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26.万博、前日

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 とうとう、明日が万国博覧会の開催初日!
 我が国初の試みで、国中の技術や芸術の粋が集められて国際展示される場所!

 もうね、王都の賑わいったら凄いのよ?
 数日前から国賓が周辺諸国から来たせいか、至る所に王都守備隊の憲兵さんや高位貴族専任の騎士さまたちが警備でウロウロしてて、物々しいの。
 城下の繁華街もあちこちで『万博記念』と銘打って安売りやらなんやらで浮かれた雰囲気。祭りだ! 祭りがくるぞ! って感じ?
 見慣れない装束の異国の人も大勢見たし、もう、なんていうのかな。国中がお祭り騒ぎで熱くなってるっていうのかな。
 ウキウキでどきどきがワクワクして目が回るっていうか。

「はいはい。落ち着きなさいメグ」

 もうすっかりお腹が大きくなったシェリーさんが(ちょっと頬もふっくらしておかあさんって感じ)、わたしのためにお茶を淹れてくれた。落ち着いてこれ飲んで一服して、またひと働きしろってことですね了解です。
 ローズロイズ商会本店の会長執務室でゆっくりお茶してるわたしって、半年まえには信じられない成長ぶりだなぁ。

「これから会場へ設営に行くんでしょ? 今のままフワフワしてると失敗しちゃうわよ?」

 そうなのだ。
 街の様子をぐるっと一回り見てきてアイリーンさまにその様子を報告したところ。
 この後は万博チームのみんなと一緒に会場入りして、わたしたちローズロイズ商会に割り当てられたブースの下見と、商品を持ち込みに行くんだ。もちろん、うつくしく出来上がったアイリーンさまのポスターもちゃんと飾らないとね! そして幕を張って隠しておかないとね!
 除幕は王太子ご夫妻が訪れてから。王太子殿下に紐を引っぱってもらって、初めて皆さまのまえにポスターが披露されるっていう演出だからね!

 シェリーさんの淹れてくれた薫りの良いお茶を飲んで落ち着こう。

「メグが心血注いだポスターも上々の出来だったしね」

 あいかわらずおうつくしいアイリーンさまが艶然と微笑む。特別ポスターはこのアイリーンさまのおうつくしさの何パーセントかを切り取った図みたいな出来になったよ。

 うふふふっ。もう、なんど思い出しても笑いが止まらないほど上々の出来なのっ!

 目を伏せているアイリーンさまを正面から捉えたバストショット。
 そのポスターの真正面に立って見ると、絵のアイリーンさまがゆっくり目を開いて顔をあげてくれるのっ。柔らかい微笑みを口元にっ。

 もうねっ、もうねっ!
 アイリーンさまの背後から射す光といいね、すべてが完璧な絵(動画? っていうのかな)なのよっっっ。

 もう一枚は右斜め45度から見たアイリーンさま。同じくバストショット。顔の向きは変えないまま、目線だけこちらにチラリと寄越して花が咲き乱れるみたいに笑ってくださいるのっっっ。

 はぁあああぁあぁぁぁぁぁぁ。
 もうね、この2枚を見た日には腰が抜けて目から涙がどばどば溢れて、もうどうしようもなかったのよっ。そのあまりの神々しさに、物も言えずただただ拝んでいたのよわたし。

 とはいえね。ポスターの出来、今思い出しても鳥肌もんで素晴らしかったけど、やっぱり本物の臨場感には敵いませんね!

「設営、よろしくね」
「はい! いってまいります!」

 アイリーンさまが“よろしく”って仰ってくれるんだから、頑張るもんね!


 ◇


 ロブ副会長を先頭に、万博チームメンバー揃って会場入りした。

 前は王家の私有地だったという広大な敷地に、途轍もなく巨大な建物が出現していた。天井も高く、ところどころ柱もあるけれど、視界を遮るものがほぼないだだっ広い会場。
 これって、万博が終わったら倉庫にでもなるのかしらん。

 わたしたちローズロイズ商会に割り当てられたブースは、メインロードと呼ばれる通りの入り口からすぐそば。
 隣のブースとの間仕切りに一枚の大きなボードがあって、壁とボード両方にポスターが貼れる。
 そのブースの中央にわたしたちが持ち込んだのは大きなガラスの展示ケース。
 全体の高さはわたしの胸の下くらい。横長で……そうだね、ガラスで出来た棺桶がどーんとある感じかな。その下の土台部分は黒っぽい箱って感じ。引き出しがついてて、中に商品を入れて置けるんだよ。

 ふっふっふ。実はこれ自体が魔導具の特注の展示ケースなんだって! 展示ケース本体が物凄い重量で簡単に動かせないうえに、強化ガラスで簡単に壊すことも出来ない。このガラスケースを開閉できるのは、特殊設定されたブレスレットをつけた人だけ。つまり完璧な盗難防止装置付きなのだ!
 この展示ケースを移動させるために特別重機さえ使っているのよ我が商会は! ま、ぶっちゃけ人力では移動不可能だっただけだけど。

「なぜおまえがそこで偉そうにしてる」

 ポカっと後ろ頭を叩かれた。地味に痛い。

「ロブ副会長。乙女の頭を気安く叩かないで」
「乙女ぇ? メグがぁ?」

 なんですか、その目は。揶揄からかう気まんまんですね!

「花も恥じらう18歳ですよ。なにか文句あります?」
「あれ。おまえ18なの?」

 なんですか、こんどは意外! って顔をして。そうですかわたしはそんなにフケ顔してますか。

「なにか文句ありますぅ?」
「あー、いや別に」

 わたしは疑問を投げかけているだけなのに、目を逸らすのはなぜですか。

「文句あるなら承りますがぁ?」
「からむな」
「先にからんだのは副会長です」
「うん。なんかスマンかった」

 なんか知りませんが勝ったと思ったのは気のせいじゃないですね。意見をとおしたい時には目を逸らすなというレイさんの教えは正しいです。そんな時の表情まで指導を受けましたからね!

「ロブとメグは随分気心が知れたというか、仲良しになったね」

 そう言ってくすくすと笑ったのはロブ副会長の秘書、サミーさん。長身に黒ぶち眼鏡をかけた温和な雰囲気のおにいさん。サミーさんも有能秘書さんなんだよなぁ。

 白い天幕を張ってブース全体を覆い隠したら、運び込んだケースに商品を並べ入れます。この配置もね、うつくしく見えるようにしないとダメだしね。
 ガラスケースの土台部分にも商品を入れるスペースがある。こっちは人目に晒すことを想定していないので、数多く入れるだけ。『博覧会』とはいえ、展示だけではなく商売する気も満々ですからね、我々は!

 そして私的には壁とボードにアイリーンさまのポスターを貼るのが、本日のメイン使命!
 万博来場者の人の流れを考えて、まず真っ先に正面画のアイリーンさまと目が合うようにボードの方に貼って。
 壁には斜めからの絵のアイリーンさまを。

「はぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁあ、アイリーンさまぁぁぁぁぁぁ」

 なんて麗しい。なんて神々しい。あぁ、生きてて良かったっ!
 わたしが貼られたポスターを前に跪いて女神に感謝の祈りを捧げていたら、背後でなにやらぼそぼそと文句をいう声が聞こえた。

「誰かあれメグを黙らせろ」
「無理でしょう。メグはアイリーンさま教の第一の信者ですから」

 ぐぅ。あの声はロブ副会長とサミーさんね! あんたたちだってアイリーンさまの信者なんだって知ってますよーだ。

「え? レイラとシェリーは?」
「あれは……使徒と呼ぶ方が相応ふさわしいかと」

 ん? レイラ? って誰? ロブさん、誰のこと言ってるのかな。

「使徒と信者は違うのか?」
「教祖のことば・教えを胸に信者を増やそうと行動する者を使徒だと、僕は認識しています。彼女らは使徒ですね。メグは使徒のことばにも反応し従うから信者といった方が相応しいでしょう」
「なるほど。なんか解った」
「あれでいてなかなか有能なんだから、彼女は面白いですよねぇ」

 ううむ。漏れ聞こえる声とくすくす笑いがくすぐったい。

「ね、アルバートさん」

 わたしはポスターを貼り終え脚立から降りてきたアルバートさんにこっそりと話しかける。

「さっきロブさんが『レイラ』って言ってたのって、もしかしてレイさんのこと?」

 アルバートさんはポスターに触れるために着けていた白手袋を外しながら、こともなげに答えてくれた。

「ん。親がつけた名前は『レイラ』。男装をするようになってからはもっぱら『レイ』と名乗ってる」

 ほう。そうだったのですか。
 ロブさんはアイリーンさまのご学友とのことだから、その時からの知り合い……なのかな。でもレイさんの方が年上だよね?

「ちなみに、レイと俺の母親がアイリーンの乳母だ」
「うば」
「そう。だから俺たちは『乳兄弟』という間柄になる」
「ちきょうだい」
「そう。もっとも、俺はエゼルウルフの邸に残っていたからそれほどアイリーンとは関わってこなかったが」

 なんだか情報量が多すぎて、わたしの脳内で処理しきれてないよ!

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