生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第231話 結果発表

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 シャーリーとワダツミが村へと帰還し一夜が明けると、村は試験の終了と生徒達の送別会の準備で沸いていた。
 合宿所のキッチンだけでは間に合わず、食堂のキッチンと村長の家の台所まで借りての仕込み作業に追われる奥様達。
 農作業や家畜の世話が終わった男衆は、何処からか持って来たテーブルやら椅子やらを並べるのに大忙しだ。
 それを手伝う冒険者に、我関せずと近くで遊ぶ獣達に子供達。

 そんな中、合宿施設の前では試験結果が発表されていた。入口付近に建てられた看板に張り出される点数。結果は2種類。パーティ単位での成績と個人の成績である。
 生徒達はそこに掲載されているであろう自分の名を探す為、掲示板に目を走らせていた。
 まるで受験の合格発表であるが、俺はそれに興味がない。一喜一憂する生徒達を尻目に、遠くからそれを見学しているといった具合だ。
 結果は概ね予想通り。パーティ単位でも個人成績でも、アレックス達がほぼ最下位。不正していたのだから当然だ。
 失格にしなかったのは、これからへの期待を込めてといったところだろう。ネストも中々甘い採点である。
 ……と言いたいところではあるが、その中に近年稀に見る失格者が1人。それは点数の付かないほど酷かった者。ぶっちゃけると留年確定である。

「なんで俺だけが失格なんだよ!! アレックスやアンナだって同じように不正したじゃないか!!」

 ネストに食ってかかっているのはブライアンだ。顔は真っ赤で、その結果に納得がいかない様子。あまりの大声に生徒達は静まり返り、注目の的である。
 ネストはそれを涼しい顔で聞いている。

「確かに俺はアレックスを見捨てました。でもあれはアレックスが逃げろと言ったんです先生! 本人に聞いてみてくださいよ。レナも聞いていたはずだ。だから俺だけはおかしい!」

「もちろん知っています。本当にそれだけであれば、失格にはしませんでした。逃げることも重要でしょう。しかし、あなたの発言がアレックスの精神を追い詰めたことも事実。そんな精神状態では、正しい判断も出来なくなって当然。魔術師は精神力が大切だと教えませんでしたか?」

「そ……それは……」

 バレないとでも思っていたのだろう。ブライアンの先程までの威勢の良さは何処へやら。視線を落とし、焦りの色を見せている。
 残念ながらダンジョン内で起きた事は、108番を通して全て俺の耳に入っているのだ。ネストはその情報を加味したうえで、採点しているのである。

「それがなければリーダーであるアレックスは戦わずに帰還していたかもしれない。仲間を陥れるなんて言語道断です。よってパーティの輪を乱したあなたの責任ということで、教職員満場一致での決定。異論は認めません」

「ぐっ……」

 ネストの冷酷な目がブライアンを睨みつけ、一切の言い訳さえも許さない。
 何とか言い返そうと考えを巡らせてはいるのだろうが、結局は何も思いつかずに項垂れると、すごすごと身を引くブライアン。
 その背中は、どことなく哀愁が漂っていた……。

 ――――――――――

 酒が出なかったのが若干の不満ではあるのだが、生徒達との送別会も無事終了し、試験を無事終えた生徒達は村人に見送られながらも帰路についた。
 そのしんがりを任されているのは、ニールセン公率いる一団だ。
 そこにお邪魔しているのは、俺とミアとバイスとシャーリー。さすが公爵の乗る馬車なだけあって、王族が乗っている物と何ら遜色のない立派な物だ。揺れも殆どなく、座席はソファのようにふかふかである。

「ガルフォード卿が息子の死を伝えに来た時は、なんの冗談かと耳を疑ったが、あの時はすまなかった。非礼を詫びよう」

「いえ、驚かれることだろうとは思っておりました故、お気になさらず」

 俺が村でリッチと戦っている時に、バイスはニールセン公を迎えに行っていた。
 最初から呼び出していたのだが、早く来られても遅く来られても困る為、バイスにはその調節をお願いしていたのだ。
 俺からの突然の呼び出しだ。足を運ばない訳にはいかないが、その理由は伏せていた。その理由をバイスから聞き、ひと悶着あったという訳である。

「それで、九条。私が呼び出された本来の話というのは?」

「先程話しました通り、スタッグにあるお屋敷にお邪魔させていただけないかと……」

 チラリとシャーリーに視線を移すと、軽く頷いて見せる。

「お初お目にかかりますニールセン公爵様。ベルモントでシルバープレート冒険者として活動しているシャーリーと申します」

 王女と国王の前では狼狽えるほど切羽詰まっていたのに慣れたのか、それとも公爵程度では緊張しないのか。シャーリーは至って冷静に跪き、礼儀正しく頭を下げた。

「おぉそなたが……。アレックスから話は聞いている。頭を上げなさい。ウチの息子の所為で愛用の武器を奪われたと……。それも親の私の責任だ。許してくれ。見つからなければそれはこちらで保証するつもりだ」

「ありがとうございます公爵様。ですが、恐らくは無事だと聞き及んでおります」

「フィリップの話ではニールセン公のお屋敷に保管しているそうなのです。なので回収の為にと……」

「なるほど、そういう事だったか。良かろう。隅々まで探してくれて構わない。他にも必要なことがあればなんでも言ってくれ。出来る限りは融通しよう」

「「ありがとうございます」」

 もちろんそんな話はフィリップからは聞いていない。従魔達がそう言っているとは言えないからだ。

「さて、そちらの話が終わったのなら、こちらの話をしても良いだろうか?」

「構いませんが、どのようなご用件で?」

「グリンダ様についてだ。申し訳ないが、シャーリー殿とミア殿には席を外してもらいたいのだが……」

「わかりました。そういうことなら」

 走り続ける馬車の扉を開けると並走していたワダツミに飛び乗るシャーリー。ミアは危ないので、抱き上げてから寄って来たカガリへと乗せる。
 扉を閉めるとニールセン公は目を細め、真剣な面持ちで大きく咳ばらいをして、場の空気を一変させた。

「我が領土ミストとその隣国シルトフリューゲルについては知っているだろう?」

「はい」

 返事をしたのはバイスだ。俺はそれほど詳しくはない。知っているのはミスト領の東側に位置する隣国である事と、外交上あまり仲がいいとは言えず、頻繁に小競り合いの様な戦争が起こっているらしいということだけ。
 その背景までは知らないが、コット村の冒険者が急激に減った原因でもあるとは聞いている。

「最近は相手国も大人しくなったと聞き及んでいますが?」

「そうなのだ。それ自体は願ってもないこと。だが、その原因にグリンダ様が絡んでいるやもしれん」

「どういうことです?」

「可能性の話だ。まだわからんが、王女様が相手国にしばしば使者を送るようになった。ただの視察の可能性も考えられるが……」

「そのタイミングで進軍が止まったと?」

「うむ。一応グリンダ様に確認は取った。だが、机上の空論ばかりで、如何せん要領を得んのだ」

「その内容は?」

「……上手くいけば派閥は力を取り戻すと……。だから余計な詮索は無用だと……」

「そうですか……。わかりました。貴重な情報をありがとうございます」

「いやいや、九条にはアレックスを救ってもらったのだ。それが約束。老兵ではあるが、これでも騎士の端くれ。それを違おうとはせんよ」

 バイスはニールセン公に礼を言い素直に頭を下げた。第4王女の派閥にとっては有益な情報のはず。
 第2王女の動向がわかれば、その対策も立てやすいだろう。公爵家が水面下とはいえ味方になってくれるのは、ありがたい限りだ。

「しかし、派閥の力を取り戻すのとシルトフリューゲルとの間にどんな関係が……」

「可能性の話になってしまうが、シルトフリューゲル側へと嫁げば和平が結ばれるやもしれん。そうなればそれなりの実績にはなるが……」

「第2王女が国を出るとは思えないですね……。派閥が弱まっている今、あちらに嫁ぐのはタイミング的には絶好ではありますが、それでは派閥の強化には繋がらないはず……」

「そうなのだガルフォード卿。そうなると婿を取るということになるが……」

「あれに婿入りとか地獄ですね……」

 俺の発言を最後に、馬車内がシンと静まり返る。バイスもニールセン公も、俺の顔を凝視しつつも、目を丸くしていた。
 だが、それも一瞬だった。それに共感するかのように大笑いしたのはニールセン公である。

「ガッハハ、さすが九条だ。その物怖じしないところは嫌いではないぞ?」

 その笑い声は外まで聞こえるほどのもの。それに耳を傾けたのは、馬車の御者と護衛の騎士達である。
 久しく聞かれなかった主人の楽しそうな笑い声に気分が弾み、仕事中にも関わらずその口元は自然と緩んでいた。
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