生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第146話 盗賊?

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 朝早くにシャーリーと合流。レンタルした馬車に乗り込み、ベルモントの街を後にする。
 ここから南下し、港湾都市ハーヴェストまでは3日。まったりとした馬車の旅だ。

「お客さん。ここからは盗賊も多く出ます。気を付けてくださいね」

 出発して半日ほど経ったところで御者の男がそう言うと、不思議そうな顔をしている俺を見て、すぐにその理由を説明した。

「すいません。ここを通るときは言わなければいけないと組合で決まっているんですよ。まさかプラチナの旦那を襲う輩がいるとは思えませんが、決まりなんで勘弁してください」

 俺に向かってペコペコと頭を下げる御者の男に、「気にしなくていい」とだけ声を掛けた。

「まぁ、その気持ちもわかるかな。なんと言ってもプラチナだしね。偉そうに見えるんじゃない?」

 シャーリーは、横になりながらも自分の顔をワダツミの腹に埋め、モフモフに明け暮れている。
 その姿はだらしがないとも言えるが、俺も人の事は言えないのだ。

「そんなつもりはないんだが……。なぁ、ミア?」

「うーん。そうなんだけど、黙ってるとちょっと怖いイメージはあるかも……」

 馬車の中で大の字に寝そべりコクセイを枕にしている俺を見て、畏怖する者がいるわけがなく、その姿はどう見ても緊張感の欠片もない。
 ミアだってカガリに抱き着き、今にも寝そうなほど大きな欠伸をしていたのだ。そんな2人に言われるのは心外である。
 旅客用の馬車とは言え、結構な振動だ。だが、それも従魔達に寄りかかっているだけで、極上のゆりかごへと変わる。
 このままでは3人共寝てしまう。恐らく御者はそれを危惧したのだろう。
 冒険者護衛パックなしでのレンタル馬車。それを守るのは俺達の役目でもある。
 全員が寝てたら不測の事態に対応できない為、誰かしら起きていてくれないと困るのだ。
 プラチナの冒険者には恐れ多くて強くは言えず、濁した言い方になってしまったといったところか。
 そんな御者の心配をよそに、まったりとした馬車の旅は順調に進み、ハーヴェストまで残り半日といったところで事件は起きた。
 異変に気付いた御者が馬車を止め、何かあったのかと馬車から顔を出すと、目の前には、横倒しになっている大きな荷車。
 周りには荷物が散乱していて、それが邪魔でこちらの馬車が通れない。

「おーい。ちょうどいいところに来た。誰か手ぇ貸してくれ!」

 その隣にいた髭面の男が両手を振る。身形から推測するなら商人。状況から見れば、馬に逃げられ荷車をひっくり返してしまったので助けてほしいといったところだろう。
 だが、そうではなかった。それに逸早く気が付いたのはカガリである。

「主。あの男。敵意丸出しですよ?」

 それに付け足すコクセイ。その言い方はどう考えてもバカにしていた。

「九条殿。周りの森にも20ほどの気配を感じる。バレないとでも思っているのだろうか?」

「人間はお前達ほど感覚が優れている訳じゃないからな。普通はわからないもんだ」

 中々手の込んだ盗賊ではあるが、相手が悪かった。俺達じゃなければ騙せたかもしれないのに、運が悪かったとしか言いようがない。とは言え、油断は禁物である。

「プラチナの旦那。どうします? 助けましょうか?」

「いや、死にたくなければここにいてください。俺が何とかします」

「……へ?」

 何言ってんだコイツ。みたいなあからさまな顔をされても困るが、まぁ仕方がない。

「何かあったの? おにーちゃん」

「どうやらあれは盗賊のようだ。すでに周りも囲まれてる」

「ええ!?」

 声をあげたのは御者だ。無理もない。

「ミアとシャーリーは馬車から出ないように。お前達は呼んだら出てきてくれ」

「おーい。聞いてるのか? ちょっと手伝ってくれるだけでいいんだ!」

 急かす盗賊の男。武器の類を持っていないのは、俺達を欺く為なのだろう。
 馬車から降りた俺は、不用心に近づいて行く。

「大丈夫ですか? お怪我は?」

「ああ。怪我はない。すまないが、荷車を起こすのを手伝ってくれ」

「ええ。わかりました」

 そう言いつつも、荷車のあたりを注意深く観察していると、散乱した荷物の中に隠してある短剣がチラリと見えた。果物ナイフではなく、ガッツリ戦闘用の物だ。

「じゃぁ、にーさんはこっちを押してくれ。俺はこっちを押すから」

「いや、俺がこっちを押すよ」

 荷車に身体を隠し、こっそり武器を拾おうと言うのだろう。実に浅はかである。

「……あ、ああ。そうか。わかった。……じゃぁいくぞ? せぇーのぉー……よいしょ!」

 盗賊の男の掛け声と共に、ありったけの力を込めて荷車を押すと、それは大きな音を立て、元へと戻った。
 同時に立ち込める土煙。それが徐々に晴れると、そこに現れたのは羽交締めにされた盗賊の男と、その首元に刃物を突き付けている俺だ。

「くっ……」

「出て来い! お前達の仲間が殺されたくなければな!」

 それを馬車の中でこっそり見ていたミアとシャーリーは、思わず同時にツッコんだ。

「おにーちゃんの方が、悪い人みたい……」
「九条の方が盗賊だわコレ……」

 聞こえてるんだよなぁ……。自分でもわかってはいるが、仕方がない。相手はまだ何もしていないのだ。
 従魔達が盗賊だと言うからには間違いないのだろうが、一見助けを求めている人をいきなり殺すわけにはいかない。それではただの通り魔だ。
 盗賊の仲間達が茂みの中からぞろぞろ姿を現すと、各々が手に獲物を握り、俺はあっさり取り囲まれた。

「コイツを殺されたくなければ、武器を捨てろ」

 とは言ってみたものの、数では相手の方に分がある。

「にいさん。俺達の罠を見破ったことは褒めてやるが、この数を1人で相手にしようってのかい? むしろ逆だよ。俺達の言う事を聞いてくれるなら命までは取らないが?」

 恐らくコイツが親玉なのだろう。着ている物はボロボロだが、他のヤツよりは質の良いひざ丈まである黒いロングコートを羽織っている。
 正直動きにくそうだが、多少の威厳は感じられる。

「みんな、出て来てくれ」

 それを聞いて馬車から飛び出してきたのは4匹の魔獣。低く唸りながらも、牙を剥き出しにして威嚇する。

「ヒィ……」

 盗賊達が短い悲鳴を上げるも、逃げ出さなかったのは仲間の為か、足が竦んで動けないだけなのか。
 従魔達がそれを取り囲むと、形勢逆転である。

「俺を殺すのが先か、コイツ等がお前らを食うのが先か……。試してみるか?」

 盗賊の親玉を鋭く睨みつける。後退りする盗賊達を横目に、盗賊の親玉は武器を降ろして溜息をついた。

「はぁ……。わかった。降参だ……」

 持っていたシミターのような曲刀を地面に投げ捨てると、部下もそれに倣い武器を捨てる。

「よし。じゃぁひとまず、馬車が通れるようにこの辺の物を片付けてくれ。邪魔だからな」

 盗賊達はお互い顔を見合わせ首を傾げながらも、道端に散乱させていた荷物を荷車に乗せ始める。
 隙をついて逃げ出すかとも憂慮したが、意外と素直に言うことを聞いていた。
 それが終わると、邪魔な荷車は端っこに避けておき、往来の邪魔にならない所でお説教タイムである。

「何故、俺達を襲おうとした?」

「……誰でも良かった。最初にこの道を通った奴を狙う予定だったんだ」

 荷車をひっくり返してまで道を塞いだのだ。それが俺達だったとは運が悪かったとしか言いようがない。
 馬車にはちゃんと見える位置にプラチナプレートが掛けられている。それに気付いていても尚強行したのか、それとも知らなかっただけなのか。

「お前達は何人殺した?」

「……金は奪うが、殺しはしない。それが俺達の信条だ」

 ホントかよ……と疑いたくもなるが、その目は真っ直ぐで信じてもおかしくはないと思ってしまうほど。だが、本当はそんなことどうでもよかった。

「俺達を役人に突き出すつもりか?」

「いや、見逃してやろう」

「やはりそうか……って、え?」

 まぁ、そういう反応になるだろうなとは思っていた。予想外の答えに目を丸くするのは当然の結果だ。

「仲間想いのお前達にチャンスをやると言ったんだ。これ以上悪さをしないのなら見逃してやる。不満か?」

 それに激しく首を振る盗賊達。

「よし。じゃぁ行っていいぞ。……あ、武器は置いていけ。迷惑料として俺が売っといてやる」

 本当に行ってもいいのだろうかと戸惑う盗賊達だったが、俺から目線を逸らさずゆっくり立ち上がると、疑心暗鬼になりながらも荷車を引き、去って行った。

「主。いいのですか?」

「ああ。面倒だしな……」

「確かにそうですが……」

「ミア、シャーリー。武器を拾うの手伝ってくれ」

 仲間想いだからと偉そうなことを言ったが、見逃す理由としてそれっぽいことを言っておけば、更生するかなと思っただけだ。
 冒険者だからといって、盗賊に出くわしたら捕らえなければならないルールなんて存在しない。その裁量は個々の判断に任されるが、俺はどこかの黄門様のように、世直しの旅をしているわけではないのだ。
 奴等の中に誰か賞金首がいればカネになるのかもしれないが、別にカネには困っていないし、役人に突き出すということは、奴等を街まで引っ張っていかなければならない。
 盗賊達を馬車に乗せるのは御免だし、だからといって徒歩では今日中に街に辿り着けなくなってしまう。
 馬車の旅も3日目だ。この世界での馬車の旅というのも最初は新鮮で楽しかったのだが、慣れてきてしまうとそれも半減。進まな過ぎて辛すぎる。
 元の世界であれば車で数時間のドライブが、こっちではまるまる一日かかる行程。暇すぎて苦痛なのだ。俺はさっさと街に辿り着きたかったのである。
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