生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第145話 忘恩の徒

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 シャーリーから教えてもらったお薦めの宿屋で部屋を借りる。4人家族用の大きな部屋は、従魔達の為である。
 冒険者用の相場の3倍ほどの値段だけあって、広くて豪華。といってもネストやバイスの屋敷と比べたら雲泥の差だ。

「じゃぁ、俺はギルドに顔を出してくるから、ミアは待っててくれ」

「ん? 一緒じゃなくていいの?」

「大丈夫だ。依頼を受けるわけじゃない。ここで皆とくつろいでいてくれ。……ああ、そうだ。どうせだから飯も買って来るよ。何か食べたい物はあるか?」

「おにーちゃんと同じものがいい」

 4匹の従魔に囲まれながらも、笑顔で答えるミア。鉄壁のガードである。
 ミアと一緒に行動することも考えたが、あの視線に晒され続けなければならないのは、さすがに少々忍びない。

「よし、まかせとけ! お前達の分も買って来るから、ミアのことは頼んだぞ」

「うむ」

 正直、面倒くさいが仕方ない。ギルドに顔を出して、呼び出しの有無を確認するだけだ。
 ミアのことは従魔達に任せ、俺は単身ギルドへと足を運ぶと、思った通りのお出迎え。
 ギルドにいる人々の視線が俺に集中すると、怪訝そうな表情を浮かべる。視線を合わせようとはしないが、意識はこちらを向いているといった状態だ。
 だからといって、遠慮したりはしない。俺は何も悪いことはしていないのだ。
 依頼受付の列に並ぶと、それに気付いた職員が慌てた様子で連れてきたのは、ベルモントギルド支部長のおっさんである。
 シャーリーをパーティーに誘う際に、1度だけ顔を合わせたことがあるが、既にそれも忘れたのか、俺に向ける目は軽蔑の眼差しと言っていいだろう。
 あの時は、金の鬣きんのたてがみを討伐してくれて感謝しているとか言っていたクセに、既に手のひらを返している様子。
 有り体に言えば、恩を仇で返すと言ったところか。とはいえ、このギルドの為に金の鬣きんのたてがみを討伐したわけじゃないから、恩と言うのは筋違いかもしれない。

「本日はどういったご用件で?」

「俺宛てに呼び出しが入ってないか確認しに来ただけだ」

「現在はそのようなご連絡はありません」

「そうか。明日には街を発つ。邪魔したな」

 事務的な会話。それはわずか数秒で終了した。そしてすぐにギルドを離れる。
 宿への帰り道。夜空を見上げ考える。本当にこれで良かったのだろうかと……。
 ノルディックを殺した後。王都帰還前に、どうするかを皆と話し合った。俺はそのことを思い出していたのだ。

 ――――――――――――

 プラヘイムの宿屋の一室。いつになく真面目な表情で話すのはバイス。俺達からノルディックを殺した経緯を聞き、難しそうな表情で唸っていた。

「で? これからどうする?」

「俺は、全て話すつもりです」

「ノルディックを殺したこともか?」

「ええ。ミアを殺そうとしたんです。俺は自分の担当を守っただけ。それが悪いことですか?」

「もちろん九条は悪くないが、第2王女が素直に、はいそうですか、とは言わないだろ。俺とシャーリーは九条の味方だが、俺達が証言したところで相手は聞く耳をもたないぞ?」

「まぁ、なるようになるでしょう。最悪逃げることはいつでも出来るので」

「九条の実力ならそれも可能かもしれないが……。どうなるかは陛下次第だな……。恐らく第2王女派閥と第4王女派閥で争うことになる。どちらも譲らないだろう。そうなると陛下とギルドが、プラチナの九条の存在をどう扱うかにかかってくるはずだ。生かし利用するか、殺すか……」

「ちょっと待ってよ。生かすか殺すかって選択しかないの?」

 シャーリーはそれにもっともな異論を唱えた。椅子を蹴飛ばし立ち上がると、バイスに食って掛かる。

「国外追放にはしないはずだ。他の国にプラチナを取られるだけ。1番の悪手だろう」

「じゃぁ、軽い罰則を与えて釈放?」

「確かにその可能性もあるが、九条はノルディックを殺してるんだ。国民からの反発は避けられないはず……。国民感情を優先し、九条の処刑も考えられる。正直どっちに転ぶかわからない。ノルディックの本性を暴けるなら別だが……」

 押し黙るシャーリー。九条もバイスもミアも、そして従魔達も。これといった打開策は思いつかなかった。

「例え九条が無罪になったとしても、評判は落ちるはずだ。その場合、ミアちゃんもそう見られる恐れがある」

 カガリをなでながら話を聞くミアの方を見ると、ミアと目が合った。そして思いついたのだ。

「…………ならば、ミアを殺しましょう」

「えっ!?」

「九条!? お前何言って……」

 突拍子もない物言いに、皆が聞き間違えかと自分の耳を疑ったのだろう。

「いや、ちょっと言い方が悪かったですね。実際に殺すんじゃなく、ミアはノルディックに殺されたことにするんです。そうすればノルディックにも相応の罪を背負わせられるし、ミアはギルドも辞められる」

「それだ!」
「それよ!」

 バイスとシャーリーが綺麗に同調した。要は死人に口なしということだ。俺がノルディックを手に掛けた大義名分にもなる。
 ノルディックの計画を逆に利用し、罪を被ってもらおうとしたのだ。
 丁度いいタイミングだった。ノルディックと同じく遺体を偽装しプレートを提示するだけでいいのだから。
 ミアはギルドの孤児院から職員として採用された。故に相応の理由がなければ、ギルドを辞めることは出来ない契約を結んでいる。
 だが、欠点もあった。ミアが自由になる代わりに、コット村にはいられなくなる。
 ミアの事を知らない遠くの国にでも逃げることが出来れば、それが1番いいのだが、俺はダンジョンから長い間離れるわけにはいかない。必然的に、ミアはダンジョンに住むことになってしまう。
 日の目を見ることが出来ない籠の中の鳥。どちらにしろ自由にはなれないのかもしれないが、ギルドに縛られているよりはいいかと考えたのだ。
 しかし、その決断をするのはミア自身。

「決めるのはミアだ。俺のことは考えず、好きな方を選ぶといい」

「……私は……」

 ――――――――――――

 ミアは最終的にギルドに残ることを選んだ。
 孤児院で育てられた恩もあるのだろうが、コット村のみんなが好きだとも言っていた。
 確かにギルドには辛い過去もあったが、それも少しずつ解消し、ニーナとも上手くやっていけるかもしれないという道筋も見えていたからだろう。
 そして俺は、ミアの意見を尊重したのだ。それが正解だったのかはわからないが、そうあってほしいと心から願っていた。

 途中、屋台の良い匂いが俺の鼻孔をくすぐり、夕飯を買わなければいけなかったことを思い出した。とは言っても、それほど知っている街でもない。
 今から飯屋を探して回るのも時間がかかりそうだと思い、ひとまず屋台の串焼きでいいかと足を向けた。
 せっせと串焼きを焼いていたのは、額にねじり鉢巻きを巻いた威勢のいいおっちゃんだ。

「へい、らっしゃい!」

「これは1本いくらだ?」

「どれでも1本銀貨3枚になりやす!」

「じゃぁ、20本ずつください」

「まいどあり――え? 今、20本って言いました? 全部で60本ですけど……」

「ええ。在庫がなければ、あるだけでいいです」

「大丈夫です! ありやす! すぐ焼くんで少々お待ちを!」

「いや、今焼いてあるヤツ以外は生で大丈夫です」

「生!? 腹壊しますよ? お客さん」

「いや、家で焼くので……」

「あ……ああ。そうですよね。失礼しました……」

 そりゃ驚くだろうなと我ながらに苦笑する。60本もまとめて買う奴も珍しいだろうに、串焼きの屋台で焼かなくていいと言うのだ。それなら精肉店に行けよと思われているかもしれないが、それはご遠慮願いたい。
 焼いている物は俺とミアで食べるが、従魔達は生でも食えるから問題はないのだ。従魔達の胃袋を考えれば、これくらいは余裕で食う。
 それを宿に持ち帰ると、皆で串焼きパーティーの始まりだ。
 左手に自分の串焼きを持ち、右手で従魔達用の生の串を握る。そして自分の串焼きを一口頬張り、それをもっちゃもっちゃと食いながら、右手の串を従魔の口に入れ、閉じた口から串だけ引き抜く作業をミアと2人で流れ作業のようにこなしていた。

「おいひいね」

「うむ。なかなかんまいが、もうちょっと塩気があってもいいな」

「やはり、生は美味いですね」

「……」

 ミアには相槌を打てるが、カガリの意見には同意しかねる……。とは言え、皆それに満足した様子。

「あー、食った食った」

「あー、くったくった」

 満腹で重そうな腹をさすりながらベッドに仰向けになると、ミアもそれを真似てベッドに寝転び笑顔を見せる。
 そんなミアとじゃれ合いながらも徐々に瞼は重くなり、ベルモントの夜は更けていった。
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