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第202話 期末試験先行審査

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 そして模擬戦当日。生徒達がやることはギルドの模擬戦と同じ。防御魔法を展開し、それを先に破壊した方が勝ちというシンプルな物だ。
 冒険者と違うところは、遠距離戦を考慮してフィールドがテニスコートのような縦長である事と、攻撃方法が魔法に限定されている事くらい。
 正式名称は期末試験先行審査。その勝敗にあまり意味はない。外での活動に支障がないかを見極める為のもので、強さの証明ではないからだ。
 これに合格した者のみに城壁外活動許可が与えられ、各地の期末試験会場へと赴くことが出来るようになるのである。
 なので、それほど難しい事ではなく、基礎が出来ていれば基本は合格するようだ。
 場所は大きな体育館にも似た施設。1階には3つの模擬戦フィールド。2階には観客用の雛壇にベンチがズラリと並んでいる。
 俺達は、1階に併設されているステージ隣の控室で待機していた。

「私は審判でしばらくは帰ってこれないけど、今回は打ち合わせ通りにお願いね?」

 ネストの表情には余裕が感じられなかった。
 『今回は』に若干の圧を感じるのは、俺が生徒達に挨拶をした時、アドリブで一緒に授業を受けたことを根に持っている為だろう。

「ああ。わかってる」

「ホントに大丈夫? 信じるからね?」

 余計なことはするなと念を押して去って行くと、時間通りに学院長の挨拶が始まった。ぶっちゃけると校長の長い話だ。
 規則正しく並ぶ大勢の生徒達。真面目に聞いている者もいれば、隣とコソコソ喋っている者に欠伸をしている者もいる。
 それが案外目立っていて、ステージからの景色は新鮮に見えた。
 スピーチの内容は所謂テンプレ的な言い回し。怪我の無いように……とか、実力を遺憾なく発揮し……とか、まるで運動会の開会式のようだが、それが終わるとそろそろ自分達の出番である。

「……オッホン。では、私からの挨拶はこれくらいにして。本日のゲストを紹介しましょう」

 学院長から出た言葉にざわめく生徒達。これは体育祭や文化祭といった催し物ではない。ただの模擬戦にゲストが来ること自体、稀である為だ。

「まずは公爵家より、ニールセン公がお越しくださいました。皆さん拍手でお迎えしましょう」

 パチパチと社交辞令的な拍手が送られ、俺達のいる所とは反対側の袖から現れるニールセン公。
 厳格そうな顔つきは今日も健在だ。生徒達から上がるざわめきの中、学園長の隣へと位置取ると、頭は下げずに胸を張る。
 パツパツのジュストコールがミチミチと悲鳴を上げるほどの胸板は、衰えても尚健在といった佇まい。
 歴戦の勇士といっても過言ではないほどの筋肉量である。

「そして今回はもう1人。我が国が誇る冒険者の頂。ハイブリッドクラス初のプラチナプレート冒険者。死霊術師ネクロマンサーの九条さんにもお越しいただきました」

 ニールセン公とは違う大歓声。笑顔で手を振りながらステージの袖から姿を見せる。
 それはどことなくぎこちない。例の通り、そういう段取りなのだ……。
 生徒達が一堂に集結する場に顔を出すのはこれが初めて。俺だけならまだしも、それに続く従魔達には驚きを隠せない者も多く、むしろ俺より目立っている。
 それにチョコンと乗っている可愛らしい女の子は、もちろんミア。ガチガチに緊張していて、まるで人形かと思うほど動かないが、それは従魔達には害がないというアピールの為だ。

「ご存知の方もいらっしゃるでしょう。アンカース教諭のご友人でもある彼は、今回の試験にご同行して頂けることになりました。今回はその下見も兼ねてのご紹介ということになります」

 鳴りやまない歓声に、手を振るのを止めて、頭を下げる。
 特別クラスの10名は生徒達の一番前に立っていた。その殆どが親の仇でも目の前にしているかのように、俺を睨んでいたのだ。
 それには何も感じない。むしろ彼等だけが異質。歓迎してくれている生徒達との温度差が激しすぎて、笑いそうなほどである。
 恐らくニールセン公が隣にいるから大人しくしているのだろうが、いなければブーイングでもしていたであろう表情だ。
 そんな生徒達の興奮冷めやらぬ中、期末試験先行審査は始まりを迎えた。

 学院長に案内された先は、2階のアリーナ席。3つのコートがよく見える位置だ。
 そこに置いてある椅子は3つ。中央の席に学院長が鎮座し、両隣に俺とニールセン公という配置。その後ろにニールセン公直属の護衛騎士が2人と、ミアと従魔達といった位置取りだ。
 模擬戦が始まると、会場は異様な熱気に包まれる。勝敗が自分の評価に繋がらないとわかっていても、生徒達は手を抜いたりはしないようだ。

「【魔法の矢マジックアロー】!」

「【氷槍撃アイシクルランス】!」

 応援に歓声。数々の攻撃魔法が宙を舞い、防御魔法が砕ける衝撃音に審判の教師から上がる号令。試合が終わればそれを称え、勝っても負けても両者には惜しみない拍手を送る。

「どうですか、九条さん。現役の冒険者から見た率直な感想は」

「そ……そうですね。将来が楽しみな子達ばかりだ……。あっ! あの子は何と言うか……筋? がいいですね……」

 いや、もう全然わからない。自分で言っておいてなんだが、筋ってなんだよと。
 俺に人の才能を見分ける能力なんかない。ましてや魔術師の良し悪しなんかわかるわけがないだろう。
 唐突な質問にそれっぽく適当に答えると、学院長は満足そうな笑顔を見せ、一方それが嘘だとわかっているカガリからは、冷たい視線を向けられる。

「ほう、流石ですな。あの子も九条さんと同じハイブリッドなんですよ。後で九条さんが褒めていたと伝えておきましょう。ホッホッホッ……」

 出来ればやめていただきたい……。適当に目に入った女生徒だったのだが、申し訳ない気持ちでいっぱいである。

「ゴホン。学院長。申し訳ないが、少々席を外していただきたい。九条殿と2人で話がしたくてな」

「これはこれは失礼しましたニールセン公。それではわたくしは席を外しますので、是非最後までご覧いただき、ご歓談くださいませ」

 ニールセン公のわざとらしい咳払いに、嫌な顔ひとつせず席を立つ学院長。
 暫く、無言の空間が場を支配し、会場の騒音だけが響き渡っていた。

「さて、貴公の返事を聞こう」

 唐突なダジャレに吹き出しそうになりながらも、ぐっと堪える。
 隣のミアも肩をプルプルと震わせ我慢していたが、ニールセン公からは従魔達の影になっていて見えていないのが唯一の救い。
 何とかその波を乗り越えるとアリーナ席の様子は一変し、緊迫した雰囲気の中、2人の腹の探り合いが開始された。
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