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それでもキノコは草じゃない
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「本当にこの森で見たの?」
「嘘つく理由なんてないよ。こっちも無駄に歩いても疲れるだけだし」
「それはそうだけど。でもこんなすぐ近くの森にってねえ~」
俺と魔女リンは、俺がこの世界に来たときにいた森へとやってきた。
俺が連れてきたのだ、そう、ここで噂の薬草を見かけたから。
リンの名前は森に来るまでの間に聞いた。もちろん俺の方もリンに名乗っている。
「ええと、木のマークは……こっちだな」
森を歩いていた時に石で木の幹につけていたマークをたどって、来た道を戻っている。目指すのはあの湧き水の岩。俺は覚えている、水が湧き出る岩の陰に星型のキノコと黄色い花があったことを。
AIの言っていたことから思いついた、木にマークをつけるアイディアがこんな形で役に立つとはね。森から出るときには直接の意味はなかったけれど、時間差で効いてくるんだからやれることはやはりやっておいた方がいい。
マークのおかげもあり、俺達は素早く無事に湧き水の場所にたどり着くことができた。
そして岩陰の草をかき分けると、そこにはあのとき見たとおり、赤く星形の傘をもつキノコがあった。
「これは!!?」
魔女リンは身をかがめてキノコに顔を近づける。
そして本を取り出し、本と実物を何度も視線を往復させ見比べると、目を丸くしてこっちを見た。
「本当にスターマッシュルームよ!? クロト、なんでこれを!?」
「森歩いてる時にたまたま見つけて、変わったキノコだから印象に残ってたんだ。ダンジョンは攻略できないけど、目的は達成できたからこれでもいいんだよね」
「もちろんよ! 無用な戦いはしない方がいい。こっちの黄色いのは……うーん、惜しい。似てるけど違うきれいなだけの花ね。でも、スターマッシュルーム片方だけでも十分助かる、助かるっう~」
ニコニコ顔でキノコをつみアイテムボックスに入れていく魔女リン。
このアイテムボックス欲しいなあと思っていると、しかしリンの手が止まった。
「でもさあ、謎があるんだよねえ」
「何が気になってるんだ?」
「町の近くの森なんてとっくの昔に調べてるし、どういう植物がとれるかも当然記録してるわけで。冒険者ギルドにも森で見つかる物の一覧あるんだけど、このスターマッシュルームはないって書いてあるのよ。だからここでは見つかる予感なんて当然しないから、探してなかったんだけどなあ」
「単に見つかってなかったんじゃ?」
「結構この森に狩りや採取で入る人いるし、その人たちが何十年もいやひょっとしたら百年以上気づかないなんてあり得ない運命だと思わない? 思うよね?」
まあたしかに。
冒険者ギルドもあったし、そこの人たちが全員見過ごすってのは非現実的だ。
「ということは、最近ここに生えるようになったってことか」
「リンはそう思うんだよねえ。なんで急に自生するようになったのかはわからないけど……リンが行こうと思ってたダンジョンも最近の崖崩れで入り口が見つかったやつだし、何かが起きてる予感……!?」
異世界に来て早々何か起きるなんて困るな。
まずはオーソドックスで平穏な感じで、徐々に変わったことが起きるくらいのバランスのゲームが好きなんだけど、現実にバランス調整はないということか。
「まあ、何が起きてるかはとりまどうでもいっか。それより欲しいものが手に入ったのが大事! クロトにはお礼しないとね、約束通り。片方の薬草が手に入ったから……はい、これ。約束の半分の5万G(ギルト)」
リンはアイテムボックスから銀色の硬貨が入った袋を出して渡してくれた。
やったぜ、これで今晩の宿が確保できる。いや一週間は寝床に困らない。その間にこの異世界での生活の基盤を整える時間は得られそうだ。
「こんなにもらえて助かる。リンはこの町にずっといるの?」
「もちろんよ。今は借りてる魔術師のアトリエか冒険者ギルドにいることが多い運命だから、逆に依頼してもらってもいいわ」
「へえ、冒険者ギルド興味あるし、また会うかもね」
「それは楽しみね。じゃ、まったねー。リンは早速この薬草で怪しいお薬を作りまくりじゃー!」
そうしてテンションの高いリンと俺は別れ、俺は金を持って宿へと行った。
一度は俺を追いだした宿の主人に銀貨袋を見せつけ、無事にベッドに横たわることに成功し、ようやく、異世界に来てから初めて一息つくことができた。
「ふう……いやー、ようやく落ち着けたか。とりあえずはなんとかなったし、明日からもなんとかなるだろう。だよね、AI」
【スキル:AIチャット】でなんとはなしに会話してみると、
──────────────────────
《質問》
異世界で一日無事にすごせたよ、明日もきっとなんとかなるよね】
──────────────────────
《回答》
素晴らしいですね!一日を無事に過ごすことは、異世界で生き残るための重要なスキルの一つです。明日も前向きな気持ちで挑戦してください。何か困難が生じた場合には、周囲の人々に助けを求めることを忘れずに、また、自分自身にも負荷をかけすぎないように注意してください。素晴らしい冒険をお祈りしています!
──────────────────────
え、AIくん……!
なんかめちゃくちゃ励まされて、これは心に染みる……。
ありがとう、俺明日からも頑張るよAIくん……!
一日の最後にAIのいい人さを知り、俺は眠りについたのだった。
「嘘つく理由なんてないよ。こっちも無駄に歩いても疲れるだけだし」
「それはそうだけど。でもこんなすぐ近くの森にってねえ~」
俺と魔女リンは、俺がこの世界に来たときにいた森へとやってきた。
俺が連れてきたのだ、そう、ここで噂の薬草を見かけたから。
リンの名前は森に来るまでの間に聞いた。もちろん俺の方もリンに名乗っている。
「ええと、木のマークは……こっちだな」
森を歩いていた時に石で木の幹につけていたマークをたどって、来た道を戻っている。目指すのはあの湧き水の岩。俺は覚えている、水が湧き出る岩の陰に星型のキノコと黄色い花があったことを。
AIの言っていたことから思いついた、木にマークをつけるアイディアがこんな形で役に立つとはね。森から出るときには直接の意味はなかったけれど、時間差で効いてくるんだからやれることはやはりやっておいた方がいい。
マークのおかげもあり、俺達は素早く無事に湧き水の場所にたどり着くことができた。
そして岩陰の草をかき分けると、そこにはあのとき見たとおり、赤く星形の傘をもつキノコがあった。
「これは!!?」
魔女リンは身をかがめてキノコに顔を近づける。
そして本を取り出し、本と実物を何度も視線を往復させ見比べると、目を丸くしてこっちを見た。
「本当にスターマッシュルームよ!? クロト、なんでこれを!?」
「森歩いてる時にたまたま見つけて、変わったキノコだから印象に残ってたんだ。ダンジョンは攻略できないけど、目的は達成できたからこれでもいいんだよね」
「もちろんよ! 無用な戦いはしない方がいい。こっちの黄色いのは……うーん、惜しい。似てるけど違うきれいなだけの花ね。でも、スターマッシュルーム片方だけでも十分助かる、助かるっう~」
ニコニコ顔でキノコをつみアイテムボックスに入れていく魔女リン。
このアイテムボックス欲しいなあと思っていると、しかしリンの手が止まった。
「でもさあ、謎があるんだよねえ」
「何が気になってるんだ?」
「町の近くの森なんてとっくの昔に調べてるし、どういう植物がとれるかも当然記録してるわけで。冒険者ギルドにも森で見つかる物の一覧あるんだけど、このスターマッシュルームはないって書いてあるのよ。だからここでは見つかる予感なんて当然しないから、探してなかったんだけどなあ」
「単に見つかってなかったんじゃ?」
「結構この森に狩りや採取で入る人いるし、その人たちが何十年もいやひょっとしたら百年以上気づかないなんてあり得ない運命だと思わない? 思うよね?」
まあたしかに。
冒険者ギルドもあったし、そこの人たちが全員見過ごすってのは非現実的だ。
「ということは、最近ここに生えるようになったってことか」
「リンはそう思うんだよねえ。なんで急に自生するようになったのかはわからないけど……リンが行こうと思ってたダンジョンも最近の崖崩れで入り口が見つかったやつだし、何かが起きてる予感……!?」
異世界に来て早々何か起きるなんて困るな。
まずはオーソドックスで平穏な感じで、徐々に変わったことが起きるくらいのバランスのゲームが好きなんだけど、現実にバランス調整はないということか。
「まあ、何が起きてるかはとりまどうでもいっか。それより欲しいものが手に入ったのが大事! クロトにはお礼しないとね、約束通り。片方の薬草が手に入ったから……はい、これ。約束の半分の5万G(ギルト)」
リンはアイテムボックスから銀色の硬貨が入った袋を出して渡してくれた。
やったぜ、これで今晩の宿が確保できる。いや一週間は寝床に困らない。その間にこの異世界での生活の基盤を整える時間は得られそうだ。
「こんなにもらえて助かる。リンはこの町にずっといるの?」
「もちろんよ。今は借りてる魔術師のアトリエか冒険者ギルドにいることが多い運命だから、逆に依頼してもらってもいいわ」
「へえ、冒険者ギルド興味あるし、また会うかもね」
「それは楽しみね。じゃ、まったねー。リンは早速この薬草で怪しいお薬を作りまくりじゃー!」
そうしてテンションの高いリンと俺は別れ、俺は金を持って宿へと行った。
一度は俺を追いだした宿の主人に銀貨袋を見せつけ、無事にベッドに横たわることに成功し、ようやく、異世界に来てから初めて一息つくことができた。
「ふう……いやー、ようやく落ち着けたか。とりあえずはなんとかなったし、明日からもなんとかなるだろう。だよね、AI」
【スキル:AIチャット】でなんとはなしに会話してみると、
──────────────────────
《質問》
異世界で一日無事にすごせたよ、明日もきっとなんとかなるよね】
──────────────────────
《回答》
素晴らしいですね!一日を無事に過ごすことは、異世界で生き残るための重要なスキルの一つです。明日も前向きな気持ちで挑戦してください。何か困難が生じた場合には、周囲の人々に助けを求めることを忘れずに、また、自分自身にも負荷をかけすぎないように注意してください。素晴らしい冒険をお祈りしています!
──────────────────────
え、AIくん……!
なんかめちゃくちゃ励まされて、これは心に染みる……。
ありがとう、俺明日からも頑張るよAIくん……!
一日の最後にAIのいい人さを知り、俺は眠りについたのだった。
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