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亡くした友を偲ぶ
しおりを挟む十八年前、秋のお彼岸の時期。
友を亡くした。
いわゆる、産後の肥立ちが悪くて彼女は神さまの御許へ旅立った。
彼女は結婚してすぐに子どもができて。
六月に生んで、九月に亡くなった。なんて駆け足な人生。
葬儀のとき友人代表でだれか弔辞を、という話になった。僭越ながら私がやりましょうと申し出た。
だって、あの子にしてあげられる最後のことだから。
中高一貫の学生時代、彼女とは六年間ほぼ同じクラスだった。
中学三年生のときだけ、別のクラスになって。
そのときの担任の先生が、彼女が苦手としたシスターで。「あんた、○○のときだけ逃げたね!」なんて笑って話したことがあった。
とてもやさしい子で面倒見がよくて、勉強が好きで歴史が好きで、ついでに漫画も好きで。
彼女に誘われて同じ部活に入って。一緒に委員会とかやって。
卒業して大学生になっても、就職して結婚しても、付き合いは続いていて。
余りにも早い、突然の旅立ちに呆然とするしかなくて。
葬儀で彼女へ贈る言葉をと考えて、エピソードをいくつか思い出して。
いざ、紙に書きだそうとしたら。
書けない。
テーブルに置いた紙にペンを向けると、そこが水浸しになったから。
俯くと、ぼたぼたと大量の涙が。
濡れた紙に文字は書けない。
顔を上げていれば。なにも考えないでいれば。
まだ泣かずに済むのだけれど。
いざ、彼女との思い出を脳内でまとめ書きだそうとすると、涙がそれを邪魔する。
書きたいこと、つまり私が彼女へ手向けたい言葉はあった。いくらでも。
けれど、文章に起こそうとするとダメだった。
脳内には彼女との幸せな記憶がある。さまざまなエピソードがある。
それら幸せな記憶が、もうこれ以上増えないのだという事実に押しつぶされそうになる。
脳内で思い出した記憶を積み上げ言語化しそれらを文章化するという作業は、どこか冷静になる。自分の気持ちを俯瞰で眺める作業かもしれない。
つまり、それができないということは冷静ではないのだと判断した。
だから、弔辞は書かなかった。正しくは「書けなかった」
葬儀の場では。
思ったことを、感じたことを、語った。アドリブ。ぶっつけ本番で。
たぶん、言いたいことはちゃんと言えた。彼女とのエピソードも上手く纏められたと思う。なんせ、言いたいことはある。
結果、自分の名前を名乗らなかった。「推敲」ができないせいでヌケができた。
なんともマヌケな「友人代表」となった。
でもきっとあの子は笑ってくれる。そう思った。
他の友人も「あとさんだからね、しょうがないよ。でもあの子には怒られるよ」と笑ってくれた。
エピソードとして皆が笑ってくれるなら。
それもいい。そう思った。
お通夜のときも、葬儀のときも、告別式のときも。
生後三ヵ月の彼女の息子は静かだった。叔母や祖母に抱かれ、存在を忘れるほど静かだった。
ただ。
告別式のラスト、最後のご挨拶をして出棺です、棺に蓋をします、という段階になって。
彼は 初めて 声をあげて 泣いた。
生後わずか三ヵ月の乳児にさえ空気は読めるのだなと。
いや、あの子がこの場にいて息子を宥めていたのかなと。
でも、最後になるから逝かないでって、声をあげたのかなと。
いろいろ思いながら、出棺を見送った十八年前。
十八年後の今。
文章を起こすのはパソコンへ。
まだこの話題になると目頭が熱くなる自分がいる。
けれど文章化できるだけ、冷静になれた。十八年という歳月があるお陰か。時間薬は確かに存在する。
いまだ、秋のお彼岸が近くなると切なくなる。
同じものを見て、感じたことを話したい。
あの子が思ったことを、たとえそれが違う意見であっても聞きたい。
それらができないのが、ただ悲しくて 哀しい。
あの子は親でも兄弟でも恋人でも伴侶でもない、学生時代のただの同性の友だち。
でも、私はあの子が大好きだった。あの子と一緒にいる時間が好きだった。確かにそこには『愛』があったのだろう。
だから、こんなにも切ないのだろう。
今更ながら、気になることがある。
私は確かにあの子が大好きだったけど。今でも好きだけど。
それは両思いだったのか。それとも片思いだったのか。
あの子も私を「友だち」だと思っていてくれたのだろうか。
友情にも片思いってあるから。
たぶん、友だちだと思ってくれていただろうと。そう推測するのだけど。
もう、確かめる術はないから。
ちょっとだけ、物思いに耽ったりする秋の夜。
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