生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第241話 消えた冒険者の行方

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 暫く固まっていた2人であったが、先に口を開いたのはシャロンだった。

「エルザさんが……ネクロガルドの最高顧問……?」

「如何にも……。じゃが今回の原因はシャーリー、お主の方にある。我らの事を嗅ぎまわるからこうなったんじゃ。今回は九条に免じて許してやるが、この事は他言無用じゃぞ? イッヒッヒ……」

「何を偉そうに……。ケシュアだって俺の秘密を漏らしたんだ。お互い様だろ」

 呆れた表情でエルザを睨みつける九条。とは言え、これにて一件落着である。逆にネクロガルドが相手で良かったと、胸を撫で下ろした。

「失礼ですが、本当なんですか?」

「信用できぬか? ……じゃが、ここでそれを証明して見せるには九条の秘密を明かさねばならんのぉ……」

「ババァ、いい加減にしろよ?」

「おお、怖い怖い……」

 もちろん冗談だが、2人にはそれが冗談には聞こえなかった。
 シャロンはシャーリーの担当だ。いつかは九条の秘密を明かす日が訪れるかもしれない。可能性はゼロではないのだ。
 しかし、それが今ではないことはエルザも弁えている。それは諸刃の剣なのだ。九条の秘密を明かせば明かすだけ、ネクロガルドも不利になるのだから。

「信じます。プラチナプレート冒険者の秘密を知るには恐れ多く、自分にはその資格はありませんので……」

 ギルドのルール、という意味で捉えたのだろうが九条としては都合がいい。しかし、シャロンの表情は強張ったままだ。

「1つ聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」

「なんじゃ?」

「あなた方の秘密を探る冒険者達を何処にやったのですか? 返答次第では……」

「ヒッヒッヒッ……なかなか勇気のある小娘じゃのぉ。じゃが、それは教えてやれん」

「何故です!? やはり噂通り魔王復活の為の生贄に……」

「いやいや、何を勘違いしているのかわからんが殺すわけがなかろう」

「じゃぁ何故……」

「守秘義務じゃからの」

「守秘義務?」

「そうじゃ。普通に生活していれば、我らの存在に気付くことはないじゃろう。しかし、何気ない所にヒントは隠されておる。そこから我等の存在に気付いた冒険者が優秀なのは明らか。我等はその調査力を見込んでスカウトしているだけじゃ。残念ながら彼らが今何をしているかは言えぬが、我らの元でしっかりと働いてくれておるよ?」

「……そんな……」

「信じられないかえ? じゃが嘘は言っておらん。ワシの言葉を信じることが出来ぬのなら、九条がワシを信じるかを聞けばよい。さすれば自ずと答えも出るじゃろうて。のぅカガリよ……イッヒッヒッ……」

 カガリを撫でようと手を差し伸べるエルザであったが、カガリに牙を剥かれると、残念そうに手を引っ込める。
 
(やり辛いババァだ……。一体どこまで知っているのか……)

「我等の組織に入るのであれば冒険者は辞めてもらうし、守秘義務も守ってもらう。何も言わずにギルドを去ったのであれば、そうなってしまったということじゃ。もちろん今の稼ぎより高い収入を得られるのじゃから、断る理由もないじゃろうて」

 シャロンにそれを調べる術はない。冒険者達はしっかりとプレートを返却しているのだ。引退するにあたっての手順に不備はなく、円満に辞めている以上ギルドはそれ以降関われない。
 ネクロガルド側も正規の手続きを経て依頼を出している。依頼料も払っているし、冒険者を引き抜いてはいけないというルールは存在しない。

「では、シャーリーを監視していたのは殺す為ではなく、スカウトの為であると?」

「そうじゃ。なんなら今からでも遅くはないぞ? ダンジョン特化型のレンジャーはこの辺りでは貴重じゃ。九条の知り合いという点も評価に値する。今の年収の3倍の報酬を約束しよう。どうじゃ?」

「おい、ババァ。いい加減に……」

「九条は黙っておれ。ワシはお主に言われたから誤解を解きに来たまでじゃ。そしてそれは解けた。ここから先はお主に関係はあるまい。決めるのは本人じゃろ?」

 正論である。決めるのはシャーリーであり、九条ではない。
 予想外の反撃に腹立たしさを覚える九条を横目に、シャーリーに詰め寄るエルザ。
 さすが商売人とでも言おうか、自分が優位だと見るや、一気に畳みかける。

「しかも今なら特別サービス。九条を説得し、一緒に入団すれば年収は5倍。それに九条の助手として仕事をしてもらう。どうじゃ? 悪い条件ではなかろう?」

「……仕事の内容次第……かな……」

「シャーリー!?」「おい、シャーリー本気か!?」

 シャロンと九条から同時に上がる抗議の声。だが、シャーリーの目は真剣であった。それは本気でギルドを辞めてネクロガルドに鞍替えしそうなほどに見えたのだ。

「ふむ……。ここで言うのはちと憚れるが、まぁよかろう。組織が何の為に存在しているのかは正式に入団しなければ教えることは出来んが、お前さんに任せる仕事は、ダンジョンと古代遺跡の調査と保護になるかのう」

 それは聞き捨てならないと反発したのはシャロン。ダンジョンの管理は、ギルドの領分である。

「シャーリー、いけません。それらはギルドが所有し、その管理を国から任されています。犯罪行為ですよ!?」

「もちろんギルドの管理している物については手を出さぬよ? 我等が所有するのは未発見な物のみじゃ」

「それはギルドに報告するべきです。調査はギルドに任せた方がいい。管理がずさんであれば、近くの街や村に迷惑が掛かることくらいわかるでしょう?」

「ほぅ。まるで我らのやり方を見てきたような言い方をするが、何か根拠があるのか?」

「あります。ダンジョンから魔物が溢れ、人間に害を及ぼす事例はなくなっていません。それは未発見のダンジョンを報告しないあなた達の所為でもあるのではないですか?」

 目を吊り上げシャロンを睨みつけていたエルザであったが、肩を落とし溜息をつくと項垂れて見せる。

「やれやれ……。自分達のことは棚に上げて批判だけは一丁前か……」

 シャロンにはそれがバカにされているように見えた。見下されるのは構わない。相手の方が人生の先輩であるのはわかっている。だが、ギルドの仕事は困っている人々を助ける崇高なものだ。
 それにケチを付けられたようで、ついカッとなってしまった。

「そんなことありません! ギルドは平和の為に、何度も調査を行ってきました」

「そこに冒険者の命を使って――と追加しておいた方が良いぞ?」

「確かに冒険者さんのお力をお借りしていますが、やっていることは一緒です。冒険者さんはお金の為かもしれませんが、それはいずれ平和に……」

 その時だ、穏和に受け答えをしていたエルザが豹変し、感情を露にしたのである。

「では、何故ダンジョンを潰さないのじゃ!? お主らは調査しているだけ。平和にしたいのなら調査を終えたダンジョンは潰せばよかろう! やり方はいくらでもある。爆発魔法で崩すもよし、土魔法で入り口を塞ぐことも出来る。水魔法で水没させてもいいじゃろう。平和の為なら何故それをせず放置しておくのじゃ!!」

 その矛先はギルドなのだろう。しかし、面と向かって言われたシャロンは身を震わせ口を噤むことしか出来なかった。
 ダンジョンに魔物が集まるのは当たり前だ。漂う瘴気はさぞ居心地の良いことだろう。
 魔物を倒し放置すれば、いずれは新たな魔物が棲み付く。それが増えれば再び人に害を成す。
 シャロンは、反論しようにも出来なかった。
 エルザの言う事は、何も間違ってはいないのだから――――
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