てながらも床を転がり、ヴィルヘルムの前で止まった。
「ヴィルヘルム卿。第2王女の信用が揺らいでいるようなので生き返って見せてください。ノルディックを生き返らせられるのなら出来ますよね? 興味本位ですが俺も見てみたいのでお願いします」
誰もがその意味を理解した。それは当然の解決法。人が生き返るのであれば自分を殺すことも可能なのだ。
「……そ……それは、我が国の秘術……。人前で見せられるものでは……」
先程までの勢いはどうしたのかと思うほどに口を濁すヴィルヘルムだが、言い訳としては筋が通っている。
「では、一筆書いて死んでください。そうですね……。人を生き返らせる事の出来る証明として自害したと。俺達が殺したと勘違いされても困るので。ヴィルヘルム卿の死体は責任を持ってシルトフリューゲルに送り届けると誓いましょう。生き返ったらまた来てください」
「……色々と準備が……」
「わかりました。何が必要か仰ってください。全てこちらでご用意いたします」
「……だから秘密だと……」
「では生き返った後、準備にかかった費用を請求してくださいますか? こちらで全額負担致しますので……。あっ、先に言わせていただきますが、死亡後身体から魂が抜けるのを確認した上での発送となりますのでご理解ください。もちろん腐らないようにクール便……魔法で冷凍しますので心配はご無用です」
「……」
「おやおや? どうしたんですか? 死ぬのが怖いならお手伝いしましょうか?」
ヴィルヘルムに近寄っていく九条。床に転がる誓いの短剣を拾い上げると、それをヴィルヘルムの胸元にそっと突き立てて見せた。
「一介の冒険者風情が! 他国の使者に対し無礼だとは思わんのか!」
激昂するヴィルヘルムであったが、そんなフリに九条が屈するはずがない。
呆れながらも九条は淡々とヴィルヘルムを追い詰めていく。
「だからなんだよ。そんなこと気にしてたら貴族となんて付き合ってられんだろ……。早くごめんなさいした方がいいんじゃないか? 割と本気だぞ?」
「くっくっく……。やってみるがいい。私に何かあれば、すぐに我が軍がこの街を包囲する」
「好きにしろ。どうせなら窓際にいくか? 助けを求める声が御自慢の軍隊とやらに聞こえるかもしれないしな」
ヴィルヘルムの胸元を掴み窓際へと引き摺って行く九条。閉め切られていたカーテンを開けると、ヴィルヘルムはそこからの景色を見て目を見開いた。
「な……何が起きた!?」
ヴィルヘルムには邪魔な存在でしかないフェルス砦は跡形もなく、見えているのは大きく抉られた大地。
一面の緑に覆われた草原も、綺麗に整備された街への石畳も一部を残し跡形もない。
この部屋から見えるシルトフリューゲル軍の陣営は豆粒ほどだが、クレーターの傍に散乱している亡骸が、既に事後であることを如実に物語っていた。
これほどの事が起きていたのに、ヴィルヘルムは何も気づいてはいなかったのだ。バルザックの落とした隕石を、ただの地震だと思い込んでいたのである。
九条とバルザックの死骸壁が衝撃波を防いだことにより、街で体感できたのは突発的な地面の振動だけ。
それを不自然だと思わなかったのは、元々この辺りが地震の多発していた地域だったからに他ならない。
その原因が灰の蠕虫と呼ばれていた巨大なワームの存在である。
それはアコーディオン・ダイバーと言う名の四天魔獣皇の一柱。九条達が倒したことにより、地震による被害も暫くは鳴りを潜めていたが、その原因を知る者は少ない。
「何故こんなことになっている! お前達がやったのか!?」
「知らなかったのか!? 巨大なドラゴンが暴れ回ってたんだぞ?」
「なんだと! それは本当か!?」
その驚きように九条は笑いを堪えながらも、ヴィルヘルムを見下すように目を細めた。
「さぁ? どうだろうなぁ。嘘かもしれないし、本当かもしれん。真実を知りたければ、生き残った軍の誰かにでも聞けばいいんじゃないか? もちろんお前が生き返った後だがな」
ヴィルヘルムを掴んでいた手を離した九条は、グリンダへと向き直る。
「それで? お前はどっち側なんだ?」
結果は目に見えていた。ノルディックが生き返る可能性はほぼないに等しく、ヴィルヘルムの切り札であろう軍とやらも虫の息。グリンダの性格を鑑みれば、保身に走るであろうことは誰の目から見ても明らかだ。
悔しさや悲壮感など微塵も感じさせない表情。それはグリンダが、どちらに付いた方が得策かという打算的な悩みに首を傾げていたからである。
「こ……今回の事をお父様に報告しないで下さるなら、真実をお話しますわ」
それは自白している事と同義であるのだが、グリンダに反省の色は見られない。
ヴィルヘルムは力が抜けてしまったのか観念したかのようにガクリと膝を突き、諦めの表情で首を垂れた。
「私の計画は完璧だったはずだ……。何が……何がいけなかったのだ……」
泳ぐ視線に溢れ出る悔しさ。そんなヴィルヘルムの耳元で囁いたのは九条である。
「お前の敗因はあそこにいるじゃないか。……人選を誤ったな」
その視線の先には自分の悪行をべらべらと得意気に喋るグリンダ。その様子は酒でも飲んでいるのかと思うほどに饒舌だ。
自分の過ちに気付いたヴィルヘルムは肩を落とし唇を噛み締める。それが余りにも不憫に見えて、さすがの九条もそれには同情を禁じ得なかった。
その後、ヴィルヘルムは囚われ連行。第2王女のグリンダもひとまずの謹慎が言い渡された。
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