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本編
24.剣術大会の結果
しおりを挟むいつの間にかエミールに懐かれた日々(先輩っ鍛錬場に行きましょう!って俺の講義室にまで迎えに来るんだぜ……クラスメイトに“お前、美少年も守備範囲にいれたのか”と揶揄われ、俺のブルーダーの弟であるハインリッヒからは一線引くように接せられ地味にダメージを受けた。出来れば“一線引く”ではなく“一目置かれ”たかったよ、お兄さんは!)が過ぎ、怒涛の夏休みが経過(ブリュンヒルデは王女宮に招待されていた。そこで何が行われていたのか、俺は知る由もない。本当だ。本当に知らないったら知らない)し、秋、到来。
剣術大会開催。
去年、俺が荒らした一件もあり、ルール、その他諸々変更された。
まずは名称。そして、以前はなかった、『剣を手放した後も、本人の士気が落ちない限り試合続行 可』というルールが追加されていた。
剣術が主になるが、打撃、蹴り、投げ、組み伏せ等、使用可になった。その場合、背面を地面に付けたら負け判定を下される。
そして『例え本人の士気が落ちなくても、審判が続行不可能と判断した場合、試合中止。相手選手の勝利判定』という項目も付け加えられた。いくら士気が落ちない、倒れないからって、死ぬまで戦って欲しくはないからね。
相手が武器持ち、自分がカラ手となったら、大概は降参するしかないと思う。だが実際問題として、そういう場合の戦闘も想定した方がいいに決まっている。特に騎士は。武器を所持した悪党と戦うときや、町人を守らねばならないときなど、活躍場面は多岐に渡る。昔のように貴族同士の礼儀正しい決闘など、形骸化され実践では役に立たないのだ。
――ということをジークに説明された。お前の“やらかし”のお陰で、騎士科全体の意識改革ができたと、礼も言われた。
「いまさら俺を褒めても、ねぇ……」
あの当時は、散々、キモチワルイ呼ばわりだったくせに。もっとも、俺はそれを“聞いていない”はずなので、文句も言えないのだが。
◇
今年度の剣術大会。エミールは準優勝だった。
奴の士気は最後まで落ちなかったが、目の上を怪我し、審判に試合続行不可判定が下された。棄権試合となり、エミールの負け。だが、立派だったと思う。
幸い、眼球に傷はなく、視力にも問題は残らなかった。暫くは白い包帯が痛々しかったが、左眉毛からこめかみに向かって残った傷痕は、騎士科の学生にはよくある光景だ。ファルケっぽいともいうかな。
◇
「凄いな、お前。一回しか負けなかったのか」
ある日、怪我が癒えたエミールと一緒に王都守備隊の鍛錬場に向かう道々で、俺は彼を労った。グループ戦も全勝だったのだ。立派だと思う。
「その一回が問題じゃないですか」
なんとなく釈然としない面持ちでエミールはいう。
「去年の俺と同じだ」
挑発込みでわざと言えば、
「あんたは、トーナメント2回戦負けでしょう? 僕は決勝戦までいったんです!」
ムキになって、簡単に乗ってくるから、可愛いもんだ。
「うん。だからお前、凄いな。それに目の上切られて血塗れで視界も悪かっただろうに、剣を絶対離さなかった。カッコ良かったぞ」
俺が笑ってそう言えば、エミールは脱力する。
「カッコ良かったって……なに言ってるんですか……」
おぉ。照れてる。ほんと、単純な子だねぇ。
「来年も記録に挑戦、するんだろ? やれよ。“専科優勝”」
そう言えば、びっくりした顔を向けられた。
「……先輩って人間がよくわかんないよ……」
そりゃ、男に俺のすべてが判るわけなかろう! 俺の内面は恋する乙女なんだぞ! ……うん、これは口に出して言ったらダメなやつだな。
だから言わない。にっこり笑顔で躱すだけ。
……『沈黙は金』ってラインハルトさまが仰っていたなぁ(遠い目)
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