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【満月でも三日月でもキミがいれば】
満月でも三日月でもキミがいれば
しおりを挟む「月が綺麗ですねの月って、満月だったと思う? それともそれ以外? 三日月とかだったらどうなると思う?」
彼女の唐突な台詞に面喰う俺。
「いきなり何言ってんの?」
「漱石よ」
「いや、それは知ってるけどね」
漱石が愛媛県で教職に就いていた時代のエピソードだ。
漱石は英語教師だった。学生が『I love you』を『我、君を愛す』と訳したことへ、そんなつまらない訳ではなく『(恋するあなたといると)月が綺麗ですね』と訳せと言ったのだとかなんとか。
実はその解釈は漱石じゃないという説もあるけど、それを彼女は知っているのかな。多分、知らないと思う。
彼女は言う。
「あれでしょ? アイラブユーの訳し方。でもその時に思い描いている月ってさ、やっぱ満月な気がしない? 大きなスーパームーン!
でもさ、三日月だったとしても月は月でしょ? 美しさに変わりはないわけでしょ?」
「何が言いたいのさ」
「もし、新月の夜に『月が綺麗ですね』って言われたら、どう思う?」
新月って、月がない夜じゃん。
月がないのに月の批評?
「マヌケな奴だなって思う」
俺の答えを聞いた彼女がぷくーっと頬を膨らませた。可愛い。なんだかお気に召さない返答だったらしい。
「じゃあさ、じゃあね、私がね、こうやって夜に空見上げてさ、満月でも三日月でも新月でも、キミがそばにいたらいいのに。そうしたら嬉しいな、楽しいな、月なんて見ているよりキミを見ていたいな……って、ひとりで考えていたら……新月の晩にも関わらず、ラインで思わず『月がキレイね』って送っちゃったら……どう思う?」
え。
それはつまり。
何をしていても何を見ていても、俺のことを考えて、いつも意識して。
景色なんて目に映っているようで記憶に残らないくらい、俺のことを想っているってこと?
それ、いつもの俺じゃん。
それに。
月がキレイ = アイラブユー。
彼女のちょっと怒ったような顔と上目遣いに、俺の心臓がバクバクと音を立てた。
なんだか頬が熱い。
「そ、それは……」
何かを期待している上目遣いに、俺はちょっと弱いかもしれない。
バクバクの心臓が駆け足を始める。
「……可愛いんじゃねーの?」
俺がそう呟いた途端、彼女はえへへと頬を綻ばせた。
うん。可愛い。まちがいない。
「だからね、本当は月じゃなくてもいいのよ! 太陽でも星でもいいの。なんなら花とかご飯でも」
彼女はドヤ顔で俺を見上げた。
「私、分かったの。大好きなキミといるとね、世界って輝いて煌めいて色がつくのよ!」
俺も分かった。
キラキラした彼女の瞳が、一番輝いて綺麗だってことを。
おしまい♡
※解説※
「小説家になろう」のほうでラジオ番組とのコラボ『第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』応募作品でした。
使用キーワードは「三日月」
千文字以下という縛りなので、名無しカップルになっちゃった。
アルファではちょっとだけ加筆しました☆
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