生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

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第128話 遺跡調査依頼:二日目

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 プラヘイムの街で一泊して、九条達と同じ時間に街を出る。ここからは別々の道のりだ。
 ノルディックとミアはプラヘイム東の遺跡へと向かう為、街の東門を抜けて南東へ。九条達はノーザンマウンテンのダンジョンへと向かう為、北に進路を取った。
 ミアは手を振っていた九条に背を向けると、カガリと共に歩き出し、先行していたノルディックの馬車に追い付いた。

「別れは済んだか?」

「はい」

 九条と離れ不安を感じていたミアではあったが、仕えるのは王国最強と言われるノルディックのパーティだ。
 いつまでも九条を頼るわけにはいかない。今回は丁度いい機会。ギルドでの教えを思い出し、担当という職務を立派に果たして見せようと、ミアは意気込みを見せていた。

(失敗しないように頑張らないと。カガリもいるし、絶対大丈夫だよね)

 そう自らを奮い立たせるミアは、片手で小さくガッツポーズ。その決意と少々の不安は反対の手からカガリへと伝わっていた。
 カガリもミアと同じ心境であった。九条からミアを任されている。ミアが失敗しないよう全力でサポートし、ノルディックに迷惑を掛けないようにとカガリは自分に言い聞かせていた。
 自分の失敗は主である九条の評価へと繋がるのを知っているのだ。

 目的地まであと数キロといったところで、昼食の為の小休止。ノルディック達は馬車の中で食事を始めた。

「昼食だ」

 ノルディックの従者である首輪の男が、小さな袋を投げてよこす。ミアはそれを上手くキャッチすると、中に入っていたのは簡易的なサンドイッチだ。
 コット村でレベッカが作ってくれる物とは大違い。本当に簡素な物だが、干し肉よりはマシである。
 だが、それをすぐには口に入れなかった。

「あの、すみません。カガリの分はありませんか?」

「は? ないよ。元々の計画には入ってないし、そっちの都合でついて来た従魔なんだからそっちで用意しなよ」

 ミアに返事を返したのは先程袋を投げた従者の男だ。ノルディックはそれに見向きもせず、黙々と食事を続けている。
 ミアはほんの少しだけムッとした。

(確かに間違ってはいないけど、それならそうと出発前に言ってくれればよかったのに……)

 それならばと、ミアは貰ったサンドイッチを半分にちぎり、カガリの口元へと差し出した。
 ギリギリ届かないが、カガリがこちらを向けば食べられる位置。しかし、カガリは頑なに食べようとはしなかった。
 別に毒が入っているわけじゃない。カガリはミアを優先したのだ。
 カガリは魔獣。数日なら食べなくても問題はない。それに今回の依頼は1泊する予定だ。
 夜中の誰も起きていない時間帯に、こっそり小動物でも狩って食えばいいだけの話なのだが、ミアにはそれがわからない。
 だが、ミアは経験上どうすればいいのかを知っていた。
 カガリの言っていることは理解出来ないミアであるが、カガリはミアの言っていることを理解しているのだ。ならば正解を引くまで質問をするのが、ミアなりの答え。

「毒が入ってるの?」に対しては首を横に振り、「食べたくないの?」に対しては首を縦に。
「お腹がすいてないの?」に対しても首を縦に振り、「私に遠慮してるの?」に対しては首を横に振った。

 そういうことならと、ミアはサンドイッチにかぶり付いた。
 ミアにも思うところはあるが、カガリがいらないと言うのであれば食べるのが正解だ。
 どちらも食べずに譲り合っていても仕方がないのはわかっている。無駄に時間が過ぎるだけ。
 カガリもその結果に満足していた。

「ありがと、カガリ。でもあんまりおいしくないね」

 ノルディック達には聞こえないよう小さな声で素直な感想を漏らすと、カガリは少しだけ笑顔を見せた。

 それから暫くすると、調査対象の遺跡に到着した。ノルディック達は馬車から荷物を降ろし、それが終わると最初にするのは作戦内容の確認だ。
 今回は遺跡の調査が目的。そこに巣食う魔物がいれば、それを排除してからが本番である。
 ギルド担当の仕事は、マッピングに古代文字や壁画などの模写などが挙げられる。
 とは言え、隠された地下通路などがあることも多く、その調査を踏まえると、場合によっては予定日数を超過してしまうことも考慮する。
 ミアは、その作戦会議に参加しようと近寄ったまでは良かったが、それがノルディックの気分を損ねる結果に。

「おい。その従魔から降りろ。自分の足で歩けねぇのか? それと、それ以上そいつを近づかせるな」

 ノルディックから言われた強い口調に驚くも、ミアは己の甘さを悔いた。

「すいません。すぐ降ります」

 カガリに乗っていることに慣れてしまっていたミアは、それが当たり前となってしまっていたのだ。
 悪さをするような魔獣ではないが、それはノルディック達には関係がなく、近づくなと言われればそうするしかない。
 説得するという手もあるにはあるが、余計な事を口出しして失敗するよりはマシかと、ミアは素直にカガリから降りた。

「カガリ、ごめんね。ここで待ってて」

 カガリが離れると、作戦会議が始まる。ノルディックはキョロキョロと辺りを見渡し、誰もいない森へと向かい声をかけた。

「おい。もう出て来てもいいぞ」

 それを聞いて、木の影から姿を現したのはニーナだ。
 もちろんカガリはその気配を感じてはいたが、まさかそれがニーナだとは思わなかった。

「もう。待ちくたびれたよ」

 ニーナは愚痴をこぼしながらも、ノルディックの横へと並び立った。
 ニヤニヤと人を見下すような笑みを浮かべながらも、ニーナがミアに何かしようとする気配はない。

(何故ニーナさんがここに……)

 それを考えるより先に、ノルディックはニーナの胸ぐらを右手で掴み、そのままゆっくりと持ち上げた。

「てめぇ、それはワシに言ったのか?」

「ご……ごめんなさい。ノルディック様に言ったつもりじゃ……」

 ニーナの足は宙に浮き、その表情は一瞬にして恐怖に染まった。
 それを見ていたミアも、ニーナ程ではないが恐怖を覚えたのだ。

「口の利き方に気を付けろ」

 それはニーナに言った言葉ではあるが、聞いた者全員が気を引き締めるほど。
 ノルディックはニーナを降ろすと、作戦会議へと話を戻した。

「調査内容は?」

 ニーナは、メモのような物を取り出し読み上げる。

「は……はい。遺跡周辺は魔物の住処になっています。トロールとオーク、それと数種類の中型インセクト種が確認出来ました」

「数は?」

「え? ……えっと……。トロールが8匹。オークは……多分40匹くらいです」

 その答えにノルディックは苛立たしくニーナを睨みつけた。

「多分……だと?」

「す……すいません……」

「チッ……使えねぇなぁ。グレイスの方がよっぽどマシだぜ」

 ノルディックの満足のいく回答が答えられず、目に見えて落ち込むニーナ。

「マウロ。ここからだと何匹見える?」

「トロールは6、オークは32だが、ここからだと遺跡を全部カバーしきれていない」

「そうか、まぁ大体合ってるな」

 マウロはノルディックパーティの専属レンジャーだ。ノルディックとの付き合いは長く、それだけ貫禄がある。ほぼ同い年と言ってもいいくらいのおっさんで、その胸にかけているプレートはゴールドである。

(マウロさんに聞くなら先行調査なんていらなかったんじゃ……。そもそもニーナさんが合流することも、事前の作戦会議では言ってなかったのに……)

 ノルディックの態度は、昨日までとはまるで別人。ミアは、自分の所為でノルディックの機嫌を損ねてしまった可能性を捨てきれず、萎縮してしまっていた。

 その後も作戦会議は、淡々と続けられる。遠くからそれを見守るカガリであったが、その内容はハッキリと聞こえていた。

「ミア。あの魔獣の強さが見たい。戦闘に参加させるが構わんだろう?」

 ミアはノルディックの機嫌を損ねないよう、慎重に止めるよう訴えていた。
 だが、それを聞くノルディックではなかったのだ。
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