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第134話 怒りのはけ口
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「クソッ! 耳を塞げ!!」
ノルディックは焦り、背中の大剣を抜いた。
「”アトミックバースト”!」
ノルディックの剣が真っ赤に燃え上がると、それを振りかぶり封印の扉に叩き込む。
爆炎が上がり、その爆発はダンジョン内部を大きく振動させた。
熱波が辺り一面を焼き、近づけば肌は焼け爛れ、火傷を負ってもおかしくない熱量であったが、扉には傷1つ入ってはいなかった。
悔しそうに歯を食いしばるノルディック。
ミアには解錠も解析も使えないことは調査済み。故に扉が開くことはないと思っていた。一瞬だが、ノルディックはミアに逃げられたと錯覚してしまったのだ。
「マウロ! マーキングを外してトラッキングに切り替えろ!」
「いいのか? あの魔獣を追えなくなるぞ?」
「構わん!」
マウロは、言われた通りカガリのマーキングを解除した。そしてトラッキングへと意識を向けたその時だった。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
扉の奥からミアの悲鳴が聞こえたのだ。その悲鳴も当然と言えば当然の結果だった。
「マウロ。中はどうなってる?」
「すげぇ数の魔物だ。それほど強くはないが、数がやべぇ。奥の部屋にぎっしりだ。100匹近くいるんじゃねぇか?」
群れを成す魔物はそれなりだが、強さとダンジョンの深さから推測すれば、ゴブリンか小型のスパイダー種が挙げられる。
どちらにしろそれだけの数が集まれば、手負いの子供にはどうすることも出来ない。
マウロの報告とミアの悲鳴。そこから導き出される答えは1つ。ミアは本当にダンジョンの――魔物の餌食となってしまったのである。
優秀な魔術師であれば、魔法で封印の解除は可能だ。だが、それは解除だけ。
その扉を再度封印した状態に戻すことは不可能。ダンジョンの主でもない限り。
ダンジョンの中に住んでいる魔物であれ食事はする。それが全てダンジョン内で完結しているわけではない。
弱い魔物は強い魔物に食われ、強い魔物はより強い魔物に食われる。ダンジョンにはダンジョンなりの食物連鎖が存在するのだ。
では、1番弱い魔物はどうするのか。答えは簡単だ。外に出て食料を確保するか、侵入者を食うのである。
それは迷い込んだ動物や人間。自分より弱い魔物など様々だ。ミアはその糧になってしまったのだ。
一時はどうなることかと思ったが、ひとまず目的は果たせたとノルディックは胸を撫で下ろした。だが、面倒なことになったのも確か。
ミアの死を九条に伝える証拠として、死体が必要であるからだ。
(それもこれも、さっさとミアを殺さなかったニーナの所為だ!)
ノルディックは未だ震えていたニーナに近寄り、思いきりその脇腹を蹴り飛ばした。
「――ッげはっ……!?」
脚には金属で出来たプレートのブーツ。その威力は言わずもがな。
ニーナは蹴られた衝撃で軽く吹き飛ぶと、壁面にその体を強く打ちつけ、そのまま地面に横たわった。
「てめぇがちんたらやってるから死体の回収ができねぇじゃねぇか! 役立たずが!!」
あまりの衝撃で立ち上がることすら出来ないニーナを、ノルディックは容赦なく蹴り上げる。
「何の為にてめぇを担当にしてやったと思ってんだ! 恨んでるんだろ? さっさとやれよボケナスが!」
何度目かわからない。10回か20回か。ニーナは既に動かない。意識があるのかさえ不明だ。
折れた肋骨が肺を突き破り、ニーナが咳をするたび地面が赤く染まっていく。
肩で息をしていたノルディックが蹴るのをやめると、ヒューヒューと乾いた呼吸音だけが僅かに聞こえていた。
「ノルディック! やり過ぎだぞ。死んだらどうする……」
「知るか! 自分の傷くらい自分で回復するだろ。グリンダが言うから担当にしてやったのに、全然使えねぇじゃねぇか!」
ニーナを担当に指名したのはノルディックではなく、第2王女のグリンダ。
ノルディックはそれに難色を示した。ゴールドにも満たない担当を連れたところで役に立たないのはわかり切っているからだ。
だが、ニーナには役割があった。それはいざという時の為の保険。最悪の場合、ミアを殺した罪をニーナに被せる手筈だったのだ。
ニーナは、ミアに恨みを持っているからこそ選ばれたのである。
「で? これからどうするんだ?」
「どうしたもこうしたもねぇ。計画通りだ。ミアの死体を回収できないのは残念だが、死んだことには変わりない。このままプラヘイムに帰って九条達を待つ。そしてミアが死んだことを報告すれば終わり。後は俺とマウロで話を合わせるだけだ」
「九条が折れるのをどれくらい待つつもりだ? 次の仕事の予定も入ってるんだろ?」
「ああ。グリンダは1年は放っておけと言っていたが、さすがに待てねぇ。まぁ長くても2ヵ月もすれば折れるだろ。それでダメなら、ミアの死を九条に押し付けるだけだ。それでもダメなら九条も殺す。1回プラチナ同士で戦ってみたいとは思ってたからな」
「おっかないねぇ。ホントは派閥に入ってほしくないんだろ?」
ノルディックはそれを鼻で笑った。
「当たり前だろ。プラチナは2人いらねぇ。俺は九条が断ってくれることを願ってるよ」
ノルディックは落ちていたダガーを拾い上げると、腰に付けていた革のカバーに仕舞った。
「いくぞ。ニーナ」
それに返事が返ってくるはずがない。辛うじて生きているといった状態だ。
思い通りにならずノルディックの苛立ちは増すばかり。ニーナを無理矢理立ち上がらせようとその腕を掴んだ瞬間だった。マウロのトラッキングに新たな魔物の反応が現れたのだ。
「ノルディック! 敵だ!」
ニーナを諦め、大剣を握るノルディック。
ノルディックは落ち着いていた。九条の管理下とは言え、ここはダンジョン。封印された扉の前にも、ある程度の魔物もいるだろうことくらい予想していた。
(どうせ、不在だった魔物が帰って来ただけだろう?)
それだけのことだと思っていた。
「数は?」
マウロがそれを答える前に、青白い光が目の前に広がった。
その光と共に姿を現したのは九条とコクセイ、それと白狐に跨るシャーリーだ。
狐火の光で、ノルディック達からは九条達の表情はあまりよく見えていなかった。
ノルディックとマウロは目を疑った。ここに来るはずのない人が来たのだから当然である。
予定では九条達はまだノーザンマウンテンのダンジョンの中。カガリがそれを伝えに走ったとしても、そこまで到達していないはずの距離。
(何故九条にここがバレた? 誰かがこの計画を漏らしたのか? ……だが、グレイスには最低限のことしか教えていない。全容は知らないはずだ。では誰が……)
この計画を知っているのは、第2王女のグリンダとマウロ。そしてノルディックだけだ。
(グリンダが裏切るわけがねぇ。となればマウロ一択だが、そのメリットはなんだ……。……いや、違う。裏切者はいない。誰も情報を漏らしてはいない。それが漏れたとするならば、九条はミアが死ぬ前に来ていなければおかしい……)
ノルディックは必死に原因を探ったが、長考するほどの時間がないのは明らかであった。それよりも、今は九条の対応に全力を注がなければならない。
「ミアはどこだ!」
九条の第一声は、ノルディックの予想通り。
「……すまない。守り切れなかったんだ……」
ノルディックは悔しそうな表情を浮かべながらも首を垂れ謝罪した。ノルディックが頭を下げることは稀であり、それには価値があると自負している。
それは自分が全てにおいて間違うことはないと確信しているからだ。
とは言え、ノルディックは最初から傲慢だったわけではない。
若かりし頃、冒険者ギルドで最初に貰ったのはシルバープレート。初登録からシルバーというだけで、周りからは騒がれた。だが、ノルディックはそれに甘んじることなく精進してきたのだ。
そして、プラチナになると自分に対する扱いは一変した。
たとえ間違っていたとしても自分のことを怒る人間はいなかった。何をしても許される。それが何年も続いた。天狗になっても仕方がない。
ノルディックは、自分は国王の次に偉いのだと思うようになった。第2王女に見初められ、功績を上げれば貴族になれる。
そうなれば、次の国王になることも夢ではない。
(その夢の為――グリンダの為ならば、九条に頭を下げることくらいどうということはない)
ノルディックの人生は右肩上がり。今はその絶頂期であるのだ。
「ワシでさえ手古摺る相手だったんだ! ニーナも瀕死の重傷を負ってしまった!」
我ながら名案だとノルディックは心の中では笑っていた。それにこのダンジョンには、破壊神を名乗る魔族が棲んでいるとギルドの報告書には記載されている。
そいつと戦ったことにすればいいと考えたのだ。
「そうでしたか……。残念です……」
(意外とドライだな……。もっと泣き叫ぶかと思ったのだが……)
自分のお気に入りとも言える担当を亡くしたのだ。ノルディックは、九条から罵詈雑言を浴びせられるくらいには覚悟していたつもりだが、拍子抜けであった。
ミアの死がそれほどのダメージにはなっていないと確信したノルディックは、それならばと欲を出した。
「九条君。ウチの派閥に入ってみてはどうだろう? これも何かの縁だ。ミアを守れなかったのはワシの所為でもある。ウチの派閥で手厚い葬儀をしてあげようじゃないか。もちろん費用の心配はしなくていい。すべてこちらで手配しよう」
「でも……。本当にミアが死んでしまったなんて信じられなくて……。そうだ……。遺体は……遺体はどこに!?」
(一応、悲しんではいるようだな……。受け入れられないだけか……)
九条の表情は酷く動揺している様で、ノルディックには無様に見えた。
「遺体は持ち去られてしまった。全てワシの責任だ。その怒りも悲しみも全てワシが受け止めて見せよう。だから九条君。ワシと共に来い」
「……わかりました。でもミアが死んでしまったという証拠が……。何か確証が欲しい……。ノルディックさんは見ているはずだ。本当に死んでしまったんですか!?」
「すまないが、物的証拠は何も……。だが嘘じゃない。ワシの命でよければいくらでも賭けよう。信じてもらうしかない」
数十秒程の間が空いた。そして、九条の雰囲気がガラリと変わったのだ。
「――じゃぁ死ね」
その場にいた全員が聞き間違いかと思ったほどだ。その声は低く聞き取りにくかった。
九条からは恐ろしいまでの殺気が溢れ出し、それは誰もがうろたえ、畏怖を覚えるほどの迫力があった。
(聞き間違いじゃねぇ!)
それを直接向けられたノルディックは笑っていた。九条と言う名の強者を前にしたことによる高揚感と緊張感に、愉悦さえ感じていたのだ。
ノルディックは焦り、背中の大剣を抜いた。
「”アトミックバースト”!」
ノルディックの剣が真っ赤に燃え上がると、それを振りかぶり封印の扉に叩き込む。
爆炎が上がり、その爆発はダンジョン内部を大きく振動させた。
熱波が辺り一面を焼き、近づけば肌は焼け爛れ、火傷を負ってもおかしくない熱量であったが、扉には傷1つ入ってはいなかった。
悔しそうに歯を食いしばるノルディック。
ミアには解錠も解析も使えないことは調査済み。故に扉が開くことはないと思っていた。一瞬だが、ノルディックはミアに逃げられたと錯覚してしまったのだ。
「マウロ! マーキングを外してトラッキングに切り替えろ!」
「いいのか? あの魔獣を追えなくなるぞ?」
「構わん!」
マウロは、言われた通りカガリのマーキングを解除した。そしてトラッキングへと意識を向けたその時だった。
「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
扉の奥からミアの悲鳴が聞こえたのだ。その悲鳴も当然と言えば当然の結果だった。
「マウロ。中はどうなってる?」
「すげぇ数の魔物だ。それほど強くはないが、数がやべぇ。奥の部屋にぎっしりだ。100匹近くいるんじゃねぇか?」
群れを成す魔物はそれなりだが、強さとダンジョンの深さから推測すれば、ゴブリンか小型のスパイダー種が挙げられる。
どちらにしろそれだけの数が集まれば、手負いの子供にはどうすることも出来ない。
マウロの報告とミアの悲鳴。そこから導き出される答えは1つ。ミアは本当にダンジョンの――魔物の餌食となってしまったのである。
優秀な魔術師であれば、魔法で封印の解除は可能だ。だが、それは解除だけ。
その扉を再度封印した状態に戻すことは不可能。ダンジョンの主でもない限り。
ダンジョンの中に住んでいる魔物であれ食事はする。それが全てダンジョン内で完結しているわけではない。
弱い魔物は強い魔物に食われ、強い魔物はより強い魔物に食われる。ダンジョンにはダンジョンなりの食物連鎖が存在するのだ。
では、1番弱い魔物はどうするのか。答えは簡単だ。外に出て食料を確保するか、侵入者を食うのである。
それは迷い込んだ動物や人間。自分より弱い魔物など様々だ。ミアはその糧になってしまったのだ。
一時はどうなることかと思ったが、ひとまず目的は果たせたとノルディックは胸を撫で下ろした。だが、面倒なことになったのも確か。
ミアの死を九条に伝える証拠として、死体が必要であるからだ。
(それもこれも、さっさとミアを殺さなかったニーナの所為だ!)
ノルディックは未だ震えていたニーナに近寄り、思いきりその脇腹を蹴り飛ばした。
「――ッげはっ……!?」
脚には金属で出来たプレートのブーツ。その威力は言わずもがな。
ニーナは蹴られた衝撃で軽く吹き飛ぶと、壁面にその体を強く打ちつけ、そのまま地面に横たわった。
「てめぇがちんたらやってるから死体の回収ができねぇじゃねぇか! 役立たずが!!」
あまりの衝撃で立ち上がることすら出来ないニーナを、ノルディックは容赦なく蹴り上げる。
「何の為にてめぇを担当にしてやったと思ってんだ! 恨んでるんだろ? さっさとやれよボケナスが!」
何度目かわからない。10回か20回か。ニーナは既に動かない。意識があるのかさえ不明だ。
折れた肋骨が肺を突き破り、ニーナが咳をするたび地面が赤く染まっていく。
肩で息をしていたノルディックが蹴るのをやめると、ヒューヒューと乾いた呼吸音だけが僅かに聞こえていた。
「ノルディック! やり過ぎだぞ。死んだらどうする……」
「知るか! 自分の傷くらい自分で回復するだろ。グリンダが言うから担当にしてやったのに、全然使えねぇじゃねぇか!」
ニーナを担当に指名したのはノルディックではなく、第2王女のグリンダ。
ノルディックはそれに難色を示した。ゴールドにも満たない担当を連れたところで役に立たないのはわかり切っているからだ。
だが、ニーナには役割があった。それはいざという時の為の保険。最悪の場合、ミアを殺した罪をニーナに被せる手筈だったのだ。
ニーナは、ミアに恨みを持っているからこそ選ばれたのである。
「で? これからどうするんだ?」
「どうしたもこうしたもねぇ。計画通りだ。ミアの死体を回収できないのは残念だが、死んだことには変わりない。このままプラヘイムに帰って九条達を待つ。そしてミアが死んだことを報告すれば終わり。後は俺とマウロで話を合わせるだけだ」
「九条が折れるのをどれくらい待つつもりだ? 次の仕事の予定も入ってるんだろ?」
「ああ。グリンダは1年は放っておけと言っていたが、さすがに待てねぇ。まぁ長くても2ヵ月もすれば折れるだろ。それでダメなら、ミアの死を九条に押し付けるだけだ。それでもダメなら九条も殺す。1回プラチナ同士で戦ってみたいとは思ってたからな」
「おっかないねぇ。ホントは派閥に入ってほしくないんだろ?」
ノルディックはそれを鼻で笑った。
「当たり前だろ。プラチナは2人いらねぇ。俺は九条が断ってくれることを願ってるよ」
ノルディックは落ちていたダガーを拾い上げると、腰に付けていた革のカバーに仕舞った。
「いくぞ。ニーナ」
それに返事が返ってくるはずがない。辛うじて生きているといった状態だ。
思い通りにならずノルディックの苛立ちは増すばかり。ニーナを無理矢理立ち上がらせようとその腕を掴んだ瞬間だった。マウロのトラッキングに新たな魔物の反応が現れたのだ。
「ノルディック! 敵だ!」
ニーナを諦め、大剣を握るノルディック。
ノルディックは落ち着いていた。九条の管理下とは言え、ここはダンジョン。封印された扉の前にも、ある程度の魔物もいるだろうことくらい予想していた。
(どうせ、不在だった魔物が帰って来ただけだろう?)
それだけのことだと思っていた。
「数は?」
マウロがそれを答える前に、青白い光が目の前に広がった。
その光と共に姿を現したのは九条とコクセイ、それと白狐に跨るシャーリーだ。
狐火の光で、ノルディック達からは九条達の表情はあまりよく見えていなかった。
ノルディックとマウロは目を疑った。ここに来るはずのない人が来たのだから当然である。
予定では九条達はまだノーザンマウンテンのダンジョンの中。カガリがそれを伝えに走ったとしても、そこまで到達していないはずの距離。
(何故九条にここがバレた? 誰かがこの計画を漏らしたのか? ……だが、グレイスには最低限のことしか教えていない。全容は知らないはずだ。では誰が……)
この計画を知っているのは、第2王女のグリンダとマウロ。そしてノルディックだけだ。
(グリンダが裏切るわけがねぇ。となればマウロ一択だが、そのメリットはなんだ……。……いや、違う。裏切者はいない。誰も情報を漏らしてはいない。それが漏れたとするならば、九条はミアが死ぬ前に来ていなければおかしい……)
ノルディックは必死に原因を探ったが、長考するほどの時間がないのは明らかであった。それよりも、今は九条の対応に全力を注がなければならない。
「ミアはどこだ!」
九条の第一声は、ノルディックの予想通り。
「……すまない。守り切れなかったんだ……」
ノルディックは悔しそうな表情を浮かべながらも首を垂れ謝罪した。ノルディックが頭を下げることは稀であり、それには価値があると自負している。
それは自分が全てにおいて間違うことはないと確信しているからだ。
とは言え、ノルディックは最初から傲慢だったわけではない。
若かりし頃、冒険者ギルドで最初に貰ったのはシルバープレート。初登録からシルバーというだけで、周りからは騒がれた。だが、ノルディックはそれに甘んじることなく精進してきたのだ。
そして、プラチナになると自分に対する扱いは一変した。
たとえ間違っていたとしても自分のことを怒る人間はいなかった。何をしても許される。それが何年も続いた。天狗になっても仕方がない。
ノルディックは、自分は国王の次に偉いのだと思うようになった。第2王女に見初められ、功績を上げれば貴族になれる。
そうなれば、次の国王になることも夢ではない。
(その夢の為――グリンダの為ならば、九条に頭を下げることくらいどうということはない)
ノルディックの人生は右肩上がり。今はその絶頂期であるのだ。
「ワシでさえ手古摺る相手だったんだ! ニーナも瀕死の重傷を負ってしまった!」
我ながら名案だとノルディックは心の中では笑っていた。それにこのダンジョンには、破壊神を名乗る魔族が棲んでいるとギルドの報告書には記載されている。
そいつと戦ったことにすればいいと考えたのだ。
「そうでしたか……。残念です……」
(意外とドライだな……。もっと泣き叫ぶかと思ったのだが……)
自分のお気に入りとも言える担当を亡くしたのだ。ノルディックは、九条から罵詈雑言を浴びせられるくらいには覚悟していたつもりだが、拍子抜けであった。
ミアの死がそれほどのダメージにはなっていないと確信したノルディックは、それならばと欲を出した。
「九条君。ウチの派閥に入ってみてはどうだろう? これも何かの縁だ。ミアを守れなかったのはワシの所為でもある。ウチの派閥で手厚い葬儀をしてあげようじゃないか。もちろん費用の心配はしなくていい。すべてこちらで手配しよう」
「でも……。本当にミアが死んでしまったなんて信じられなくて……。そうだ……。遺体は……遺体はどこに!?」
(一応、悲しんではいるようだな……。受け入れられないだけか……)
九条の表情は酷く動揺している様で、ノルディックには無様に見えた。
「遺体は持ち去られてしまった。全てワシの責任だ。その怒りも悲しみも全てワシが受け止めて見せよう。だから九条君。ワシと共に来い」
「……わかりました。でもミアが死んでしまったという証拠が……。何か確証が欲しい……。ノルディックさんは見ているはずだ。本当に死んでしまったんですか!?」
「すまないが、物的証拠は何も……。だが嘘じゃない。ワシの命でよければいくらでも賭けよう。信じてもらうしかない」
数十秒程の間が空いた。そして、九条の雰囲気がガラリと変わったのだ。
「――じゃぁ死ね」
その場にいた全員が聞き間違いかと思ったほどだ。その声は低く聞き取りにくかった。
九条からは恐ろしいまでの殺気が溢れ出し、それは誰もがうろたえ、畏怖を覚えるほどの迫力があった。
(聞き間違いじゃねぇ!)
それを直接向けられたノルディックは笑っていた。九条と言う名の強者を前にしたことによる高揚感と緊張感に、愉悦さえ感じていたのだ。
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