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本編

1.初夜

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 体験した、い…いいえ…体験したというよりは、まったく理解を超えていたのだけど……あ、ありのまま、昨夜、起こった事をお話します。
 何を言っているのか、解らないと思いますが、私にも、何故こうなったのか分からなかったから……


「俺の愛は、期待しないでくれ」

 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。

 ちなみに結婚式当日が初対面です。それまでの婚約期間、約3年はあったのですが、一度もお会いする機会がありませんでした。辺境伯ですからね、国境線をお守りする大切なお役目があるので、気軽に王都に来られる方ではありません。でも3年もお会いできないとは思わなかったわぁ…と遠い目になってしまった私はアリス。アリス・アンジュ・アウラード。アウラード子爵家が次女です。

 あぁ、誠に申し訳ありません。私たちの基本情報を開示しておりませんでしたね。失礼を致しました。

 改めまして。

 私はアウラード子爵家が次女…、あぁ!いけません、結婚したのだから名字が変わりましたね、フィーニスです。アリス・アンジュ・フィーニスとなりました。17歳です。来月には18歳になります。お見知り置き下さいませ。

 今日…、もとい、昨日、結婚式を挙げた私の旦那様は、フィーニス辺境伯のイザーク様、イザーク・ヴァルク・フィーニス様です。確か、30歳になられたはずのご当主様ご本人です。

 結婚式当日の朝、初顔合わせしたイザーク様は、見上げる程お背が高く、短い黒髪に琥珀色の瞳をしていました。美丈夫、と言って差し支えないご容姿と、服の上からでも判る、私の倍はありそうな身体の厚みと腕の太さ。挨拶をする為に私の手を取った彼の手は、大きく固く、剣を握りそれを振るうことが日常の人なのだと実感しました。

 お噂はかねがね耳にしていましたが、初めて本物を目にしました。百聞は一見にしかず、ですね。
 感動のあまり緊張して、一言も話せませんでした。

 その初対面の時にも何もおっしゃらなかったイザーク様は、終始無言。
 結婚式の間も無言。
 披露宴の間も無言。
 常に眉間に皺を寄せて、何かに苦悩しているご様子。
 私がご様子を窺うと、とても嫌そうなお顔をされ視線を逸らされる始末。

 あぁ、こんな小娘、ご不満なのね。
 そう理解しました。

 そして初夜。

「俺の愛は、期待しないでくれ」

 そう言って、イザーク様は私から背を向け、夫婦の寝室を退室いたしました。

 びっくりしました。初めての発言がそれですか。残された私はどうしたらいいのでしょう。

 やっぱり、多産を見込まれたからとはいえ、私のような小娘はお気に召さなかったのでしょう。
 しかも美人と評判の姉と違い、私は平凡なのです。お胸もこじんまりとしたモノだし、腰は張っているとは思うけど、だからどうした、とも言えるし……。

 大人のイザーク様にとっては、大したことのない、平々凡々な小娘。
 初夜の晩に、花婿に見向きもされず放置された花嫁。

 ……ちょっと悲しくなってしまった私は、早々に寝てしまおうと布団に潜り込みました。
 私、嫌なこととか寝て忘れる人なのです。
 取り敢えず、睡眠に逃げて、朝のお日さまの光と共に、考え直す。暗いうちの考え事は悪い方へ向かいがちですからね。

 そう思って、寝て。

 うつらうつらして。

 旦那様に名前を呼ばれた?ような気がして。

 気が付けば。
 旦那様に伸し掛かられていました。
 月明りをバックにした旦那様の大きくて黒いシルエット。
 私の両足が思いっきり開かれて、旦那様のたくましい二の腕の上にあって。

 え?と思った瞬間には。

 圧が。

 凄まじい圧が、あそこに。


 ……私は、その余りの痛みに気絶したようなのです。


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