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8.ピンクブロンドは予言の子

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「「殿下、今なんと?」」

奇しくもわたくしとオリヴァー様の声が被りました。

「この子は母上の、王妃殿下の言う“予言の子”だから。王家うちで引き取るよ」

は? なんですと??

「母上は常々、兄上と私の学園生活を案じていらっしゃった。“いつかピンクブロンドの少女が現れて破滅をもたらす”と懸念されていた。まさか、私が卒業してから現れるとは思ってもいなかった」

 どこか人の悪い笑顔を浮かべながら、ジークフリート殿下が言う。

 どうしてでしょう。
その笑みに背筋がゾクゾクする程の恐怖を感じました。思わずオリヴァー様にしっかりと抱き着いてしまう程に。
去年までは見慣れていた殿下ですが、もう、わたくしとは住む世界の違う人なのだと、殿上人なのだと、何故か改めて思いました。

「衛兵」

殿下が合図すると、どこに居たのか王都守備隊の者達が数名現れゾフィーを拘束しました。

「其の者を連行せよ。貴族家に対して窃盗、名誉棄損、その他諸々の罪人だ」

 殊更、はっきりと朗々たるお声でジークフリート殿下が、仰りました。
ゾフィーは両腕を拘束されてもろくな抵抗もせず、大人しく連行されていきました。もう見ないと決めたのに、横目でしっかりと見ていたわたくしは意思の弱い女です。

「オリヴァー兄さま、そのお顔、なんとかして」

「ん?」

「婚約者を抱き締めてご満悦。こちらから見ればキモチワルイ仕上がりになってる。その顔控えろ」

 はい?
婚約者ヲ抱キ締メテゴ満悦、ですって?

 はっ! わたくしっ! 今! 思いっきりっ! オリヴァー様の腕の中ですっっっ!!! なんならわたくしの方から抱き着いていますっっっ!!
現状に気が付いて離れようとしたのですが。

「ジーク、何を言う? こんなチャンス、二度と来るかどうか判らないんだぞ? ブリュンが人前にも拘わらず俺に甘えて来るなんてっ! こんな可愛いブリュンを他人に見させられるか? いいや、見させんぞっ! 俺には無理だぞっ!」

より一層強く抱かれ、オリヴァー様の拘束が解けません。

「兄さま。気持ちは解らなくもないけど、冷静になって」

「ブリュンヒルデ君のツンデレの威力は凄まじいなぁ」

 ツンデレって、そう言えば在学時代の殿下によく言われてましたわ。
なんでも? お母上でいらっしゃる王妃殿下の造語だとかで、日頃はツンツンと冷たい対応をしているのに、急にデレっと甘えたりする魔性の女性を指す単語なんですって。その日頃の対応との落差に心を掴まれるのだとか。
 ……わたくしに対して“魔性”という単語が当て嵌るのか、甚だ疑問ではあるけど、親友のイザベラとこの国の王子殿下が仰るのだから、まぁ、一理あるのでしょう。

 今は特に。
日頃は冷静沈着な鉄面皮を自認しているわたくしが、今日は感情的になって泣いたり、怯えて婚約者様に縋り付いたりしてるし。
は、恥ずかしいです……っ。




 その後、場所を移して。
 なぜか。
 迎賓館の中の、王族専用控室に、今、居ます。

 なにゆえに、わたくしまで?

 その場に居るのは、王太子殿下夫妻。第二王子殿下とその婚約者イザベラ。ティルク国アスラーン国王陛下(背後にオレンジ髪の紳士が付き従っています)。そして侯爵家子息のオリヴァー様とわたくし。
 わたくしの場違い感が途轍もなく最高潮に満ち満ちているわ。

 ここに居るのは殿下とか陛下とか呼ばれる人と、その従者よ?
 一歩譲ってオリヴァー様は第二王子ジークフリート殿下の親友であり、その婚約者の実兄だから、この場にいても相応しいでしょう。
 わたくしは、婚約者ですよ? オマケの更にオマケですよ? どちらかと言えば部外者ではありませんか?

「出たのか! ピンクブロンドが!」

ラインハルト王太子殿下が前のめりの勢いで弟のジークフリート殿下に詰め寄っています。

「出た。ベラに話を聞いていたが、初めて本物を見た。母上の予言通り、見事なピンクブロンドの美少女だった。そして斜め上の思考でこちらを翻弄する最恐兵器だった」

 なんと。
ジークフリート殿下がゾフィーを初めて見た時のあの感想は、そういう意味が含まれていたのね。予言の子、ですか。

「あー。口を挟んでもいいか?」

アスラーン陛下が手を上げています。

「サラ王妃殿下が、予言をしていたのか? “ピンクブロンドの美少女が現れる”と?」

「えぇ。母は息子の私がいうのもなんですが、時折、神憑った発言をする……巫女とか聖女に近しい人なのです。その人が、私と弟が学園に入る前、殊の外心配されていました。“ピンクブロンドの下位貴族の美少女が現れてお前たちを篭絡する、それは身の破滅に繋がる”と」

 アスラーン陛下の質問に答えたのは、ラインハルト王太子殿下です。王太子殿下はジークフリート殿下の二つ上の現在21歳。今年ご成婚遊ばされて、お隣に座っている王太子妃殿下は、わたくしも学園の初等部に居た頃からお世話になったヒルデガルド様です。元ビスマルク侯爵令嬢です。

「似たような話を聞いたことがあるし、実際見たぞ」
と、アスラーン陛下が言うと、

「え?」

「どういうことですか?」
殿下たちが前のめりです。

「俺たちが学園生だった頃、ピンクブロンドの男子学生がいたんだ。確か、男爵位だったと記憶している。そいつは同時期に学園生だった、君らの叔母であるアンネローゼ姫に絡んで、学園史上初の放校処分者になった」

陛下が言うと、続けて

「あぁ、ストーカーの変態、居ましたね。騎士科の学生で、剣の腕はなかなかのモノでしたが、如何せん、貴族の常識が皆無で……彼の所業がきっかけで、早期教育に力を入れようと初等部設立に動き出したと、聞き及んでおります」

 カシム様(オレンジ頭の紳士です。先程自己紹介して頂きました。アスラーン陛下の護衛兼従者なのですって。一緒にこの学園に留学していたそうです)が証言されました。
過去の歴史を知る卒業生のお言葉は重要証言ですねぇ……。







┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
※アスラーンたちが学生時代の話は拙作「王女殿下のモラトリアム」をご参照下さい。
主人公はアンネローゼ王女殿下です。
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