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第272話 仕事の一環
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「おお、やってるやってる……」
地下6層ではドルトン、ギース、アニタの3人がデスハウンド相手に善戦していた。
それを影から見守る俺。
ドルトンはデスハウンドから繰り出される体重を乗せたタックルを盾で受け止め弾き返すと、詰め寄っていたギースが振り上げたクレイモアを叩きつける。
しかしそれは空を切り、地面に打ちつけられたクレイモアからは火花が舞った。
「くそッ!」
思い通りに攻撃が当たらず、苛立ちを隠せないギース。
「ギース! 離れて! 【魔法の矢】!」
アニタの周りに出現した光球が矢の如く飛翔するも、その全てを躱される。
それは紙一重で避けたというより、当たるわけがないと言わんばかりの速度差だ。
「速すぎるんだよ! なんとかしろ! ドルトン!!」
「無茶を言うな!」
そうは言いつつもさすがは盾役のドルトンだ。その素早さから繰り出される攻撃をことごとく受け止めている。
それでも、少しずつ傷を負いはじめているのは、上半身が裸の所為だ。
裸族の男が2人。必死に戦っているところ悪いのだが、シュールすぎて苦笑を禁じ得ない。
……まあ、俺の所為だが……。
「"ラヴァーズチェーン"!」
それは相手と自分とを一定の長さの鎖で縛るスキルだ。どちらかが死ぬまで続く、命懸けの綱引き。
相手の行動範囲を狭めるという意味でも、素早い相手には効果的。
ドルトンから伸びた鎖がデスハウンドに巻き付くと、力比べの開始である。
「かかったぞ!」
それはドルトンの土俵。もっとも得意とする戦闘スタイルなのだろう。
その表情からは、してやったりというような得意げな笑み。
それでも尚向かって来るデスハウンドは邪魔な盾を破壊しようと、無数の爪痕を刻んでいく。
「ギース!」
ドルトンが叫び、それに呼応したギースは1本のナイフを投げ入れた。
それに勘づいたデスハウンドは避ける為に距離を取る。
それが狙いなのだろう。ナイフは隙を作る為のフェイントに過ぎない。
「"リジェクトバッシュ"!」
ドルトンの盾が急に大きくなったかのような錯覚を覚える。
それはシールドバッシュの派生形。相手を強く押し込むことにより、遠くへと弾き飛ばしてしまうスキルだ。
殺傷能力は皆無でありラヴァーズチェーンで繋がれている為、それ以上遠くまでは吹き飛ばせない。
それは着地地点が決まっているということにほかならず、故に追撃は容易いのである。
これは彼等がもっとも得意とする連携の1つ。そして、俺はそれを知っているのだ。
「アニタ! ギース! やっちまえ!」
「【氷結束縛】!」
「"ヘビースラッシュ"!」
アニタの魔法で足元を凍り付かせ、動けないようにしてからギースの追撃で仕留める黄金パターン。あの時と同じだ。
しかし、アニタの氷結束縛《アイスバインド》はデスハウンドの足元には形成されなかった。
それは足止めありきの戦術。相手が動かないからこそ、ギースは捨て身の一撃を繰り出すことが出来るのである。
地面へと着地したデスハウンドは身を翻し、向かい来るギースへと襲い掛かる。
それは、わかってはいても避けられない不意打ちだ。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
クレイモアの斬撃は空を切り、ギースの脇腹には大きな爪痕。まるで魚のエラが大きく開いたような深い切傷は、どう考えても致命傷。
膝から崩れ落ちたギースは、地面に真っ赤な水たまりを作り出す。
「アニタ! どういうつもりだ!!」
叫んだのはドルトンだ。その足元は氷で覆われていた。
アニタは何も言わず、ドルトンから視線を逸らす。
「どうした? 痴話喧嘩か?」
そこから俺が姿を見せるとデスハウンドは闇へと還り、アニタはそそくさと俺の後ろに隠れた。
「九条! 貴様の差し金か!?」
「だったらどうする?」
「何故こんなことをする!? グレッグさんは無事なのか!?」
「何故って……。これが仕事だからだが? まあ、安心しろ。グレッグは無事だ。すぐ後を追わせてやるからお前は先に逝け」
「仕事だと!? 誰の差し金だ!!」
「なんだ。知らないのか? さっきからお前が言ってるグレッグに決まってるだろ」
「そんなバカな!?」
信じられないとばかりに目を見開くドルトン。だが、心当たりはあるはずだ。
グレッグならばやり兼ねないと考えてしまっても仕方のないこと。
まあ、そういう意味で言ったわけではないのだが、死にゆく者に説明したとて無駄である。
「最後に言い残すことは?」
「待ってくれ! 何かの間違いだ! グレッグさんと話をさせてくれ!」
「ああ。そんなことでいいならいくらでも話してくれ――あの世でな……」
ドルトンが安堵の表情を浮かべ、それが絶望へと変化した瞬間。その首は身体に別れを告げ、地面へと落ちた。
ドルトンの後ろにいたのは1体のリビングアーマーだ。
持っていたロングソードから滴る血液。旧騎士団の鎧は、返り血を浴びて赤く染まっていた。
「九条。あの……」
「質問は後だ。先にやらなきゃいけないことがある」
魔法書を開き、ドルトンだったものへと手をかざした。
「首をなくした恨みを糧とし甦れ。我が名は九条。汝の首と魂を繋ぎ止める者。その鮮血を瘴気に変え、仇なす者に深淵の断罪を。盾突く者には闇の鉄槌を下せ……」
闇へと飲まれるドルトンの肉体。
首元から流れ出る血液が瘴気へと変わり、あと少しというところでそれは崩壊を始めた。
ボロボロと崩れていく肉体は、やがて塵となり地面に小さな砂丘を作る。
それは、デュラハン化の失敗を意味していた。
「耐えられなかったか……」
ギースは……。恐らくダメだろうな。既に琴切れている。
今後デュラハンを生み出すにはノルディッククラスの肉体を持つ者が必要だということだ。
それが困難なことは明らか。このダンジョンの護衛として置いておくつもりだったのだが、別の方法を考えないとな……。
「もういいかな? 九条。私どうしたらいい?」
アニタは心配そうに俺の顔を覗き込む。
「ん? 堂々としてればいいだろ? それは俺に聞かないでくれ。裁くのは俺じゃない。下にレストール卿も来てるぞ? 丁度いいじゃないか」
レストール卿はバイスに呼んできてもらった。どうしても借りたい物があったのだ。
それを聞いたアニタはジリジリと後退りすると、振り向きざまに駆けだした。
「どこ行くんだよ……」
すんでのところでアニタの袖を掴み、手繰り寄せる。
「離して! まだ逃げられる!」
「逃げてどうするんだよ……。追われる身になれば冒険者プレートは無効だぞ? 正直に謝って冒険者を続けた方がいいんじゃないか?」
「でも、死罪だったらどうするの!?」
「その時は――あれだ。俺が話し相手になってやるよ。満足したら成仏しろよ?」
笑顔でフォローしたはずなのだが、どうやらお気に召さない様子。
アニタは顔面蒼白で俺の手を振り解こうと、藻掻き始めた。
「嫌だぁ! 死にたくないぃぃ!」
「大丈夫だって。その時は俺が口添えしてやるから……」
「えっ!? 九条。もしかしてレストール伯爵と懇意だったりするの?」
一筋の希望を見出したのか、動きを止めたアニタ。
「いや? 全然知らんが?」
そしてまた暴れ出す。
「嫌だぁ! 死にたくないぃぃぃぃ!!」
俺は嫌がるアニタを引き摺りながら、地下7層へと降りて行った。
地下6層ではドルトン、ギース、アニタの3人がデスハウンド相手に善戦していた。
それを影から見守る俺。
ドルトンはデスハウンドから繰り出される体重を乗せたタックルを盾で受け止め弾き返すと、詰め寄っていたギースが振り上げたクレイモアを叩きつける。
しかしそれは空を切り、地面に打ちつけられたクレイモアからは火花が舞った。
「くそッ!」
思い通りに攻撃が当たらず、苛立ちを隠せないギース。
「ギース! 離れて! 【魔法の矢】!」
アニタの周りに出現した光球が矢の如く飛翔するも、その全てを躱される。
それは紙一重で避けたというより、当たるわけがないと言わんばかりの速度差だ。
「速すぎるんだよ! なんとかしろ! ドルトン!!」
「無茶を言うな!」
そうは言いつつもさすがは盾役のドルトンだ。その素早さから繰り出される攻撃をことごとく受け止めている。
それでも、少しずつ傷を負いはじめているのは、上半身が裸の所為だ。
裸族の男が2人。必死に戦っているところ悪いのだが、シュールすぎて苦笑を禁じ得ない。
……まあ、俺の所為だが……。
「"ラヴァーズチェーン"!」
それは相手と自分とを一定の長さの鎖で縛るスキルだ。どちらかが死ぬまで続く、命懸けの綱引き。
相手の行動範囲を狭めるという意味でも、素早い相手には効果的。
ドルトンから伸びた鎖がデスハウンドに巻き付くと、力比べの開始である。
「かかったぞ!」
それはドルトンの土俵。もっとも得意とする戦闘スタイルなのだろう。
その表情からは、してやったりというような得意げな笑み。
それでも尚向かって来るデスハウンドは邪魔な盾を破壊しようと、無数の爪痕を刻んでいく。
「ギース!」
ドルトンが叫び、それに呼応したギースは1本のナイフを投げ入れた。
それに勘づいたデスハウンドは避ける為に距離を取る。
それが狙いなのだろう。ナイフは隙を作る為のフェイントに過ぎない。
「"リジェクトバッシュ"!」
ドルトンの盾が急に大きくなったかのような錯覚を覚える。
それはシールドバッシュの派生形。相手を強く押し込むことにより、遠くへと弾き飛ばしてしまうスキルだ。
殺傷能力は皆無でありラヴァーズチェーンで繋がれている為、それ以上遠くまでは吹き飛ばせない。
それは着地地点が決まっているということにほかならず、故に追撃は容易いのである。
これは彼等がもっとも得意とする連携の1つ。そして、俺はそれを知っているのだ。
「アニタ! ギース! やっちまえ!」
「【氷結束縛】!」
「"ヘビースラッシュ"!」
アニタの魔法で足元を凍り付かせ、動けないようにしてからギースの追撃で仕留める黄金パターン。あの時と同じだ。
しかし、アニタの氷結束縛《アイスバインド》はデスハウンドの足元には形成されなかった。
それは足止めありきの戦術。相手が動かないからこそ、ギースは捨て身の一撃を繰り出すことが出来るのである。
地面へと着地したデスハウンドは身を翻し、向かい来るギースへと襲い掛かる。
それは、わかってはいても避けられない不意打ちだ。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
クレイモアの斬撃は空を切り、ギースの脇腹には大きな爪痕。まるで魚のエラが大きく開いたような深い切傷は、どう考えても致命傷。
膝から崩れ落ちたギースは、地面に真っ赤な水たまりを作り出す。
「アニタ! どういうつもりだ!!」
叫んだのはドルトンだ。その足元は氷で覆われていた。
アニタは何も言わず、ドルトンから視線を逸らす。
「どうした? 痴話喧嘩か?」
そこから俺が姿を見せるとデスハウンドは闇へと還り、アニタはそそくさと俺の後ろに隠れた。
「九条! 貴様の差し金か!?」
「だったらどうする?」
「何故こんなことをする!? グレッグさんは無事なのか!?」
「何故って……。これが仕事だからだが? まあ、安心しろ。グレッグは無事だ。すぐ後を追わせてやるからお前は先に逝け」
「仕事だと!? 誰の差し金だ!!」
「なんだ。知らないのか? さっきからお前が言ってるグレッグに決まってるだろ」
「そんなバカな!?」
信じられないとばかりに目を見開くドルトン。だが、心当たりはあるはずだ。
グレッグならばやり兼ねないと考えてしまっても仕方のないこと。
まあ、そういう意味で言ったわけではないのだが、死にゆく者に説明したとて無駄である。
「最後に言い残すことは?」
「待ってくれ! 何かの間違いだ! グレッグさんと話をさせてくれ!」
「ああ。そんなことでいいならいくらでも話してくれ――あの世でな……」
ドルトンが安堵の表情を浮かべ、それが絶望へと変化した瞬間。その首は身体に別れを告げ、地面へと落ちた。
ドルトンの後ろにいたのは1体のリビングアーマーだ。
持っていたロングソードから滴る血液。旧騎士団の鎧は、返り血を浴びて赤く染まっていた。
「九条。あの……」
「質問は後だ。先にやらなきゃいけないことがある」
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「首をなくした恨みを糧とし甦れ。我が名は九条。汝の首と魂を繋ぎ止める者。その鮮血を瘴気に変え、仇なす者に深淵の断罪を。盾突く者には闇の鉄槌を下せ……」
闇へと飲まれるドルトンの肉体。
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ボロボロと崩れていく肉体は、やがて塵となり地面に小さな砂丘を作る。
それは、デュラハン化の失敗を意味していた。
「耐えられなかったか……」
ギースは……。恐らくダメだろうな。既に琴切れている。
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それが困難なことは明らか。このダンジョンの護衛として置いておくつもりだったのだが、別の方法を考えないとな……。
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「でも、死罪だったらどうするの!?」
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「嫌だぁ! 死にたくないぃぃ!」
「大丈夫だって。その時は俺が口添えしてやるから……」
「えっ!? 九条。もしかしてレストール伯爵と懇意だったりするの?」
一筋の希望を見出したのか、動きを止めたアニタ。
「いや? 全然知らんが?」
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