生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第220話 アレックスの秘策

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「フィリップ。ダンジョンの入口までは後どれくらいだ?」

「このままいけば30分程ですかね」

「そうか。やはり経験者に依頼しただけのことはあるな」

「毎度どうも……。それよりいいんですか? こんなに堂々と不正しても」

「どうせバレっこない。確かにフィリップはバレたが、それだけだと思うのか? それに不正をするなとは言われていない」

「まぁ、アレックス様の事情は知りませんけどね。バレても払う物払ってくれればそれでいいですよ」

 最終パーティのチームは特別クラスの4人で構成されている。公爵家のアレックスと侯爵家のブライアンとアンナ。それと伯爵家のレナ。
 フィリップ程度ではその誰にも逆らうことは出来ないほどの上流貴族パーティである。

「レナ! 早く来い!」

「すいません。アレックス様……」

 その中ではレナが1番下。1人で4人の荷物を持たされていて、フィリップは自分の分だけの荷物を持っているといった状態だ。

「おいおい。アレックス。レナが可哀想だろ? 未来の嫁さんなんだから」

 ブライアンはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、煽るような冗談を口にする。
 本来であれば侯爵家が公爵家にタメ口を利くなどあり得ないのだが、彼らの関係はもっと砕けているのだ。
 それは冒険者同士の会話とも似ている。表向きは気の合う仲間。対等に近い存在なのである。

「うるせぇ! 言っただろ! この試験でトップを取れば俺は自由なんだ」

「わかってるって。そう怒るなよ。家を説得できてないのはアレックスだけなんだ。お互いの夢の為にも頑張ろうぜ?」

「ちょっと! その中には私も入ってるんだからね? 無視しないでよ!」

 アレックス、ブライアン、アンナの3人には共通するものがある。1つは夢。それは冒険者になることだ。
 そしてもう1つが、家に対する不満であった。覚えなければいけない100以上もの仕来り。礼儀作法にダンスのレッスン。伝統に作法に風習にと、もうウンザリなのである。
 貴族を捨て、自由に生きることこそが彼らの最大の望みであった。上級貴族である彼らの親は、何かと王都に足を延ばすことが多い。
 それは会議や会合、祝いの席など様々であるが、彼らはそこで出会ったのだ。そして家の不満をぶつけ合い、意気投合したのである。
 その中にはレナもいた。4人は同じ目的を持つ仲間として、いずれは家を捨て独り立ちしようと誓い合った仲なのだ。
 もちろんそれが困難なことはわかっている。だが、4人で力を合わせれば乗り越えられると信じて疑わなかった。

 ブライアンとアンナは第一子ではない為、家を継ぐことはない。2人は比較的自由な立場であり、苦労こそあれど冒険者になるのもまだ現実的であった。
 だが、アレックスだけは違ったのだ。家督を譲られるのは長男であるバリットのはずであったのだが、残念ながらバリットは戦で命を落とした。故に次男であるアレックスが家を継がねばならなくなってしまったのだ。
 だが、まだ望みはあった。アレックスが家を継ぐに相応しくない人間であればいいのだ。
 ワザと自分勝手に振舞い、親がアレックスを手に負えないと諦めれば養子を考えるはず。最悪、新たに子を成すことも視野に入れるだろうと考えていたのである。それは、あと一歩のところまで来ていた。

 しかし、レナが裏切ったのだ。

 アレックスは耳を疑った。父から聞かされたのはレナとの婚約発表。それも大勢の貴族のいる前で突然にだ。
 レナを問いただしても謝る事しかせず、要領を得ない。だが、アレックスはそんなことで夢を諦める訳にはいかなかったのである。

「アレックス様。戦闘に関することは何も聞いていないんですが、どうすれば?」

「そんなものない。フィリップに任せる。お前が俺達に指示を出せ」

「まぁそれは構いませんが、どうしようもない時は自分で身を守って下さいね」

「わかってるよ。これは前哨戦みたいなもんだ。俺達が冒険者になったらフィリップを専属タンクとして雇うからそのつもりでいてくれ」

「はいはい。期待せず待っておきます」

 現役冒険者の指示に従うのが最も安全で確実な方法。何をしようが試験官として採点するのはフィリップだ。最後に高評価を出してくれればなんの問題もないのである。

(九条も甘いな。プラチナだから言うことを聞くと思っているのだろうが、俺は違う……)

 不敵な笑みを浮かべながらも森の中を進む生徒達。そして彼等の目の前に現れたのは目的地である試験会場のダンジョンだ。
 その入口に待機していたのは見知った顔の4人組。14番目にスタートしたパーティである。

「中はどうなってる?」

「危険級以外は全部掃除済みですアレックス様。アンデッドが殆どを占めていましたが、雑魚ばっかでした」

「よくやった。……で、肝心のクリアの証は?」

「すいません、確保は無理でした。場所は地下7層。ですが、今年の危険級が半端じゃない。何か作戦でも立てなければ獲得は無理かと……」

「お前達はどうしたんだ? 自分達の分は?」

「諦めました。危険級はデスナイトです。残念ですが俺達の実力じゃ勝てそうもない……。恐らくですが全てのパーティは諦めて帰還しているんじゃないかと思います」

「「デスナイト!?」」

 驚いて当然だろう。例年であればジャイアントスパイダーやミノタウロスなどが危険級として配置されているのだ。
 大体が地下5層から10層程度の魔物である。それくらいの強さであれば、どの生徒達でもパーティで戦えば勝てるレベル。
 むしろ、既に倒されているだろうと考えていた。何せ13番目のパーティは最強の王女がいるのだから。

「何かの間違いじゃないのか?」

「大マジです。俺達も命からがら逃げてきたんですよ? 帰還水晶を使うか迷ったくらいです」

「そうか……」

「こうしてそれを伝える為に必死に走って逃げたんですから、もう少し褒めてくださいよ」

「ああ。よくやったな。それで? これからどうする?」

「俺達はこのまま徒歩で村まで帰ります。……そうだ。6層に宝箱のトラップがあります。フィリップさんなら見破るのもわけないでしょうけど一応……」

「よし、地図を寄こせ」

「こちらです。……お気をつけて」

 それだけ言うと、14組目のパーティーはそのまま村の方角へと歩いて行った。
 アレックスが手を回しているのはフィリップだけではない。木を隠すなら森の中。彼らは、ダンジョン経験者が見つからなかった時の為の保険として前々から買収していたのである。
 ここで14番目のパーティからクリアの証を受け取り、頃合いを見て村へと帰るだけで良かったのだ。
 それは九条も知り得ないこと。だからこそアレックスには自信があったのである。

「さて、アレックス様。申し訳ないが、デスナイトともなると俺1人じゃキツイ。ソロなら勝てるかもしれないが、守りながらとなると……」

「俺達が真面目に戦えば勝てるか?」

「力を合わせれば確実に勝てます。周りに敵がいなければの話ですが……」

「雑魚は掃除したと言っていたし大丈夫だろう。地下7層までは魔物はいないはずだ。ゆっくり作戦でも立てながら進もうじゃないか」

 アレックス達一行は、松明を持つフィリップを先頭にダンジョン内部へと入って行った。
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