生臭坊主の異世界転生 死霊術師はスローライフを送れない

しめさば

文字の大きさ
上 下
112 / 633

第112話 初めてのパーティーメンバー募集

しおりを挟む
「おにーちゃん。いいですか? 調査でやることは主に3つです」

押忍オスッ!」

 ベッドの上で腕を組み仁王立ちしているミア。そして地面に正座し、それを見上げて静聴する俺。
 したり顔で得意げにレクチャーしてくれるミアは、どこか嬉しそうである。
 俺がやる気を出したからか、それとも頼られたからか……。まぁ、この際どちらでも構わない。
 4匹の従魔達は呆れてそれを遠くから見守っているといった感じで、あまり興味はなさそうだ。

「まずは地形調査。マッピングです。前に炭鉱調査で教えました。覚えてますか?」

「ああ。それは覚えている」

「よろしい。それは多分担当のギルド職員がやるので、任せても大丈夫です。おにーちゃんはその間、担当さんを守ってあげるのがお仕事です」

「ふむふむ」

「次に生息している魔物の調査。依頼によるけど、特に記述がなければ倒してもいいし、勝てなそうなら無理しなくても大丈夫。それは、何が棲んでいるのかという情報があれば、次に繋げることが出来るからです」

「なるほどなるほど」

「最後は自然発生したダンジョンか、揺らぎの地下迷宮かの確認です。違いは以前教えました」

「ああ。大丈夫だ」

「自然発生したダンジョンの奥に揺らぎの地下迷宮があることがあるので、気を付けましょう! あとダンジョンコアを見つけることが出来れば特別報酬が出るよ」

「そうなのか?」

「うん。研究するんだと思う。前は失敗しちゃったみたいだから」

 これも以前、ミアから聞いた。ギルド側はダンジョンの謎を解明出来ていない。知っているのは魔王が造ったという事と、コアが存在しているという事だけ。
 と言っても、俺だって全てを知っているわけじゃない。
 コアと呼ばれているものが、ダンジョンハートだという事。そこには魔力を貯蔵しておけるという事。そしてそれを使い、ダンジョンの管理が出来るという事。後はおかしな管理者がいることくらいだ。

「はい。ではここからは応用編です」

「応用?」

「うん。バイスさんも言ってたけど、おにーちゃんはパーティメンバーを募集することが出来ます」

「1人じゃだめなのか?」

 その問いにミアは難色を示す。

「確かにおにーちゃんは強いです。でも、不意打ちされればどうですか? 1人ダンジョンで寝込みを襲われたら?」

「いや、俺には従魔達がいるから……」

「確かにそーなんだけど、そーじゃなくて!」

 頬をぷくっと膨らませて怒る姿も愛らしい。とは言え、真面目に教えてくれているのだ。これ以上からかうのはよそう。

「冗談だよ。言いたいことはわかる。つまり危機管理が重要ってことだろ?」

「そーです! ダンジョン攻略にはセオリーがあります。最低でもレンジャーはいた方がいいでしょう。誰よりも先に魔物の存在に気付くことが出来るのは、ダンジョン攻略において大きなアドバンテージとなるのです!」

「なるほど……。なかなか勉強になるな……」

 4匹の従魔達は人とは違い、感覚が鋭い。そのおかげで魔物の存在、敵意のある者の存在に逸早く気付くことが出来るが、スキルを持つ専門のレンジャーほどではない。空気の流れが極端に少ないダンジョンなんて狭い空間なら尚更だ。

「そうか……。それならカイルはどうだ?」

「カイルさんは村付きだから無理だと思う。それにダンジョンを専門にしてる人じゃないと意味ないよ」

「あまり知らない人とパーティを組むのはちょっと……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! おにーちゃんと組む担当さんだって知らない人だし、その人もちゃんと守ってあげないといけないんだよ?」

 俺を叱責するミアの表情は真剣そのもの。人の命がかかっているのだから当たり前だ。それを正しい方向に持って行くのもギルド職員としての務めなのだろう。

「ああ、そうだな。なら仕方ないか。ギルドで言えばいいのか?」

「そうだよ。あっ、報酬はパーティメンバー全員で均等に分配が基本だからね?」

「わかった。じゃぁ、ひとまず募集をかけてみるか」

 獣魔達を宿屋で待たせ、俺とミアだけでギルドへと戻る。
 相変わらず賑やかなギルドだが、俺が窓口へ並ぼうとすると、先に並んでいた冒険者達は皆苦笑いを浮かべ、避けるように別の窓口へ移動する。
 まるで遊園地のファストパスかと思うほど、俺の列には綺麗に誰もいなくなった。
 順番に並んでいるのだから無理に空ける必要などないだろうに……。
 ちゃんと並んで待つから戻って構わないと言おうとしたのだが、その者達は決して目を合わせようとはしなかった。

「ミア。プラチナだと列に並ばなくていい制度でもあるのか?」

「いや、そんなことないけど……」

 プラチナプレートが珍しいのは理解しているが、その者達が俺達を見る表情からは、憧れや羨望の眼差しというような生易しい感情ではなく、戸惑いと畏怖。
 カガリやコクセイがそう見られるのはまだしも、それを俺に向けられたのは、初めてのこと。
 久しぶりに感じる居心地の悪さ。このままボーっと突っ立っていても仕方がないので、仕方なく窓口の受付嬢の元へと歩み寄る。

「九条様ですね。本日はパーティメンバーの募集でよろしいですか?」

「はい! お願いします!」

 元気よく返事をするミアは背が足りず、カウンターからは顔の半分しか見えていない。
 それよりも何も言わずにパーティメンバーの募集だということを理解していた受付嬢に驚いた。
 ミア曰く、冒険者が受けた依頼次第で、受付嬢は次の流れを把握しているのだそう。
 俺がダンジョンの調査を受けた時点で、パーティメンバーの募集をするだろうと予測を立て、待っていたのだろうとのこと。さすが熟練のギルド職員は仕事が早い。
 そして次々とメンバーの条件を聞かれそれが出来上がると、1枚の用紙を受け取る。

「では、良い出会いがありますことを」

 そう言って、受付嬢は次の冒険者へと意識を向けた。

「それを自分でメンバー募集掲示板に貼るんだよ?」

 ミアが指さした方を見ると、依頼掲示板の隣にあるのはメンバー募集の専用の掲示板だ。
 コット村にはない物……。恐らくそれなりに大きい規模のギルドにしかないのだろう。
 どんなことが書かれているのか興味をそそられ、張り付けられている内容を確認していく。すると、その中に1つ目を見張るものがあった。

『パーティ募集。当方シルバープレート。適性はレンジャー、広域探索特化。報酬は金貨20枚以上の依頼のみ可』

「ミア、これは?」

「あ、この人でいいかも」

 メンバー募集掲示板には逆に、入れるパーティーを募集している冒険者もいるようだ。
 そこに書いてあった条件は、探していた条件に全てが当てはまっていた。
 俺が受ける依頼の報酬は金貨80枚。それを2人で分ければ40枚だ。報酬としては十分だろう。
 後はこの張り付けられている紙を窓口に持って行くだけだった。
 しかし、それに手を伸ばそうとした瞬間、それは別の手によって掠め取られたのだ。
 反射的にそちらを向くと、そこにいたのは1人の冒険者。
 長髪の男性だ。短弓と呼ばれる小型の弓にショートソードを腰に差す若者。そしてその胸のプレートは、シルバーだ。
 その若者と目が合った。気まずい雰囲気になるのを恐れ、咄嗟に口から出た疑問。

「失礼だが、その募集は君が?」

「ああ、そうだ。だが別の依頼を既に受けてしまって、剥がしに来たんだ。申し訳ないが、他を当たってくれ」

 返って来た返事と共にくしゃくしゃに丸めた募集用紙をゴミ箱へと投げ捨てると、その若者はギルドを出て行ってしまった。
 どうにか声を掛け、引き留めようかとも思ったが、どうせ断られるだろうと思うと、ただそれを見ていることしか出来なかった。

「残念だったね。おにーちゃん」

「ああ……」

 名残惜しそうにギルドの扉を見つめる2人。
 今回は縁がなかっただけだろう。当初の予定通り、募集に乗ってくれる冒険者を待てばいいだけだ。
 出来れば怖くない人がいいな。経験豊富で強さも申し分なく、何も知らない俺にも優しく手取り足取り教えてくれるような……。
 それでいて年下の女性で、背は俺より低くて胸は控えめ。そしてかわいくてセクシーでグラマーで――というのは冗談だ。
 兎に角、条件に当てはまる冒険者であれば誰でもいい。
 掲示板の隅から鋲を引き抜き、それで募集用紙を掲示板のど真ん中に張り付けると、良い人が見つかりますようにと願い宿屋へと戻った。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...