6 / 6
【満月でも三日月でもキミがいれば】
満月でも三日月でもキミがいれば
しおりを挟む「月が綺麗ですねの月って、満月だったと思う? それともそれ以外? 三日月とかだったらどうなると思う?」
彼女の唐突な台詞に面喰う俺。
「いきなり何言ってんの?」
「漱石よ」
「いや、それは知ってるけどね」
漱石が愛媛県で教職に就いていた時代のエピソードだ。
漱石は英語教師だった。学生が『I love you』を『我、君を愛す』と訳したことへ、そんなつまらない訳ではなく『(恋するあなたといると)月が綺麗ですね』と訳せと言ったのだとかなんとか。
実はその解釈は漱石じゃないという説もあるけど、それを彼女は知っているのかな。多分、知らないと思う。
彼女は言う。
「あれでしょ? アイラブユーの訳し方。でもその時に思い描いている月ってさ、やっぱ満月な気がしない? 大きなスーパームーン!
でもさ、三日月だったとしても月は月でしょ? 美しさに変わりはないわけでしょ?」
「何が言いたいのさ」
「もし、新月の夜に『月が綺麗ですね』って言われたら、どう思う?」
新月って、月がない夜じゃん。
月がないのに月の批評?
「マヌケな奴だなって思う」
俺の答えを聞いた彼女がぷくーっと頬を膨らませた。可愛い。なんだかお気に召さない返答だったらしい。
「じゃあさ、じゃあね、私がね、こうやって夜に空見上げてさ、満月でも三日月でも新月でも、キミがそばにいたらいいのに。そうしたら嬉しいな、楽しいな、月なんて見ているよりキミを見ていたいな……って、ひとりで考えていたら……新月の晩にも関わらず、ラインで思わず『月がキレイね』って送っちゃったら……どう思う?」
え。
それはつまり。
何をしていても何を見ていても、俺のことを考えて、いつも意識して。
景色なんて目に映っているようで記憶に残らないくらい、俺のことを想っているってこと?
それ、いつもの俺じゃん。
それに。
月がキレイ = アイラブユー。
彼女のちょっと怒ったような顔と上目遣いに、俺の心臓がバクバクと音を立てた。
なんだか頬が熱い。
「そ、それは……」
何かを期待している上目遣いに、俺はちょっと弱いかもしれない。
バクバクの心臓が駆け足を始める。
「……可愛いんじゃねーの?」
俺がそう呟いた途端、彼女はえへへと頬を綻ばせた。
うん。可愛い。まちがいない。
「だからね、本当は月じゃなくてもいいのよ! 太陽でも星でもいいの。なんなら花とかご飯でも」
彼女はドヤ顔で俺を見上げた。
「私、分かったの。大好きなキミといるとね、世界って輝いて煌めいて色がつくのよ!」
俺も分かった。
キラキラした彼女の瞳が、一番輝いて綺麗だってことを。
おしまい♡
※解説※
「小説家になろう」のほうでラジオ番組とのコラボ『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』応募作品でした。
使用キーワードは「三日月」
千文字以下という縛りなので、名無しカップルになっちゃった。
アルファではちょっとだけ加筆しました☆
178
お気に入りに追加
390
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
星の王子さま踊り子に恋をする
鍋
児童書・童話
ロレンツォは星空を見るのが大好き。そんな彼は空が明るくなるまで星を眺めて、昼間は寝てばかりの生活。
勉学の時間も眠くて眠くて、なかなか勉強が進みません。
そんな彼を貴族たちは『星の王子様』と呼んで馬鹿にしていました。
ロレンツォにはヴァレリアというしっかり者の幼馴染がいました。ヴァレリアはロレンツォを会うたびにちゃんと勉強をするようにと注意してきます。
ロレンツォはそんなヴァレリアが苦手でした。
13歳になったロレンツォはある日、異国から来た踊り子のステージを見て心を奪われました。
彼はその踊り子に恋をしたのです。
このお話は、のんびり屋で勉強嫌いの王子さまが、恋を知り少し成長するお話です。
Owl's Anima
おくむらなをし
SF
◇戦闘シーン等に残酷な描写が含まれます。閲覧にはご注意ください。
高校生の沙織は、4月の始業式の日に、謎の機体の墜落に遭遇する。
そして、すべての大切な人を失う。
沙織は、地球の存亡をかけた戦いに巻き込まれていく。
◇この物語はフィクションです。全29話、完結済み。
最低ランクの冒険者〜胃痛案件は何度目ですぞ!?〜
恋音
ファンタジー
『目的はただ1つ、1年間でその喋り方をどうにかすること』
辺境伯令嬢である主人公はそんな手紙を持たされ実家を追放された為、冒険者にならざるを得なかった。
「人生ってクソぞーーーーーー!!!」
「嬢ちゃんうるせぇよッ!」
隣の部屋の男が相棒になるとも知らず、現状を嘆いた。
リィンという偽名を名乗った少女はへっぽこ言語を駆使し、相棒のおっさんもといライアーと共に次々襲いかかる災厄に立ち向かう。
盗賊、スタンピード、敵国のスパイ。挙句の果てに心当たりが全くないのに王族誘拐疑惑!? 世界よ、私が一体何をした!?
最低ランクと舐めてかかる敵が居れば痛い目を見る。立ちはだかる敵を薙ぎ倒し、味方から「敵に同情する」と言われながらも、でこぼこ最凶コンビは我が道を進む。
「誰かあのFランク共の脅威度を上げろッッ!」
あいつら最低ランク詐欺だ。
とは、ライバルパーティーのリーダーのお言葉だ。
────これは嘘つき達の物語
*毎日更新中*小説家になろうと重複投稿
虹ノ像
おくむらなをし
歴史・時代
明治中期、商家の娘トモと、大火で住処を失ったハルは出逢う。
おっちょこちょいなハルと、どこか冷めているトモは、次第に心を通わせていく。
ふたりの大切なひとときのお話。
◇この物語はフィクションです。全21話、完結済み。
◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。
ラ・ラ・グッドバイ
おくむらなをし
恋愛
大学の事務員として働く派遣社員の吉田は、何度目かの失恋をした。
仕事も恋も長続きしない自分に苛立ちながら副業にしている日雇いの現場へ向かい、そこで栗谷ほまれという年下の女性に出会った。
妙にパーソナルスペースが狭い彼女の態度に戸惑いながらも一緒に食事をして別れ際、彼女は「またね」という言葉を口にする。
その後2人は意外なかたちで再開することとなり……。
◇この作品はフィクションです。全20話+アフターSS、完結済み。
◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。
【完結】ぐうたら姫は、ただいま獣の陛下と婚約中
和島逆
恋愛
「いいからお前はとっとと嫁に行け!」
体力なし、やる気なし、根性なし。
小国の姫君リリアーナは、自他ともに認める怠け者。人呼んでお昼寝大好きな『ぐうたら姫』。
毎日怠惰に過ごしたいのに、兄王から縁談を命じられて国を出ることに。
海を越えて向かうは獣人の国ランダール。
初めて対面した婚約者は、なんと立派なたてがみと鋭い牙を持つ獅子の王だった。
他の獣人達が人族と変わらぬ見た目を持つ中で、なぜか彼だけは頑なに獣の姿を貫いていて――?
美形なのに変わり者揃いな獣人達と交流したり、伝承の存在である精霊と出会ったり。
前向き怠惰なぐうたら姫と、生真面目で恥ずかしがり屋な獣の陛下。
賑やかな仲間達に見守られ、正反対な二人が織りなす一年間の物語。
そういうとこだぞ
あとさん♪
恋愛
「そういえば、なぜオフィーリアが出迎えない? オフィーリアはどうした?」
ウィリアムが宮廷で宰相たちと激論を交わし、心身ともに疲れ果ててシャーウッド公爵家に帰ったとき。
いつもなら出迎えるはずの妻がいない。
「公爵閣下。奥さまはご不在です。ここ一週間ほど」
「――は?」
ウィリアムは元老院議員だ。彼が王宮で忙しく働いている間、公爵家を守るのは公爵夫人たるオフィーリアの役目である。主人のウィリアムに断りもなく出かけるとはいかがなものか。それも、息子を連れてなど……。
これは、どこにでもいる普通の貴族夫婦のお話。
彼らの選んだ未来。
※設定はゆるんゆるん。
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください。
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
一番最初のお話からもー大好きです!!色々ダダ漏れてるけど誠実で一途なショーンと、まさに神出鬼没なマリアとラルフ。
聖母と赤子の聖画ってほんと、神々しいですよね。
kokekokkoさま
大好きなんて、そんな……\(//∇//)\(なにを照れてる)
ショーンとマリアを愛でていただき感涙に咽び泣いておりまするぅぅぅぅ。
(´இωஇ`)
>聖画
ですよね。
なんか神聖不可侵な領域って感じる絵があって、好きなのです。
感想ありがとうございました。
<(_ _)>