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第314話 2人のプラチナプレート

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 俺達が別室へと案内され、女王に対する批判がある程度収まったところで部屋の扉がノックされる。

「はい」

 返事と共に開かれた扉。そこに立っていたのは蒼いローブのハイエルフの女性。胸に輝くプラチナプレートは存在感抜群だ。
 声には出さずとも、皆が衝撃を受けているだろうことは肌で感じ取れる。

「失礼する。モ……私はイーミアル。まずは当依頼をお受けいただき感謝する」

「も?」

 ミアが不思議そうに聞き返す。確かにそこは気になった。プラチナプレートに吸われていた意識がそちらへと向き、つい声に出てしまったのだろう。
 一応は依頼主である。失礼があってはならないと、大きく咳ばらいをして誤魔化すと、膝上のミアをどけて立ち上がる。

「はじめまして。九条と申します」

 慣れで差し出してしまった右手を急いで引っ込め、胸に手を当て頭を下げる。
 イーミアルはそれに何の反応も示さず、ただ座るようにと促された。
 まさかプラチナプレート冒険者が依頼主だとは思わず面食らってしまったが、イーミアルが泡沫夢幻ほうまつむげん白波しらなみと呼ばれる冒険者なのだろう。
 雰囲気は、ちょっとキツそうなおねぇさんと言ったところか……。やや釣り目で強い口調が気にはなるが、気分を害するほどじゃない。
 同じプラチナであれば立場は対等と考えるのは普通のこと。王族や貴族相手の堅苦しい雰囲気よりは若干マシである。

「では、今回の依頼について話す前に、先程の書状には合意されたという事でよろしいな?」

「はい。問題ありません。元よりそのつもりです」

 俺は人間だ。信用されていないことは理解しているが、一応はプラチナの冒険者。仕事に関して手を抜くつもりはなく、自分の立場は弁えているつもりである。

「よろしい。ならば依頼の話に移らせていただく。モ……お前達は我等エルフ族とドワーフ族との確執については知っているな?」

「も?」

 ……ミアはひとまずスルーだ。

「詳しくはありませんが、小耳にはさんだ程度には……」

「ふむ。まぁいいだろう。モ……お前達が向かう先はヤート村だ。ここからだと北西に位置するサザンゲイアの村になる」

「も?」

 他言無用だと約束させたのは調査対象が自国の村ではないからで、冒険者に頼んだのも自分達で勝手に調査することが出来ないからだろう。許可が下りないか、そもそも知られたくないものなのか……。
 エルフとドワーフが友好関係ではないなら、隠しておきたいのも道理。たとえバレたとしても、冒険者を切り捨てるのは簡単だ。
 それよりも気になるのはミア……ではなく、アニタである。村の名前を聞いて、表情を変えた。一瞬だが怒りにも似た強張りを見せたのだ。

「どうした? 何か知ってるのか?」

「ううん。聞いたことがあるだけ……」

 気のせいか、今は至って普通の表情。サザンゲイアがホームなら名前くらい聞いた事もあるのだろう。そんなことより今はイーミアルに集中しなければ。

「我が国がサザンゲイアとの国交を断絶したのは知っていると思うが、その原因がドワーフ族によって起こされたものだ」

「それは聞きました。伐採の禁止区域で……」

「いや、それは既に解決した。……違うな。解決しかかっていたというべきか……」

 含みのある言い方をしつつも言葉を詰まらせたイーミアルは、視線を落とし口元を手で押さえた。
 さすがはハイエルフである。悩む女性といった雰囲気はそれだけで様になっている。

「何と言えばいいのか……。我々も一枚岩ではない。数十年前の話が最近だと感じてしまうのは、我等エルフが長寿である弊害ではあるが、サザンゲイアとの協議は何度も行ってきた。そしてそれが実を結ぶはずだったのが8年前の話……」

「では、何か問題が?」

「ああ。8年前、調印式は無事に終わり、一時は規制緩和がされたんだ。だがそれはたったの1日だけだった。その日、フェルヴェフルールに賊が入り込み、その容疑を掛けられているのがドワーフ共なのだ」

「それで? それが俺の仕事に関係があるんですか?」

 正直言ってエルフとドワーフの抗争になぞ興味はない。女王やイーミアルの態度から俺達があまり歓迎されていないことは明らかであるし、自由に街中を歩くことも許されない今、長居は無用である。
 パパっと仕事を終わらせて、お土産を買ったらさっさと帰るのが1番だ。もちろんアニタのマナポーションも忘れてはいない。
 そんな俺に目を丸くしたイーミアルは、怒るでもなく唖然としていた。

「……お前……意外とドライだな……。ここはもっと……こう食いつく場面じゃないか?」

 不躾な目を向けるイーミアル。

「仕事に一途なんですよ」

 適当に当たり障りなく答える。お前達には興味がないと言ってやりたいが、機嫌を損ねるわけにもいくまい。

「まぁいい。一応関係のある話だから聞け。その盗まれた物というのが白い仮面だ。主に祭具として使われていた古い物だが、我々はその行方を追っているのだ」

「それが、今回の調査に関係があると?」

「そうだ。賊の逃げた方向にあった村がヤート村。廃村となった時期も一致し無関係とも思えない。モ……お前等は村へと趣き死者達の言葉に耳を傾け、そして何としてもその仮面を取り戻すのだ!」

「も?」

 これ以上喋らないようにと、そっとミアの口元を押さえ、真っ直ぐにイーミアルを見据えた。

「わかりました。お断りします」

「はぇ?」

 素っ頓狂な声を上げるイーミアル。得意満面でビシッと俺の事を指差すのは構わないが、話が違う。

「なぜだ!?」

「いやいや。俺が受けたのは村の調査であり、仮面の捜索ではないのですが?」

「いや……。確かにそうだが、それはネロの仮面の行方を探すためのもので、ついでに……」

 ある意味予想通りで苦笑するしかない。それを言うなら逆である。

「ペロだかマロだかは知りませんけど、逆でしょう? 仮面の捜索に村の調査が必要なら理解できますが、村の調査で仮面の在処がわかったのなら、その捜索は別の方にお願いして下さい。ギルドだって別物の依頼だと判定しますよ?」

 それには、ミアとシャロンも黙って頷く。

「ぐぬぬ……。わかった……。新たに依頼を出せば受けてくれるのだな?」

「いや、観光もできないようなので。当初の依頼が完了したら帰ります。別の方に頼んで下さい。死人以外は専門外なので……」

「お前には、人の心がないのか!?」

 まさかエルフに人の心を説かれるとは思わず、一瞬時が止まったかのように静止してしまったが、そこまで言うなら逆にエルフの心を教えていただきたいものである。
 事情を知る者がそのまま依頼を引き継げば、新たな冒険者を探す時間も短縮でき説明する手間も省けて一石二鳥と考えるのは道理だが、俺はミアの笑顔の為に依頼を受けたのであって、本来はカネを貰ってもやらない仕事であるのだ。そこは勘違いしてほしくない。
 報酬が5倍になろうが10倍になろうが、依頼受注の権利はこちら側にあるのだ。

「ないっすね……」

 それを聞いたイーミアルは、机を叩き立ち上がる。その表情は、憤りながらも焦っている様子が窺えるほど。
 冷静な分析で申し訳ないが、なんというか感情が多彩で愉快な人だ。

「よしわかった! モフぅ……お前達が街中で自由に動けるようエルメロード様に掛け合ってやる。ちょっと待ってろ!」

 そしてイーミアルは、そのまま部屋を飛び出していったのである。

「もふぅ?」
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