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第312話 女王エルメロード
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ハイエルフの女王であるエルメロードを前に、跪く俺達。
「モ……モフ……団とやら。遠路はるばるご苦労であった」
どうしてこうなった……。
時を遡る事1時間前。アニタをなだめ、どうにかギルドを後にするとジョゼフから唐突な別れを告げられた。
「モフモフ団の皆様。わたくしの案内はここまでです。また後程お会いしましょう」
ジョゼフはただの案内役。依頼主とは俺達だけで合うのかと思っていたら、その依頼主はなんと王宮にいるというのだ。
知らずに馬車に乗せられ、着いた先は街の中心。世界樹に寄り添う巨大なお城の前である。
「これから女王陛下がお会いになられます。粗相など無きようご注意くださいますようお願い申し上げます」
誰だよ……。という感想の前に聞きたいことが山ほどある。
「いや、待ってください。依頼主は? 何故女王に謁見することになってるんですか? 何も聞いてないんですが?」
「イーミアル様には女王陛下謁見後に会談の場を設けさせていただいております。まずは女王陛下にお会いいただかなければ……」
さも当たり前のように話すハイエルフの女性。恐らくは使用人か付き人の類だろう。
「それはわかりましたが、俺達は別に女王様に用はないのですが……」
「女王陛下はあなた方に興味がおありです。それ以外に何か理由が必要ですか?」
なるほど。こちらの話を聞くつもりはないらしい。
「もしかして、女王様はパンがなければケーキを食べる方ですか?」
「……申し訳ありませんが、王宮の食料事情は私にはわかりかねます……」
そりゃ微妙な表情も浮かべるだろう。皮肉が通じない事を知っていて聞いているのだ。当たり前の答えが返って来るに決まっている。
意味不明な言葉を口にする俺に対し、向けられるミアの不思議そうな表情がなんとも愛らしい限りではあるが、それはひとまず置いておこう。
協議の結果、相手が女王であるならば逆らっても百害あって一利なしとのことで満場一致。
半ば強制的に連行されたのは謁見の間。レッドカーペットの先に見える大きな玉座には誰も座っていない。大きさ的にはスタッグ城の謁見の間と同じような広さだが、より解放感を感じる間取り。それは天井が存在しないからである。
見上げると聳え立つ世界樹の幹が迫りくるほどの迫力で、世界樹が屋根の役割を果たすのであれば、雨の心配はなさそうだ。
そう考えると、謁見の間というより巨大なルーフバルコニーと言った方が分かり易いのかもしれない。
護衛なのだろう周りに並び立つハイエルフ達が手にしているのは、剣や槍ではなく杖である。自分の肩ほどの高さの木製の棒。全てが同じ形ではないのが自然由来な物だということを思わせる。うっすらと輝いているところを見ると、恐らくは世界樹の枝から作られた物なのだろう。
「女王陛下がお見えになるまで、跪いてお待ちください」
勝手に呼んでおいてコレである。さすがは異文化。いや、異世界だからか?
シャロン曰く、女王との面会は望んでも中々出来ない名誉な事らしいが、基本的に王と呼ばれる人には、おいそれと会えないのが普通なんじゃなかろうか?
逆に友達感覚で会える王族がいれば、見てみたいものである。
べらぼうな美人で、なんでも言う事を聞いてくれて、俺の女になってくれるのならば話は変わるが、正直言って女王なんかに興味はないし、気乗りもしない。
俺と従魔達だけが面倒くさそうに溜息をつき、他の仲間達はそこそこ緊張しているように見えた。
「九条ってホント肝が据わってるわよね」
「そうですよ九条様! 凄い事なんですから!」
「それはさっき聞きましたから……」
少々興奮気味のシャロンに呆れつつ、早く来ないかと待っていると、ようやくその時が訪れた。
「女王陛下がお見えになりました。顔を上げ、エルメロード陛下と神樹に敬意を払いなさい」
シャロンに教わった通り、右手を左胸に当て、顔を上げた。そしてその光景に既視感を覚えた。
上空から現れたのは、女王らしきハイエルフの女性。上空と言っても浮遊している訳じゃなく、ゴンドラに乗り降りて来ているのだ。
皆の目には神秘的に映る光景なのだろうが、俺からはそうは見えなかった。
それと全く同じ光景を、知人の結婚式で見た事があるからだ。新郎新婦がゴンドラから降りてくるあのシーンを思い出し、不覚にも吹き出してしまったのである。
「ぶはっ……」
不意打ちもいいところだ。デカイブランコに乗り、女王が真顔で降りてくる。白いドレスは極端に前面の丈が短いフィッシュテールスカートで、見上げている俺達からはパンツ丸見え。笑うなと言う方がどうかしている。
とは言え、それがエルフ達にはバレなかったのが唯一の救い。恐らく気付いたのは俺の周りだけだとは思うが、余計な心配をさせてしまったことは後でしっかり謝罪しよう。
女王が謁見の間へと降り立つと、世界樹に背を向け玉座へと座り足を組む。ブロンドの髪を靡かせ、凛とした佇まいは女王の名に相応しい美しさ。
やはりエルフであるが故に年齢は不明だが、人間で言えば20前後。まだ幼さは残るものの、鋭い視線は女王たる風格を感じさせる。
しかし、それも女王が口を開くまで。透き通るような白い肌がほんのりと赤みを帯びる。
「モ……モフ……団とやら。遠路はるばるご苦労であった。……その……モフ……お前達のパーティ名はどうにかならぬのか?」
第一声がそれである。恥ずかしがるくらいなら呼ばなければいいのに……。
「モフモフ好きに悪い者はおりません。モフモフの気持ち良さは万国共通であり、世界平和に通ずるものがあると考えます。故にそれを広めることこそ我らが使命であるのです」
もちろん口から出まかせである。今適当に考えただけだ。……だからミアは俺に羨望の眼差しを向けるのをやめてくれ。
「そ……そうか……。中々の大義であるな……」
嘘をつけ。これっぽっちもそんなこと思っていないクセに良く言う。返答に困って適当に返したのが丸わかりだ。
お前等の世界樹信仰だって同じようなものだろう。腫れ物でも見るような視線を俺に向けるのは構わないが、人の振り見て我が振り直せと言ってやりたいくらいだ。
とは言え、これも作戦の内。多少おかしな事をしても、プラチナプレートは頭のネジが外れているから……で許されるのだ。
ならばそれを演じて、話しても無駄。関わり合いになりたくないと思わせることが出来れば、こちらの勝ち。さっさと開放して頂こう。
「ならば本題へと入ろう。今回お前達を呼んだのは他でもない。これから調査に赴くであろう廃村についてだ」
「ちょ……ちょっと待って下さい。それは依頼主であるイーミアルさんから明かされると……」
「イーミアルは妾の部下である。詳しいことは奴に聞けばよい。それよりも妾からお前達に渡す物がある」
それを言い終わると同時に、女王の隣に控えていた女性が黒盆から何かの書状を取り出し、俺へと差し出した。
「失礼して、改めさせていただきます」
それほど長くはない文章。要約すると、フェルヴェフルールでのことは他言無用であるという事と、今回の調査結果を誰にも明かすなという事。それを守れば報酬を5倍支払うとの旨が書かれていた。
「これは……」
「そのままの意味だ。後はイーミアルから聞くがよい。ほれ、もう下がってよいぞ?」
恐らくは数分の出来事。片手を上げシッシッと追い払うような仕草は横柄極まりないが、早めに解放されたことで帳消しにしよう。
そのまま謁見の間を後にすると、今度は豪華な一室に案内される。
「イーミアル様が来られるまで、ここでお待ちくださいませ」
そう言い残し、使用人が部屋を出ていくと、女王に対する悪口大会が始まったのは言うまでもないだろう。
ただ1人。シャロンだけが申し訳なさそうに視線を落としていた。
「モ……モフ……団とやら。遠路はるばるご苦労であった」
どうしてこうなった……。
時を遡る事1時間前。アニタをなだめ、どうにかギルドを後にするとジョゼフから唐突な別れを告げられた。
「モフモフ団の皆様。わたくしの案内はここまでです。また後程お会いしましょう」
ジョゼフはただの案内役。依頼主とは俺達だけで合うのかと思っていたら、その依頼主はなんと王宮にいるというのだ。
知らずに馬車に乗せられ、着いた先は街の中心。世界樹に寄り添う巨大なお城の前である。
「これから女王陛下がお会いになられます。粗相など無きようご注意くださいますようお願い申し上げます」
誰だよ……。という感想の前に聞きたいことが山ほどある。
「いや、待ってください。依頼主は? 何故女王に謁見することになってるんですか? 何も聞いてないんですが?」
「イーミアル様には女王陛下謁見後に会談の場を設けさせていただいております。まずは女王陛下にお会いいただかなければ……」
さも当たり前のように話すハイエルフの女性。恐らくは使用人か付き人の類だろう。
「それはわかりましたが、俺達は別に女王様に用はないのですが……」
「女王陛下はあなた方に興味がおありです。それ以外に何か理由が必要ですか?」
なるほど。こちらの話を聞くつもりはないらしい。
「もしかして、女王様はパンがなければケーキを食べる方ですか?」
「……申し訳ありませんが、王宮の食料事情は私にはわかりかねます……」
そりゃ微妙な表情も浮かべるだろう。皮肉が通じない事を知っていて聞いているのだ。当たり前の答えが返って来るに決まっている。
意味不明な言葉を口にする俺に対し、向けられるミアの不思議そうな表情がなんとも愛らしい限りではあるが、それはひとまず置いておこう。
協議の結果、相手が女王であるならば逆らっても百害あって一利なしとのことで満場一致。
半ば強制的に連行されたのは謁見の間。レッドカーペットの先に見える大きな玉座には誰も座っていない。大きさ的にはスタッグ城の謁見の間と同じような広さだが、より解放感を感じる間取り。それは天井が存在しないからである。
見上げると聳え立つ世界樹の幹が迫りくるほどの迫力で、世界樹が屋根の役割を果たすのであれば、雨の心配はなさそうだ。
そう考えると、謁見の間というより巨大なルーフバルコニーと言った方が分かり易いのかもしれない。
護衛なのだろう周りに並び立つハイエルフ達が手にしているのは、剣や槍ではなく杖である。自分の肩ほどの高さの木製の棒。全てが同じ形ではないのが自然由来な物だということを思わせる。うっすらと輝いているところを見ると、恐らくは世界樹の枝から作られた物なのだろう。
「女王陛下がお見えになるまで、跪いてお待ちください」
勝手に呼んでおいてコレである。さすがは異文化。いや、異世界だからか?
シャロン曰く、女王との面会は望んでも中々出来ない名誉な事らしいが、基本的に王と呼ばれる人には、おいそれと会えないのが普通なんじゃなかろうか?
逆に友達感覚で会える王族がいれば、見てみたいものである。
べらぼうな美人で、なんでも言う事を聞いてくれて、俺の女になってくれるのならば話は変わるが、正直言って女王なんかに興味はないし、気乗りもしない。
俺と従魔達だけが面倒くさそうに溜息をつき、他の仲間達はそこそこ緊張しているように見えた。
「九条ってホント肝が据わってるわよね」
「そうですよ九条様! 凄い事なんですから!」
「それはさっき聞きましたから……」
少々興奮気味のシャロンに呆れつつ、早く来ないかと待っていると、ようやくその時が訪れた。
「女王陛下がお見えになりました。顔を上げ、エルメロード陛下と神樹に敬意を払いなさい」
シャロンに教わった通り、右手を左胸に当て、顔を上げた。そしてその光景に既視感を覚えた。
上空から現れたのは、女王らしきハイエルフの女性。上空と言っても浮遊している訳じゃなく、ゴンドラに乗り降りて来ているのだ。
皆の目には神秘的に映る光景なのだろうが、俺からはそうは見えなかった。
それと全く同じ光景を、知人の結婚式で見た事があるからだ。新郎新婦がゴンドラから降りてくるあのシーンを思い出し、不覚にも吹き出してしまったのである。
「ぶはっ……」
不意打ちもいいところだ。デカイブランコに乗り、女王が真顔で降りてくる。白いドレスは極端に前面の丈が短いフィッシュテールスカートで、見上げている俺達からはパンツ丸見え。笑うなと言う方がどうかしている。
とは言え、それがエルフ達にはバレなかったのが唯一の救い。恐らく気付いたのは俺の周りだけだとは思うが、余計な心配をさせてしまったことは後でしっかり謝罪しよう。
女王が謁見の間へと降り立つと、世界樹に背を向け玉座へと座り足を組む。ブロンドの髪を靡かせ、凛とした佇まいは女王の名に相応しい美しさ。
やはりエルフであるが故に年齢は不明だが、人間で言えば20前後。まだ幼さは残るものの、鋭い視線は女王たる風格を感じさせる。
しかし、それも女王が口を開くまで。透き通るような白い肌がほんのりと赤みを帯びる。
「モ……モフ……団とやら。遠路はるばるご苦労であった。……その……モフ……お前達のパーティ名はどうにかならぬのか?」
第一声がそれである。恥ずかしがるくらいなら呼ばなければいいのに……。
「モフモフ好きに悪い者はおりません。モフモフの気持ち良さは万国共通であり、世界平和に通ずるものがあると考えます。故にそれを広めることこそ我らが使命であるのです」
もちろん口から出まかせである。今適当に考えただけだ。……だからミアは俺に羨望の眼差しを向けるのをやめてくれ。
「そ……そうか……。中々の大義であるな……」
嘘をつけ。これっぽっちもそんなこと思っていないクセに良く言う。返答に困って適当に返したのが丸わかりだ。
お前等の世界樹信仰だって同じようなものだろう。腫れ物でも見るような視線を俺に向けるのは構わないが、人の振り見て我が振り直せと言ってやりたいくらいだ。
とは言え、これも作戦の内。多少おかしな事をしても、プラチナプレートは頭のネジが外れているから……で許されるのだ。
ならばそれを演じて、話しても無駄。関わり合いになりたくないと思わせることが出来れば、こちらの勝ち。さっさと開放して頂こう。
「ならば本題へと入ろう。今回お前達を呼んだのは他でもない。これから調査に赴くであろう廃村についてだ」
「ちょ……ちょっと待って下さい。それは依頼主であるイーミアルさんから明かされると……」
「イーミアルは妾の部下である。詳しいことは奴に聞けばよい。それよりも妾からお前達に渡す物がある」
それを言い終わると同時に、女王の隣に控えていた女性が黒盆から何かの書状を取り出し、俺へと差し出した。
「失礼して、改めさせていただきます」
それほど長くはない文章。要約すると、フェルヴェフルールでのことは他言無用であるという事と、今回の調査結果を誰にも明かすなという事。それを守れば報酬を5倍支払うとの旨が書かれていた。
「これは……」
「そのままの意味だ。後はイーミアルから聞くがよい。ほれ、もう下がってよいぞ?」
恐らくは数分の出来事。片手を上げシッシッと追い払うような仕草は横柄極まりないが、早めに解放されたことで帳消しにしよう。
そのまま謁見の間を後にすると、今度は豪華な一室に案内される。
「イーミアル様が来られるまで、ここでお待ちくださいませ」
そう言い残し、使用人が部屋を出ていくと、女王に対する悪口大会が始まったのは言うまでもないだろう。
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