多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪

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番外編(小話集)

叔父は満足する

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(叔父上目線※初登場です)


 
 ヴィード・ヴァルクは我と我が目を疑った。

 本家の当主甥っ子に呼ばれた。その本家当主である可愛い甥の、更に可愛らしいという噂の嫁に面会できるならばと、本家邸宅を訪問した。


 甥の婚姻式は、式が終わってから知らされた。地方のダンジョンに潜っていたお前が悪い、などと兄には言われた。
 婚姻式などという慶事は普通、6か月以上前から計画して周知させるものなのに、なぜか甥のそれはあっという間に終わっていた。

 縁組みしたのは、確か自分だったはずなのに。

 そんな気持ちもあったからか。
 この邸宅は、自分も生まれてから独立するまで過ごした、いわば実家。どこに何があるのか、大まかに把握している。客を迎えるならばあのベランダに面した日当たりの良い応接室かと当たりをつけ、庭から侵入し驚かせようと目論んだ。

 自身に隠密の魔法をかけ、当たりをつけた部屋の窓から中を覗けば。

 応接室のソファにはヴィードのよく知る甥が座っていた。相変わらず澄ました顔で、しかしその膝には小柄な女性が乗っていた。まさか、甥が、自分の膝に女性を乗せるなんて! 
 ヴィード・ヴァルクは我と我が目を疑った。


 ☆


 11年前。
 当時辺境伯であった兄がうっかり片腕と片足を魔物に持っていかれたため、フィーニス最強の男ではなくなった。兄が辺境伯を返上するとなったとき、本来ならば“辺境伯”を継承すべき実力を持った男はヴィード・ヴァルクであった。

 元々、辺境フィーニスの人間は一番強い男が族長となって一族を率いるという不文律があった。“辺境伯”などという爵位は王族が勝手に寄越したものだ。
 こんな余計なモノを継承すると、王族に顔見せのためわざわざ王都に行かなければならないし、外交があれば借り出される。面倒臭いことこのうえないし誰もやりたがらない。

 ヴィードも大層なお役目は御免だったので、甥であるイザークが次の族長にふさわしいと推薦した。
 この時イザーク19歳。奇しくも、彼の父親が爵位を継承した年と同じだった。それも加味されたのか、一族の男たちが協議した結果、族長つまり辺境伯位はイザークが継承することになった。

 その彼が爵位継承したとき、ヴィードも共に王宮へ赴いた。
 実に31年前、19歳だった兄が同じように爵位継承の顔見せの『王宮もうで』に同行したことを思い出しながら。
 もっとも12歳だったヴィードが同行したのは途中までで、王宮には行かなかったのだが。

 イザークはお披露目パーティーで綺麗に着飾った令嬢たちに囲まれていたが、眉間に皺を寄せたまま、誰の秋波にも靡かなかった。イザークは彼の父そっくりの顔をしながら、まったく逆の反応をするのだな、と可笑しく思ったのをよく覚えている。


 ☆


 あのとき女性に囲まれて不機嫌だった甥は、いま、女性を膝上に置いてご満悦ではないか!

「旦那様……貴方様の鍛えあげられた大腿四頭筋ふとももと、そちらにあるクッション。どちらが柔らかく奥様のためになると思いますか?」

 側に控えている若いメイドがそんな風に言うということは、膝上にいるのがやはり彼の嫁かと得心した。
 そしてメイドに忠告された甥っ子は。
 どうするのか見守っていれば、彼は自分の太ももとクッションの触り心地の違いを確かめた。しょぼんとしたまま、嫁をクッションの上にそぅっと置いた。そしておもむろにクッションごと嫁を自分の膝に戻した。なんとも満足そうなデレデレ顔で。

 自分の甥っ子は、あんなに面白い生物だったのか?

 思わず吹き出してしまい、隠密が解け居場所がバレた。


 ☆


 兄もヴィード自分も母親似で、辺境では惰弱だと女性から忌避される系統の顔立ちだと理解したのは、わりと幼い頃からだった。
 だから、彼女とか嫁はこの地で捕まえるのは無理だろうと諦め、兄に同行する王都で見つけようと画策した。
 王都に着くまでの10日間、長い道のりの途中の村でクロエと意気投合し連れ帰ることに決めた。妻も12才の同い年だった。妻の家族を説得するためにその場に残り、兄たち一行は先に王都へ向かわせた。
 弟がさっさと嫁を見つけたのを見て焦ったらしい兄は、王宮で嫁、ヴィードからみれば義姉を捕獲し連れ帰った。
 彼女の心を掴むために「パルフェに捧げる詩」を二篇、「パルフェのうつくしさを称える詩」を三篇、「パルフェに出会えて幸せになった自分」という詩を四篇作成したのだとか。

 一ヵ月ほどの『王宮詣で』から帰還すれば、それぞれ嫁を連れ帰ったせいで手の早い兄弟だと評判になった。余計、女顔の男は嫌われるようになった。


 ☆


「まぁ……そのような過去がありましたか……」

 アリス・アンジュ・ヴァルクが丸い目を更に丸くさせて呟いた。叔父のベランダからの登場に焦って夫の膝から降りようとしていたが、イザークが一度捕獲した獲物を取り逃がすなどあり得ない。今も彼女は夫の膝の上だ。

 この夫婦の縁組みを画策したのはヴィードだ。

 浮いた話一つも無いまま27歳になったイザークの嫁になるには、王都育ちの者がいいだろうな、と最初に考えた。この秀麗な女顔は、辺境よりも王都附近で好まれる。
 だが、純粋な王都育ちでは力が全てのフィーニスには馴染めないだろう。義姉上パルフェは例外中の例外だと思っている。よくあんな奇特な女性を捕まえたものだと、ヴィードは兄を尊敬している。

 フィーニスの内情を半ばでもいいから理解し、なおかつこの女顔を嫌がらない女性……脳裏を過ったのは“魔戦場のミハエラ”様だった。確か、彼女の娘が王都へ嫁に行った。有名な資産家の爵位持ちだったような気がする。
 調べてみれば、ミハエラ様の孫娘は3人いた。残念ながら長女は既に伯爵家に嫁いでいたが、次女は14歳。まだフリーだった。光の速さで婚約の打診をした。

 あの時、さっさと行動しこの縁組を成功させた自分の思いつきセンスを褒めたいと、ヴィードは仲睦まじい甥夫婦を見ながら満足そうに茶を飲んだ。






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お膝横抱きの野望達成www
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