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番外編(小話集)
ハンナとギルベルトの内緒話
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(旦那さまの過去の閨教育事情なので、苦手な方はブラバ or そっ閉じ)
(ぼかしつつ、赤裸々w)
時は少し遡り、フィーニス辺境伯家当主の婚礼から数日たったある夜(つまり、その当主が逐電中)の使用人居住区、ギルベルトとハンナの住まう部屋でのこと。
「あー、ハンナには、変な隠しごとをしたくないから、伝えておくが……その、花街では、どうやら、まことしやかに………イザーク様の男色疑惑が囁かれている、らしい……」
ギルベルトのしどろもどろの話を、彼の妻ハンナは、目を見開いてまじまじと見詰めることで先を促した。
「その、坊ちゃまの閨の教育について、どうなっていたのか、お前に訊かれただろう? 実は坊ちゃまの閨教育はヴィード様に丸投げして、俺も把握していなかったんだよ。自分に任せてくれと仰るから、ご親族だし、ヴィード様の方が適任かと」
因みに、『ヴィード様』とは、イザークの叔父で、前辺境伯の年の離れた実弟である。イザークとアリスの縁談を纏めた張本人でもある。
「でも今回、こんな事になってしまっただろう? ヴィード様に会って詳細を確認したら、ちゃんと黒猫館に連れて行ったと」
因みに。
黒猫館はこの辺境では知る人ぞ知る、高級娼館である。とても綺麗で有能な妓女たちは辺境の女らしく、それぞれ逞しく武芸にも精通している。顧客の秘密厳守を貫くため、他国で暗殺も請け負うハニートラップ専用のスパイとして出稼ぎしている妓女もいるとか、いないとか。
「で、旦那様に閨教育したという“カルメン”という名の妓女に連絡してみたら、呼び出されたので、出向いたんだ……、いや、昼間だぞ?! 営業まえの時間に行ったんだぞ? 客として行ったのではないぞ?」
「――私に疚しいことがないのなら、落ち着いて、話を続けなさい」
「――はい」
★☆
黒猫館は、フィーニスの歓楽街の中心地に位置した豪奢な館だった。ギルベルトが一度だけ行ったことのある王都の迎賓館によく似た佇まいだった。
そこの年齢不詳の妖艶な美女が自らを“カルメン”と名乗り、同時にこの黒猫館の女主人であるとギルベルトに告げた。
波打つ豊かな黒髪と黒い瞳はどこか憂いを秘め、艶やかな唇元にポツンと人目を引く黒子が印象的な女性だった。
「えぇ、確かに承りましたねぇ。もう、何年も前になりますが……」
声まで色気たっぷりにカルメンは語った。
「閨指南………なんの問題も御座いませんでしたよ? 言わば………んー、免許皆伝? ご当主様は、立派にご卒業なさいましたねぇ」
そこで言葉を区切ったカルメンは、腕を組み直して豊かな胸を震わせたあと、言おうか言うまいか、一度逡巡してみせた。
「ギルベルトさま。んー、ただぁ……ひとつだけ、ご懸念が……ございまして。
あの……もしかしたら、の話なので杞憂に終わるかも、なのですけど……ご当主さまは……女性に興味が無いのではありませんか?
ワタクシが御指南申し上げた時……こ当主さまのアレがピクリとも反応なさいませんでしたので……ワタクシが好みではないということなら……と、各種違った魅力的なお花を取り揃えましたが、どのお花でも反応なさいませんでしたの。
折角なので、女性とどのようにイタすのか、どのように扱えばいいのかの指南は致しまして。
えぇ、大変物覚えの良い優秀な生徒でございましたから、館内ではご当主様を“神の手”などとお呼びしておりましたが……。
ご当主のご当主さまご自身が反応なさいませんと、どうにもなりませんでしょう?
もしや、男色の気がおありなのでは、と勝手ながらご懸念申し上げましたの」
☆★
「黒猫館とやらは、顧客の秘密厳守だったのでは?」
「――そう、聞いている」
「旦那さまが閨指南を受けたのは、お幾つの時?」
「17か、18歳のときだと聞いた」
「もしや、男色疑惑があって、今まで旦那さまに縁談話が持ち込まれなかったのですか?!」
「いや、それは知らない」
イザークの両親、前辺境伯夫妻が“相手は自力で見つけてこい”というスタンス(自分たちがそう)だったせいと、本人に色恋にからっきし興味がなかったせいなのだが。
「いえ、寧ろ、変な虫が近寄らずに済んで、アリス様のような方が嫁いだのですもの。禍を転じて福と為す、だったのかもしれません」
「好意的に受け止めれば、確かに」
「実際問題として、アリス様が正式に嫁がれたのは周知。いずれお子ができれば其のふざけた疑惑も払拭されましょう」
「確かに」
ギルベルトは、基本、愛妻には逆らわない。
この夫婦はこうやって過ごしてきた。
きっとこれからも、こうやって過ごしていく。
(ぼかしつつ、赤裸々w)
時は少し遡り、フィーニス辺境伯家当主の婚礼から数日たったある夜(つまり、その当主が逐電中)の使用人居住区、ギルベルトとハンナの住まう部屋でのこと。
「あー、ハンナには、変な隠しごとをしたくないから、伝えておくが……その、花街では、どうやら、まことしやかに………イザーク様の男色疑惑が囁かれている、らしい……」
ギルベルトのしどろもどろの話を、彼の妻ハンナは、目を見開いてまじまじと見詰めることで先を促した。
「その、坊ちゃまの閨の教育について、どうなっていたのか、お前に訊かれただろう? 実は坊ちゃまの閨教育はヴィード様に丸投げして、俺も把握していなかったんだよ。自分に任せてくれと仰るから、ご親族だし、ヴィード様の方が適任かと」
因みに、『ヴィード様』とは、イザークの叔父で、前辺境伯の年の離れた実弟である。イザークとアリスの縁談を纏めた張本人でもある。
「でも今回、こんな事になってしまっただろう? ヴィード様に会って詳細を確認したら、ちゃんと黒猫館に連れて行ったと」
因みに。
黒猫館はこの辺境では知る人ぞ知る、高級娼館である。とても綺麗で有能な妓女たちは辺境の女らしく、それぞれ逞しく武芸にも精通している。顧客の秘密厳守を貫くため、他国で暗殺も請け負うハニートラップ専用のスパイとして出稼ぎしている妓女もいるとか、いないとか。
「で、旦那様に閨教育したという“カルメン”という名の妓女に連絡してみたら、呼び出されたので、出向いたんだ……、いや、昼間だぞ?! 営業まえの時間に行ったんだぞ? 客として行ったのではないぞ?」
「――私に疚しいことがないのなら、落ち着いて、話を続けなさい」
「――はい」
★☆
黒猫館は、フィーニスの歓楽街の中心地に位置した豪奢な館だった。ギルベルトが一度だけ行ったことのある王都の迎賓館によく似た佇まいだった。
そこの年齢不詳の妖艶な美女が自らを“カルメン”と名乗り、同時にこの黒猫館の女主人であるとギルベルトに告げた。
波打つ豊かな黒髪と黒い瞳はどこか憂いを秘め、艶やかな唇元にポツンと人目を引く黒子が印象的な女性だった。
「えぇ、確かに承りましたねぇ。もう、何年も前になりますが……」
声まで色気たっぷりにカルメンは語った。
「閨指南………なんの問題も御座いませんでしたよ? 言わば………んー、免許皆伝? ご当主様は、立派にご卒業なさいましたねぇ」
そこで言葉を区切ったカルメンは、腕を組み直して豊かな胸を震わせたあと、言おうか言うまいか、一度逡巡してみせた。
「ギルベルトさま。んー、ただぁ……ひとつだけ、ご懸念が……ございまして。
あの……もしかしたら、の話なので杞憂に終わるかも、なのですけど……ご当主さまは……女性に興味が無いのではありませんか?
ワタクシが御指南申し上げた時……こ当主さまのアレがピクリとも反応なさいませんでしたので……ワタクシが好みではないということなら……と、各種違った魅力的なお花を取り揃えましたが、どのお花でも反応なさいませんでしたの。
折角なので、女性とどのようにイタすのか、どのように扱えばいいのかの指南は致しまして。
えぇ、大変物覚えの良い優秀な生徒でございましたから、館内ではご当主様を“神の手”などとお呼びしておりましたが……。
ご当主のご当主さまご自身が反応なさいませんと、どうにもなりませんでしょう?
もしや、男色の気がおありなのでは、と勝手ながらご懸念申し上げましたの」
☆★
「黒猫館とやらは、顧客の秘密厳守だったのでは?」
「――そう、聞いている」
「旦那さまが閨指南を受けたのは、お幾つの時?」
「17か、18歳のときだと聞いた」
「もしや、男色疑惑があって、今まで旦那さまに縁談話が持ち込まれなかったのですか?!」
「いや、それは知らない」
イザークの両親、前辺境伯夫妻が“相手は自力で見つけてこい”というスタンス(自分たちがそう)だったせいと、本人に色恋にからっきし興味がなかったせいなのだが。
「いえ、寧ろ、変な虫が近寄らずに済んで、アリス様のような方が嫁いだのですもの。禍を転じて福と為す、だったのかもしれません」
「好意的に受け止めれば、確かに」
「実際問題として、アリス様が正式に嫁がれたのは周知。いずれお子ができれば其のふざけた疑惑も払拭されましょう」
「確かに」
ギルベルトは、基本、愛妻には逆らわない。
この夫婦はこうやって過ごしてきた。
きっとこれからも、こうやって過ごしていく。
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