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第112話 初めてのパーティーメンバー募集
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「おにーちゃん。いいですか? 調査でやることは主に3つです」
「押忍ッ!」
ベッドの上で腕を組み仁王立ちしているミア。そして地面に正座し、それを見上げて静聴する俺。
したり顔で得意げにレクチャーしてくれるミアは、どこか嬉しそうである。
俺がやる気を出したからか、それとも頼られたからか……。まぁ、この際どちらでも構わない。
4匹の従魔達は呆れてそれを遠くから見守っているといった感じで、あまり興味はなさそうだ。
「まずは地形調査。マッピングです。前に炭鉱調査で教えました。覚えてますか?」
「ああ。それは覚えている」
「よろしい。それは多分担当のギルド職員がやるので、任せても大丈夫です。おにーちゃんはその間、担当さんを守ってあげるのがお仕事です」
「ふむふむ」
「次に生息している魔物の調査。依頼によるけど、特に記述がなければ倒してもいいし、勝てなそうなら無理しなくても大丈夫。それは、何が棲んでいるのかという情報があれば、次に繋げることが出来るからです」
「なるほどなるほど」
「最後は自然発生したダンジョンか、揺らぎの地下迷宮かの確認です。違いは以前教えました」
「ああ。大丈夫だ」
「自然発生したダンジョンの奥に揺らぎの地下迷宮があることがあるので、気を付けましょう! あとダンジョンコアを見つけることが出来れば特別報酬が出るよ」
「そうなのか?」
「うん。研究するんだと思う。前は失敗しちゃったみたいだから」
これも以前、ミアから聞いた。ギルド側はダンジョンの謎を解明出来ていない。知っているのは魔王が造ったという事と、コアが存在しているという事だけ。
と言っても、俺だって全てを知っているわけじゃない。
コアと呼ばれているものが、ダンジョンハートだという事。そこには魔力を貯蔵しておけるという事。そしてそれを使い、ダンジョンの管理が出来るという事。後はおかしな管理者がいることくらいだ。
「はい。ではここからは応用編です」
「応用?」
「うん。バイスさんも言ってたけど、おにーちゃんはパーティメンバーを募集することが出来ます」
「1人じゃだめなのか?」
その問いにミアは難色を示す。
「確かにおにーちゃんは強いです。でも、不意打ちされればどうですか? 1人ダンジョンで寝込みを襲われたら?」
「いや、俺には従魔達がいるから……」
「確かにそーなんだけど、そーじゃなくて!」
頬をぷくっと膨らませて怒る姿も愛らしい。とは言え、真面目に教えてくれているのだ。これ以上からかうのはよそう。
「冗談だよ。言いたいことはわかる。つまり危機管理が重要ってことだろ?」
「そーです! ダンジョン攻略にはセオリーがあります。最低でもレンジャーはいた方がいいでしょう。誰よりも先に魔物の存在に気付くことが出来るのは、ダンジョン攻略において大きなアドバンテージとなるのです!」
「なるほど……。なかなか勉強になるな……」
4匹の従魔達は人とは違い、感覚が鋭い。そのおかげで魔物の存在、敵意のある者の存在に逸早く気付くことが出来るが、スキルを持つ専門のレンジャーほどではない。空気の流れが極端に少ないダンジョンなんて狭い空間なら尚更だ。
「そうか……。それならカイルはどうだ?」
「カイルさんは村付きだから無理だと思う。それにダンジョンを専門にしてる人じゃないと意味ないよ」
「あまり知らない人とパーティを組むのはちょっと……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! おにーちゃんと組む担当さんだって知らない人だし、その人もちゃんと守ってあげないといけないんだよ?」
俺を叱責するミアの表情は真剣そのもの。人の命がかかっているのだから当たり前だ。それを正しい方向に持って行くのもギルド職員としての務めなのだろう。
「ああ、そうだな。なら仕方ないか。ギルドで言えばいいのか?」
「そうだよ。あっ、報酬はパーティメンバー全員で均等に分配が基本だからね?」
「わかった。じゃぁ、ひとまず募集をかけてみるか」
獣魔達を宿屋で待たせ、俺とミアだけでギルドへと戻る。
相変わらず賑やかなギルドだが、俺が窓口へ並ぼうとすると、先に並んでいた冒険者達は皆苦笑いを浮かべ、避けるように別の窓口へ移動する。
まるで遊園地のファストパスかと思うほど、俺の列には綺麗に誰もいなくなった。
順番に並んでいるのだから無理に空ける必要などないだろうに……。
ちゃんと並んで待つから戻って構わないと言おうとしたのだが、その者達は決して目を合わせようとはしなかった。
「ミア。プラチナだと列に並ばなくていい制度でもあるのか?」
「いや、そんなことないけど……」
プラチナプレートが珍しいのは理解しているが、その者達が俺達を見る表情からは、憧れや羨望の眼差しというような生易しい感情ではなく、戸惑いと畏怖。
カガリやコクセイがそう見られるのはまだしも、それを俺に向けられたのは、初めてのこと。
久しぶりに感じる居心地の悪さ。このままボーっと突っ立っていても仕方がないので、仕方なく窓口の受付嬢の元へと歩み寄る。
「九条様ですね。本日はパーティメンバーの募集でよろしいですか?」
「はい! お願いします!」
元気よく返事をするミアは背が足りず、カウンターからは顔の半分しか見えていない。
それよりも何も言わずにパーティメンバーの募集だということを理解していた受付嬢に驚いた。
ミア曰く、冒険者が受けた依頼次第で、受付嬢は次の流れを把握しているのだそう。
俺がダンジョンの調査を受けた時点で、パーティメンバーの募集をするだろうと予測を立て、待っていたのだろうとのこと。さすが熟練のギルド職員は仕事が早い。
そして次々とメンバーの条件を聞かれそれが出来上がると、1枚の用紙を受け取る。
「では、良い出会いがありますことを」
そう言って、受付嬢は次の冒険者へと意識を向けた。
「それを自分でメンバー募集掲示板に貼るんだよ?」
ミアが指さした方を見ると、依頼掲示板の隣にあるのはメンバー募集の専用の掲示板だ。
コット村にはない物……。恐らくそれなりに大きい規模のギルドにしかないのだろう。
どんなことが書かれているのか興味をそそられ、張り付けられている内容を確認していく。すると、その中に1つ目を見張るものがあった。
『パーティ募集。当方シルバープレート。適性はレンジャー、広域探索特化。報酬は金貨20枚以上の依頼のみ可』
「ミア、これは?」
「あ、この人でいいかも」
メンバー募集掲示板には逆に、入れるパーティーを募集している冒険者もいるようだ。
そこに書いてあった条件は、探していた条件に全てが当てはまっていた。
俺が受ける依頼の報酬は金貨80枚。それを2人で分ければ40枚だ。報酬としては十分だろう。
後はこの張り付けられている紙を窓口に持って行くだけだった。
しかし、それに手を伸ばそうとした瞬間、それは別の手によって掠め取られたのだ。
反射的にそちらを向くと、そこにいたのは1人の冒険者。
長髪の男性だ。短弓と呼ばれる小型の弓にショートソードを腰に差す若者。そしてその胸のプレートは、シルバーだ。
その若者と目が合った。気まずい雰囲気になるのを恐れ、咄嗟に口から出た疑問。
「失礼だが、その募集は君が?」
「ああ、そうだ。だが別の依頼を既に受けてしまって、剥がしに来たんだ。申し訳ないが、他を当たってくれ」
返って来た返事と共にくしゃくしゃに丸めた募集用紙をゴミ箱へと投げ捨てると、その若者はギルドを出て行ってしまった。
どうにか声を掛け、引き留めようかとも思ったが、どうせ断られるだろうと思うと、ただそれを見ていることしか出来なかった。
「残念だったね。おにーちゃん」
「ああ……」
名残惜しそうにギルドの扉を見つめる2人。
今回は縁がなかっただけだろう。当初の予定通り、募集に乗ってくれる冒険者を待てばいいだけだ。
出来れば怖くない人がいいな。経験豊富で強さも申し分なく、何も知らない俺にも優しく手取り足取り教えてくれるような……。
それでいて年下の女性で、背は俺より低くて胸は控えめ。そしてかわいくてセクシーでグラマーで――というのは冗談だ。
兎に角、条件に当てはまる冒険者であれば誰でもいい。
掲示板の隅から鋲を引き抜き、それで募集用紙を掲示板のど真ん中に張り付けると、良い人が見つかりますようにと願い宿屋へと戻った。
「押忍ッ!」
ベッドの上で腕を組み仁王立ちしているミア。そして地面に正座し、それを見上げて静聴する俺。
したり顔で得意げにレクチャーしてくれるミアは、どこか嬉しそうである。
俺がやる気を出したからか、それとも頼られたからか……。まぁ、この際どちらでも構わない。
4匹の従魔達は呆れてそれを遠くから見守っているといった感じで、あまり興味はなさそうだ。
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「なるほどなるほど」
「最後は自然発生したダンジョンか、揺らぎの地下迷宮かの確認です。違いは以前教えました」
「ああ。大丈夫だ」
「自然発生したダンジョンの奥に揺らぎの地下迷宮があることがあるので、気を付けましょう! あとダンジョンコアを見つけることが出来れば特別報酬が出るよ」
「そうなのか?」
「うん。研究するんだと思う。前は失敗しちゃったみたいだから」
これも以前、ミアから聞いた。ギルド側はダンジョンの謎を解明出来ていない。知っているのは魔王が造ったという事と、コアが存在しているという事だけ。
と言っても、俺だって全てを知っているわけじゃない。
コアと呼ばれているものが、ダンジョンハートだという事。そこには魔力を貯蔵しておけるという事。そしてそれを使い、ダンジョンの管理が出来るという事。後はおかしな管理者がいることくらいだ。
「はい。ではここからは応用編です」
「応用?」
「うん。バイスさんも言ってたけど、おにーちゃんはパーティメンバーを募集することが出来ます」
「1人じゃだめなのか?」
その問いにミアは難色を示す。
「確かにおにーちゃんは強いです。でも、不意打ちされればどうですか? 1人ダンジョンで寝込みを襲われたら?」
「いや、俺には従魔達がいるから……」
「確かにそーなんだけど、そーじゃなくて!」
頬をぷくっと膨らませて怒る姿も愛らしい。とは言え、真面目に教えてくれているのだ。これ以上からかうのはよそう。
「冗談だよ。言いたいことはわかる。つまり危機管理が重要ってことだろ?」
「そーです! ダンジョン攻略にはセオリーがあります。最低でもレンジャーはいた方がいいでしょう。誰よりも先に魔物の存在に気付くことが出来るのは、ダンジョン攻略において大きなアドバンテージとなるのです!」
「なるほど……。なかなか勉強になるな……」
4匹の従魔達は人とは違い、感覚が鋭い。そのおかげで魔物の存在、敵意のある者の存在に逸早く気付くことが出来るが、スキルを持つ専門のレンジャーほどではない。空気の流れが極端に少ないダンジョンなんて狭い空間なら尚更だ。
「そうか……。それならカイルはどうだ?」
「カイルさんは村付きだから無理だと思う。それにダンジョンを専門にしてる人じゃないと意味ないよ」
「あまり知らない人とパーティを組むのはちょっと……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! おにーちゃんと組む担当さんだって知らない人だし、その人もちゃんと守ってあげないといけないんだよ?」
俺を叱責するミアの表情は真剣そのもの。人の命がかかっているのだから当たり前だ。それを正しい方向に持って行くのもギルド職員としての務めなのだろう。
「ああ、そうだな。なら仕方ないか。ギルドで言えばいいのか?」
「そうだよ。あっ、報酬はパーティメンバー全員で均等に分配が基本だからね?」
「わかった。じゃぁ、ひとまず募集をかけてみるか」
獣魔達を宿屋で待たせ、俺とミアだけでギルドへと戻る。
相変わらず賑やかなギルドだが、俺が窓口へ並ぼうとすると、先に並んでいた冒険者達は皆苦笑いを浮かべ、避けるように別の窓口へ移動する。
まるで遊園地のファストパスかと思うほど、俺の列には綺麗に誰もいなくなった。
順番に並んでいるのだから無理に空ける必要などないだろうに……。
ちゃんと並んで待つから戻って構わないと言おうとしたのだが、その者達は決して目を合わせようとはしなかった。
「ミア。プラチナだと列に並ばなくていい制度でもあるのか?」
「いや、そんなことないけど……」
プラチナプレートが珍しいのは理解しているが、その者達が俺達を見る表情からは、憧れや羨望の眼差しというような生易しい感情ではなく、戸惑いと畏怖。
カガリやコクセイがそう見られるのはまだしも、それを俺に向けられたのは、初めてのこと。
久しぶりに感じる居心地の悪さ。このままボーっと突っ立っていても仕方がないので、仕方なく窓口の受付嬢の元へと歩み寄る。
「九条様ですね。本日はパーティメンバーの募集でよろしいですか?」
「はい! お願いします!」
元気よく返事をするミアは背が足りず、カウンターからは顔の半分しか見えていない。
それよりも何も言わずにパーティメンバーの募集だということを理解していた受付嬢に驚いた。
ミア曰く、冒険者が受けた依頼次第で、受付嬢は次の流れを把握しているのだそう。
俺がダンジョンの調査を受けた時点で、パーティメンバーの募集をするだろうと予測を立て、待っていたのだろうとのこと。さすが熟練のギルド職員は仕事が早い。
そして次々とメンバーの条件を聞かれそれが出来上がると、1枚の用紙を受け取る。
「では、良い出会いがありますことを」
そう言って、受付嬢は次の冒険者へと意識を向けた。
「それを自分でメンバー募集掲示板に貼るんだよ?」
ミアが指さした方を見ると、依頼掲示板の隣にあるのはメンバー募集の専用の掲示板だ。
コット村にはない物……。恐らくそれなりに大きい規模のギルドにしかないのだろう。
どんなことが書かれているのか興味をそそられ、張り付けられている内容を確認していく。すると、その中に1つ目を見張るものがあった。
『パーティ募集。当方シルバープレート。適性はレンジャー、広域探索特化。報酬は金貨20枚以上の依頼のみ可』
「ミア、これは?」
「あ、この人でいいかも」
メンバー募集掲示板には逆に、入れるパーティーを募集している冒険者もいるようだ。
そこに書いてあった条件は、探していた条件に全てが当てはまっていた。
俺が受ける依頼の報酬は金貨80枚。それを2人で分ければ40枚だ。報酬としては十分だろう。
後はこの張り付けられている紙を窓口に持って行くだけだった。
しかし、それに手を伸ばそうとした瞬間、それは別の手によって掠め取られたのだ。
反射的にそちらを向くと、そこにいたのは1人の冒険者。
長髪の男性だ。短弓と呼ばれる小型の弓にショートソードを腰に差す若者。そしてその胸のプレートは、シルバーだ。
その若者と目が合った。気まずい雰囲気になるのを恐れ、咄嗟に口から出た疑問。
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「ああ、そうだ。だが別の依頼を既に受けてしまって、剥がしに来たんだ。申し訳ないが、他を当たってくれ」
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どうにか声を掛け、引き留めようかとも思ったが、どうせ断られるだろうと思うと、ただそれを見ていることしか出来なかった。
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「ああ……」
名残惜しそうにギルドの扉を見つめる2人。
今回は縁がなかっただけだろう。当初の予定通り、募集に乗ってくれる冒険者を待てばいいだけだ。
出来れば怖くない人がいいな。経験豊富で強さも申し分なく、何も知らない俺にも優しく手取り足取り教えてくれるような……。
それでいて年下の女性で、背は俺より低くて胸は控えめ。そしてかわいくてセクシーでグラマーで――というのは冗談だ。
兎に角、条件に当てはまる冒険者であれば誰でもいい。
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