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第129話 ノルディックのやり方
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「そんな! 全員で力を合わせて討伐すれば、もっと楽に殲滅出来ます!」
「んなこたぁ言われなくてもわかってる。ワシが知りたいのは、九条の従魔がどれほどのものか知りたいだけだ」
「でも……」
「トロールくらい勝てるだろ? 魔獣と言われるほどだ。それより弱い魔物に負けることはあるまい。いつも通り九条達とやっている狩りを再現するだけだ。簡単だろ?」
「それは……」
ミアはそれとなくカガリへと視線を向け、それに気付いたカガリは無言で頷いた。
(やりたくはないが、仕方あるまい……。やらなければ、そのしわ寄せがミアにいくのは明白だ……)
カガリの役目はミアを守る事だ。ノルディックの仕事を手伝う気などないが、状況からそう判断せざるを得なかった。
時間を掛ければ魔物の一掃は可能だろうとカガリは読んでいたが、問題は相手の数である。
(正直これは骨が折れそうだ……)
「いつも通りやってくれればいいんだ。補助魔法に回復魔法。いくらでも使ってくれ。ワシはただ見てみたいだけ。ないとは思うが、いざという時はちゃんと助ける」
「……わかりました……」
結局はノルディックに押し切られ、作戦は決行されることとなった。
「【強化防御術(物理)】」
ミアはカガリに補助魔法をかけると、自分が無力であることを嘆き視線を落とした。
「ごめんねカガリ。気を付けて……」
最後に思いっきりカガリを抱きしめると、カガリは単身遺跡の中へと乗り込んで行った。
遺跡はかなりの規模だ。石を組み上げて作られたであろう塀に覆われたそこは、遥か昔、魔族達が使っていたとされている場所だが、その用途は不明であり、遺跡というより廃墟である。
陸上競技場ほどの広大な敷地に屋根の朽ちた石材建築の建物と、ボロボロの柱が乱立しているといった感じで、場所によっては祭壇のような歴史的建造物になり得る物も含まれていた。
位置的に建物の裏まで全て見通すことは出来ないが、それほど視界は悪くない。
カガリはそこで果敢に戦っていた。その勢いたるや尋常ではない。
次々と倒れていく魔物達ではあるが、トロールにだけは手を焼いていた。それは巨人族と呼ばれる魔物だ。その背丈は小さい者でも3メートル。
人間とは比べ物にならないほどの怪力を持つが、ふくよかな体格でその動きは鈍重だ。知能もそれほど高くはない。
故に魔法を行使する者はなく、使える武器といっても棍棒が精々だろうが、その力で振り下ろされる威力は、大木をも薙ぎ倒してしまうほどだ。
「中々やるなぁ。だが、ワシほどじゃぁねぇな」
遺跡の入口でカガリの様子を窺うノルディックとマウロ。ニーナと従者の男の姿が見えないのは馬車の見張りを任されているからだ。
ミアはカガリの様子を、固唾を飲んで見守っていた。
カガリから逃れようと出口に向かって来る魔物達は、マウロが狙撃し始末していく。
「そろそろカガリを引き上げさせても……」
「あ? まだに決まってるだろ。全滅するまで続けさせろ」
「でも……」
「折角従魔がついて来てんだ。手伝ってもらって何が悪い。それにヤバイ時は助けてやるって言ってるだろうが。ワシを信用できねぇのか?」
「いえ、そういう訳では……」
「じゃぁ、黙って見てろ。帰ってきたら回復してやればいいだろうが」
ミアが何かを言うごとに、ノルディックが不機嫌になっていく様子がその表情から見て取れる。
ノルディックを恐れまいとミアは自分に言い聞かせ、なんとか意見はするものの、それを聞いてはもらえない。
ある程度傷が増えて来ると、カガリは自ら引いて来る。その姿は痛々しく、純白の毛は泥と血にまみれていた。
「回復してやれ。その間だけ交替してやる」
とは言うものの、ノルディックが相手にするのはカガリを追ってきた数匹のみ。
カガリの回復と補助魔法の掛け直しが終わると、すぐにカガリを突撃させる。そして後は見ているだけだ。
(せめてもう少しカガリの近くで……)
だが、それは許されていない。徐々に傷が増えていくカガリを見ているだけ。拷問かとも思える時間が過ぎてゆく。
(同じプラチナプレート同士。おにーちゃんの実力が気になるのはわかるけど、本当にそれだけ?)
冒険者は協力し合うこともあれば、競い合う好敵手でもある。それがプラチナと呼ばれる限られた者達であるなら尚更だ。
だが、ミアにはそうは見えなかった。ただ楽をしたいが為だけに、カガリに全てを任せているように見えたのである。
(獣使いは、みんなこんな戦い方をするのかな……)
効率的なのは確かだが、目の前のそれは、人ではないが故に奴隷よりも扱いは酷い。
(でも、おにーちゃんは違う。従魔だけを戦わせて自分は安全な所に引き籠るような戦い方は絶対にしない!)
そんな地獄のような時間が、ようやく終わりを迎えた。
全ての魔物を倒し終えたカガリは疲労困憊。当たり前だ。戦い始めてから既に4時間程が経過していた。
「潰れなかったか。さすがだな」
ノルディックから出た言葉はそれだけだ。大きく呼吸を乱しながら帰ってきたボロボロのカガリを見ても、労いの言葉すらかけることはない。
「お疲れ様カガリ。ごめんね……」
ミアは自分の無力さに謝らずにはいられなかった。帰って来たカガリを労わり、回復魔法をかける。
もちろん傷は治るが、失った体力は戻らない。それでもしないよりはマシだ。
「【強化回復術】」
その輝きがカガリを癒す――はずだった。ミアの両手から発せられる癒しの光は弱々しく、遂には傷を癒すことなく輝きは失われた。
ミアの魔力が底をついたのだ。それでも魔力を絞り出そうを必死に集中するも、我慢できないほどの頭痛がミアを襲った。
「ぐっ……」
それは魔力欠乏症の初期症状だ。それを無視して魔力を行使すれば記憶障害に陥り、最悪記憶は失われ二度と戻っては来ないだろう。
カガリも、そしてミアも、疲れ切っていたのだ。
「ごめん……ごめんねカガリ……」
ミアの頬を一筋の涙が伝う。
(どうして……どうして私はこんなにも弱いの……)
ミアは泥と鮮血にまみれたカガリを抱きしめることしか出来なかった。
この後の調査は明日に持ち越されることとなった。
理由は2つ。時間的な問題だ、そろそろ辺りも暗くなる。そんな中で作業をしても大して効率は上がらない。
もう1つは、遺跡から離れていた魔物が戻ってくるかもしれないことを警戒してだ。
馬車へ戻ると、ニーナ達は野営の用意を始めていた。
そこにはノルディックのパーティ専用の物だろう大型の天幕が1つ。そして、従者かニーナ用の小型の天幕が1つ。
遅れて来たミアにニーナが近寄り、小さな袋を投げてよこす。
それはミア用の天幕。自分の物は自分で建てろということだ。
「ありがとうございます……。あの……ニーナさん……」
「なによ?」
「カガリに……。1回でいいので回復術をお願いできませんか?」
ミアは自分がニーナから嫌われていることを知っている。その理由は不明。ミアが知らない内にニーナを傷つけてしまったのかもしれないが、ミアにその自覚はなかった。
だからこそ話しかけるのも憚れる。しかし、今助けを求めることが出来るのは同じギルド職員であるニーナ以外にはいなかった。
(勇気を出してお願いすれば、カガリを治してくれるかもしれない……)
命に別状はないが、そう言う問題ではないのだ。
「嫌よ。それが原因でノルディック様の機嫌を損ねるかもしれないでしょ?」
ニーナはそれをきっぱり断ると、踵を返しノルディックの天幕へと戻って行く。
(そっか……。そうだよね……)
駄目で元々であるが故に、ミアはそれほどの衝撃を感じなかった。ニーナの言っていることも間違ってはいないのだ。
さすがのミアでも気付いていた。これがノルディックの本性なのだろうと。スタッグでの作戦会議や、九条との話し合いは猫を被っていただけなのだ。
だからといって、それがギルドの評価を下げることにはならない。性格や素行は関係ない。プラチナプレート冒険者はそれだけ優遇されているのだ。
ミアは自分に与えられた天幕を地面に広げた。ギルド職員の研修で一通りのことは教わっている。その作業はそれほど苦ではないが、ズキズキと響く頭痛が、それをより困難なものへと変えていた。
「早くしろ!」
「……すいません……」
それでも急ぎ天幕を建て終え振り返ると、そこではノルディックの従者が夕食の準備をしていた。
皆が円陣を組み、中央には焚き火が組んである。そしてその上に吊るされていたのは大きな鍋だ。
慣れた手付きでスープのようなものを作る従者は、完成したそれをノルディックへと差し出す。
渡された器からは湯気が立ち、口にいれれば冷えた体もあっという間に温まるだろう。何より漂ってくるおいしそうな匂いが、空腹を増幅させた。
それを美味そうに頬張るノルディックであったが、鍋に手を付けるのはノルディックだけ。それ以外の者達はパンと干し肉だけを食べていた。
恐らく鍋はノルディック専用。ミアは従者に渡されたパンと干し肉を大事そうに懐に仕舞うと、それをカガリと分けて食べた。
「見張りは交代制だ。お前は先に寝ろ」
「はい。わかりました」
そうノルディックから告げられた時、ミアは困惑を隠せなかった。
交替で見張るのは冒険者の間では普通のことだが、まさか先に寝かせてくれるとは思わなかったのだ。
(どういう風の吹き回し? 口は悪いけど心配はしてくれてる……?)
ミアは今回だけの臨時の担当。故に最低限の扱いはしてくれるのだろうかと考えつつも、もう思考することさえも億劫だった。
(少しでも寝て、体力と魔力を回復させないと……。起きたらすぐにカガリを癒してあげるんだ……)
天幕は1人用。カガリが入るスペースはない。ミアはカガリにおやすみの挨拶をすると、1人天幕で眠りについた。
「んなこたぁ言われなくてもわかってる。ワシが知りたいのは、九条の従魔がどれほどのものか知りたいだけだ」
「でも……」
「トロールくらい勝てるだろ? 魔獣と言われるほどだ。それより弱い魔物に負けることはあるまい。いつも通り九条達とやっている狩りを再現するだけだ。簡単だろ?」
「それは……」
ミアはそれとなくカガリへと視線を向け、それに気付いたカガリは無言で頷いた。
(やりたくはないが、仕方あるまい……。やらなければ、そのしわ寄せがミアにいくのは明白だ……)
カガリの役目はミアを守る事だ。ノルディックの仕事を手伝う気などないが、状況からそう判断せざるを得なかった。
時間を掛ければ魔物の一掃は可能だろうとカガリは読んでいたが、問題は相手の数である。
(正直これは骨が折れそうだ……)
「いつも通りやってくれればいいんだ。補助魔法に回復魔法。いくらでも使ってくれ。ワシはただ見てみたいだけ。ないとは思うが、いざという時はちゃんと助ける」
「……わかりました……」
結局はノルディックに押し切られ、作戦は決行されることとなった。
「【強化防御術(物理)】」
ミアはカガリに補助魔法をかけると、自分が無力であることを嘆き視線を落とした。
「ごめんねカガリ。気を付けて……」
最後に思いっきりカガリを抱きしめると、カガリは単身遺跡の中へと乗り込んで行った。
遺跡はかなりの規模だ。石を組み上げて作られたであろう塀に覆われたそこは、遥か昔、魔族達が使っていたとされている場所だが、その用途は不明であり、遺跡というより廃墟である。
陸上競技場ほどの広大な敷地に屋根の朽ちた石材建築の建物と、ボロボロの柱が乱立しているといった感じで、場所によっては祭壇のような歴史的建造物になり得る物も含まれていた。
位置的に建物の裏まで全て見通すことは出来ないが、それほど視界は悪くない。
カガリはそこで果敢に戦っていた。その勢いたるや尋常ではない。
次々と倒れていく魔物達ではあるが、トロールにだけは手を焼いていた。それは巨人族と呼ばれる魔物だ。その背丈は小さい者でも3メートル。
人間とは比べ物にならないほどの怪力を持つが、ふくよかな体格でその動きは鈍重だ。知能もそれほど高くはない。
故に魔法を行使する者はなく、使える武器といっても棍棒が精々だろうが、その力で振り下ろされる威力は、大木をも薙ぎ倒してしまうほどだ。
「中々やるなぁ。だが、ワシほどじゃぁねぇな」
遺跡の入口でカガリの様子を窺うノルディックとマウロ。ニーナと従者の男の姿が見えないのは馬車の見張りを任されているからだ。
ミアはカガリの様子を、固唾を飲んで見守っていた。
カガリから逃れようと出口に向かって来る魔物達は、マウロが狙撃し始末していく。
「そろそろカガリを引き上げさせても……」
「あ? まだに決まってるだろ。全滅するまで続けさせろ」
「でも……」
「折角従魔がついて来てんだ。手伝ってもらって何が悪い。それにヤバイ時は助けてやるって言ってるだろうが。ワシを信用できねぇのか?」
「いえ、そういう訳では……」
「じゃぁ、黙って見てろ。帰ってきたら回復してやればいいだろうが」
ミアが何かを言うごとに、ノルディックが不機嫌になっていく様子がその表情から見て取れる。
ノルディックを恐れまいとミアは自分に言い聞かせ、なんとか意見はするものの、それを聞いてはもらえない。
ある程度傷が増えて来ると、カガリは自ら引いて来る。その姿は痛々しく、純白の毛は泥と血にまみれていた。
「回復してやれ。その間だけ交替してやる」
とは言うものの、ノルディックが相手にするのはカガリを追ってきた数匹のみ。
カガリの回復と補助魔法の掛け直しが終わると、すぐにカガリを突撃させる。そして後は見ているだけだ。
(せめてもう少しカガリの近くで……)
だが、それは許されていない。徐々に傷が増えていくカガリを見ているだけ。拷問かとも思える時間が過ぎてゆく。
(同じプラチナプレート同士。おにーちゃんの実力が気になるのはわかるけど、本当にそれだけ?)
冒険者は協力し合うこともあれば、競い合う好敵手でもある。それがプラチナと呼ばれる限られた者達であるなら尚更だ。
だが、ミアにはそうは見えなかった。ただ楽をしたいが為だけに、カガリに全てを任せているように見えたのである。
(獣使いは、みんなこんな戦い方をするのかな……)
効率的なのは確かだが、目の前のそれは、人ではないが故に奴隷よりも扱いは酷い。
(でも、おにーちゃんは違う。従魔だけを戦わせて自分は安全な所に引き籠るような戦い方は絶対にしない!)
そんな地獄のような時間が、ようやく終わりを迎えた。
全ての魔物を倒し終えたカガリは疲労困憊。当たり前だ。戦い始めてから既に4時間程が経過していた。
「潰れなかったか。さすがだな」
ノルディックから出た言葉はそれだけだ。大きく呼吸を乱しながら帰ってきたボロボロのカガリを見ても、労いの言葉すらかけることはない。
「お疲れ様カガリ。ごめんね……」
ミアは自分の無力さに謝らずにはいられなかった。帰って来たカガリを労わり、回復魔法をかける。
もちろん傷は治るが、失った体力は戻らない。それでもしないよりはマシだ。
「【強化回復術】」
その輝きがカガリを癒す――はずだった。ミアの両手から発せられる癒しの光は弱々しく、遂には傷を癒すことなく輝きは失われた。
ミアの魔力が底をついたのだ。それでも魔力を絞り出そうを必死に集中するも、我慢できないほどの頭痛がミアを襲った。
「ぐっ……」
それは魔力欠乏症の初期症状だ。それを無視して魔力を行使すれば記憶障害に陥り、最悪記憶は失われ二度と戻っては来ないだろう。
カガリも、そしてミアも、疲れ切っていたのだ。
「ごめん……ごめんねカガリ……」
ミアの頬を一筋の涙が伝う。
(どうして……どうして私はこんなにも弱いの……)
ミアは泥と鮮血にまみれたカガリを抱きしめることしか出来なかった。
この後の調査は明日に持ち越されることとなった。
理由は2つ。時間的な問題だ、そろそろ辺りも暗くなる。そんな中で作業をしても大して効率は上がらない。
もう1つは、遺跡から離れていた魔物が戻ってくるかもしれないことを警戒してだ。
馬車へ戻ると、ニーナ達は野営の用意を始めていた。
そこにはノルディックのパーティ専用の物だろう大型の天幕が1つ。そして、従者かニーナ用の小型の天幕が1つ。
遅れて来たミアにニーナが近寄り、小さな袋を投げてよこす。
それはミア用の天幕。自分の物は自分で建てろということだ。
「ありがとうございます……。あの……ニーナさん……」
「なによ?」
「カガリに……。1回でいいので回復術をお願いできませんか?」
ミアは自分がニーナから嫌われていることを知っている。その理由は不明。ミアが知らない内にニーナを傷つけてしまったのかもしれないが、ミアにその自覚はなかった。
だからこそ話しかけるのも憚れる。しかし、今助けを求めることが出来るのは同じギルド職員であるニーナ以外にはいなかった。
(勇気を出してお願いすれば、カガリを治してくれるかもしれない……)
命に別状はないが、そう言う問題ではないのだ。
「嫌よ。それが原因でノルディック様の機嫌を損ねるかもしれないでしょ?」
ニーナはそれをきっぱり断ると、踵を返しノルディックの天幕へと戻って行く。
(そっか……。そうだよね……)
駄目で元々であるが故に、ミアはそれほどの衝撃を感じなかった。ニーナの言っていることも間違ってはいないのだ。
さすがのミアでも気付いていた。これがノルディックの本性なのだろうと。スタッグでの作戦会議や、九条との話し合いは猫を被っていただけなのだ。
だからといって、それがギルドの評価を下げることにはならない。性格や素行は関係ない。プラチナプレート冒険者はそれだけ優遇されているのだ。
ミアは自分に与えられた天幕を地面に広げた。ギルド職員の研修で一通りのことは教わっている。その作業はそれほど苦ではないが、ズキズキと響く頭痛が、それをより困難なものへと変えていた。
「早くしろ!」
「……すいません……」
それでも急ぎ天幕を建て終え振り返ると、そこではノルディックの従者が夕食の準備をしていた。
皆が円陣を組み、中央には焚き火が組んである。そしてその上に吊るされていたのは大きな鍋だ。
慣れた手付きでスープのようなものを作る従者は、完成したそれをノルディックへと差し出す。
渡された器からは湯気が立ち、口にいれれば冷えた体もあっという間に温まるだろう。何より漂ってくるおいしそうな匂いが、空腹を増幅させた。
それを美味そうに頬張るノルディックであったが、鍋に手を付けるのはノルディックだけ。それ以外の者達はパンと干し肉だけを食べていた。
恐らく鍋はノルディック専用。ミアは従者に渡されたパンと干し肉を大事そうに懐に仕舞うと、それをカガリと分けて食べた。
「見張りは交代制だ。お前は先に寝ろ」
「はい。わかりました」
そうノルディックから告げられた時、ミアは困惑を隠せなかった。
交替で見張るのは冒険者の間では普通のことだが、まさか先に寝かせてくれるとは思わなかったのだ。
(どういう風の吹き回し? 口は悪いけど心配はしてくれてる……?)
ミアは今回だけの臨時の担当。故に最低限の扱いはしてくれるのだろうかと考えつつも、もう思考することさえも億劫だった。
(少しでも寝て、体力と魔力を回復させないと……。起きたらすぐにカガリを癒してあげるんだ……)
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