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魔術師の初仕事
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久方ぶりにシトリニスの町に戻って来た俺は、魔術アトリエに向かった。
ノックをするとリンが扉を開いてくれる。
「あ、クロト!? 久しぶりね! ……って何その格好!?」
リンはもはや布切れとかした俺の服を見て目を丸くした。
ところどころ破れ肌が露出していて、原始時代の人でももうちょっといいもの着てただろうという服に変貌しているから無理もないか。
「いやー実は森に籠もって修行してて、一ヶ月くらい町に帰ってないから服もズタボロでね。あ、でも大丈夫、水浴びはして体は洗ってたから清潔ではあるよ」
「いやまあ清潔はいいんだけど。森籠もりって限度というものがあると思うわよクロト。……あ、もしかしてお金がなくて泊まる場所がない予感……?」
「うっ……まあ、そういう事情もある」
「だったら言ってくれれば住み込みで働けるところとか紹介してあげたのにー。一緒に薬草を探した縁じゃない、遠慮しなくていいのに」
「ありがとう。でも修行に集中したかったし、そういう意味ではちょうど良かったんだ。おかげで、魔術を使ってお金を稼ぐ目処がたったよ」
「本当? 一種類しか使えないのに?」
「一種類で十分なんだな、これが。それでここに来たのは――」
俺はぱんっと両手を合わせてリンを拝んだ。
「服を貸してください!」
「はい? ふく?」
「そう。魔術を使って稼ぐアテがあるんだけどさ、こんなズタボロの服着た半裸の男が物を売っても皆ヤバい奴だと思って買わないだろ? だからちゃんと見られる服が必要なんだ。もちろん使い終わったらきれいに洗って返すから、お願い!」
「ああ、それは確かにこのままじゃ売れない運命ね。貸してあげたいところだけど、リンが持ってる服って女物しかないよ」
「ああ、それはもちろんわかってる。このアトリエにローブとかあったような気がするなと思って」
アトリエの中を見まわすと、クローゼットが奥の方にあった。
開けっぱなしになっていて、中にはいかにも魔術師っぽいローブやインナーなどが入っている。
しかし開けっぱなしだと臭いとかめちゃくちゃつきそうだな、と思っているとリンもそちらに目を向けて、頷いた。
「なるほどなるほど。あれがあったかー。うん、いいわ。リンのではないけど別に着る人もいないし。ゲゼルビークさんも文句言わない予感がするものね」
そういえばこのアトリエはゲゼルビークのものだったか。まあ、使ってないものを借りるだけなら問題あるまい。
というわけで俺はローブに袖を通した。
えんじ色のローブを着ると、ついでにリンが杖を持ってくる。
それをさらに手に取ると。
「おほーっ! いいね、いいね。魔術師っぽくなってるよー」
なんか興奮している。
魔術師仲間が増えたのが嬉しいのか。
しかし、うん、自分でも結構サマになってて気分があがるな。
「助かった。それじゃ、早速商売開始してくる」
「いってらっしゃい~……って、そういえば何するの? というか、そこまで魔術上達したの?」
「……ふっ。もちろん、勝算があるから森から帰ってきた」
「いや、森からはいつ帰ってもいいと思うけど」
「俺がやろうと思ってるのは、これだよ」
作業台の上にボウルのような丸い器があったので、それを左手に乗せ、右手の杖を掲げる。いつもは素手だったけど、杖があると魔力が素早く集中できるな、これが魔術の杖の効果か。杖があってもいつも通りと同じ感覚ではできるから、問題はなさそうだ。
さて、それじゃあ……氷魔術、起動!
軽く力を集中すると、頭ほどの大きさの球体の氷が杖先に現われた。
しかもそれは落ちずにその場で浮遊している。
「おおっ! 前見せてもらったときと全然違うわね!」
リンが嬉しそうな声をあげる。
「相当魔術の力アップしてるね!」
「本番はここからよ。んー……砕け散れ!」
浮かせてある氷の球にさらなる魔力を注ぎ込む。
すると、氷球は下の方からガリガリと細かく削れてボウルの中に落ちていく。
そしてすぐにボウルは細かく削られた氷でこんもりと満たされた。
「ええーっ!? 氷を削った!? そこまでのことができるようになってるの!?」
「訓練の成果、ってやつ」
「そんなさらっと言うレベルのことじゃないでしょこれ……」
リンは口をぽかんと開いて砕けた氷を見つめている。
「たった三ヶ月でこんなことができるようになるなんて……そんな話聞いたことない……氷魔術に関して言えばすでに私より上じゃない、これ?」
リンは口を開けたまま俺の方を向く。
俺が削った氷と、俺の顔に交互に目線を向け、何度も瞬たく。
「クロト、本っ当に魔術使えなかったの? 0からこんなことまで?」
「嘘つなんてつかないよ。三ヶ月みっちり、クロト式で訓練した成果」
「あなた何者……? って感じなんですけど?」
やはり、俺の仮説は正しかった。リンの反応で確信した。複数の魔術を覚えた人はここまでのスピードでは一つの魔術を成長させることはできないんだ。
俺は氷魔術を修行している時、単に出す量を増やすだけで無く、やれることのバリエーションも増やすように意識して行った。
氷を使ってできることを色々やってやろうと意識を集中してやるのだ。最初は念じるだけでなにもおきないが、しつこく続け、また、そうやって集中してる時に、時には氷を石で砕くなど、魔術で起こしたいことと同じようなことをやってやることで、自分の魔力に『覚え込ませ』ることを反復していると、やがて氷を砕いたり、形や大きさを変えたり、空中に浮かせて自在に操ったりということもできるようになっていった。
もちろん、基本的な魔力が増えてからの話だが、今では色々なことができるようになっている。
「さて、この削った氷が大事なんだ。あとはそう、ここって砂糖水ある?」
「ああ、あるわよ。ほい」
リンが砂糖と水を棚から出してくれた。
それをまぜて砂糖水を作り、森で採取してきた赤いベリーの果汁を加えてシロップを作り砕いた氷にかけて……そう、あれだ。
「かき氷の出来上がり! 味見してみてよ」
リンはポーションの素材などに使う大さじでかき氷をすくって口にいれた。
と、すかさず二口目も口に放り込む。
「おいしー! 氷がこんなふわふわになるの? 甘くて冷たくてふわふわして、もの凄く美味しいこれ!」
「ふふふ、そうであろう。これが俺の氷魔術の切り札。今の暑い気候なら人気間違いなし」
「うん……これはいいね、氷をこんな風に食べるやり方があるなんて、へ~~……もぐ、おいしいー!! クロトの氷魔術、見たことない使い方ですごくいい! 色も赤くてきれいだし、甘酸っぱいしこれ絶対皆好きよ」
リンは話しながらもかき氷を食べる手を止めない。
その様子を見て俺は確信した。この商売はいけると。
「よし、じゃあ一商売してくるわ! 試食ありがとう!」
食べ終わってニッコニコのリンに言って、俺は道具を持って表へと出た。
ノックをするとリンが扉を開いてくれる。
「あ、クロト!? 久しぶりね! ……って何その格好!?」
リンはもはや布切れとかした俺の服を見て目を丸くした。
ところどころ破れ肌が露出していて、原始時代の人でももうちょっといいもの着てただろうという服に変貌しているから無理もないか。
「いやー実は森に籠もって修行してて、一ヶ月くらい町に帰ってないから服もズタボロでね。あ、でも大丈夫、水浴びはして体は洗ってたから清潔ではあるよ」
「いやまあ清潔はいいんだけど。森籠もりって限度というものがあると思うわよクロト。……あ、もしかしてお金がなくて泊まる場所がない予感……?」
「うっ……まあ、そういう事情もある」
「だったら言ってくれれば住み込みで働けるところとか紹介してあげたのにー。一緒に薬草を探した縁じゃない、遠慮しなくていいのに」
「ありがとう。でも修行に集中したかったし、そういう意味ではちょうど良かったんだ。おかげで、魔術を使ってお金を稼ぐ目処がたったよ」
「本当? 一種類しか使えないのに?」
「一種類で十分なんだな、これが。それでここに来たのは――」
俺はぱんっと両手を合わせてリンを拝んだ。
「服を貸してください!」
「はい? ふく?」
「そう。魔術を使って稼ぐアテがあるんだけどさ、こんなズタボロの服着た半裸の男が物を売っても皆ヤバい奴だと思って買わないだろ? だからちゃんと見られる服が必要なんだ。もちろん使い終わったらきれいに洗って返すから、お願い!」
「ああ、それは確かにこのままじゃ売れない運命ね。貸してあげたいところだけど、リンが持ってる服って女物しかないよ」
「ああ、それはもちろんわかってる。このアトリエにローブとかあったような気がするなと思って」
アトリエの中を見まわすと、クローゼットが奥の方にあった。
開けっぱなしになっていて、中にはいかにも魔術師っぽいローブやインナーなどが入っている。
しかし開けっぱなしだと臭いとかめちゃくちゃつきそうだな、と思っているとリンもそちらに目を向けて、頷いた。
「なるほどなるほど。あれがあったかー。うん、いいわ。リンのではないけど別に着る人もいないし。ゲゼルビークさんも文句言わない予感がするものね」
そういえばこのアトリエはゲゼルビークのものだったか。まあ、使ってないものを借りるだけなら問題あるまい。
というわけで俺はローブに袖を通した。
えんじ色のローブを着ると、ついでにリンが杖を持ってくる。
それをさらに手に取ると。
「おほーっ! いいね、いいね。魔術師っぽくなってるよー」
なんか興奮している。
魔術師仲間が増えたのが嬉しいのか。
しかし、うん、自分でも結構サマになってて気分があがるな。
「助かった。それじゃ、早速商売開始してくる」
「いってらっしゃい~……って、そういえば何するの? というか、そこまで魔術上達したの?」
「……ふっ。もちろん、勝算があるから森から帰ってきた」
「いや、森からはいつ帰ってもいいと思うけど」
「俺がやろうと思ってるのは、これだよ」
作業台の上にボウルのような丸い器があったので、それを左手に乗せ、右手の杖を掲げる。いつもは素手だったけど、杖があると魔力が素早く集中できるな、これが魔術の杖の効果か。杖があってもいつも通りと同じ感覚ではできるから、問題はなさそうだ。
さて、それじゃあ……氷魔術、起動!
軽く力を集中すると、頭ほどの大きさの球体の氷が杖先に現われた。
しかもそれは落ちずにその場で浮遊している。
「おおっ! 前見せてもらったときと全然違うわね!」
リンが嬉しそうな声をあげる。
「相当魔術の力アップしてるね!」
「本番はここからよ。んー……砕け散れ!」
浮かせてある氷の球にさらなる魔力を注ぎ込む。
すると、氷球は下の方からガリガリと細かく削れてボウルの中に落ちていく。
そしてすぐにボウルは細かく削られた氷でこんもりと満たされた。
「ええーっ!? 氷を削った!? そこまでのことができるようになってるの!?」
「訓練の成果、ってやつ」
「そんなさらっと言うレベルのことじゃないでしょこれ……」
リンは口をぽかんと開いて砕けた氷を見つめている。
「たった三ヶ月でこんなことができるようになるなんて……そんな話聞いたことない……氷魔術に関して言えばすでに私より上じゃない、これ?」
リンは口を開けたまま俺の方を向く。
俺が削った氷と、俺の顔に交互に目線を向け、何度も瞬たく。
「クロト、本っ当に魔術使えなかったの? 0からこんなことまで?」
「嘘つなんてつかないよ。三ヶ月みっちり、クロト式で訓練した成果」
「あなた何者……? って感じなんですけど?」
やはり、俺の仮説は正しかった。リンの反応で確信した。複数の魔術を覚えた人はここまでのスピードでは一つの魔術を成長させることはできないんだ。
俺は氷魔術を修行している時、単に出す量を増やすだけで無く、やれることのバリエーションも増やすように意識して行った。
氷を使ってできることを色々やってやろうと意識を集中してやるのだ。最初は念じるだけでなにもおきないが、しつこく続け、また、そうやって集中してる時に、時には氷を石で砕くなど、魔術で起こしたいことと同じようなことをやってやることで、自分の魔力に『覚え込ませ』ることを反復していると、やがて氷を砕いたり、形や大きさを変えたり、空中に浮かせて自在に操ったりということもできるようになっていった。
もちろん、基本的な魔力が増えてからの話だが、今では色々なことができるようになっている。
「さて、この削った氷が大事なんだ。あとはそう、ここって砂糖水ある?」
「ああ、あるわよ。ほい」
リンが砂糖と水を棚から出してくれた。
それをまぜて砂糖水を作り、森で採取してきた赤いベリーの果汁を加えてシロップを作り砕いた氷にかけて……そう、あれだ。
「かき氷の出来上がり! 味見してみてよ」
リンはポーションの素材などに使う大さじでかき氷をすくって口にいれた。
と、すかさず二口目も口に放り込む。
「おいしー! 氷がこんなふわふわになるの? 甘くて冷たくてふわふわして、もの凄く美味しいこれ!」
「ふふふ、そうであろう。これが俺の氷魔術の切り札。今の暑い気候なら人気間違いなし」
「うん……これはいいね、氷をこんな風に食べるやり方があるなんて、へ~~……もぐ、おいしいー!! クロトの氷魔術、見たことない使い方ですごくいい! 色も赤くてきれいだし、甘酸っぱいしこれ絶対皆好きよ」
リンは話しながらもかき氷を食べる手を止めない。
その様子を見て俺は確信した。この商売はいけると。
「よし、じゃあ一商売してくるわ! 試食ありがとう!」
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